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魔法の覚醒

 幸いにも村を囲っていた塀だけが燃え、隣接する家屋に火が移ることはなかった。


 もちろん村中は夜中にパニックに陥り、俺は火を抑えるのにてんやわんや。


 俺が発した炎はあっという間に伝播し、村を囲う塀を焼き尽くしてしまった。


 火が一周したところで、冷静に考えた俺は、この日を鎮火させるための膨大な量の水を思い浮かべる。


 今まで、魔法の発現にあれだけ苦労していたにも関わらず、何故かこの時は一発で水の魔法を使うことができた。


 俺が火事場の馬鹿力のごとく使えるようになった水の魔法で、事なきを得たわけだ。危うく死者もでかねなかった状況に肝を冷やす。


 あれだけ村の役に立ちたいと、願っていた俺だ。引き起こしたことの重大さに、俺は愕然とショックを受けた。


 これと似た絶望感は、俺がまだ新卒のころ入社初の案件で契約書を謝ってシュレッダーにかけた時と似ていた。


 だが村の人たちは寛容で俺が魔法を使えたことを喜んでくれた。俺を責める人なんてだれ一人いなかった。


 魔法とは使い方次第では凶悪な力。そんな強大な力をいきなりコントロールできるなどあり得るはずはないと、村長をはじめ村中のみんなが言ってくれた。


 とはいえ一晩にして村を守るための塀を無くしたのは俺の失態だ。この失態を取り戻してほしいと村人全員の前で土下座に、俺はその日のうちに、塀を1人で作り直す事を約束した。


 もちろん魔法でだ。


 てなわけで、俺は塀を燃やし尽くした翌朝から、地の魔法を使おうと悪戦苦闘している。


 「大地の力よ!塀を作りたまえ!」


 言葉はふざけているが、イメージはしっかりとしているつもりだった。


 魔法を使うにはイメージしているものと魔力を掛け合わすのがコツ。一度、魔法が使えるようになると、あとは簡単で火と水の魔法はいつでも、使えるようになった。

 

 同じ要領で、地の魔法も使えばいいだけと、俺は思った。


 だが、地と空の魔法に関しては、全くと言っていいほど要領が異なるようだった。


 地の魔法は、自分たちが立っているこの大地に魔力を与える事で自由に地面を隆起させたり、草木などを生やすことができる。


 空の魔法は、大気を操る魔法。大気に働きかけ雨雲を作ったり大気の流れを早くして風を起こしたりできるらしい。


 書物に書いてあった内容をもう一度読んでみたが、もう訳がわからなかった。


 火や水は物質だ。現物を見て、目の前のものを同じように頭で想像すれば、魔法が使える。


 だが、大地や大気を操ることはまた別の話。


 「大地を操るなんてそれこそ魔法だな…。」


 俺は村の外郭沿いを歩きながら途方に暮れていた。


 昨夜まで丸太の塀があった村の四方は今は焼けこげた木片とぬかるんだ地面だけがあった。その光景を見るだけで罪悪感が込み上げてくる。


 アルムトの人たちは優しい。この村の砦とも呼べる塀が喪失し、外から村が丸見えになった。悪意を持った人がいたら絶好とばかりに襲撃にやってくるだろう。


 そんな危機的状況にも構わず、村人たちは俺を責めずに、むしろ応援してくれていた。


 『こんな村襲ったって金目の物なんか出てこないし、何か来たとしてもエベルみたいな魔物くらいだ!もし襲ってきたら、また食っちまおうぜ!』


 この村の男衆は本当に頼もしい。その気遣いが逆に苦しかったからこそ、前よりも頑丈な塀を築いてあげたかった。


 「塀なんかじゃなくて、強固な壁の方がいいよな…。そのためにはやっぱり地面を隆起させて…。」


 俺は確固たる信念を胸に、壁作成のためブツブツと独り言を唱えながら、とはいえ何かできるわけでもなく、外郭沿いを歩いていた。


 「少しは休めよ。イザヨイ。」


 いきなり村長がやってきた。朝からぶっ通しで動いている俺を気遣って、様子を見に来たのだろう。


 「ダメだよ。休めるわけない。自分が壊したんだもん。自分の力で直してみせる。」


 「誰でも最初は魔法の制御なんてできない。物事とはそうさ。いきなり完璧にできるわけないだろう。」


 「わかってるけど、壁の修復はマストだ。絶対に今日中に作り上げる。」


 「魔嚢に溜まっている魔力は十分にあるのか?」


 「おっ…?」


 ここで以前に聞いた話を反芻する。


 魔嚢は魔力を蓄えるための臓器。魔法の使用量に応じて、魔力は減っていき、十分に溜まるまではそれなりの時間を要する。


 つまり連続使用していると魔力が底尽きるということ。


 初めて火の魔法を発現した時、魔力消費は相当だったろう。何せあれだけの火力だ。おまけにその後、それを鎮火するために、水の魔法も使っている。


 俺の魔力がほとんど尽きている可能性が浮上してきた。


 「だから休めと言ったんだ。焦る気持ちはわかるが、魔法を使おうとしてもそりゃあ魔法なんか使えない。試しに他の魔法でも使ってみたらどうだ?」


 言われてみればその通りだった。やはりまだ魔法の原理原則を理解できていない。俺は、頭の中で水のイメージを浮かべて、それを魔力に置き換える。

 

 「ああ、全然ダメかも…」


 一度魔法を使えたことにより、魔力の感覚がわかるようになってきた。


 魔力という物質は目に見えないが明確に存在している。いや、厳密には見えるようになってきた。その俺の感覚からするに、今の俺は、魔力切れを起こしているようだった。


 呼吸をして酸素を取り込むのと同じように、常に魔力は体内に取り込まれている。量としては微量だろう。魔法を使う際に消費する魔力量は、一呼吸で取り込む量の10倍ほどだ。これは俺のザルな感覚での話だがざっくりとそんなイメージをしている。


 これまで無駄打ちしていた地の魔法でも魔力を消費していたのだろう。


 ―――魔力が十分に溜まったら問題なく使えそうだな。

 

 「少し休みます。村のみんなには、申し訳ないけどもう少し待ってもらう。大丈夫!夜までには必ず完成させるから!」


 俺は村長にそう言って自分の家に帰るために走り出す。


 きっとミコトさんも心配しているだろう。ちゃんと一言掛けてからしっかり寝ようと思った。

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