第3話 奥里の脅威3
SIGN 外伝
第3話 奥里の脅威3
「く…!」
茜は全身に走る痛みに耐えながら、構えた。
それはつまり、鬼が無事である事を意味していた。
土煙に映る、這い上がる鬼の影。
そして徐に姿を現した。
「はぁ…はぁ……素晴しい…。
流石は修羅といったところか…」
「ま、まさか…あれでも倒せんというのか…ッ!
茜ちゃんの全力だったはず…!」
「万事…休すか……!」
清四郎と明正は、跪きながら、地を叩いて嘆いた。
「…まさか……ここまでとはのう…」
「それはこちらの台詞だよ…人間。
まさかここまで渡り合えるとは思いもよらなかったわ」
「…。
(奴もかなりのダメージを受けておる…。
せめて、私に回復の時間があればのう…。
清四郎殿も明正殿もすでに疲労困憊…時間稼ぎをするには荷が重いか…。
葵殿もあの状態では戦うのは無理……参ったな…)」
「うぉおおおおおお!!」
『!』
突如叫び声を上げながら和馬が走ってきた!
皆その声に和馬に目がいった。
「…!これは……!?
ジイさん!?親父さんも…!」
「和馬…!」
倒れる二人に駆け寄る和馬。
「大丈夫かよ…!」
「ワシらはかろうじて無事じゃ!
それよりも、お前は茜ちゃんをサポートするんじゃ!」
茜の方を見る和馬。
「…わかった。二人とも…そこで待っててくれ…。
葵…。
(クソ…完全に戦意を失ってやがる…。
まぁ無理もない…あの鬼野郎の気にあてられちゃ…な。
見る限り、かなり消耗しているが…。
にも関わらず、この突き刺さるような瘴気…威圧感…。
これが妖魔……今までの怨霊レベルとは明らかに一線を引いて違うッ…)」
「くく…仲間が増えたか…。
見る限り…お前も中々いい"気"を纏っているな…小僧」
「へッ…試してみるか?
(強がってみても…体は素直だぜ…。
ビビッて足が震えてやがる…汗もじんわり滲んできやがった…)」
「和馬…一つ頼まれてくれんかの…」
茜が和馬の元に歩みよって言った。
「なんだよ…バァさん」
「いいか…奴を一人でしばらく相手して欲しいのじゃ…」
「マジかよ…とんでもねぇ要求だな…」
「無理を承知で頼む…5分……。
何が何でも稼いでくれ…」
「5分……長すぎだろ…ッ…。
まぁ…それでアイツをぶっ倒せるっつーってんなら…。
やってやれないこともないがよ…!」
「私も…覚悟を決めたさ…。
だからお前さんも男を見せる時だよ」
「……ったく…!
俺はまだ死にたくねぇんだけどな…。
ま…アイツを死なせるよりかはいいか…」
「…葵殿か?」
「な、なんでもねーよ!うっしゃ!!
任せとけ!!」
和馬は自分の顔を両手で叩いて気合を入れた。
「話し合いは済んだか?
だったらはじめようか…殺し合いを」
「く…!
(正面に立つとマジで馬鹿デケェ…!
こんなん相手に5分…かよ!)」
ドスッ!!
「!!?」
和馬は一瞬にして木々の向こうに吹き飛ばされた!
「くく…!まだだぞ…まだ始まったばかりだ!」
和馬が飛ばされた方向に凄まじい勢いで駆ける鬼。
「和馬…頼むぞ…!」
―――
――
「がは…ッ…ゲホッ……はぁ…はぁ……
(動きがまるで見えなかった……。
気がついたら吹っ飛ばされていた……アバラも何本かいったかもな…。
くそったれ…!!)」
「見つけた…。ほう…生きてるか」
「ったりめぇだ…!」
「実際誇っていいぞ?
今の一撃…腹を貫くつもりで殴ったのだ。
貫けぬにしても、立ち上がるまでには至らないと踏んでいたが…。
お前は立ち上がった…それだけじゃなく戦意も喪失していない。
殺すには惜しい男だ」
「鬼に誉められても嬉しくねぇな…チクショウ…!」
「さぁ…再開しよう…」
鬼は構えた。
和馬も構えて集中を始めた。
「…ふぅ……シッ!!」
ドガッ!!
一瞬で間合いに入り込むと、鬼の顎を蹴り上げた。
「…!
(効いちゃいねぇ…!)」
「いい蹴りだ!終わりか!?」
「うらぁッ!!」
鬼のどてっ腹に渾身の右ストレートを放った!
なんと鬼の巨漢を僅かだが、後ろに吹き飛ばした!
「なめんじゃ…ねぇえッ!!うらぁああッ!」
続いて同じ腹に前蹴りを放つ和馬!
ドスンッ!!
今度は数mに渡って鬼を吹き飛ばした。
「はぁ…はぁ…うっ!!
(腹が痛みやがる…胸も…!)」
「いいぞ…。
人間とは実に面白い生き物だな。
追い詰めれば追い詰めるほど、力を発揮する…」
「…ふぅ………」
満身創痍の和馬は深く息を吐くと、腰を落し、右の拳を突き出した。
「?…霊気が右手に集中していく…」
「お前にコレを受ける勇気はあるか?」
「くく…生意気にも挑発しておるのか?」
「…さぁな?
(破邪真拳…右手に集中した全霊気を打ち出す未完の技だ…。
溜めに時間が掛かる上に、隙もデカイ…。
今の俺の力じゃ実戦で使うには余りにリスキーな技。
だからこその駆け引き…!
乗ってこれば俺の勝ち……そうでなければ………下手すりゃ死ぬな…)」
「いいだろう…面白い!!
撃って来るがいい!貴様の全力を!」
「!(乗った!)…後悔しやがれッ!」
ゴゴゴゴ…!!
凄まじい霊力が右手に集中していく!
霊気がほとばしり、光り輝いていく!
「いいぞ…!もっとだ!
貴様の限界を…命を見せてみろッ!!」
「うわあああああッ!!!
喰らいやがれぇえええッ!!!破邪ぁああッ!!真拳ッんんん!!!!!」
突き出した右腕を一瞬後ろに引き、そして改めて勢いを増して突き出した!
右腕からは勢い良く霊気の波動が放たれる!!
そして、待ち構える鬼に目掛け一直線に向かっていく!!
ドッガーーーーーン!!!
波動は鬼に直撃した!
物凄い衝撃音と、風を巻き起こした!
「よしッ!!当った!!ざまぁみやがれ!!」
砂埃が辺りを覆う…。
「…これで終わったとは思ってない…。
だけど…少しでもダメージを与えれれば…それでいいんだ!」
「くっくっく…」
砂埃の中から鬼の笑い声が聞こえてきた。
「!…やっぱり……倒せないよな…」
ザッ!
「…いやいや…素晴しい一撃だったぞ…」
「へっ…!無傷で言われても説得力ねぇっての…
(霊撃痕がまるでない…ノーダメージとか…笑えねぇよ…くそ…)」
「殺せよ…俺にはもうどうにも出来ないからな」
「潔いな……だがつまらんよ。
貴様の底はまだこんなものじゃない…我の目に狂いはない」
対峙する二人を見つめる者がいた。
白い狐の霊…銀だった。
先ほど由良葉を襲っていた怨霊を助けたこの男…和馬を追ってきたのだ。
それには理由があった。
由良葉を救ってくれた事に対する礼を恩を持って返そうと。
そう考えてのことだった。
実は、由良葉が襲われていたとき、銀は木の実を取りに行っていたのだ。
そして、その間の襲撃をこの和馬が救ったというわけだ。
『…鬼か…。
このままではあの人間は殺される…。
だが、奴は友人の恩人……やはり放ってはおけぬな…』
その時だった。
「兄ちゃん…和馬にぃちゃーーん!」
「!!…あの馬鹿!!」
なんと鬼の背後に由良葉が姿を現したのだ。
「!…これは奇遇!」
ダッ!!
鬼は由良葉に目掛けて駆け出した!
「よせえええええッ!!」
「!」
和馬の声に気づく由良葉。
しかし、すでに鬼の爪はすぐそこまで迫っていた。
「うあああああああああああああああ!!」
「…なに!?」
なんと、先を走っていた鬼を追い抜き、
和馬は由良葉に覆いかぶさるように飛び掛った。
「に、兄ちゃん!?」
ズブッ!!
「…ば…馬鹿野郎……待ってろって……言ったじゃねえか…」
「和馬…兄ちゃん…?」
和馬の口から一筋の血が流れ落ちる。
鬼の爪は和馬の背から胸へと突き刺さっていた。
なんとかギリギリのところで貫通までは至っていない。
「由良葉……逃げ…ろ……」
そういうと、和馬は気を失った。
「兄ちゃん…?どうしたの…?」
「つまらん……勢い余って殺してしまったか…。
餓鬼を目の前で殺せば、何か力に目覚めるかと踏んだのだがな…」
「!!…あわわわ……」
「?…お前…我が見えているのか?
これは面白い……」
鬼の姿に怯える由良葉…。
その由良葉に迫る鬼…。
その瞬間!
ドガッ!!
物凄い衝撃音と共に鬼の体が吹き飛んだ。
木々をなぎ倒しながら、かなり遠くまで飛んでいった。
「ぎ、銀!」
白狐の銀の一撃だった。
「…酷い傷じゃな…。
このまま放っておけば確実に死に至る」
「ねぇ銀…どうにもならないの…?
オイラを…オイラをかばって兄ちゃんは…兄ちゃんは…」
泣き出す由良葉。
「…わかった…。
この者には恩もある…救おう」
銀は前足を和馬の傷口にあてた。
すると暖かい光が和馬の傷口を包み込んだ。
そして見る見るうちに傷口が塞がっていく。
「これでいいじゃろう…。
暫くは動けないじゃろうがな」
「すごい…」
ザッ…
「問題はこれからじゃな…」
「狐か…。我を吹き飛ばしたのは…」
鬼が怒りの形相をして現れた。
「由良葉…お主に頼みがあるんじゃ」
「頼み…?」
「何をゴチャゴチャ言っている?
その小僧はともかく…狐よ……貴様は殺すぞ」
物凄い威圧感で二人を睨んだ。
「ひぃ…ッ!」
「やむをえんか…しばし体を借りるぞ!」
その瞬間辺りが光に包まれた。
「…く…!下らぬ真似を…!」
「…」
由良葉の雰囲気が変わった。
そして銀の姿が跡形もなく消えた。
「…貴様…」
「さぁ…蹴散らすぞ…」
第3話 完 NEXT SIGN…