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役立たずと切り捨てられた男

冒険者ギルド・ロビー


冒険者ギルドのロビーは、いつも通り騒がしかった。


クエスト帰りの冒険者たちが、

酒場区画で笑い声を上げ、

受付前では、新人らしい若者たちが列を作っている。


武器が床に当たる音。

鎧が擦れる音。

報酬袋の中身を確かめる、硬貨の音。


賑やかなロビーの中で――


ヴァルドが、一歩前に出た。


「……フェン」


低い声。


そして、はっきりと言い切る。


「お前は――クビだ」


その言葉が、

周囲の喧騒を一瞬だけ押し潰した。


「……な……」


フェンの喉が鳴る。


「な、なんで……?」


必死に絞り出した声。


ヴァルドの目が、鋭く細まる。


「分かってねぇのか?」


一歩、距離を詰める。


「今日――ロルフに、何が起きた?」


フェンの視線が、

床へと落ちる。


「……お前が、動けなかったせいで」

「ロルフは庇って、重傷だ」


言葉が、刃のように突き刺さる。


「弱いだけならな」


ヴァルドは、そこで一度言葉を切った。


「……まだ使い道はあった」


フェンが、思わず顔を上げる。


「お前のステータスを見るスキル」

「それだけでも、戦い方の参考にはなる」


次の瞬間、

ヴァルドの声が、低く沈んだ。


「だがな」


「仲間に危険が及ぶなら、話は別だ」


拳が、ぎり、と握られる。


「判断できない」

「怖くて動けない」


「そんな奴を、前線に置けると思うか?」


周囲の冒険者たちが、

遠巻きに様子を窺っている。


だが、

誰も口を挟まない。


「俺は、リーダーだ」


ヴァルドは、言い切る。


「仲間の命は――俺の判断で決まってるんだ」


フェンの胸が、

締め付けられる。



「……待ってください……!」


気づけば、フェンはヴァルドの両肩を掴んでいた。


「お願いします……!」

「なんでもしますから……!」


必死に、言葉を絞り出す。


「働かないと……」

「妹が……妹が、病気で……!」


声が、震える。


「このままじゃ……死んじゃうんです……!」


――次の瞬間。


「……だぁ!! うるせぇ!!」


ヴァルドが、フェンの手を乱暴に振り払った。


そして――

ためらいなく、腹部へ蹴りを叩き込む。


「――っ!!」


鈍い衝撃。


フェンの身体が宙を舞い、背後の扉ごと吹き飛ばされた。


バァン、と大きな音を立てて、床を転がる。


「ごっ……!」


肺の空気が一気に吐き出され、フェンは咳き込んだ。


その上から――

ヴァルドの冷え切った声が降ってくる。


「お前の妹のことなんざ、俺の知ったことじゃねぇ」


吐き捨てるように。


「俺が見てるのは、このパーティだ」

「命がかかってるのは、こっちなんだよ」


一歩、近づく。


「俺はな」

「このパーティを、もっと上に行かせたい」


声に、迷いはない。


「強い存在にするためなら――」

「切るべきものは、切る」


視線が、フェンを射抜く。


「フェン」

「お前は、いらねぇんだよ」


言い放たれた言葉に――

フェンは、崩れ落ちた。


床に両手をつき、

土下座にも似た姿勢のまま、声にならない呻きを漏らす。


「……ぅ……」


その様子を一瞥し、ヴァルドは背を向ける。


「行くぞ」


仲間たちに、短く告げた。


一瞬だけ、

誰かがフェンを見る。


だが――

誰も、何も言わずに歩き出す。


足音が、遠ざかっていく。


その背中を見送りながら、

ギルドの片隅で、誰かが小さく呟いた。


「……ああいうの、たまにあるよな」


それだけだった。


同情も、怒りもない。

ただの、出来事としての一言。


フェンは、その場から動けなかった。


床に手をついたまま、

喉の奥から、かすれた声が漏れる。


「……ま……」

「まって……」


声は、ほとんど音にならなかった。


誰に向けた言葉なのか、

自分でも分からないまま――

ただ、涙だけが床に落ちていった。


         続く

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この場面で、

誰が悪いのか、

正しかったのは誰なのか。


答えは、たぶんありません。


次回フェン一人で初心者のダンジョンに潜る回となります!

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