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「国を追われた…関係?」
「はい。まぁ…もとより国に居続けるつもりは無かったのでとっとと出てきたんですが…消えましてね」
レウの簡単な説明に付け加える嘘、興味深く聞き入るのはヴァシレイであり、ウォルス、エルディア、ハインもなんとなく耳を傾けてはいる
「で、捜す為に…シェーニイと呼んでいいのかな?君が一人で旅をしていたのか」
「お好きな様に…いきなりいなくなったので拉致とも考えたんですが…それにしても手掛かりが無さすぎだったので」
「ほぅ…で、道中レウさんと出会って口説かれたと」
「かなり無理矢理でしたけど…強さには惹かれてましたから…主人が戻る迄ならと期間を付けて」
ふむ…と
頷き納得するヴァシレイ
「よく…レウさんもそれで納得されましたね?貴方が思い入れているようですからそんな約束を守るとは…少しばかり信じがたい気がします」
「細かい事は気にしない。いようがいまいが…そんなものどうにでもなる」
本人がいる前での思い切った事にやはり苦笑うヴァシレイ。シェーニイもそれには少し困った様子であった
「あの…国を追われる関係の方って…その…耳飾りをシェーニイさんに贈られた方ですよね?」
笑うしかない状況下、手を上げ問い尋ねたのはエルディア
「気になりますか?」
「触れて欲しくないとは思うのですがどうしても知りたくて」
本当に申し訳なさそうにするエルディアに、仕方がない…と意を決めたのか一度溜息を吐き
「予想通り…私の耳飾りをくれた方です。それも魔族の」
「…やっぱり」
「それが何か?」
呟くエルディアへ、向ける非難の声
「え、あ…すみません、そんなつもりはないんです!ただ…その…やはり魔族の方の魔力には勝てないものだなって」
「勝とうなんて思う方がおかしいと思いますよ…所詮私達には向いていない力なんですから」
冷たい、とても冷ややかな目線、今まで人が良さそう口にしていたとは思えない冷めたものだ
「ごめんなさい!そんなつもりで言ったんじゃないんです…あの…私は…その」
シェーニイの冷たい返答に顔を曇らせ慌て訂正を入れようと言葉を続けるエルディア、目線を泳がせ相手を刺激しないように
「───〜ったぁ!」
「魔族が旦那じゃあ…そりゃ国から追われるよね。障害ある方が燃える訳?今の旦那もハーフでしょ?綺麗な面して酷い残酷な恋しかしないね、趣味疑うよ」
キレ掛けたハインを遮り口を開いたのはウォルス、平然とした顔をしているが嫌味がたっぷりと込められた、エルディアに対しての態度を改めろと言った目線すら向けている
「他人に私の趣味を理解される覚えはない」
そのウォルスに対してのなんの非礼を詫びる事の無い返答、一瞬ウォルスの眉がピクリと顰めた事に肩に触れたのはヴァシレイ
「…止めるな」
「相手は怪我人だ」
「知った事か!仮にも命の恩人だぞ?!それにあの態度は」
「王子が来る…せめて今だけは耐えてくれ」
歯軋り、怒りを顕にしたウォルスに呟かれた一言。それを口にした瞬間、ゆっくりと部屋の扉が開き顔を覗かせたのは、王座に座っていた幼い王だ
「あ…もう躰を起こしても平気なんですか?!あんなに衰弱してたのに」
シェーニイが枕に背を預けているのに驚き慌てベッドに駆け寄り顔色を見入り問い掛けるのはエルディアへ
「自己治癒力が高い方でしたので…まだ、元通りには動けませんが普通の生活ぐらいなら大事なく動けます」
「そうなの?あー…でも血色はいいみたい…よかった…貴方を助ける事が出来て僕はとても嬉しいです」
体調を聞き、漸く安堵のため息をしてはシェーニイへの満面の笑み
「…お怪我は一つも…?」
「ん、うん!貴方が僕を命懸けで助けてくれたから傷なんて一つもありません。本当にあり」
「申し訳…ありませんでした」
王子が礼をと口を開いたとたんの詫びの一言。王子をはじめ、その場にいた皆が自分の耳を疑った
「は…え?なぜ貴方が僕に謝られるんですか?!」
「謁見の間…王座の間での…神聖な場での殺生など…許される訳がありません」
「ぁ…でも…」
「何より…尊い【王】と言う方の前での殺生など…どうお詫びをしていいか」
「…僕は貴方に助けられました!それでいいじゃないですか!僕は貴方が居なかったら此処に存在しなかった…本当に…感謝をしてもしきれない…ありがとうございます」
王子を見つめ俯いたシェーニイに王子は手を強く握り締めその手に額を付けては深い、深い心からの礼をくちにする
「…王」
「いくらお礼を口にしても足りないぐらい感謝をしています…本当にありがとうございます」
にっこりと微笑む、幼い王
「寝心地も関係あるんじゃないかな?僕の部屋は神聖なんでしょう?エルディア」
「はい、王子のお部屋は特別清い空気がありますから、そのお陰かもしれません」
にこやかにほほ笑み、向けるのはエルディア達。ハインやウォルスは苛立ちを隠しながら、ヴァシレイやエルディアは平静を装いつつ、ただその中反応したのはベッドにいるシェーニイで
「今…なんて?」
「ん、僕の部屋って言ったんだよ」
「…え?」
「此処は王子の寝室になります」
聞き返し、聞いたエルディアからの単発の返事。まだ理解が追い付かないのか隣に立つレウを見上げると
「王子の部屋の王子のベッドで寝ている。と言う訳だろう」
「──────!!!!!」
「何処に行くんだお前は」
「もう平気。平気だから手を離してくれレウ。これはいけない、これは駄目だ」
レウの確かめる付け足しに直ぐ様ベッドから降りようとしたシェーニイを掴み押しやるレウ。シェーニイはその間真顔で虚ろに呪文を繰り返してはもだもだ
「…気にしなくていいのに」
「滅相もない!!私が王を穢す訳にはいきません」
「汚すって…どう考えても貴方が僕に手を出すとは…思えないんだけど」
ねぇ?と他の者に同意を求める王子にそれぞれ‘今の時点でありえない’と言った顔。レウはシェーニイの顔を掴んではベッドに押し込み上から押さえ付け、シェーニイはそれに顔だけ王子に向け
「私の血で王子が穢れてしまったら?!私は綺麗じゃない」
ぐっっと躰に力をいれ起き上がろうとするシェーニイ、レウはそれをまた押さえ付けようとするが、王子がベッドに乗り込み、起き上がろうとするシェーニイの頬を撫で
「貴方はきっと嫌がるだろうけど…僕は貴方の血で穢れると言うなら喜んで穢れるよ。綺麗とかそんなんじゃなくて…僕は貴方のその躰に流れる全てが愛しいよ、それに僕を護ってくれた人間の血をどうしてそう思えますか?」
「ですがっ!」
「それに僕は王であるけど、一人の人間で意志がある…貴方は知らない人で他人だけど…恩人です。そんな人を労う事はいけない事?僕は王と言う立場より人間として恥じたくありません」
眼帯のない、肉の腐った皮膚に触れる王子の手
「…ありがとうございます」
「ん、わかってくれたらならなによりです。もっと躰が回復するまでゆっくり休んでてね」
真面目に語っていた王子であったが、理解を得られたとわかれば直ぐに幼い笑顔を向けた
「いえ、本当にもう平気ですから…あまり、気を遣わないで頂きたい」
笑顔へ向けられるのは苦笑い、緩くなったレウの手から抜けベッドの上にあった真っ白のガウンを羽織りレウの直ぐ傍に
「え、でも…」
「もともと頑丈には出来てますから…レウ悪い結んで」
「…よくそんなので日常過ごせたな…」
ベッドに座りガウンの紐も結べと促すシェーニイに呆れた顔を向け手を伸ばすレウ
「過保護な奴に文句言えよ」
「必要最低限だろう」
しっかりと着れるようにと直したガウンが肩から崩れ落ち露になる男とは思えぬ白い美しい背中。日の光を吸収しながら反射し、髪の毛には宝石のパウダーが乗っているかと思う程のものだ
「────…」
魅入る
女でさえ、嫉妬すら出来ない美しい何かがそこにはいた
「ところで…一つお聞きしたい事があるのですが」
きちんと身なりを整えて貰ったシェーニイが改めて王子を見、声を上げ漸くその魅惑から戻り出た一同
「へっ?えっ?!」
「前王は何処におられるのですか?いくらなんでも…継承するには早い気がします」
「ぁー…」
偉く率直な質問に逸らされる目線と俯く顔
「…何か」
「あんたには関係ないじゃない!国に仕える人間ならまだしも何処の馬の」
「ハイン…いいよ」
「ですが!!」
「いつかは知られちゃう事だもん」
先程の苛立ちもまだ納まらないままの勢いで叫び捨てようとしたハインへの静止の声。寂しげにゆっくりと笑み呟く
「何か…あったんですね?」
「…それは直接自分の目で確かめたほうがいいと思います…父の部屋まで案内しますね」
ベッドから降り先を歩く王子、それに続くウォルスとハインとエルディアとヴァシレイ
「…何をどうして前王の話を持ち出した?」
「あたしの知る限り王が王位を継承したのはあの姿だと聞いているが…何故継承したのかは聞いてない。あの四人と大臣以外は詳細を伏せられてるんだ」
四人と王子の後をわざと一歩遅らせ後を追う二人
「…聞いたところで何も出来ないだろう?下手をしたら過去が変わるかもしれないだろう」
「それは…ない。あくまでも此処は時間軸が違う、架空の世界…言わば残留思念」
「言っている意味がわからない」
「過去で…後悔をしている事をやり直せる場所だ」
あぁすればよかった…
後悔をやり直せる
修正が出来る世界
「…残酷な世界だな…此処でどう修正しても現実は何一つ変わらないのに」
「…それでも…生きていて欲しい…願いがあるんだ」
過ちを
二度と繰り返したくはない
例えそれが偽りでも
一時の幸せでも
それで
今幸せにしてくれるなら
偽りでも構わない