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編集者とアルケイン

三十階層。


ボス部屋の床は、すでに赤黒く染まっていた。


倒れ伏した冒険者たち。

息をしている者は、もういない。


ただ一人。


剣を地面に突き刺し、

それを支えに、男が膝をついていた。


「……はぁ……っ、はぁ……っ……」


視界が揺れる。

仲間は、全員死んだ。


その前に――

“それ”は、立っていた。


人型。

だが、輪郭がどこか曖昧で、

近くにいるのに、焦点が合わない。


「……もう、終わりか?」


低い声が、響いた。


男は歯を食いしばる。


「……くそ……!」


剣を引き抜き、叫ぶ。


「刺し違えてでも……!

 こいつだけは――!」


突進。


全身の力を込め、剣を突き出す。


――だが。


「……いない?」


背後。


「弱いな」


次の瞬間、炎が爆ぜた。


中級炎魔法――

ファイアストーム。


炎の渦の中で、男の叫び声が上がり、

やがて、掻き消えた。


静寂。


炎が収まったあと、

そこに、男の姿はなかった。


「……ここには、いなかったか」


“それ”は、誰にともなく呟き――

闇に溶けるように、消えた。


《二十階層・ボス部屋》


切り刻まれ、抉られた肉塊の内側。


「……あった」


フェンの視線の先。

蠢く肉の奥に、異質なものがあった。


心臓でも、魔石でもない。

歪んだ光を放つ“核”。


次の瞬間、リコンストラクトの肉体が大きく脈打つ。


再生。


「させるか!」


フェンは踏み込んだ。


――疾走。


視界が流れ、世界が遅れる。

肉体を構成する部位を、躊躇なく切り裂いていく。


核に、ひびが入った。


「……っ!」


さらに踏み込み、刃を叩き込む。


パリン――。


乾いた音とともに、核が砕け散った。


同時に、リコンストラクトの肉体が力を失い、崩れ落ちる。


フェンの視界に、ホログラムが展開された。


《リコンストラクトを討伐しました》


「……よし」


息を吐いた、その瞬間。


ジジ……。


耳障りなノイズが走る。


「……?」


ホログラムが揺らぎ、文字が歪んだ。


次いで、部屋全体が――軋む。


空間が、波打つように歪み始める。


「な……何、これ……?」


ルシアが思わず後ずさる。


床が沈み、壁が引き延ばされる。

視界が、ぐわん、と反転した。


「――!」


フェンが踏ん張った瞬間。


歪みが、唐突に消えた。



そこは、まったく別の空間だった。


だだっ広い部屋。

床一面に敷かれた、赤いマット。


「……ボス部屋、じゃない」


フェンが低く呟く。


二人が周囲を見渡した、その奥。


一段高くなった場所に――玉座。


そこに、一人の男が座っていた。


尖った耳。

赤みを帯びた瞳。

貴族を思わせる、整った装い。


男は、楽しそうに手を叩いた。


「いやぁ……見事だ」


拍手の音が、やけに響く。


「リコンストラクトを倒すとはな」


フェンは即座に視線を鋭くし、ステータスを開く。

そして、表示されたステータスを見て、言葉を失う。


アルケイン


HP:6000

MP:1200

A:2000

D:1400

MAT:3000

MDF:1500

S:3000


「……な……」


喉が、ひくりと鳴った。


「なんで……こんなやつが……

 Dランクのダンジョンに……」


隣で、ルシアがステータスを共有する。


次の瞬間、彼女の顔から血の気が引いた。


「……っ」


無意識に剣を握り直す。

背中に、冷たい汗が伝った。


アルケインは、その様子を見て――

愉快そうに、口角を上げた。


「はは……いいぞ」


両手を、ゆっくりと広げる。


「お前らとなら……

 少しは、楽しませてくれそうだ」


次の瞬間。


詠唱もなく、魔力が爆発した。


「――っ!」


フェンは即座に動いた。


――疾走。


ルシアの身体を抱き寄せ、そのまま後方へ跳ぶ。


直後。


ごう、と轟音が響く。


床を抉り、天井を舐めるように――

巨大な炎の竜巻が立ち上がった。


中級炎魔法。

ファイアストーム。


熱波が、皮膚を焼く。


「……っ、これ……!」


ルシアが歯を噛みしめる。


フェンは、炎の向こうを睨みながら思う。


(これを、正面から食らったら――)


一気に、致命傷。


フェンは、抱えた腕に力を込めた。


炎の渦の向こうで、

アルケインが楽しそうに笑っていた。


          続く

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