転
なんとか存続を許された我らが文芸部ではあるが、本当に活動内容がない。
高校生が三人集まって本を読むだけだ。
先生が来ることもままあるが、来ても来なくてもやってることはほとんど変わらない。
「ということで、何かやりましょうよ。イベントとか」
「企画立案はお前がやれよ」
「いいでしょう」
「あ、私も手伝うよ」
「お、今日もやってるな」
「あ、先生♡ 実は~、何か文芸部主催でイベントやろうと思ってまして~♡」
「イベント?」
「そうですね。学内で何か……。小説大賞でもやります? ノーコストで大量の読み物が手に入る」
「それはちょっと無理じゃないかな……? そんなに書いてくれる人いないでしょ」
「いや、何事も挑戦だ。やりたければ、やってみればいい。大丈夫。失敗しても、攻める人なんていない。ノーコストでできるっていうのは、迷惑もかかりにくいってことだ」
「なるほど」
「じゃあ、それでいきましょう♡」
「どういう感じでやるんだ?」
「そうですね……。メールで送ってもらう感じでいいんじゃないですか?」
「そうだね。あ、手書きの人もいるかもだし、ここに持ってきてもらうっていうのもいいかも」
「じゃあ、その二通りの提出方法で、褒賞とかは?」
「それを出すとなると、ノーコストでは……、いや、部費は減りに減ったとはいっても、あるにはあるんですよね?」
「ああ、前期と後期で五千円ずつしかないが」
「じゃあ、賞状くらいは作れますかね?」
「うん、できると思う」
「なら、金賞銀賞銅賞くらい……?」
「それと、部誌に載せよう」
「それ、めちゃくちゃ分厚くなるんじゃないか?」
「そんなに多い文量で応募してくるかはわからないですよ。まあ、載せるかどうかは、後からでもいいんで、とりあえずは募集のポスターを作る感じですかね」
「私、ポスター作るよ」
「よし、じゃあ、来週の職員会議にかけられるように準備しておこう」
「ありがとうございます♡」
「では、先輩と僕で案を詰めましょう」
「よし、じゃあ各々作業に取り掛かろう」
こうして、一つの企画が進行しだした。
そして翌週の月曜日。
その日、職員会議後に部室へやってきた先生は、とてもうれしそうな顔をしていた。
「ニュースが二つ。いいの二つだ。どっちから聞きたい?」
「それどっちもくそもないやつじゃないですか」
「そうだね……」
「でも、いいニュースってことは、企画は通ったんですね♡」
「ああ、無事にな。どの先生も悪い顔はしていなかったよ。成功しようと失敗しようと、どの先生も特に問題ないし、当然かもしれんが」
「で、もう一つのいいニュースっていうのはなんですか~♡」
「実は……」
溜めに入った。
どんな報告なんだろう。
「この度、結婚が決まりました!」
「お~、おめでとうございます」
別に先生が結婚しようが、あまり興味はない。
だが、おめでたいことではある。
「来たければ呼ぶけれど、どうする?」
「ん~、私はいいです」
「僕も遠慮しときます」
と、僕と春山はすぐに遠慮した。
先輩はどうするだろう。
あれ?
そういえば、僕の記憶が正しければ、先輩はこの先生に特別な感情を持っていた気がする……。
気のせいだよな……?
今、なんだか、口をポカーンと開けて硬直してるように見えるけれど、気のせいだよな……?
「あの~、先輩? 真白先輩……?」
そう言いながら、春山が先輩の前で手をひらひらしている。
「驚いてるみたいですね。しばらくしたら回復すると思うんで、大丈夫です。おめでとうございました。じゃあ、僕らは企画のほうを進めます」
「あ、ああ。じゃあ、またな。明日は補習やるから来れないかもしれないが……」
「大丈夫です。困ったことあったら聞きに行くんで」
「よし、わかった。じゃあな」
そんな会話をして、先生は退出していった。
「さて、先輩は大丈夫そう?」
「わかんない。反応ないけど……」
と言葉を交わしていると、がしっと春山の手がつかまれた。
「いや、大丈夫だ。うん。なんにもなかった。おめでたかったな。私たちは企画の方をつめるぞ」
「大丈夫なんですね……?」
「ってか、何の問題があるっていうんだよ。普通におめでたいだけの話だろ?」
ということで作業を開始した僕たちだったが、どうにも進まない。
というのも、先輩の挙動が気になってしまうのだ。
どうにも落ち着きがない。
いやにそわそわしていて、こっちの気が散る。
「どうしたんです? いつもより落ち着きがないですけれど。いつも、もっと集中してますよね?」
「そ、そういう日があってもいいだろ」
「こっちの気も散るんですよ。なんだったら休んでても何も言いませんから、少し静かにしててください。規約とかはもうつめ終わりそうなんですから」
いつも、一時間ほどは本を読んでから始めるため、どうにも進みが遅いのだが、ようやく規約が決め終わりそうなのだ。今日中に終えてしまいたい。
「じゃあ、悪い。ちょっと休むわ」
そう言って先輩は机を少し離すと、そこへ突っ伏して寝てしまった。
同シリーズの別作品も、よろしければお読みくださいませ。