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1.とある少女の独白
チクタクチクタク。
時計の音が聞こえる。
聞こえるはずのない、あの時計の音が聞こえた気がした。
首の辺りをかきむしる。当然、そこにあったはずのあの時計はない。
チクタクチクタク。
時計の音がまだ聞こえる。
もう存在していないはずの時計の音がずっと聞こえる。
チクタクチクタク。
時計の音が聞こえる。
その時計は私がお父さんから貰ったものだった。お父さんから私だけの時計、私に残してくれた最後のもの。
チクタクチクタク。
時計の音が聞こえる。
でも、聞こえるはずがなかった。お父さんから貰った大切な時計は随分前に壊れてしまったから。
チクタクチクタク。
時計の音は止まない。
私を責めるようにずっと鳴り続けている。
チクタクチクタク。
時計の音が日に日に大きくなってくる。もう、私には時計の音しか聞こえない。
誰が何を言っても私の耳には届かない。
チクタクチクタク。
チクタクチクタク。
時計の音はずっと鳴り続けている。
でもあの時計はもう私の手元にはない。
私にはもう何もかもなくなってしまった。