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「ならば、私がただの腐った肉片になっていたのは…呪いの一種だと?」
「恐らくは…長期にわたり同じ呪いを繰り返し掛けられ、原因不明の病気として死ぬ様な最後になるように仕向けられたと」
「ふむ…王として生きている限り人から恨まれない生き方をしていないとは言いきれないが…長期戦で掛けられるとなると…何を信じて生きればいいかわからなくなるな、半ば信じられない」
「信じるも信じないもそれはご自分でお決め下さい。私は知る限りを口にしているだけですので」
ふむ…と顔に手を当て冷たく言い放ったシェーニイを見入る王
「…具体的にお前は私に何をして呪いを解いた?」
「完全に解いた訳ではありません。一時的に見た目だけでもと一部を吸い出しただけです」
「ならまだ」
「悪化は防げましたが…毎日少しでも解かないと最悪一年で確実に継承する事になりますね…不本意な形で」
一切包み隠さず率直な意見。流石に気分がよくないらしく小さい舌打ちが打たれた
「ふざけているな…直接吸い出した君に被害はないのか?」
「この呪いは貴方様だけに向けられた私怨です。私が吸収しても多少の痛みだけで呪いにはなりません」
はっきりと迷いのない返答。事実かと皆は少し疑いの眼差しを向けるが王は目線を下げ、シェーニイの片手を何気なく見ると、紫色に変色した腕がすぅーと元に戻り、それと同時に震えも治まった事を垣間見た
「命を下せばいいのか?」
「どの道選択件は無いと思っていますが」
「ふむ…君は利口な奴だな気に入った、暫く世話になる」
「王位…あまり信用されるのは良くないと思います」
にこりと笑った王位へ、疑心暗鬼風にウォルスが口を開いた
「何、信用はしてない。助けては貰ったがそれだけの相手に信用する程愚かじゃないさ…だが…助かる方法が目の前に転がっているのにそれを蹴る程死に急ぎたくもない…許せ」
チラっと本人がいる前での発言に一瞬ハッとするが、最後の王の詫びに渋々と頭を下げてみせた
「治療より…こんな綺麗な男に口を吸われるんだぞ?他の特典に期待したいね」
「それはお戯れ過ぎです」
「継承問題が起きる訳ではないんだ暇潰しには勿体ない逸材だろう…そんな訳でそっちの特典も楽しみにしたい」
「丁重にお断わり申し上げます」
ふざけた調子に返された全力の拒絶。元気そうに笑う王位に安堵の溜息が自然と出てきていた
「父上、戻りました」
キィと静かに開いた扉、戻ったのは王子とハイン。王子の手には水差しが持たれている
「何か楽しい事でもあったのですか?」
「ぅん?何故そう思う」
「病み上がりだと言うのに…とても生き生きされてます」
息子の嬉しそうな顔と声。父親として顔が緩むがその大事な大事な息子がコップに移した水を受け取りそのまま手が止まる
「父上…?」
誰カガ…マタ、殺ソウトシテイルノデハ?
愛する息子が持ってきた水にさえ疑いを向けてしまう。一番無いと思うが…果たしてそれが一番あるのではないかと
「───…っ!」
「失礼します」
震える手にシェーニイの手が重なり王からコップを取り自分の口に。水を含み、そのまま王へ唇を重ね、流し込む
「〜〜〜〜〜?!」
シェーニイの背後、真っ赤に顔を赤らめ言葉を失う王子。シェーニイは王から口を離し
「貴方様の呪いはもっと以前の…深い長い時間を費やしています…もうお判りでしょう」
「!」
誰にも気が付かれない様相手にだけ呟かれた進言
「だ、ダメダメ?!父上は勘違いで手が早いんだからそんな事しちゃダメですよ!」
いい終わりと共に引かれたシェーニイの手。引いたのは王子で見繕いながら、何か必死である
「治療の延長ですよ」
「今のはぜっっったい違いました!本当に父は手が早いので近寄ったらいけませんよ?!」
わたわたと必死な姿。思わず零れる笑みに心が潤う
「…Jr.が何やら酷い事を言っているな…まぁいい暫くお熱い治療をして貰うからな」
「へ、な…なんですか?!」
「Jr.には関係ない事だ。後はお前達の一存に任せる。お客人だ丁重に頼むぞ」
手を振る王に、それぞれ頭を下げシェーニイとレウを連れ王の部屋を後にする。だが、一人王の部屋から出なかったのはヴァシレイ
「ヴァシレイはどう見る?私には胡散臭くて仕方ないが…命は欲しい」
「悪い方々には見えませんが…私もいまいち信用出来ませんね…でも、我々には無い力を所持していますから…敵でない以上敵意を出す必要はないかと」
渡された、まだコップに残る水
「…裏切られたらどうする?」
「王位が望むままに動きますよ?我々は王位のモノですから」
「…お前は怖いな…笑いながら友でも裏切りそうだ」
「そう…仕向けているのは誰ですか?」
決して答えず、水を一口
「あの二人の事を知りたい」
「はい」
さぁ…
疑いながら
騙しながら
生きてみようか
2010/05/08 ЯR