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編集者、新技〈疾走〉を披露する

宿屋の一室。


「くそっ!!」


ヴァルドが机を思いきり叩いた。

木の天板が鈍い音を立て、酒の入った杯が揺れる。


「ヴァルド、そう自分を責めるなよ」


ロルフが宥めるように言う。


だが、ヴァルドは顔を上げず、歯を食いしばったまま吐き捨てた。


「うるさい……!」


拳を強く握る。


「俺が……俺が注意してなかったんだ」

「四十階層だぞ。分かってたはずなのに……」


ミリアが小さく息を吐く。


「仕方ないよ……」

「まさか、あんな速度の魔物が出るなんて思わなかったもの」


一瞬、間を置いてから続ける。


「それに……フェンの鑑定」

「やっぱり、正しかったんじゃない?」


その言葉に、ロルフがぱっと顔を上げた。


「そういえばさ!」

「フェンのやつ、《砕石の迷坑》でストーンゴーレム倒したんだってよ!」


部屋の空気が、ぴたりと止まる。


「すごい……!」


セリスが思わず声を上げた。


「ヴァルド、やっぱりフェンに――」


「黙れ!!」


ヴァルドの怒声が、部屋を切り裂いた。


「俺の前で……フェンの話をするな」


全員が言葉を失う。


重たい沈黙の中で、ヴァルドはゆっくりと顔を上げた。


「……フェンは、俺が切った」


低く、淡々とした声だった。


「今さら呼び戻すなんて、できるかよ」


誰も、何も言えなかった。


しばらくして、ヴァルドは立ち上がり、背を向ける。


「鑑定士を探す」

「なんとしてもだ」


それだけ言い残し、彼は部屋を後にした。


扉が閉まったあとも、

宿屋の一室には、重い沈黙だけが残っていた。


《砕石の迷坑》九階層


石壁に囲まれた通路で、魔物が呻く間もなく倒れた。


フェンのナイフが、的確に急所を断つ。


「……よし」


魔物はそのまま霧散した。


次の瞬間、フェンの視界に文字が浮かぶ。


――――――

レベルが上がりました。

――――――


「また上がったな……」


フェンは立ち止まり、すぐにステータスを開いた。


フェン


LV13

HP:70

MP:48

A:48(62)

D:35(40)

MAT:32

MDF:30

S:80(90)

SP:220


ルシア


LV13

HP:110(121)

MP:18

A:100(130)

D:70(91)

MAT:18

MDF:16

S:40(38)


「……ここまで上げたんだ」


フェンは数値を見たまま、呟いた。


「これなら――」


視線を、扉へ。


「ストーンゴーレム相手でも、もう怖くないな」



《砕石の迷坑》十階層。


以前、二人を苦しめた場所。


「……ルシア」


「なに?」


ルシアが剣を肩に担いだまま振り返る。


フェンは少しだけ間を置いて言った。


「昨日さ」


「“楽しみにしてて”って言っただろ」


「このゴーレム戦で、見せようと思って」


ルシアの目が、ぱっと輝く。


「え、なにそれ」


「見たい!」


フェンは扉の前に立ち、静かに言った。


「……前とは、違うってところ」


重たい音を立てて、扉が開く。


ゴゴゴゴ……。


石の擦れる音。


ストーンゴーレムが、ゆっくりと動き出す。


フェンは一歩前に出た。


「行くよ」


――疾走。


世界が一気に引き延ばされる。


フェンの姿が、消えたように見えた。


次の瞬間。


スババババッ――!!


ゴーレムの周囲を駆け抜けながら、連続する斬撃。


石の装甲が、明確に削れていく。


「フェン……すご……」


ルシアが思わず呟く。


(通る……!)


フェンは確信した。


「ルシア!」


「いいよ!」


「任せて!!」


ルシアが大きく踏み込み、剣を振りかぶる。


「――ブレイクスラッシュ!!」


轟音。


亀裂が一気に広がり、ゴーレムの身体が崩れる。


ドォン……。


巨体が倒れ伏した。


――――――

ストーンゴーレムを討伐しました。

――――――


「……」


一瞬の静寂。


「やったぁ!!」


「前より、全然楽だった!!」


二人は顔を見合わせ、勢いよくハイタッチする。



10階層ボス部屋


天井の高い大広間には、砕けた岩と無数の傷跡が残されていた。

かつて激戦が繰り広げられたことを、無言のまま物語っていた。



「フェン、なにしてるの?」


11階層に向かおうとしていたルシアが振り返ると、ルシアが不思議そうな顔で立っていた。


「もう行くよ? 十一階層」


「あ、ちょっと待って!」


フェンは慌てて手を上げる。


「その前に、これ覚えようと思って」


「これ?」


ルシアが首を傾げる。


フェンは少しだけ得意げに笑った。


「探索スキル」


「探索……?」


「うん。これがあればさ」


指先を軽く動かす。


「もうマッピングしなくていいんだ」


ルシアの目が、ぱちっと見開かれる。


「えっ?」


「通路の構造とか、分岐とか」


「自動で把握できるから」


「移動時間、かなり短縮できる」


一瞬の沈黙。


そして――


「……え、それって」


「めっちゃ楽になるってことじゃん!」


ルシアは勢いよく身を乗り出した。


「フェン、すごい!」


「また便利なの作ったの!?」


「そ、そんなでも……」


フェンは少し照れたように頭を掻く。


「でも、これで疲れも減るし」


「十一階層も、かなり楽になると思う」


「……へぇ」


ルシアはにっと笑った。


「じゃあさ」


「もっと先まで行けるってことだよね?」


「うん」


フェンも頷く。


「じゃ、行こうか」


そう言って、二人は並んで扉の先へと足を踏み出した。


――十一階層へ。



          続く

明日も6時、12時、21に投稿します

お楽しみに

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