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王宮の廊下を歩く一同
先頭を歩くのは王子を中央にウォルスとハインをの三人。苛立ちを拭うように、消すようにと会話を楽しみながら歩く。その後を追うように歩くのはシェーニイとレウ。レウの隣にはヴァシレイがおり余り反応を示さないレウに対しにこやかに話し掛け、その隣にいるシェーニイは壁ぎわに指を付けながら歩き、それを不思議そうに眺めるエルディアの姿がある
「…一つ問いたい」
「ん?」
散々話掛けられ、横目で嫌な顔をしながらのレウの一言
「民が知らないまま王位が代わっていいものか?継承とは品格云々認められてなければ継承出来ないものだろう」
「本来ならそうなんですけど…状況が状況なんですよね」
「状況が状況?」
苦笑い誤魔化しながら、曖昧に
「少し答えずらい…かな」
「答えずらい?」
「今此処で言うのも有りだとは思うのだけど…今あまり口外は出来ない事でもある」
「なら、そこ迄の経由は聞いても支障は?」
「…貴方は突っ込むんですね」
「納得出来ないだけだ」
避けようとしてもそれを追撃するレウに、心底困惑の表情が伺える
「…知ってもロクな事がない」
「え?」
そんな二人へ呟いたのはシェーニイであり、顔を顰め壁から指を離しては不機嫌そうにする
「君は知らないんじゃ?」
「…言いたくない」
疑う眼差しを向けられ、俯き一人先に迎うシェーニイの背
「何か気に障る事を私は口にしたの…かな?」
「俺にはわからない」
「夫婦では?」
「思考回路まで理解できなくてはいけないのか?」
ジロリと睨むレウへ、すまないと平謝りのヴァシレイ
(高い魔力を持つシェーニイさんなら…物からの記憶を読み取るぐらい簡単な筈…今まで壁や置物に触れていたのは…それをしていたから?)
初めから見ていた
部屋を出た直後から所々壁や物に触れながら歩き、決まって辛そうな顔をする。もし、それが事実ならもう彼は今の状況を把握して心を痛めているのだろうか…
* * *
その部屋は本来なら神々しいまでの輝きを持つような所だ。部屋の主人がそう在り続けるように。だが、その部屋にはそれを思わせる雰囲気は何一つ無く、酷く淀んでは痛ましい穢れに近い何かを臭わせていた。まだ、部屋の外と言う段階で
「─…」
思わず口元を手の甲で押さえ隠したレウ、その顔は険しいもの
「気を確かに保って下さいね」
レウやシェーニイへの優しい王子からの忠告。一瞬何かと眉を顰めたレウだがその意味を王子が扉を開けた瞬間に理解した
開いた隙間から淀み出たのは空気に色を付けたかのような鼻を指す痛み。鈍痛と共に突き刺さる腐敗臭に眩暈さえ感じられる
余りにも唐突な事に対処しきれずくらりとしたレウへ差し伸べられたのはハインとエルディアの手
気を確かに保てたところで部屋の中央にある白いベールに包まれたベッドに気付きそれに半信半疑のまま歩みを続ける。近付けば近付いただけ濃くなる悪臭
「僕の…父です」
白いベールに手を掻け開かれる
そこに眠るモノは、只の腐った肉塊だった。
「!」
辛うじてヒトの形はしているが布団から出ている顔らしき場所や腕らしき長いモノは変色、腐敗し、白いシーツをドス黒い、例え様もない色に染め汚していた
「…コレが…親?…この腐った何かがか?!」
「確かです」
レウの困惑に、父の躰に触れた王子。指先で触れただけで崩れ溶ける親のからだ
「きっかけは判りません。ですが急に…ほんの一月程前に体調を崩されそのまま床に臥せるようになって…今に至ります」
王子の肩に触れ慰めながらのエルディアの説明
「こんな病気があるのか?!」
「わかりません…ただ、私達宮廷魔導師が勢力を持って回復に当たっても…どうにもなりませんでした」
「どうにも…」
絶句。それしか出来ない事実
「躰も、意識も曖昧で、何も語れない父だから…まだ早いと判っていても僕は王にならざるえなかった」
震える声に震える躰
小さな心に刺さる現実の痛み
「…どうしようも…無かったんだよ…継ぐしか…」
肩を支えるエルディアに抱き付き抑えようとする感情。エルディアはぎゅっと抱き締め慰める
「…生命反応は?」
「すっごい薄いけどあるわよ」
二人を眺めるシェーニイへ答えたのはハイン。それを確かめる為へベッドに、確かに薄く細い呼吸が耳に届く
「…生命力の強さに感謝します」
他の人間に聞こえないように呟き腐敗、腐食した肉片に手を伸ばす、触れただけで崩れてしまう哀れな人体の残骸に
2010/05/06 ЯR