編集者、魔法を進化させる
《風穿ちの裂谷》――十階層。
巨大な石扉の前で、
フェンとルシアは、並んで立ち尽くしていた。
扉は、これまで見てきたどの階層のものよりも大きい。
風に削られた岩で造られ、表面には無数の傷跡が刻まれている。
「……やっと、着いた」
フェンが、静かに息を吐いた。
裂谷を登り続け、
何度も戦い、何度も足場を越えて――
気づけば、ここまで来ていた。
「正直、もっとかかると思ってた」
ルシアは、肩で息をしながら苦笑する。
「途中、何回落ちかけたよね」
フェンは、笑いながら言った。
視界の端で、数値が整理されていく。
レベルは、上がっている。
SPも、かなり溜まっていた。
「……なあ、ルシア」
「なに?」
「この先に進む前にさ」
「一旦休憩がてら、編集しよう」
ルシアは一瞬きょとんとしたあと、
すぐに頷いた。
「いいね。あたしもそろそろ限界かも」
巨大な扉の前。
裂谷の最深部へ続く入り口。
二人は、そこで足を止めた。
「……できた」
フェンが短くそう言うと、
二人の前に、整理された表示が浮かび上がった。
⸻
フェン(盗賊★7)
Lv:31
HP:385(347)
MP:302(272)
A:440(924)
D:160(144)
MAT:210(263)
MDF:150(135)
S:743(1746)
SP:500
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ルシア(戦士★6)
Lv:31
HP:618(958)
MP:109(98)
A:720(1728)
D:484(920)
MAT:135(122)
MDF:150(143)
S:265(371)
⸻
しばらく、二人は黙ってそれを見ていた。
先に口を開いたのは、ルシアだった。
「あたしたち……だいぶ強くなったよね」
フェンは一度だけ頷く。
「うん。これだったら……Cランク上位のクラスとも戦える」
少し間を置いて、続ける。
「ただ……殲滅力がない」
視線を、もう一度数値に戻す。
「僕は、初級のウィンドブラストしか範囲技がない」
「今回のダンジョンとは、相性が悪い」
ルシアも納得したように息を吐く。
「……あたしも、ランドクラッシュはあるけど」
「ここだと、使いづらいね」
フェンは何も言わず、指を動かした。
ホログラムが、横にスライドする。
新しく表示された項目に、ルシアが目を留める。
⸻
中級魔法
アイスブリザード Lv1
(範囲・減速・氷結)
⸻
「……これ」
フェンが静かに言う。
「300SP使う」
「アイスボールから、進化させられると思う」
ルシアは、表示をじっと見つめたまま、少し考えて――
「あたしは、いいと思う」
視線を上げる。
「今回の相手と相性いいし」
「群れ相手なら、だいぶ楽になる」
フェンは、それを聞いてから、もう一度だけ表示を見る。
そして。
「……じゃあ、これを覚えよう」
指を、確かに押し込んだ。
アイスボールの表示が、崩れる。
冷気が集まり、形を変え――
より広く、より重い魔力の流れへと再構成されていく。
氷の粒子が、ゆっくりと舞い落ちた。
⸻
アイスボール Lv4
→
アイスブリザード Lv1
⸻
フェンのSP表示が、静かに減少する。
500 → 200。
ルシアは、その様子を見て、小さく息を吐いた。
「……これで、少しは楽になるね」
フェンは答えず、表示を閉じた。
やることは、終わった。
――あとは、この先のボスと戦うだけ。
フェンは、扉の方へ視線を向けた。
「……行こうか」
ルシアが、短く頷く。
「うん」
二人は並んで、巨大な石扉に手をかける。
ぎ、と重い音を立てて、
扉がゆっくりと開いていった。
そして、フェンとルシアは何も言わず、
その中へ足を踏み出した。
続く




