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広がる炎

 火起こしは原始的な、木の摩擦熱でまず火種を作る。その後、燃えやすい麻や枯れ葉に種火を移して徐々に火を大きくしていく。


 エベルを調理するに十分な火ができるころには、すっかり夕方になっていた。


 どのくらいぶりなのかはわからなかったが、村のみんなは久々の獣の肉に舞い上がっていた。巨大なエベルの肉は30人にも満たない村人全員に十分すぎるほど行きわたる。


 ミコトさんも久しぶりに十分な食事ができたようで、俺は安心した。女性はもう少しふっくらした方がいいぞと、紡を脳内に浮かべて思った。


 その日の夕食はみな、たらふく肉を食べてご満悦のようだった。俺は最低でも塩を振って食べたかったが、それはまた言わないことにした。


 やがて夜が更けて、片付けをする人たちや、女、子供は家に帰っていった。


 基本的に夜は活動せずに暗くなったら寝る。電気なんて物はもちろんないので、単純に夜の活動には限界があった。灯りを灯せば、夜には魔物に襲われる確率が上がるし、村中に灯りを灯すことも、設備的に厳しい。夜の明かりは見張り塔のたいまつのみだ。

 

「この世界にも月ってあるんだなぁ。」


 余ったエベルの肉を頬張りながら、俺は夜空を眺めていた。


 俺が元居た世界と同じように、夜空には月も星も見えるし、昼には太陽もあった。


 この世界が太陽系であることはわかるし、星が見えるので他の惑星があるに違いない。


 ピクトラウムは異世界というよりも、まだ地球の人たちが発見できていない太陽系のどっかの惑星なのかなと思った。


 「ごめんねイザヨイ。私もう眠くなっちゃったから先に寝てるね。」


 「うん!おやすみ!」

 

 ミコトさんは久しぶりに満腹になったのか、珍しく早く寝ると言い、家に帰っていった。イザヨイとして復活してから、ミコトさんは、俺に対してやたら過保護な部分があるように思えた。


 元々がどんな感じだったかわからないが、やたらと気を使われているような気がする。


 明日からはミコトさんとご飯を食べよう。そして俺も狩りに出るくらいするかな。


 ふと、見張り台の方を見ると、すでに見張りの人が立っているのが見えた。


 たいまつのぼんやりとした明かりが遠くに見える。


 「俺もたまには仕事するかな。」


 俺は四つあるうちの一つの見張り台に向かった。


 俺が転生してから、この村のために何かしたことはなかった。みんな、俺に気を使って、何もさせてくれない。


 仕事がない俺は毎日、村長の家に通い魔法の習得のための勉強や書物を読み漁る。


 早く魔法を使えるようになることが、今の俺の仕事なのは理解していたが、今まで全くと言っていいほど、魔法の感覚を得たことがない。


 仕事でも一緒だ。煮詰まったら、同じことをしていてもしょうがない。たまには違うことしたり、違う考え方をしたり工夫が必要だ。


 俺は見張り塔に登る。途中、見張り番は俺に気が付いて視線をこちらに向けた。


 「どうしたんだ?イザヨイ。」


 「いやぁ、たまにはこの村のために働こうかなぁって思いまして。見張り変わりますね。」


 「はぁ?やめとけイザヨイ。お前に任せられるわけないだろ。第一、お前に任せたりしたらミコトさんがなんて言うか…。」


 「いや、ほらそこはおれの…私の勝手というか、なんかいつも任せっぱなしなのも悪いんで…。」


 「ガキが気を使うな。ダメなもんはダメだ。」


 正直、変わってくれるとも思ってなかった。ダメ元で来た部分もある。


 ぶっちゃけ、自分が逆の立場でも、絶対に変わったりしない。夜の見張りなんかを女の子に任せるはずもない。


 とはいえ、中身はいい歳したおっさんだ。

 

 「お願いします…!このまま何もできないのが嫌なんです。」


 俺は頭を下げて懇願した。なぜこうも執着するのか不思議だったが、これはどうやら俺の元々の性格らしい。


 思えば、誰かに任せることが嫌いだった。人の足を引っ張るのは嫌だが、誰かが俺の足を引っ張るのは全然気にしない。


 損な性格なんてよく言われていたけど、それが悪いとは思ったことない。


 現に、いま足を引っ張っているのは俺だ。


 魔法が使えると、みんなが俺に期待を寄せている。


 魔嚢なんてよくわからん臓器を持っているか確証もない状態で、毎日のように魔法の習得に励んでいるけど、なかなか成果は見られない。


 最悪なパターンを想像し、俺に魔法を使う素質が無かったら?


 そうなった場合、俺はこの村のために何ができる?


 平均寿命30歳。長く生きられてもあと15年。元の世界に戻ることも最初は期待していたが、魔法を使うのと同じくらい望みが薄いことなので内心諦めている節はある。


 そうなったら俺の第二の人生はここになる。そうなった時、悔いなく最期まで生きたい。


 とは、口に出していないが、それが男に伝わったのかもしれない。


 「わかったよ…!じゃあ、俺は下にいる。何か異変があったらすぐに知らせろよ。」


 「あ、ありがとうございます!」


 些細なことだけど、嬉しかった。魔法を使えるよりも嬉しい。部外者の俺が村に認められたような気になった。


 「ほら、たいまつだ。明かりないと怖いだろうからな。」


 「大丈夫ですよ!そんな!」


 とは言いつつ、たいまつを受け取った。エベルを焼くときに作った火種だ。なんだか特別な火のような気がしてきた。


 「あ、あと眠くなったら言えよ!すぐ変わるから。」


 「はい!」

 

 ―――よし!頑張って見張りをするぞ!


 俺は気合を入れて見張り塔から周りを見渡した。思えば村の外を見るのは初めてだ。


 今いる見張り塔は村の西に位置する。西はちょうど隣国がある方角だ。


 隣国は火山帯で構成されたロート王国という国らしい。アルムトの西側はつまり大陸の中心だった。


 大陸の中心にある火山が特徴であると、村長の家に置いてあった書物で読んだ。


 俺の眼前にはこの世界の大陸の中心に煌々と輝く火山の明かりが見えた。常に溶岩を垂れ流す活火山だが、ものともせず麓には国が栄えているらしい。


 「綺麗…。」


 「綺麗だろ。あれがこの大陸の中心"グロス火山"だ。」

 

 「グロス火山…。」


 「この大陸の大地は、あのグロス火山によって作られたと言われている。」


 「すげぇ…。」


 大いなる自然に圧倒されてしまった。自然とは広大で尊いものだ。あんな存在を目の当たりにしてしまうと、今の自分がちっぽけに感じてしまう。


 「悩むのもあほらしいよな…。」


 俺は手に持ったたいまつを見る。


 「ん?どうした?」


 「そういえばいつまでそこにいるんですか?」


 男は梯子の途中でずっと俺としゃべっっていた。


 「いや、冷静に考えてやっぱお前をここで一人にするのは…。」


 「大丈夫ですって!」


 俺は男にそう言いながら、たいまつを眺めた。


 昼間、村長に言われた言葉を思い返す。


 『魔法の基本はイメージだ。火なら火を、水なら水のイメージを頭に浮かべて、それを自分の中の魔力から変換させるんだ。』


 遠くのグロス火山を見て、自然の偉大さを改めて思い知った。俺はちっぽけなスケールで自然を感じ取っていたと自覚した。


 自分の目で見える範囲。自分が想像しうる小さなイメージだけで、自然を操ろうと思っていたのだ。


 魔法とは自然の力。何も頂上的な力なんかではなく、魔法とは自然由来の力であると、書物で読んだ。それの意味が何となく分かった気がした。


 たいまつを見る。


 ユラユラと揺れる炎見つめて、それを自分の中の未知のエネルギーと掛け合わせるイメージを持った。


 自分の中に流れる血液と同じように、魔力が体中を巡りそれが炎に変わってゆくのをイメージする。微かだが、炎の熱さも感じるようになってきた。


 「熱い…?」


 「熱ぃ!!イザヨイ!熱ぃ!!!」


 自分の足元から火が上がっているのが見えた。


 「え?」


 俺を発信源として、見張り塔の一部が燃えている。


 その晩、アルムトは火の壁に包まれた。

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