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クロニャンは宇宙船の高性能AIだ。
操縦席の、7個組み合わさった多角形モニターの前に、黒く小さく四角い猫モチーフボディで陣取っている。
宇宙船は、これから探査する未開惑星の軌道上に居た。
マスターのクロエは16歳。
この後、小型艇に乗り込んで地表に下りるため、彼女は宇宙服を着込んでいた。
クロエは、いわゆる何でも屋で、資源や希少物を発見することで生計を立てている。
クロニャンとは、もう3年の付き合いだ。
「どう?」
クロエがクロニャンに訊く。
彼女はまるで、友人のようにクロニャンと接した。
それが、クロニャンは嬉しい。
「異常なし。準備OKだよ」
「それじゃ、行きますか」
丸いヘルメットの透明なシールド越しに、クロエがニコッと笑った。
クロニャンは彼女の笑顔が好きだ。
その時。
宇宙船のレーダーが、突如出現した何かに反応した。
モニターが、その姿を大きく映し出す。
黄金色の光を放つ、宇宙船と同等の大きさの球体。
周囲には激しい放電現象が見られる。
「そんな?!」
クロニャンは驚愕した。
球体は突然、この場に姿を現したとしか思えない。
あり得ないことだが、もう回避が間に合わない距離まで来ている。
「レーザー砲で攻撃するよ!」
「ダメよ!」
クロエが制した。
「ええ?!」
クロニャンは、再び驚く。
今までも、何度かあった。
膨大なデータから最適解を導き出すクロニャンの提案を、クロエが「人間の勘」で却下するのだ。
しかも、非科学的ではあるが、それが不思議と良い結果を出してきた。
だが、今回ばかりはクロエの勘も間違っている。
今、必要なのはスピードだ。
正体不明の球体は(それが何故、こんな距離までレーダーに反応なく近づいたのかは謎だが)、真っ直ぐこちらに向かってくる。
すなわち、何もしなければ死に直結するのだ。
球体を破壊するか、宇宙船が破壊されるか、2つに1つ。
すぐに撃たなければ、間に合わない。
「ちょっと! やばいんじゃない?!」
しかし、クロニャンの問いに対するマスターの答えは「NO」だ。
「何もしないで!」
彼女はヘルメットの中で、かわいらしい顔をしかめ、何かに耳を傾けている風に見えた。
その険しい表情がスッと解け、イタズラっ子のようで、なおかつチャーミングな笑みを浮かべる。
「任せて」
彼女はモニターを見つめた。
謎の球体は、すぐそこまで迫っている。
レーザー砲で破壊したとしても、残骸と衝突し、船のダメージは甚大だろう。
運が良くても2人は宇宙空間に放り出され、結局は死が待っている。