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赤い巨大な扉を大柄なレウとヴァシレイの二人が開いた

中の様子を伺う前にまず叩きつけられたのは謁見の間の奥からの殺意と殺気であった。思わず反射的に身構えたのはヴァシレイとウォルスであったが、向けられたその気配がすー…と退いていく様に驚きつつそこで初めてその部屋の状況を把握する事が出来た


その大広間に似た謁見の間に転がる命が途切れた肉片達。血溜りに浮かぶ眼球や、腕や脚、首までもまるでボールの様に無道差に転がり王座に続く深紅の絨毯を赤黒く染めて道を作っている


「ヴァシレイ…様」

「ウォルス様…」


途切れ途切れに耳に届く二人を呼ぶ騎士の声。本来なら20近く控えている筈の騎士が今は片手で事足りる程に削られ、生きている者は立つ事すら困難な状態の中、ただ一人だけ王座の前、しっかりと芯を通した様に立つ姿がある


「────────」


思わず見上げ言葉を失う

片手に剣を握り締め

その剣から滴れ落ちる

空気に触れ黒く変色した血痕

その黒く変色をした血を被り

赤黒く、ドス黒く着衣を染め

髪を、顔を、姿を染めた

シェーニイが王座の前に


「ヴァシレイ!ウォルス!!…エルディアにハインも」


シェーニイの背後にいる若い…それこそ子供が声を上げ漸く動ける事に気付き足早に側へ


「王子!ご無事で…」


無事な姿に安堵の溜息を吐き触れようとした瞬間、バチンッと手前で何かが弾けた


「なにっ?!」

「これ…結界…?」


火傷に似た蹟がハインの手に残りそれを眺めエルディアが目を凝らし王の回りを丹念に見渡すとそこにはうっすらと光る、王座と王を守るように結界が張り巡らされていた


「うー…ん、ちょっとそこのお兄さん、俺達来たから結界解いてもいーんじゃないの?」


ハインの火傷に若干の苛つきを雰囲気でかもち出し問い掛ける先はシェーニイ


「…まだ、駄目だ」

「何をおっしゃるんですか!貴方これ以上無理を…」


一言のみ呟いたシェーニイに、慌て前へ歩み出たエルディア。ふと顔を見上げては言葉を失う


「早く結界を解いて下さい!見ず知らずの方がそうまでして王子を守る必要はありません!私達が参りました…だから…お願いだから、ヤメテ!!」


縋るように見上げ悲鳴に似た願いを口にする


「…城内にまださっきの似たような軍が潜伏している。そんな状態で結界を解く事は出来ない」

「でもっ、ヴァシレイもウォルスもいます」

「敵は貴方方を欺く…なら、それをフォローしないと」

「その前に貴男が死んでしまいます!もう、お止めになってください!!力を使い過ぎて…目も見えていないではないですか!!」


見上げ涙を溜めて必死に願うエルディアの先、片目は眼帯に隠して見えてはおらず、その逆見えているはずの片目も瞼が閉じられ、閉じた瞼から血の雫が零れ流れていた


「身を投げうってでも…やらないといけないんです」


うっすらと口元を綻ばせ泣くエルディアの頬へと口付け、王座までの階段を下り王や、5人の前に立ち出入口を睨み付ける背


「ヴァシレイ止めて!本当に危ないの…お願い…止めて!!」


エルディアの願い、ヴァシレイがシェーニイに近寄ろうとするより先に動きだしたのはレウ。シェーニイの側、背後付近に立ち


「死を急ぐ気か?」

「誰も死にたくなんかない」

「些か今お前のしている事は死を急ぐ事にしか見えないぞ…それにあの若子を守って何の価値がある?我々には関係の無い事だ」

「価値を決めるのは私達じゃない!価値は本人が…自分自身で決めるモノだ!!それを導くのが周りの者の役目だ…それに死にたい訳でもない…大事な者を守りたいから…自分自身のプライドを、誇りを失いたくないから…戦うだけ」


立つのがやっとの足元に

見えていない目で何かを悟り

気配を伺う

手にある剣は刃がボロボロで

ろくに斬れないだろうに

それでも鋭利さを忘れず

鈍く、赤黒く輝く

今の持ち主の気配を真似て


「…その輝きに惹かれたんだったな…仕方ない。今回ばかりは助けてやろう」

「っ?!」


小さく、聞こえない程の呟きに、レウはシェーニイに手を伸ばし髪を引っ張っては後退させ、自分の背後のエルディアとハインへと投げやる


「レウ!」

「一人で勝手に気張るのはいいが…そろそろ気が付け、お前の大事な王位がお前を想って泣き出すぞ…あと、女も泣かせるな…気が散る」


ふと言われ王の気配を探ると自分を見入り涙を溜めて今にも泣きそうにしており、ふらつく自分を支える二人の女達からはぐすん…と涙を啜る音がする


「……」

「さっさっと気でも失って寝ていろ…後は俺がなんとかしておく…それにどの程度俺が戦れるか知っておきたい」


見えない姿

だが解る、覇気を纏う

己が勝てなかった

最強と伝説とされた男の陽炎


「…あんたに勝てる奴なんぞいる訳ないだろ…う」


覇気に苦笑い、そっとゆっくりシェーニイは意識を手放し、それと同時に王を囲っていた結界は小さく弾け解かれた


「シェーニイさん…?シェーニイさん!!」

「っ?!」


自分達の腕の中一気に崩れたシェーニイに驚き声を掛けながら床に置く、エルディアとハイン、王はそれを間近で見届けると慌てふためきシェーニイに寄り添う


「!呼吸が…エルディアこの人の呼吸が弱いよ…どうしよう…どうしよう!!このままじゃ…」

「王子落ち着かれて下さい」

「落ち着いてられる訳ないだろう?!この人…命懸けで僕を助けてくれたんだよ!…助けて…ハイン、エルディア早く助けて!!」


落ち着くようにと促したハインが王に触れるが王はそれを振り払い懇願を訴え掛ける、今にも零れそうな涙を溜めて


「──場所を移します。こんな場所では手当ては出来ません」

「なら、僕の部屋に」

「なりませぬ!!」


意を決したエルディアの提案に、直ぐに手を貸した王ではあったが、その提案を阻止する声が謁見の間に響き渡った


「大臣様…」


皆の視界に入り込んだのは初老のだが、まだ若さの残る人物で、眉間に皺を深く刻み訝しげに今の状況を見入っているのだ


「いけませぬ王子!何処の馬の骨か解らぬ輩を治療?それも王子の部屋へなど…断じて許せる事ではありませんぞ!!」

「ですが…この方は王子を命懸けで守って下さいましたわ」

「助けたからと言って味方とは限らないのでは?現にその若者と後ろの男は罪人として連れられて来た人物だ」

「で、ですが…この者が王子をお守りしたのも確かな事で」

「回復をして王子に斬り掛かったら…貴殿等はどう責任を取るつもりだね」


なんとかしようと続けるエルディアとハイン、それを厳しく厳しく追撃仕返し押し黙らせた大臣


「…解ったのなら早く捨て置きなさい…そして処分をされるのだ…謁見の間が血生臭くて」

「…黙れ」


言葉に詰まる二人に言い放たれた命令に小言。ぐっと唇を噛み締めた瞬間の低い、太い声


「…王子…なんて言葉使いを?!」

「黙れ!!今は一刻を争う時なんだ!部屋の臭いなんてものそんなのどうにでもなるだろう!」

「王子!なんて…」

「煩い…僕は黙れと言っている!」


強く握り締めた拳に、うっすら見える殺意


「〜〜王子、少し落ち着いて今の状況を」

「黙れ!今の状況で一番大事なのはこの人の…人命救助なんだ!」

「何処の馬の骨か」

「ウルサイ…そんな事知った事か!!僕はこの人を見殺しにしちゃいけないんだよ!!」

「死にますぞ!」


大臣のはっきりクリアに耳に届いた一言。皆一瞬肩を跳ねさせたじろくが


「それが僕の運命なんだろう…自分の命だけが大事でナニが守れる?ナニが王位だ…たった一人も守れない王位なんかいるものか…そんなもの投げ捨ててやる」


王は大臣を睨み付け吐き捨てるとエルディアとハインを連れ足早に謁見の間を後にした


「……」

「大臣様」


消えた背中を見つめる大臣に声を掛けたヴァシレイ、大臣はそれに視線を向け見上げてみせた


「どれだけの失態をしたのか判っているのか」

「よく存じ上げております」

「もし、王子が死ぬ様な事があれば騎士としての身分剥奪だけでは済まぬぞ」

「心得ております」

「…さっさと処分せよ」


それだけ言い残し傷付いた騎士にすら労う事無く部屋を後にした大臣


「人を人と見てない人…俺だいっきらいなんだけど」

「そう言うなウォルス」


部屋から完璧に出て行った事を確認してからのボヤキ。思わず苦笑うヴァシレイ


「まぁ大臣さまさまなんざ俺の事ぁ…眼中にないだろうけど」

「心中穏やかではいられないだろうよ…それより我々が不在の中よく耐えてくれた…なにより生きていてくれてありがとう」


散々な小言にフォローを入れながら声を掛け労うのは数少ない生存を果たした騎士達だ。傍に寄り笑みを浮かべ回復魔法を唱え少しでも楽になるようにと傷を癒す


「い、いえ我々は何も…」

「ヴァシレイ様やウォルス様からの直々の治癒魔法なんて恐れ多いですから…我々は本当に何も」


暖かい光を浴び慌て体勢を整え様とする騎士に、いいから座っていろ。と威圧するウォルス。皆は頭を下げては命令のままに座り


「だが…お前達いなければ今頃王子は居なかったのも確かだ」

「それは違います。それこそ始めはそうでしたが王子を守り通したのは先程の方だけです」

「…は?」

「王子だけではありません。それこそ…我々も守られていました…もう駄目だと思う度に“諦めるな、前を見ろ!生きる為に、生き続ける為に足掻いてみせろ”と言われ…ました」


絶望をした

力の差を身に染みて

自分の腑甲斐なさに絶望を

もう駄目だと何度も

何度も堕ちかけた

その度にあの光は

手を差し伸べてくれた

今気強く“生きろ”と

守り続けてくれた


「あの兄ちゃん獲物持って無かったけど…どうした?」


怪我をしていた騎士を眺め、一通り治療を終えたのを確認したのちの疑問


「…死ぬ間際の仲間から…譲り受けていました」

「彼が…それを素直に受け取るとは思わないが」

「もう動けないと託しのを見ました…息絶えるのを看取ると…手に取り…後はありのままです」


彼の背中は

死ぬ事を許さない

ひたすら生き続けさせる

生命に溢れた生き方を願う

死を畏れた遣り方だ

その彼が看取り

意志を受け継いだ


姿と異なる

死神に似た強さを持つ男


「恐ろしかったか?」

「いえ。不思議な事に一切…」


そうだろう

どんなに命を奪い去っても

あの光に誰もが惹かれる


気高く、雄々しい

美しい…不思議な男





2010/04/20 ЯR

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