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編集者、妖精に怒られる

手のひらサイズの小さな妖精が、宙にふわりと浮かんでいた。


透き通る羽をぱたぱたと動かし、

警戒するようにこちらを睨んでいる。


「……」


フェンは一瞬、言葉を失い――


「……妖精!?」


思わず、素の声が出た。


隣で、ルシアが目を輝かせる。


「ちっちゃ! かわいい!」


「え、ちょ――」


妖精が何か言う前に、

ルシアの指がすっと伸びた。


つん。


妖精の頬を、軽く突く。


「――っ!?」


「……や、やめなさい!!」


妖精は慌てて距離を取り、

空中でじたばたと羽ばたいた。


「なに勝手に触ってるのよ!!」


「えー、だって可愛いし」


「これだから人間は嫌いなのよ!!」


ぷんすかと腕を組み、

妖精はぷいっとそっぽを向く。


フェンは慌てて一歩前に出た。


「ご、ごめん……悪気はなかったんだ」


「……ふん」


妖精は一応こちらを睨み返すが、

怒りは収まりきっていない様子だ。


フェンは軽く咳払いをして、話を切り出した。


「ところでさ」


妖精の方を見て、穏やかに尋ねる。


「この森で、魔女みたいな格好をした女性を見なかったか?

 薬師の魔女なんだけど」


その瞬間。


妖精は、はぁっと大きくため息をついた。


「……いるわよ」


「え?」


「また捜索の依頼でしょ」


投げやりな口調だった。


「また?」


フェンが聞き返すと、

妖精は勢いよく振り向いた。


「そうよ!!」


突然、声を張り上げる。


「あの魔女、何回も迷うの!!

 だから何回も捜索に人が来るのよ!!」


「そのたびに案内して!

 道を教えて!

 それでもまた迷って!!」


妖精は両手を広げ、まくし立てる。


「いい加減にしてほしいわ、本当!!」


フェンとルシアは、顔を見合わせた。


「あぁ……」


「……なるほど」


妖精は、さらに畳みかける。


「大体ね、森で迷うだけならまだいいのよ!」


「案内したら、そのまま森の中で寝てるのよ!?

 呑気に!!」


「え、寝てるの?」


「寝てるの!!」


ぷんぷんと空中で足をばたつかせる。


「だから人間は嫌いなのよ!!

 特に、あの魔女!!」


怒り切った妖精の声が、

静かな森に響いた。


フェンは額に手を当て、

小さく息を吐いた。


そして、妖精をまっすぐ見た。


「魔女のところまで、案内してくれるか?」


妖精は一瞬だけ黙り込み――

それから、ふんっと鼻を鳴らした。


「……いいわよ」


ぶっきらぼうに言ってから、条件を突きつける。


「その代わり、見つけたらさっさと出てって」


「え?」


「言っとくけどね」


妖精は指を突きつける。


「あたし、あんたたちのことも嫌いだから」


「この森で、いちゃいちゃしないでよね!!」


「ここ、デートスポットじゃないんだから!!」


「――っ!?」


フェンの顔が、分かりやすく赤くなった。


「い、いちゃ……」


「い……いちゃいちゃ!?」


ルシアが真っ赤になって叫ぶ。


「してないわよ!!

 なに言ってるのよ!!」


「してたじゃない!」


妖精は即座に言い返す。


「見てたわよ!!

 男女ペアでくっつきすぎなの!!」


「二人ともよ!!」


「なっ――!?」


ルシアが言葉を詰まらせる。


「ち、ちがっ……

 そ、それは……」


フェンは耐えきれず、咳払いをした。


「……ごほん」


そして、無理やり話を戻す。


「と、とにかく……

 魔女を見つけたら、すぐに森を出る」


「だから、案内してくれるか?」


妖精はじっと二人を見比べ――

しばらくしてから、深いため息をついた。


「……分かったわよ」


「さっさと終わらせてちょうだい」


そう言って、くるりと背を向ける。


「ついてきなさい。

 また変なところで寝てるんだから」


フェンとルシアは、顔を見合わせた。


(……やっぱり寝てるんだ)


「……ここよ」


妖精が、森の奥を指差した。


フェンはその先を見て――

思わず、言葉を失う。


切り株の上。


そこに、一人の女性がいた。


魔女帽子を深くかぶり、

外套を掛け布団代わりにして――


すやすやと眠っている。


「……」


「……」


フェンとルシアは、無言で顔を見合わせた。


「ほらね」


妖精が、深いため息をつく。


「言ったでしょ。

 だいたい、こんな感じなのよ」


妖精はそのまま、切り株のそばまで飛んでいく。


「ほら、起きなさい!」


ぴしっと声を張る。


「お迎えが来たわよ!!」


魔女は、もぞもぞと身じろぎして――


「……んー……」


目を閉じたまま、呟いた。


「……あと、五分……」


「五分じゃないわよ!!」


妖精が即座に叫ぶ。


「起きなさい!!

 今すぐ!!」


妖精は魔女の服の端をつかみ、

ぐいっと引っ張った。


「ほら! 起きる!!」


「……やだぁ……」


魔女は寝ぼけた声を出しながら、

切り株にしがみつく。


「まだ眠いの……」


「眠くない!!」


「眠い!!」


ぎゃいぎゃいとしたやり取りが、

森に響く。


その様子を見ていたルシアが、

小声でフェンに囁いた。


「……ねえ」


「ん?」


「あれってさ……」


少し間を置いてから、言う。


「お母さんと娘?」


「……見えるな」


フェンも、同意するように頷いた。


森の中では、まだ妖精と魔女の言い争いが続いている。


  

           続く


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