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8.時計だらけの部屋


 タイムはあっという間に鉄橋を渡り、階段を途中まで降り、階段を上るとときに見えた廊下の方へと向かう。タイムが歩くと自然に廊下のランプに灯りがともり、暗かった辺りが明るくなる。


「凄い…」


 ソフィアはその光景を見て、思わず声を漏らす。先ほどまでのいかにも時計塔といった空間とはまるで違う空間がそこには広がっていた。

 まるでお城の中にでもいるようだった。

 目の前には長い廊下が広がり、壁には凝った装飾や絵画が並び、床にはふかふかの赤い絨毯がひかれ、とても時計塔の中とは思えない豪勢な造りになっていた。

 部屋数も多い。長い廊下にはまるでホテルのように部屋がたくさん並んでいた。

 タイムはたくさんある扉の前の1つで止まると、中に入る。


「うわあ……」


 ソフィアは、今度は先ほどとは別の意味で声を漏らした。たしかにその部屋は廊下と同じ豪勢な造りの部屋である。しかしそれ以上に驚くべき事があった。


「時計だらけだ……」


 壁という壁に時計が飾られていた。種類はまちまちだ。壁かけ時計もあれば、懐中時計もある。中にはソフィアが見た事もないような奇妙なものもある。ありとあらゆる時計がその部屋の壁を覆っていた。

 時計の他には執務室に置かれているような立派な机が部屋の中央に置かれていて、その後ろには大きな箪笥とベッドが一つずつあった。それだけだ。他に家具らしい家具は一切ない。

 この部屋の大部分は時計によってできているといっても過言でなかった。

 時計ばっか。まるで時計屋さんみたい。

 ソフィアは部屋の中を見渡しながらそんな事を思った。

 部屋に入ると当然ながら時計の音がます。ただでさえ、タイムからは腰に下げた時計から時を刻む音が聞こえていたのだが、部屋の音はその比ではない。

 更に多くの時計があり、音が大きくなるのは当然だ。本来なら耳をふさぎたくなるであろうそれが、何故か不思議とうるさくは感じない。普通ならば、うるさく感じてもいいくらいなのに、その音はうるさいどころか酷く心地良く感じられた。

 ソフィアは不思議に思い、部屋の時計を見る。どの時計も同じ時間を指し、ちくたくと時を刻んでいる。

 動いている。音もしている。それなのに、なんで。


「おい、どうした?」

「時計の音がうるさくないなって」

「時計の音がうるさい訳ないだろう!」

「でもこんなにあったら普通は」


 うるさいと思う。

 ソフィアがそう言う前に何が言いたいのかタイムはわかったのか、ああと声を出す。


「ここは時の領域だからな。お前達の世界で聞く時計の音よりもいい音がする」

「いい音?」

「本来はこちらの音が本物の音だ。普段聞いている時計の音よりも音が優しく聞こえる」

「そうなんだ」


 だからうるさくないのか。

 ソフィアは周りの時計をゆっくりと見ていく。それにしても本当にこの部屋には時計が多い。


「この部屋の持ち主はきっと時計が好きなんだね」

「好きで悪かったな」


 ソフィアのその一言にタイム僅かに眉間に皺よせ、ソフィアをにらむ。それにソフィアは驚いてえっと声を出す。


「ここ、貴方の部屋なの?」

「そうだが、何か不満か?」


 不満なんかない。ただソフィアは珍しく思っただけだ。時計がこんなにある部屋を今まで見た事がなかったから。


「時計ばっかだね」

「悪いか?」


 そう言って、タイムはベッドにソフィアを降ろし、座らせる。


「タイムは時計が好きなの?」

「おい」

「うん?」


 タイムが不機嫌そうにソフィアを見る。

 どうしたのだろうか。また何かしてしまったのだろうか。

 ソフィアは一生懸命考えたがやっぱり自分ではわからなかった。


「貴様、何故勝手に私の名を」

「あれ? タイムじゃなかったけ?」


 タイムと。確かそう言っていたはずだ。時の番人だとかも言っていた気がする。

 どういう意味かはもちろんソフィアにはわからなかったが。


「そういう意味じゃなく……ああ、もういい。好きにしろ」


 そうタイムは煩わしげに言う。ソフィアには何だかわからなかったが、また相手を怒らせてしまった事はわかった。

 どこが駄目だったんだろう。

 こういう事がソフィアにはよくあった。普通に話しているだけなのに相手を知らない間に怒らせてしまう。

 どうしてうまくいかないのかな。

 ソフィアにはさっぱりわからなかった。


「えっと、ごめんなさい」

「何故、謝るんだ?」

「だって……」


 怒っているように見えるから。

 ソフィアがそう言うとタイムは眉を寄せる。しばらくソフィアを見た後小さくため息をついた。


「別に怒っている訳じゃない。そう見えるだけだ」

「そうなの?」

「もとからそういう顔だ」

「それは何だか」


 大変そうだね。

 ソフィアはそう言って、タイムの顔をまじまじと見る。やはりソフィアには彼が怒っているように見えた。


「お前……」

「何?」


 タイムは何か言いかけ、しかし言わずに口を閉じた。そのまま何も言わずに立ち上がると部屋に唯一ある机に向かう。そこの引き出しから箱を取り出すとそのままソフィアの前に置いた。


「足を出せ」


 タイムにそう言われ、ソフィアは素直に足を出した。タイムは出された足をつかみながら、消毒液を木箱から取り出すと、そのまま容赦なく消毒液を足にかけた。


「っ!?」


 突然走った痛みにソフィアは思わず足をひっこめようとする。しかし、強い力で捕まれ、逃げられない。


「動くな」

「だって……」


 痛いんだもん。

 そう言って顔をしかめるソフィアを見て、タイムは笑う。


「笑わなくてもいいのに」


 痛がっている人を見て、笑うなんて酷い。

 ソフィアはむっと頬を膨らませる。タイムはそんなソフィアの態度を気にもせず、手当てを続ける。



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