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「お願い、そこで止まって!」
クロエが球体に呼びかけた。
こんな行動は、非科学的だ!
球体は、ピタッと止まった。
「え?!」
クロニャンは信じられなかった。
球体への呼びかけも意味不明だが、結果も意味不明だ。
彼女が急に強力な超能力を使えるようになったのだろうか。
それこそ、非科学的だが。
「こ、これって?! どういうこと?!」
訊かずには、居られなかった。
「フフフ」
クロエは笑った。
「テレパシーよ」
「テレパシー?!」
クロエが超能力を得たのなら、球体を止めるサイコキネシスでなければ、筋が通らない。
「クロエのテレパシー?!」
「違うわ」
彼女が首を横に振る。
そして、モニターの球体を指した。
「あの子のテレパシーよ」
「あの子…?」
「あれは生命体なの。生きてるのよ。あの子のテレパシーが、わたしの頭の中に聞こえてきたの。だから、こっちからも呼びかけたのよ」
「まさか!」
全てのデータは、あの物体が生物であるとは示していない。
が、現実として球体は止まった。
たとえ、あの物体が鉱物やエネルギーの塊にしか見えないとしても。
未知の生命体である彼(もしくは彼女、もしくはそのどちらでもない)は、同じく生命体であるクロエにテレパシーで話しかけた。
突然、空間に出現したのも、球体の不思議な力に寄るものか。
とにかく、未知の生命体はクロエの要求に応えた。
2人に意思の疎通が成されたのだ。
AIであるクロニャンには、データに存在しない異邦人の声は聞こえなかった。
クロニャンはAIにもかかわらず、一抹の寂しさを覚えた。
自分も生命体なら、少しは胸の痛みを感じただろうか(胸はないけれど)。
「あの子、わたしたちと仲良くしたがってるわ」
クロエが微笑んだ。
モニターに映った球体、否、新たなタイプの生命体はクロエとの邂逅に興奮しているのか、中心の黄金色の部分を膨らませたり、縮めたりしている。
「さあ。それじゃ、あの子と、もっとお話してみましょうよ」
クロエが嬉しげに提案した。
「君はすごいよ。ボクの判断は間違ってた。取り返しのつかない結果になるところだったよ」
クロニャンは彼女を手放し(手はないけれど)で、称賛した。
「あら、データも大事だわ。ほとんどは合ってると思う。でも、人間の勘も、まだまだ捨てたものじゃないのよ」
イタズラっぽく笑うクロエの瞳が、とびきりキュートに輝くのだった。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)
大感謝でございます\(^o^)/