役立たずと呼ばれた理由
はじめまして。
今回から新作を書き始めました。
「追放もの」「成長が分かりやすいファンタジー」を意識しています。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
黒層のダンジョン・30階層 ボス部屋。
巨大な黒い石扉の向こうで、
鈍い呼吸音が響いていた。
「……出るぞ」
ヴァルドが低く言う。
扉が開いた瞬間、
巨大な魔牛がこちらを見下ろしていた。
「ミノタウロス・ロードか……」
ヴァルドが舌打ちする。
「フェン。ステータスを見ろ」
フェンは震える指先で、
魔牛を見上げた。
その瞬間、
数値が、脳裏に焼き付く。
HP:2400
A:1200
D:1500
MAT:360
MDF:500
S:590
(……強すぎる)
喉が、張り付く。
「……こ、こいつ……」
フェンの声が、かすれる。
「魔法系が……通りやすい……!」
「で?」
ヴァルドが、苛立ちを隠さずに言う。
「どんな攻撃をしてくる?」
フェンは、言葉に詰まった。
「……わ、分からない……」
次の瞬間。
ヴァルドの舌打ちが響く。
「チッ……」
「鑑定スキル持ちなら、
そのくらいオートで最善手が見えるはずだろ」
フェンは、何も言えなかった。
「もういい」
ヴァルドは、剣を構える。
「フェン。お前は下がってろ」
「足を引っ張るな」
その言葉が、胸に突き刺さる。
「行くぞ!」
「「おう!!」」
「ロルフ、前だ!」
「任せろ!」
ロルフが一歩前へ出て、
巨大な盾を構え、仲間を背に庇う。
「セリス、ミリア詠唱開始!」
「「了解!」」
セリスとミリアが詠唱開始なのを確認し、
ヴァルドが、にやりと笑った。
「――行くぞ!」
地を蹴り、ヴァルドが突っ込む。
ミノタウロス・ロードの間合いへ、一気に踏み込み、
剣を振るう。
ガキィン、と硬い手応え。
「……効いてるな」
直後、
ミリアの詠唱が、先に完成する。
「《ブレッシング》!」
淡い光が、ヴァルドの身体を包み込む。
筋肉が引き締まり、
視界が、研ぎ澄まされる。
「きたきたぁ!!」
ヴァルドが、楽しげに叫ぶ。
ミノタウロス・ロードが、怒号を上げ、
巨大な斧を振り下ろす。
だが――
「……遅ぇ!」
ヴァルドは、その一撃を見切り、
紙一重でかわした。
斧が地面を叩き割り、
衝撃とともに岩片が跳ねる。
ヴァルドは完全には距離を取らない。
かわしながら、半歩だけ踏み込み――
体勢を崩さず、そのまま剣を引き戻す。
腰を落とし、重心を前へ。
「隙、もらったぜ」
剣を肩に担ぎ、口元を歪めた。
「……こいつでも、喰わせてやるよ」
踏み込む。
剣を振り抜いた瞬間――
刃先から、圧縮された風が解き放たれた。
「《エア・スラッシュ》!」
透明な斬撃が、一直線に飛ぶ。
ドンッ、と鈍い衝撃音。
ミノタウロス・ロードの胸元を切り裂き、
分厚い毛皮と皮膚が裂け、赤黒い血が噴き出す。
「グォォォォッ!!」
怒号が、ボス部屋を揺らした。
ヴァルドは剣を構え直し、息を乱さない。
「……よし」
「ちゃんと通るな」
その背中を見つめながら――
フェンは、思わず息を呑んでいた。
「……す、すごい……」
喉が、ひくりと鳴る。
「……あんな、強そうなボスを……」
「こんなに、簡単に……」
自分の手の中の短剣に、視線が落ちる。
同じ場所に立っているはずなのに、
見えている景色が、まるで違って見えた。
そのとき――
「ヴァルド! きたわ!」
張り詰めた声が響く。
「下がって!」
詠唱を終えたセリスが、杖を掲げていた。
「おう!」
ヴァルドは迷わず応じ、剣を引きながら後方へ跳ぶ。
前線が、一瞬だけ空いた。
セリスの足元から、魔力が一気に噴き上がる。
「《フレイム・ランス》!」
圧縮された炎が、槍の形を成して撃ち出された。
直撃。
轟音とともに、炎がミノタウロス・ロードの上半身を包み込む。
「グォォォォォッ!!」
苦悶の咆哮。
焼け焦げた毛皮から、黒煙が立ち上る。
「いい!」
「あと少しよ!」
誰かが叫ぶ。
――その瞬間だった。
炎の向こうで、
ミノタウロス・ロードの視線が、ゆっくりと動いた。
真っ直ぐに。
後方にいる、フェンを捉える。
「……っ」
心臓が、跳ねた。
(……こっちを、見てる……?)
次の瞬間。
ミノタウロス・ロードが、地を踏み砕いた。
ドン、と空気が震える。
巨大な身体が、一直線に――
フェンに向かって、突進してくる。
「――フェン!!」
ヴァルドの叫びが響く。
だが。
足が、動かない。
分かっている。
逃げなきゃいけない。
避けなきゃ、死ぬ。
それなのに――
視界が、狭くなる。
耳鳴りがして、音が遠のく。
(……無理だ……)
迫る巨体。
振り上げられる、巨大な斧。
その影が、フェンを覆った――
――次の瞬間。
「くっ……!」
フェンの前に、誰かが飛び出した。
重い衝撃音。
ロルフの盾が、真正面から斧を受け止める。
「がっ……!」
衝撃に耐えきれず、ロルフの身体が吹き飛ばされ、
床に叩きつけられる。
「ロルフ!!」
血が、床に散った。
フェンは、その場に立ち尽くしたまま、
ただ――
何もできずに、それを見ていた。
続く
今回は、フェンが「役立たず」と言われる理由と、
追放に至る“きっかけ”となる出来事を描きました。
次回、
フェンに下される、リーダーとしての決断の回となります。
お楽しみに




