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裂谷の上空を埋め尽くす影が、一斉に動いた。
「――来るっ!」
フェンの声と同時に、
ウィンドクロウの群れが、渦を描くように急降下してくる。
鋭い鉤爪。
風を纏った羽撃き。
一体や二体じゃない。
数で押し潰す気だ。
「チッ……!」
フェンは地を蹴った。
細い岩道から跳び上がり、
裂谷の壁に足を叩きつける。
――ぐん、と視界が反転する。
「……っ!」
壁を蹴り、さらに跳ぶ。
空中で身体をひねり――
「――はぁっ!!」
一閃。
剣が、横薙ぎに走る。
突っ込んできた一体のウィンドクロウが、悲鳴を上げる間もなく弾き飛ばされた。
羽を失った身体が、
そのまま――闇の底へ。
ごう、と風が唸る。
だが、次が来る。
「ルシア!」
「任せて!」
ルシアは盾を前に出し、
飛び込んできた一体の鉤爪を受け止めた。
ぎちり、と嫌な音。
だが、その衝撃を流すように身体を回し――
「――はっ!」
剣を滑らせる。
受け流し、斬る。
盾で弾き、首元を切り裂く。
ウィンドクロウが、呻き声を上げて崖の外へ消えた。
だが――
「……減らない!」
次から次へと、影が降ってくる。
フェンは細い岩道に着地し、舌打ちする。
「……数が、多すぎる」
正面戦闘じゃ、埒が明かない。
一瞬、思考を切り替える。
(……こうなったら)
「ルシア!」
「なに!?」
「翼を落とす! 下に落とせば終わりだ!」
言い切る。
「――《アイスボールLv2》!」
フェンの手元に、冷気が集まる。
放たれた氷弾が、
風を切り裂き――
翼を狙って、炸裂した。
「――ッ!」
凍りついた羽が砕け、
バランスを崩したウィンドクロウが、そのまま落下していく。
「いいね……!」
ルシアも頷く。
「――《ウィンドスラッシュ》!」
風の刃が、一直線に走る。
狙いは、胴じゃない。
羽の付け根。
斬られた翼が、宙を舞い、
魔物の身体が崖下へ吸い込まれていく。
だが――
「……っ、まだ来る……!」
いくら落としても、減った気がしない。
風が唸る。
羽音が重なる。
ルシアの息が、荒くなってきた。
「……はぁ……はぁ……」
剣を振る手が、わずかに重い。
視界の端に、数値が浮かぶ。
MP:10 / 50
フェンは、それを見逃さなかった。
「……ルシア」
一瞬、躊躇い――すぐに決める。
「これを」
フェンが手を伸ばす。
「――《マナリジェネ》」
淡い光が、ルシアを包んだ。
「……あ」
ルシアが、驚いたように目を瞬かせる。
「……ありがとう。少し、楽になった」
呼吸が、わずかに整う。
「行ける」
そう言って、再び剣を構えた。
「――《ウィンドスラッシュ》!」
――戦士職で覚えたスキルだ。
ルシアは迷いなく、剣を振り抜いた。
風の刃が、また一体を撃ち落とす。
場面は、流れるように切り替わる。
⸻
どれくらい戦ったのか、分からない。
羽音は、いつの間にか消えていた。
最後の一体が、崖の下へ落ちていくのを見届けて――
フェンは、剣を下ろした。
「……終わったぁー……」
力の抜けた声。
ルシアも、膝から崩れ落ちる。
「つ、疲れた……」
岩道に座り込み、息を整える。
フェンは、裂谷の先を見た。
「……この先、少し広い場所がある」
「そこで、休もう」
「……うん……」
二人は、ゆっくりと歩き出した。
細い岩道と壁の間にできた空洞は、
外の裂谷に比べれば、驚くほど静かだった。
吹き荒れていた風も、ここまでは届かない。
フェンは、岩壁にもたれかかるようにして腰を下ろす。
「……はぁ」
短く息を吐いた。
「さっきので、レベルが上がったんだ」
ルシアが顔を向ける。
「ほんと?」
「うん。ちょっとSPでステ振りする」
「少し休憩しよう」
「いいね……」
ルシアもその場に座り込み、剣を脇に置いた。
「私も、ちょっと疲れたし」
フェンは目を閉じる。
視界の奥で、いつもの画面が開いた。
数値を確認し、必要なところにSPを割り振る。
無駄のない、いつも通りの作業。
しばらくして――
「……できた」
フェンが目を開く。
そのまま、ふと思い出したように言った。
「……見える?」
「え?」
ルシアが瞬きをする。
次の瞬間、目を見開いた。
「ステ-タスってこんなふうに見えてるんだ!」
少し身を乗り出して、表示を覗き込む。
フェン(盗賊★5)
Lv:27
HP:306(275)
MP:235(212)
A:325(650)
D:114(103)
MAT:165(190)
MDF:108(97)
S:538(1157)
ルシア(戦士★4)
Lv:28
HP:506(784)
MP:76(68)
A:558(1339)
D:365(694)
MAT:117(105)
MDF:140(133)
S:210(294)
フェンは、肩をすくめる。
「さっき、アシストに聞いてみたんだ」
「今なら、仲間には共有できるみたいで……試してみた」
「便利じゃん」
素直な感想。
「これなら、作戦も立てやすいね」
「そう思って」
ルシアは、表示された数値を眺めながら、満足そうに頷いた。
「ちゃんと強くなってるね」
「さっきの戦いも、納得だよ」
「……ありがとう」
短く返す。
空洞の外では、まだ裂谷の風が唸っている。
だが、ここだけは――
束の間の安全地帯だった。
「少し休んだら、先に行こう」
フェンが言うと、
「うん」
ルシアは、そう答えて背中を岩壁に預けた。
続く




