編集者、討伐する
壁の瓦礫が崩れ落ちる音の中で、
一つの影が――動いた。
「……フェン!」
ルシアが叫ぶ。
粉塵の奥、
砕けた石の間から、フェンが立ち上がった。
服は裂け、血が滲んでいる。
だが――
「大丈夫」
フェンは短く言って、手を伸ばす。
「……直撃は、受け止めた」
即座に魔力を流し込む。
「――ヒール」
淡い光が身体を包み、
裂けた傷が、みるみるうちに塞がっていく。
荒かった呼吸が、少しずつ整う。
「……よかった」
ルシアは、思わず息を吐いた。
だが、その瞬間――
黒い霧の中で、
黄金色の眼が、鋭く光った。
「……来る」
フェンは一歩、前に出る。
「ルシア。ブレイクスラッシュの準備を」
「……うん。分かった」
ルシアが剣を握り直す。
次の瞬間。
フェンは、地を蹴った。
「――疾走!」
身体が、弾かれるように前へ出る。
同時に、
グラウルフも――動いた。
「グルルルァァッ!!」
床を削り、一直線に突っ込んでくる。
速い。
だが――
(……見える)
フェンの視界で、
その動きが、はっきりと捉えられていた。
(さっきより……遅い)
爪が迫る。
フェンは、紙一重で身を翻す。
風圧が頬を掠め、
次の瞬間には、剣を振るっていた。
――ザンッ。
黒い毛並みに、赤い線が走る。
「グォォォッ!!」
怯まず、さらに踏み込む。
一閃。
二閃。
三閃。
スバババッと、連続して斬りつける。
グラウルフが咆哮し、
大きく後退した。
フェンは、跳躍する。
空中で身体を捻りながら――
「……ルシア!」
その声を合図に。
「――オッケー!」
ルシアが走り出す。
「ブレイクスラッシュ!!」
闘気を纏った剣が、一直線に振り抜かれる。
――ドンッ!!
衝撃が、ボス部屋を揺らした。
グラウルフの巨体が、
よろめき、前足をつく。
「やった……!」
ルシアが、思わず声を漏らした、その時――
「まだだ!」
フェンが叫ぶ。
「オーバードライブの準備を!」
「……わ、分かった!」
ルシアは歯を食いしばり、
再び踏み込む。
闘気が、より濃く、鋭く、
全身にまとわりついた。
その瞬間。
グラウルフの黄金色の眼が――
ルシアを、射抜いた。
「――ッ!」
地を蹴り、
一直線に突進してくる。
「……させない」
フェンは、剣を掲げる。
「――ロックバインド!」
床が砕け、
岩の鎖が地面から噴き上がる。
ガシャリ、と音を立てて、
グラウルフの四肢に絡みついた。
「グルルルルッ!!」
身動きが、止まる。
「今だ!」
フェンが叫ぶ。
ルシアは跳んだ。
(オーバードライブ。この技は威力を引き上げる技……この技はブレイクスラッシュと相性がいい……)
(――よって、お前は終わりだ)
闘気を纏った剣を、
真上から振り下ろす。
「――――ッ!!」
空気が裂ける。
一撃。
これまでとは、
明らかに“重さ”の違う斬撃が――
グラウルフを、叩き伏せた。
巨体が、崩れ落ちる。
黒い霧が、ゆっくりと薄れていく。
――ドン。
重い音を立てて、
グラウルフは、完全に動かなくなった。
続く




