NEXT 9
その後、城内の簡単な案内と説明を受けた二人が用意された部屋に辿り着いた時には既に、次の日を少しばかり刻んでいた
「〜〜〜…っかれたぁ」
「…はぁ」
ぱたんと静かに閉まった扉を合図に、その場にしゃがみ込んだシェーニイ、レウでさえ疲れが出た溜息を漏らしていた
「駄目だ…限界」
「……」
一言漏らし立ち上がるとベッドに一直線に歩きはじめ、その間するりとローブの紐を弛ませ、ベッドに辿り着くと同時にローブはベッドの下、そして中身はベッドへと身を隠すのだ
「お前には羞恥心ってモノがないのか…」
「あってもなんであんたの前で羞恥を気にしなくちゃいけないんだよ…野郎だろうが女だろうが見飽きてるでしょ」
脱ぎ散らかされたローブを拾いながらの小言。シェーニイは吐き捨てては枕に抱き付き沈む、レウはそうではない…と若干の困り顔
「…おい、コラ!何寝ようとしている!!」
「ぅえ…?なんで…」
どう切り替えそうかと思い考えていた矢先、枕に沈んだシェーニイの目蓋が閉まりかけた事に慌てベッドに寄っては隅に座り、叩くように触れる頬
「なんでも糞もあるか…大体の事は把握出来たが…お前の見解を聞かせろ、今後の身の振り方を考えなければならない」
「あー…面倒臭い」
「ある事ない事いい歩く」
枕に沈んだままのシェーニイの一言。流石に苛立ちを覚え呟くと顔を上げて、枕に顔を置き直し、頭を掻いて重々しく口にする
「まず、この世界はあたし達…あー…男の姿でこの言葉遣いは気持ち悪いか…」
「悪くはないが違和感はある」
「えっと…私達の世界の過去ではない」
「言い切れるのか?」
「やったらいけないとは思いつつ…前王を助けた」
「?」
「本来ならあの方は亡くなっていてあの若い王があの歳で王座を継いでるんだ」
「…なら、もし過去だった場合」
「少なからず私…シェーニイが消えるか、もしくは…レウと言う存在が消えているかもしれなかった…と言う訳だ」
「だが、そうとは限らないだろう」
「言い方が悪かった。こうやって対面する事は、ないに等しい」
シェーニイは天使側の人間
そしてレウは魔族側の人間
その間には溝がある
この時代から溝が深くなる
だとしたら、今のように
話し合う事は皆無に近い
「何故言い切れる」
「あの方は野心家だ、屈するのが嫌いだ。そしてそれを煽る者もいる。魔族との対話なんてまず無い…頭を下げて和解をするなんて…同等に接するなんて事はあの方の辞書にはない」
「知った口だな」
「欲にかられて現世じゃ死んでいるからな…まぁいい…それだけの事をやったのになんの反動も無かったから…此処は過去ではないと言う訳だ」
「………」
横目に見入るレウのまだ困惑した顔。仕方なしに続ける言葉
「私の父は…健在し続けられた理由……判る?」
「強い…からではないのか?」
「半分は正解…父が強いといわれ続けたのは…剣の道を極めたから。あの人は生きた伝説なんだ」
「どう言う意味だ」
「今の歳で父は既に剣豪、闘神と言われている」
「馬鹿な?!…まだ…それこそテト殿やガイ殿の同い年の様な…あの歳で?!!」
「武神って言うのか…父がいる時代は城や民、森でさえ安定していたんだ…絶対の強さがあったから…だから、父が生きていてレウに会ったとしても勝ち目は無い」
「…では、何故死んだ?」
「実の娘の前で人を斬る事を躊躇った。娘を血で穢す事を嫌がった…んだ……馬鹿な人」
ゆっくりとまた沈んで行くシェーニイの顔
「・・・では、この世界はなんだと言う?」
「記憶の集合体…と言うのか…曖昧なモノでいい表しずらい」
「まったくもって理解できん」
「過去の過ちだったり、やり残した事やモノ、見てみたかった事やモノ、それをやり直す、もしくは見たりする場所…と言えばいいのだろうか…難しい」
むくりと起き上がり、枕を定位置に起き背を預けレウを見入る
「なんとなくは…理解出来た…だ、が…そうだとしたら今の世界はお前の過去ではないのか?」
「冗談を言うな…産まれても無い世界にどんな未練があるんだよ」
「王を助けられただろう?」
「あの人には興味の欠片も、忠誠心も微塵もない…そもそもやり直したい過去を持ってはいるが…直らないモノを直そうとは思わない、阿呆らしい」
やっても無駄と言い放ち不機嫌そうにするシェーニイ
「では…どうして?」
「さぁ?それが判れば苦労しないし、よく判らない設定も付きはしないと思う」
「俺と【夫婦】は不満か?」
「それはどうでもいい。ただ立場が不利にはなるんじゃないのか?仲良くしていないと面倒そうだし…そもそも…女好きだろう」
もそもそとまたベッドの中へ
「性別はー…」
「好き勝手に出来る、していい世界みたいなんだ、お互い好きにしたらいいんじゃないか?明日やらなきゃならない仕事が山積みなんだ、おやすみ」
レウの喋り掛けに相手をまるっきりする気を見せずに背を向けてのおやすみの挨拶
「王子に忠誠心を誓うのか?」
「・・・・それぐらいしか脳が無い」
いいずらそうな答えにくそうな返答。それを基にシェーニイはゆっくりと眠りに入っていった
* * *
シェーニイは此処は【過去】ではないと言う。無念と言うか…やり残した事をやり直せる場所と言われた…信じがたいがアレが言うのだ間違いと言う方が少ない
だとして…俺自身はこの世界への無念はまるきり無い。確かに生きてはいるが…そこまで剣の道に生きていた訳でもない、ましてや、殺戮を繰り返していた訳でもない。そう思ったからこそシェーニイかと思ったが…そうでもない。
確かにこいつは…過去を振り返り無意味にやり直そうなどと愚かな考えをする奴ではない
では…どうして?
「……」
ベッドに横たわる金髪の男
今でこそ男ではあるが…元は例え様のない美しい女。誰よりも美しい、見かけではなく芯からの美しさを持つ人間だ。強い精神力、雄々しく、誇り高い人間として見習うべき者
惹かれている
出逢う前から惹かれていた
強さと…その在り方に
だからこそ…
その過去を知りたいと思った
もし、俺自身が知らない合間に
そう願っていたとして
この世界が生まれたとしたら
俺は…今の姿を見届けないとならないのかもしれない
「…夫婦…と言うのは…俺の願望…なのかもな」
恋でも愛でもない
ただの憧れだと願いたい
「起きていたら怒られそうだからな…ゆっくり休め」
頭に重ねる密かな想い
2010/05/16 ЯR