3.辿り着いた先には
進めば進むほど霧が濃くなっていく。もう、どちらの方向から歩いてきたのかもわからない。もう戻ることはできない。それでもソフィアは別に平気だった。
ソフィアは光を見失わないように目を凝らす。光はソフィアを気遣ってか、ゆっくりとゆっくりと進んで行く。
待っていてくれる。そんな気がしてソフィアは嬉しかった。
どれぐらいそうして歩いただろうか。硬い地面や小さな石を踏み、ソフィアの足の裏が痛み始めた頃、ようやく辺りの霧が晴れた。
「……え?」
霧の晴れた先。そこには高い塔が一つ立っていた。ソフィアはゆっくりと見上げる。天に向かって伸びる高い、高い塔。そんなに高い塔をソフィアは今まで見た事がなかった。
どれぐらい高いのだろうか。そう思って目をこらすと塔の上の部分がうっすらと輝いていた。更にソフィアは目をこらす。
「あっ」
ソフィアはそこにあるものが見え、思わず声をあげた。
「時計だ」
そう時計がある。高い塔の上の方に時計の文字盤が光って見えた。どうやらこの塔は時計塔のようだ。
「扉の先が時計塔だなんて、おかしいよね」
私がおかしくなったら、周りもおかしくなったみたい。
ソフィアは、ゆっくりと視線を前に戻した。
「あれ?」
あの光がいない。
慌てて、ソフィアは辺りを見渡したが、追ってきたはずの桃色に輝く光の姿はどこにも見えなかった。
「この中に行っちゃったのかな?」
目の前には塔の中に入る扉が見える。
「どうしようかな?」
そう言いながら、ソフィアは扉の前に行くと、扉を押した。
「うーん」
大きくて立派な扉は、ソフィアがその細腕でいくら押しても、なかなか開かなかった。それでもしばらく、押し続けていると、扉が重い音を立てて、僅かに開いた。ソフィアはその僅かな隙間に身体を滑り込ませる。すぐに扉が音を立てて閉まった。
ソフィアは息を切らしながら、辺りを見渡す。
「何か、すごい」
塔の中の明かりは一切ついていなかった。塔の上の方にある窓から、外の光りが入り、辺りを薄暗く照らす。
ソフィアは目を凝らす。しばらく薄暗い辺りを見ていると、ぼんやりとだが、周りが見えるようになってきた。
無機質な素材でできた床。固く、冷たかった。壁も同じ素材でできているのだろう。触れるとやっぱり、固くて冷たかった。さらに壁には無数の歯車がついていて、その歯車が音を立てて動いていた。辺りに他に音はなく、歯車の動く音だけが静かに響く。
「何だかイメージと違う」
時計塔というには何だか酷く寂しい雰囲気がした。まるで人を拒むようなその雰囲気にソフィアは迷う。
勝手に中に入ったら怒られるかな?
ソフィアが迷っていると不意に視界の隅に光が見えた。
「あっ! 光!」
ソフィアをここまで導いたあの光と同じものだ。同じ大きさ。キラキラ光り輝くのも同じ。
でも、あれ?
「色が違う?」
先ほどまでソフィアの前を飛んでいた光は淡い桃色をしていた。ところが今、目の前に浮かぶ、その光は淡い緑色をしていた。
「何でだろう?」
ソフィアが首を傾げていると、光もソフィアの存在に気づいたようだ。慌ただしく、宙を舞う。そして、そのまま急ぐように上へ登って行く。
「待って!」
光はソフィアに構わず、上へ上へと登って行く。ソフィアは登っていく光を見上げる。
「あの光。前のと違うのかな」
前の光はもっとソフィアに対して優しい感じがした。ソフィアが見失わないように、進み過ぎると、止まり、ソフィアが来るまで待っていた。しかしさっきの光はソフィアに構わず、上へと勝手に上がっていってしまった。
「どうしよう?」
追いかけるべきか。追いかけないべきか。追いかけるにしても、上に行くには登るしかない。ソフィアはもう少し中に入り、周りを見渡す。目を凝らして、注意深く見ると、壁際に階段があるのを見つけた。
「階段?」
登れるのかな?
ソフィアは階段の元へ行く。階段ははるか上へと繋がっていた。
「これを登るのか」
足の裏は既にヒリヒリと痛む。見てないがおそらく今頃傷だらけだろう。階段を登れば余計に痛くなるのはソフィアにもわかった。階段の上を見るとぼんやりと光っていた。先ほどの光だろうか。
「見に行ってみようかな」
大変そうだけど。
ソフィアは上を見ながら階段の1段目に足をかけた。