1品目~白ごはん~
―シャカシャカシャカシャカ。
わたしは今洗われている。少しひんやりとした水が心地よい。ここでずっと一緒だったヌカさんとはお別れ。わたしはこのあと「米」から「ごはん」へと変身する。
炊飯器のふたが閉まる。中はまっくら。ドキドキするけれど、この先のことを思えばなんてことはない。きっときれいな自分が待っている。
じいっと待っていると、だんだんあったかくなってくる。くるぞくるぞ、と浮き立ちながら水の流れに乗っていく。途中、さすがに熱いなとは思いつつも、わたし自身の中で起こっている変化に心を躍らせている。ついさっきまではカチカチだったけれど、今はふっくらもちもち。あなたも、こんなわたしを気に入ってくれる。
蒸気につつまれながらまたしてもじいっと待っていると、炊飯器のふたが開いてぱっと明るくなる。わたしこんなにつやつやになりましたよ、と自慢げにあなたを見上げる。あ、ちょっとほほ笑みかけてくれた気がする。
おわんに盛られていつもの場所、お味噌汁さんのとなりに座る。こんにちは。調子はどうですか?今日のお味噌汁さんはなんだか上機嫌に見える。作ってもらっているときに何かいいことがあったのだろうか。さっきまでずっと炊飯器の中にいたわたしにはわからない。
テーブル上の空白を見ながら今日は誰がパートナーなのかなと考える。秋刀魚さんかな、はたまた生姜焼きさんかな。ほどなくしてあなたがわたしのパートナーを乗せたお皿を持ってくる。お、今日は唐揚げさんだ。これは盛り上がるに違いない。よろしくお願いしますね、一緒に楽しみましょう、とご挨拶。
あなたのご家族が集まってくる。みんなテンションが上がっているみたい。さすが、唐揚げさん。食卓の雰囲気をこんなにも明るくするなんて。その不思議な力に驚かされるばかりだ。
そしてみんなが定位置につき、いつもの言葉が居間に響く。
「いただきます」