【愛のふりまき方編】異世界に捨てられた子と聖剣の伝説
(△)プロローグ:選別
私はいらない子。
抱かれたその掌の中で、ただ泣くことしかできない。
「あぅ、あぁ」
神様は私をどこに連れて行くの?
通り過ぎる光がゆらゆら煌めく景色を眺めて、どこか遠い場所に運ばれていく。
私はもう、あの星にはいらない。
たとえ、それが残酷な運命でも、神様は私をお選びになった。
そして、これからどんな運命が待ち受けていようとも。
ただそのことだけは覚えていて欲しい。
(□)第1話:異世界召喚
王宮では今日、特別な儀式が行われている。
王国の神官たちはあわただしく駆け回り、神の予言に従ってその儀式の準備を進めていた。
「大神官殿、救世の英雄はここにありと」
神官を呼び止めたのは、この王宮の主人にして、王国のあるじ。
大妖精の巫女、ミスティアナ女王陛下。
「つつがなく。
舞の準備を」
――エルテンディ ポーヤビ ナーハビンヤ
――ユーメティ エーレノ ヨーハヨムスタア
――マ エーテノ ホヤギ マーハノブスラーハ
――エンテンド ノーヤビ ナーハロブスラーハ
――ビ ホヤア エーテノ ニャーハロブスラーハ
――エルテンデノ ポーヤビ ナーハビンヤ
繰り返される創世の3柱を奉った祝詞。
神々に祈りを捧げて、予言の時を待ち続ける。
『『『♪メ ヒーヤム ホーイシ ナーハビンヤ♪』』』
歌声に神は応えた。
その瞬間に、儀式の間に歓声が沸き起こる。
『そのこどもは、いずれ聖剣をその手に立ち向かう』
「この世界に祝福を」
大妖精の巫女、女王の腕の中には安らかに眠る赤子の姿があった。
(□)第2話:言祝を集める旅
「貴女が勇者様ね。
はじめまして、私はこの村の村長をしています。
どうかくつろいでください」
妖精にはあり得ない羽根の無い背中。
しかし、その背中には羽根の代わりに大きな剣と鞘が。
「いずれ私たちを救う、あなたに祝福を」
「はい、必ず災厄を討ち払います」
森の奥へ奥へと歩いて行くと、そこには枯れぬことのない美しい泉が。
その場所で眠る聖剣を、ひとつかみで拾い上げた。
それは、誰にもできぬ所業であった。
「聞け民衆よ! 我は聖剣に選ばれし勇者!
我が愛しき神の子らよ! 終に約束は果たされる時が来たのだ!
我らに襲い掛かる七つの災厄を――見よ! この聖剣が全て切り伏せる!」
勇者は背中から剣を抜くと、そのまま晴れ渡る空へと掲げて、呪文を唱える。
「『闇を祓う癒しの光《シュ フィロ ビラ ハアビインナーハ》』――神は我らを祝福している!」
銀色に磨かれた剣は光を放ち、それを見た者たちはたちまちに生きる喜びをかみしめる。
歓声が沸き起こる中で、人々の輪の中へと歩いていき、声を掛けると彼らに勇気を与えていった。
(☆)最終話:愛は虚構、勇気は希望
「ねえ、シルエラ…いつまでこんなことを続ければいいの?」
「この世界を襲う災厄が討ち払われるまでだよ、勇者様」
「そんなやつ、いつ現れるのさ」
ガンッ!
彼女は立てかけてあった剣鞘を蹴りつけた。
「守ります、救います、必ずやり遂げる、愛している。
約束をするばかり、何も成し遂げていない。
私には神様の声さえ聞こえてこない。
ねえシルエラ、私は本当に神様がこの世界に連れてきたの?」
体の小さなシルエラは、勇者の周りを飛び回って励ましの言葉を掛ける。
「うん、僕はみたんだ。天から降りてきた君を女王様が抱き上げるところを。
だから、きっと君は僕たちの世界を救ってくれる勇者様なんだ」
こんな不安を、誰にも告白することなんてできない。
「災厄が現れなくても、君は国の人々を勇気づけなければならない。
そのためなら、僕はどんなことでもするよ!
たとえ世界を救っても、僕は君に一人になって欲しくないんだ」
エンエンエンと、泣き真似をする妖精。
そんな様子に、指を近づけて突きたくなる。
そのままシルエラの演劇を眺めて、その日は眠りについた。
(△)エピローグ:信仰
『捨てられた子』
『いらない子』
『あの子はひとりぼっち』
神域で安らかに眠るこどものゆらめきを眺める。
『忘れない』
『わたしたちがずっと見ている』
『そうだね、さびしくなんかないよ』
3柱は勇者の願いに思いをはせる。
『聖剣は受け継がれる』
『伝説はずっと残る』
『もう誰も君のことを忘れなんかしない』
『『『♪君との約束を果たすために、聖剣は世に解き放たれる♪』』』
誰かがきっとみてる。君を美しいと言ってくれる。
彼らはそのことを知っている。
<答え合わせ>
今回のテーマは、読者から愛されるキャラクターの描き方を説明します。
具体的に、読者がキャラを愛するために、そのキャラが小説上のセリフなどを通して読者に「愛している」と伝える必要があります。
ここで思い出して欲しいのが、最終話の話を見たあなたは、勇者に裏切られた気持ちになった人もいると思います。逆に考えて欲しいのですが、その事実自体が、主人公が読者であるあなたと約束をして、それを反故にされたと感じたために、裏切られたと感じたことの証拠です。
それでは、主人公はいつ、読者であるあなたと約束をしたのか?
それは、あなたが勇者のセリフ
「はい、必ず災厄を討ち払います」
このような、まるでこれから世界を救うかのような期待を持たせる約束の言葉を口にしたこと、これが、読者であるあなたが勇者を信じてしまったり原因であり、あなたが信じた瞬間に、主人公と読者であるあなたとの間に約束が生じました。あなたは無意識に期待してしまったということです。
もちろん、このセリフ以外にも、勇者を信じるセリフや言葉が小説の中でたくさん書かれていたと思いますので、特定のどのセリフが原因とは言い切れませんが、色々な文章を読んだ結果、あなたは勇者が世界を救うと信じてしまいました。
主人公が世界を救うと信じた原因として、この世界で信仰されている神様がそう言ったから、信じてしまったというのもあると思います。3人の神様のお墨付きですから、嘘を吐くはずないし、そもそも嘘を吐く意味もないと、そのように感じたのかもしれません。
それでは、小説上のキャラクターが読者に「愛してる」と何かを期待させるような言葉を伝えるにはどうしたらいいのか説明すると、それは簡単で、
・読者とキャラクターが共通に嫌だと思っている存在を排除する、または、排除する努力をする
・読者とキャラクターが共通に嫌だと思っている存在から見えなくなるように、キャラクターが逃げ出す、または、逃げ出す努力をする
例えば、もしも今回の物語の世界に嫌がらせばかりする魔王が生まれたら、そいつはストーカーのような嫌や奴なので、読者も出てこないで欲しいと思うはずです。だから、せっかく読者がリラックスして物語の中のキャラクターが幸せになっている様子をほっこりと眺めているのに、それを邪魔する悪役が現れて、緊張した読者は早くそいつがいなくなって欲しいと願うと思います。それと同時期に、小説上のキャラクターもその悪役が嫌な奴だと認識したら、当然、その悪役を排除するか、悪役がいない場所に逃げ出すかするはずで、もしも、悪役を排除したりしたら、読者も安心するはずです。
このように、キャラクターが原因で、読者は安心を感じたとして、それを言い換えると、キャラクターは読者に安心する気持ちを与えたことと同じです。
そして、逆に言えば、読者に緊張感を与える悪役を描くには、
・読者とキャラクターがすでに交わした約束を果たすことを邪魔する、または、邪魔する努力をする
・読者とキャラクターがすでに交わした約束を破るように、そのキャラクターを誘惑する、または、誘惑する努力をする
例えば、魔王が主人公を誘惑して、世界が滅びることを見過ごす代わりに世界の半分を渡すという物語の展開も、主人公を魔王が誘惑しているので、この魔王は悪役としてこの物語の中に存在していることが分かります。
まとめると、
ヒーローを描くには、
・読者とキャラクターが共通に嫌だと思っている存在を排除する、または、排除する努力をする
・読者とキャラクターが共通に嫌だと思っている存在から見えなくなるように、キャラクターが逃げ出す、または、逃げ出す努力をする
悪役を描くには、
・読者とキャラクターがすでに交わした約束を果たすことを邪魔する、または、邪魔する努力をする
・読者とキャラクターがすでに交わした約束を破るように、そのキャラクターを誘惑する、または、誘惑する努力をする
この手順が必要です。
(補足:
さらに、
マスコットを描くには、
・以上の手順を踏んだキャラクターの見た目や行動を真似すること
この手順も、早く読者の感情を動かせて効率的なので大事です。既に愛されている存在の特徴を真似てキャラクターを描くことで、読者もそのキャラクターを見て、真似をした元のキャラクターに期待していることと同じ快感を期待します。
特に、強そうなキャラクターが弱い存在の真似をすると、読者に対して瞬間的にこのキャラクターは可愛いと認識させることができます。逆に、弱そうなキャラクターが、強い存在の真似をしても可愛いです。それらは、ヒーローでも、悪役でも、同じように可愛くなります。)
そして、これら手順に当てはめて、今回の物語のキャラクターの立ち位置を考えると、実は、主人公は悪役であり、ヒーローは妖精のシルエラであることが分かります。
なぜなら、シルエラは、旅を諦めようとした勇者を励まして助けたからです。最終話を最後まで読み終わって、読者であるあなたも安心したと思います。もやもやは残ったかもしれませんが。
最後に、
つまり、キャラクターが読者に愛をふりまく方法とは、キャラクターが信用される方法です。
そして、信用とは、見えない投資が起きることです。
つまり、それは普通の投資と同じで、読者がキャラクターに投資したい、関わり続けたいと感じるのは、キャラクターが読者が緊張している状態から助け出すなど、読者であるあなたを助けた実績があるからです。
なので、キャラクターに限定しなくても、作者であるあなたの作品自体が、たくさんの読者を、色々な緊張している状態からリラックスした状態に導いてあげられれば、それは、あなたの作品が愛をふりまくことと同じです。
言い換えれば、あなたの作品を通して読者を幸せにできれば、あなたは物語の作者として読んだ人から信用されます。
ただし、気を付ける必要があるのは、作者であるあなたが読者を助けたからと言って、読者がその助けてくれた作者のあなたを覚えているかは別問題です。だから、商業的に売れるためには、あなたが読者を助けたことを覚えてもらうような小説の書き方も同時に行う必要があります。
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