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6.時計塔の住人


 タイムと名乗った男はそう言い、ソフィアに詰め寄る。

 どうしてここにいるのか?

 タイムの問いかけにソフィアは答える事が出来ない。何故なら、彼女自身どうしてここにいるのかよくわかっていないのだ。


「気づいたらここにいたの」

「気づいたらここにいただと? バカを言うな。この塔は世界とは切り離された特殊な空間にある。普通の人間がそう簡単に入れる場所じゃない」


 そんな事を言われても……

 ソフィアがどんなに考えてもそれ以上の答えは出てこない。困ったような顔をするソフィアを見て、タイムは苛々と舌打ちをうつ。


「質問にはさっさと答えろ。時間を無駄にするな。特に私はお前と違って無駄に過ごせる時間が皆無なんだ」


 そう言って、タイムは腰に下げているたくさんの時計の中から一つを手にとり、時間を見る。予想外に過ぎていたのだろう。時間を見て、タイムはまた舌打ちをする。


「見ろ。お前のせいでもう10分も時間を無駄にした。私はさっさと仕事に戻りたい。さっきから何を悩んでいるか知らんが、悩む必要なんかないだろう? 来た様子をそのまま言えばいい。それともお前は鳥か? ついさっきの事も覚えてないのか?」

「鳥じゃないもん」


 ついさっき何があったか。それぐらいだったらソフィアにも言えた。


「光を追いかけて……」

「光?」

「あの子達に似た感じの」


 ソフィアは時計の周りをぐるぐるせわしなく回る、精霊達を指差す。タイムはそれを訝しそうに見る。


「お前達が連れてきたのか?」


 その一言に精霊達が抗議するように激しく飛び回る。よくよく耳をすますとささやき声のような音が聞こえた。

 何か言っているのだろうか?

 ソフィアがどんなに耳をすませてもその声を聞き取ることはできない。しかしタイムにはわかったようだ。顔をますますしかめる。


「うるさい! 全員一緒に喋るな!」


 ソフィアにはただの音にしか聞こえないが、どうやらタイムには精霊達の言っている事が全てわかるらしい。タイムの怒鳴り声に精霊達は負けじと音を立てて飛び回る。


「だから全員で喋るな! そんなこともわからないのか! 何!? そんな事は聞いてないだろう! 聞かれた事に答えろ!」


 何を言い合っているかわからないがどうやらもめているらしい。精霊達は激しく飛び回り、それに対し、タイムは激しく怒鳴りつけている。

 自分の言ったことが原因でもめていると思うと何だか申し訳ない気分にソフィアはなった。


「もういい! お前たちに聞いた私がバカだった!」


 そう怒鳴るとタイムは精霊達を追い払うように手を振り、ソフィアの方へ向き直る。


「あいつらがお前を連れてきたのか!?」

「えっと……」


 ソフィアは精霊達を見る。全員が淡い緑色の光。最初にソフィアを導いたあの光はやはりそこにはいなかった。


「色が違うの。あの子は緑色じゃなかった」

「色が違うだと?」


 ソフィアは思った事を口にしただけだったが、それは予想外に重要な事だったらしい。タイムは口髭を指で撫でながら、真剣な表情でなにやら考え込む。


「ばかな。他の精霊がこの塔に? いったいなんの為に?」


 タイムはぶつぶつと一人でなにか呟く。どうやら彼は考える際に独り言を言うのが癖らしい。ソフィアはすることもなく、そんなタイムの様子をただただ眺めた。しばらくしてようやく結論に至ったらしい。タイムは手を下ろすと今度は突然大きな声を上げた。


「ツヴェルフ!」

「へ?」


 突然の事に驚き、ソフィアはぽかんとタイムを見る。しかしタイムは一切気にした様子はなく再び同じ言葉を大きな声で繰り返す。


「ツヴェルフ! どこにいる! さっさと来い!」


 どうやら、誰かを呼んでいるらしい。タイムが何度かそうして叫んでいると呼ばれていた相手が走って現れた。


「はい、ご主人様。こちらに。何でしょうか?」


 そう言って、執事服を着た優しげな老人がタイムに笑いかける。どうやらツヴェルフとは彼の事らしい。タイムはその笑顔に答えることなく、むしろ苛々したようにツヴェルフを睨む。


「遅い! いったいどこをほっつき歩いていたんだ!」

「これでもすぐに駆けつけたんですが」

「うるさい! 私に口答えするな!」

「それは……いえ、わかりました」


 ツヴェルフは反論を言いかけたがすぐに無意味だと悟り、口を閉じた。その様子からどうやら、こういう彼の無茶ぶりには慣れているらしい。


「それでご用はなんでしょうか?」

「何かじゃない。これは何だ?」


 そう言って、タイムはソフィアを指差す。そこにきてソフィアの存在に気付いたのだろう。ツヴェルフは驚いたように目を丸くする。


「あの、ご主人様。その子はいったい?」

「私が聞きたい! 何故、侵入者がいる!? お前の結界はどうなっているんだ!?」

「侵入者ですか? しかし結界に異常はなく、誰かが入り込むはずが……」

「じゃあ、何故ここにその子がいるんだ!?」

「えっと……」


 ツヴェルフは考え込む。ソフィアとタイムを交互に見て、それからうーんと首をひねる。そして……


「何故でしょうか?」


 ツヴェルフがそう言った瞬間、タイムは額に手をやり、今まで以上に大きな声でふざけるなと怒鳴った。


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