表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/24

編集者、スライムと戦う

翌日


フェンは、《緑苔の洞窟》の前に立っていた。


初心者向けとして知られ、冒険者ギルドでも「比較的安全」とされているダンジョンだ。


フェンは、自分の装備に視線を落とす。


刃こぼれした短剣。

継ぎ目の甘い革鎧。

腰に下げた小さな袋には、安物の回復薬が数本入っているだけ。


正直に言えば、心許ない。

だが、これが今の全てだった。


日雇いの仕事では、食っていくので精一杯だ。

それでも、妹の薬代を考えなければならない。


《生命魔素欠乏症》。


生命力そのものが、少しずつ削れていく病気。

治療薬は存在する。

だが――高すぎる。


一般人が手にできる代物じゃない。

冒険者の稼ぎがあって、ようやく手が届くかどうか。


だから、選択肢は最初から決まっていた。


フェンは、洞窟の奥を見つめる。


一階層だけなら。

スライムだけなら。

編集者スキルがある以上、致命的な危険は避けられるはずだ。


無理だと思えば、逃げればいい。


そう自分に言い聞かせ、

フェンは、ゆっくりと一歩を踏み出した。


足元の苔が、ぬるりと滑る。


その感触に、昨日の記憶が一瞬だけ脳裏をよぎる。

冒険者ギルド。

追放。

背を向けて去っていった仲間たち。


フェンは、首を振った。


考えても、何も変わらない。


今は――

稼がなければならない。


洞窟の中へ進むと、

ほどなく、淡い緑色の影が視界に入った。


スライムだ。


フェンは、編集者のスキルで、スラオムのステータスを“見る”。


浮かび上がった数値。


――――――

HP:10

MP:0

A:3

D:2

MAT:5

MDF:5

S:10

――――――


次に、嫌でも自分の数値が頭に浮かぶ。


――――――

HP:15

MP:2

A:3

D:1

MAT:2

MDF:2

S:10

――――――


……五分。


いや、防御は向こうが上。

魔法耐性も向こうが上。


「……勝てる、か……?」


喉が鳴る


刃こぼれした短剣を、強く握り直し、勢いよくフェンは前に出る。


「う、うわああああ!!」


叫びと一緒に、短剣を突き出す。

刃が、ぬるりとした感触を貫いた。


――手応え。


だが、浅い。


「くっ……!」


次の瞬間、

弾力のある塊が、腹に叩きつけられた。


「がっ……!!」


鈍い衝撃。

息が詰まり、身体がよろめく。


「……まだ、いける……!」


後退しながら、再び構える。

スライムは変わらず、こちらを狙っている。


速さは、同じ。


なら――

やるしかない。


再び踏み込み、

今度は横から斬りつける。


刃が滑り、

スライムの体積が、わずかに減った。


反撃。


今度は腕に、重たい衝撃。


「っ……!」


痛みで視界が揺れる。


まずい。

長引けば、負ける。


フェンは歯を食いしばった。


「……これで……終わりだ……!」


最後の力を振り絞り、

真正面から、突っ込む。


短剣を、

スライムの中心へ――


ぐしゃり、と嫌な音がした。


数瞬の沈黙。


そして。


淡い緑色の塊が、

力を失って、崩れ落ちた。


フェンは、その場に膝をつく。


「……は……は……」


荒い呼吸。

全身が、痛い。


だが――


生きている。


倒した。


初めて、一人で。


次の瞬間。


――――――

レベルが上がりました

――――――


乾いた音が、頭の奥で鳴った。


「……え?」


思わず、息を止める。


視界の端に、見慣れない表示が浮かび上がった。


――――――

LV:2

HP:17

MP:4

A:5

D:2

MAT:2

MDF:2

S:13

――――――


「……レベル、上がった……?」


さっきまでとは、数値が違う。

HPも、攻撃力も、素早さも――確かに増えている。


フェンは、しばらくその場で立ち尽くした。


一人で倒した。

初めてのダンジョン。

初めてのレベルアップ。


「……僕も……少しは、強くなったのか……?」


胸の奥が、わずかに熱くなる。


だが――


ふと、視線を下に移した瞬間、

別の表示に気づいた。


――――――

SP:3

――――――


「……SP?」


聞いたことがない。


スキルポイント?

魔力?

何に使う数字だ?


首を傾げながら、フェンは考え込む。


「……まぁ、いいか……」


今は生きている。

それだけで十分だ。


そう思い、

何気なく――

攻撃力の数値へと、意識を向けた。


A:5


その数字に、触れた瞬間。


――消えた。


「……え?」


攻撃力の欄が、空白になる。


「えっ、ちょ、ちょっと待て……!」


焦りが一気に込み上げる。


「や、やばい……!

これじゃ攻撃力が……!」


慌てて、

フェンは“書いた”。


A:5


次の瞬間、

数値が元に戻る。


「……戻った……?」


安堵しかけた、その時。


――――――

SP:2

――――――


「……減ってる……?」


さっきまで、3だった。


一つ、減っている。


フェンは、黙り込んだ。


そして、

ゆっくりと――

もう一度、攻撃力を見る。


A:5


ごくり、と喉が鳴る。


慎重に、

数字を消す。


そして――


A:6


だが、

数値は、弾かれなかった。


――――――

A:6

SP:1

――――――


「……増えた……?」


息を呑む。


本当に、増えている。


自分で、

書き換えた数値が――

そのまま、反映されている。


フェンは、しばらく無言のまま立ち尽くし、

やがて、小さく呟いた。


「……これって……」


視線が、

自分の手に落ちる。


「……編集、してる……?」


心臓が、どくりと強く鳴った。


ステータスを書き換える。

それが、自分のスキル――?


         続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ