第2話 奥里の脅威2
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第2話 奥里の脅威2
「準備は整ったな…奴はこの先の山に向かっていった。
あの瘴気だからな…すぐに場所はわかる!
急ぐぞ!」
九鬼明正の気合で、皆引き締まる想いだ。
逃げた鬼を討伐するため、白凪茜、九鬼清四郎、明正、葵…そして従者の石動和馬の5人は、
十分に準備を整えた上で出発した。
山を翔ること十数分…。
「!…何か強い霊気を感じるのう…」
「鬼ではないな…む!?」
前方で怨霊に襲われている少年の姿があった。
「和馬!」
「ええ!?俺!?」
明正の命で和馬は目前の怨霊退治をすることに。
他の4人は和馬を残し、先を急いだ。
「ったく…なんで俺が…。
瞬殺で行くぞコラッ!!」
―――
――
「瘴気が濃くなってきたな…奴め…何故遠くに逃げようとせんのだ?」
確かに逃げようと思えば余裕で振り切れるはずである。
それをしないのは何故なのか…。
故意なのか…だとすれば罠か。
はたまた出来ない理由があるのか…?
「皆!気を引き締めるのじゃぞ…!
僅かな隙が命取りじゃ!」
「ええ!おじい様」
ザッ…
『いた…!』
4人は木陰に身を忍ばせ、前方で立ち止まっている鬼を監視した。
「…人間との先の戦いのせいか…。
上手く力が使えぬ…。
力を得ようとしても上手く吸収できぬな…」
ザッ…
「先ほどの人間共か…」
鬼は振り返りもせず、言い当てた。
「主はこの一月…多くの命を奪った…。
故に我等も黙ってはおれんのじゃ……許せよ」
「ふむ…奪われれば、当然に生まれる憎しみよ。
お前たちは正しい。
だが、戦えばどうなるかはお主はわかっているだろう?
先の戦いで力の差は見せたつもりだったが…」
清四郎と明正を見て鬼は言った。
「確かにな…じゃが、今は状況が違うぞ?
こちらは負傷してはいても4人…お主も以前よりは力を落しておるじゃろ」
「…まぁいい…。
せっかく生かしてやったものを…後悔するのだな」
ざわ…!
明らかに空気が変わった。
妖魔クラスの圧倒的な威圧感。
木々がざわめき、鳥や獣は逃げていく。
「はぁぁぁッ!!清四郎殿!明正殿!!行くぞ!!」
3人同時に霊気を高めだした。
葵はすでに動けなくなっていた…。
茜はそれを確認し、戦力として外したようだ。
「かまいたち…烈風刃!!」
「緑珂…命吸鞭!!」
「破迅…壊光弾!!」
三方向からの同時攻撃!
茜の無数の風の刃…、清四郎の霊気の鞭による鞭打!
さらに明正の放った光の弾は全て鬼を直撃した。
ドッガーーーン!!
物凄い地響きと共に衝撃風が生まれる。
「…はぁぁああああ!!」
茜はさらに霊気を高めつつ、後ろに飛んだ。
「皆!下がられよ!!」
茜の一声に皆は茜の攻撃範囲から消えた。
「砕竜の咆哮ッ!!」
バシュッ!!!
突き出した両手から波動砲のような巨大な霊気砲が放たれた。
一瞬にして木々を飲み込み、なぎ倒し、鬼を彼方まで弾き飛ばした。
「はぁ…はぁ…!」
「全て直撃…か。
それにしても"竜気"…とてつもない威力よ。
敵に回すと厄介極まりないが、味方につけるとなんとも頼もしい力じゃな」
「ですな。我々もそれなりの妖魔から能力を得たとはいえ…竜の妖魔には滅多にお目にかかれませんからな。
それ自体かなりのレアだと言えますわ」
「二人とも…終わってはおらぬぞ…気を引き締めい!!」
『!』
茜の声に二人に再び緊張が走った。
「あれで…まだ無事だというのか?」
「まともに食らっておれば、それなりにダメージはあるじゃろうが…。
ありゃまともに食らってなかったかもしれないな」
ザッ…ザッ……
砂煙の中に奴の影が映った。
「やはりか…!」
「…なかなかの攻撃だった…。
お前もその二人同様強いな…」
ほぼダメージがない…。
見た感じからそのような印象を受けた。
―――
――
「おらぁあッ!!」
茜たちが死等を繰り広げている頃…
和馬も必死に戦っていた。
「ウォオオオ…」
実体を持たない浮遊する怨霊に手を焼いていたのだ。
「んの…フワフワとうぜぇ!!
(さっきの地鳴りといい…衝撃音といい…。
向こうはもう戦闘に入ってやがるな…!ここでもたついてる場合じゃねぇってのに…!!)」
「ウォアオオオオ…」
「はぁ…時間がもったいねぇわ……本来こんな雑魚に使う技じゃねぇが…。
四の五の言ってられんからな!」
和馬は霊気を全開にした。
凄まじい霊気が和馬を包み込む!
「っくぜぇぇッ!!…破邪!烈波ァァッ!!(はじゃれっぱ)」
和馬を中心に霊撃の波動が辺り一面に広がっていった。
「う…ウオオオオオ……」
光を浴び、浮遊していた怨霊は全て掻き消えた。
「はぁ…はぁ……手間取っちまったな…ん?」
和馬が目をやると、由良葉が足を抱えガタガタと震えている。
「…ち!」
和馬は由良葉に近づくと、目線を同じにするように不良座りをした。
「おい小僧…泣いてんじゃねぇよ…ツラ上げろよ」
「うう…」
「はぁ〜…俺ぁ今急いでるんだよ…男だろ?」
「…ぐすん…」
由良葉はようやく顔を上げた。
涙に鼻水に…顔面はぐちゃぐちゃになってる。
「あぁ…これだからはガキはめんどくせぇぜ…。
ほら、コイツで鼻水と涙を拭けよ」
和馬はハンカチを渡した。
どう見ても女物だ。
「葵に借りたハンカチだ…あとで返すんだからしっかり持ってろよ。
じゃあ俺はもう行くからな」
「え!?行っちゃうの?」
「お前も男だったら、一人で帰れるよな?」
「でも…」
「でもじゃない!…はぁ…んじゃここで待ってろ…。
すぐにとは行かないかもしれんが、戻ってくるからよ!
まぁ帰りたくなったら帰ってもいいけどな」
「いやだ!おいていかないでよ!」
由良葉はギュッと和馬の服を掴んだ。
「…悪いな坊主…お前を連れてくわけにはいかねぇんだよ。
これから今よりずっと怖い奴と喧嘩しにいくんだからな」
ポンッと由良葉の頭に手をあて、ぐしゃぐしゃっとかき混ぜた。
「わかったよ…」
「いい子だ。…あ、そうだ…俺は和馬だ。
石動和馬。お前は?」
「オイラは神楽由良葉…」
「由良葉か。変わった名前だな。まぁ、戻ってきたら一緒に帰ってやるからよ!
んじゃあな!」
和馬はニコっと笑って、そのまま走っていってしまった。
―――
――
「はぁ…はぁ……」
3人は鬼相手に苦戦を強いられていた。
すでに疲弊も限界に近くなっていた。
三人は連携をこなし、最大限の攻撃をしていた。
攻撃は通っている。
が、それ以上の力と耐久力の前に、3人の方が先に限界に達してしまったのだ。
「もうこれ以上の攻撃は望めまい…諦めろ…強き人間共よ」
「くく…それが出来ればとっくにしとるさ…。
お主が危険な存在である限り、放置は出来んて」
とは言っても清四郎はすでに霊気も上手く錬れないまでに消耗していた。
それは明正も同じく…。
元々負傷した身での参戦は無茶だったのだ。
「…致し方ないの…」
茜は何かを覚悟した。
「茜ちゃん…何を…何を考えておるのじゃ!?」
「"修羅"を使う」
『!』
その一言に清四郎、明正はもちろん、鬼までもが驚きの表情を見せた。
「修羅…我等の一族でも名を馳せた鬼…お前がその力を持つ人間なのか?
噂では聞いていたが…よもや真実だというのか…?」
「いかん!修羅を使えば力の大半を奪われるのはもちろん!
人格、肉体、魂に至るまで奪われかねんぞ!!」
「茜様!」
二人は必死にやめるように説得する。
「このままではどちらにしても死は免れんさ。
ならば1%でも勝てる見込みのある手段を選ぶのは当然じゃろ…。
お主が同じ立場でも私と同じ選択をするのではないかね?…清四郎殿」
「…う…ぐう…!」
清四郎は黙ってしまった。
「おもしろい…もし本当にあの修羅の力を出せるというなら見せて見るがいい…。
我の力がどれほどかを確認する上でも丁度いい」
「後悔をしても遅いぞ……はぁぁぁ…」
茜は気合を入れ始めた。
「修羅の扉を開く……死ぬなよ…私」
ドンッ!!
一瞬にして巨大な気が出現する!
茜を包む霊気が徐々にどす黒く変わっていく。
その禍々しさ、邪悪さは目の前の鬼と然程変わりはない。
「なるほど…邪悪なる鬼気…戯言ではないようだな…。
はぁぁあああッ!!」
鬼も気合を入れる。
凄まじい霊気のぶつかり合いだ。
「くぅ…!!
(なんという邪気じゃ…!修羅を使って自我を保とうとすると…、
これくらいの力加減が限界か…!しかし…これで奴に勝てるのか…?
奴の全力も侮りがたしものよ…!)」
「さぁ…はじめよう…修羅よ!」
ドッガーーン!!
一瞬にして、地面が破裂した。
地上の清四郎、明正は何が起こったのかもわからなかった。
辺りを土煙が包み込む。
「一体なにが…二人は何処じゃ…?」
「!…親父!上だッ!!」
二人はすぐに上を見上げると、なんと二人は上空にて格闘戦を展開していた。
ぶつかり合うたびに大気を揺るがす轟音が鳴り響く。
「く…!なんという戦いじゃ…!
わしらが入り込む余地などありゃせんわ!」
「しかし、素晴しいな…あの鬼に一歩も引けをとっておらん!
むしろ上を行っている!」
確かに現在、全てにおいて修羅化した茜は鬼を上回っている。
スピード、攻撃力、霊撃力…全てにおいて。
しかし、この力には限界時間が存在する。
いつまでも今の力を持続するのは不可能。
それをすれば、全てを修羅に乗っ取られてしまうのだ。
今茜は自我を保てる限界のところで打ち合っているのだ。
「はぁあああッ!!」
茜の一撃で鬼が勢いよく落下してきた。
ドッガーーン!!
そのまま地面に激突した。
茜もゆっくりと地面に着地した。
「はぁ…はぁ……」
茜は修羅を解いた。
全身に激しい痛みを感じている。
強力な力を使った反動…。
果たして鬼は今の一撃で倒せたのか…。
第2話 完 NEXT SIGN…