承
さて、二週目になっても、活動内容はほぼ変わらない。
相も変わらず、持ってきた本を読んでいるだけだ。
「にしても、この部活、これでいいんですか? ずっと本読んでるだけですけれど」
「ん? 別に書いてもいいんだぜ?」
「書く、ですか……?」
「ああ、内で読む用にでもいいし、ネットにあげる用とかでもいいし、なんだったら、今年から部誌作ってもいいし」
「ああ、そういう感じですか。でも、書く物もないですよね……?」
「ああ、そうだな。部費で仕入れるか?」
「そんなに部費あるんですか?」
「ああ。学校から支給されてるのがいくらかあったはず。ついでに言うと、ここ数年使ってないからたまってるんじゃないか?」
「部費ってたまるものなんですか?」
「知らん。聞いてくるか?」
「今補習中じゃないんですか?」
「いや、今日は職員会議だ」
「猶更突入しちゃいけないやつでは?」
「ああ、そうだな。まあ、会議だから、そのうち終わるだろ」
「じゃあ、待ちますか」
「うん」
その後、しばらく読書にいそしんだ。
ニ冊読み終わったころだった。
「うっす。今日もやってるな」
「あ、こんにちは~、先生♡」
え? いま、語尾に変なのついてなかった?
いや、気のせいか。うん。
なんだか、声のトーンもいくらか高くなってる気がしないでもないけれど、それもきっと気のせいだ。
「お疲れ様でした~♡」
あ、気のせいじゃないわ、これ。
明らかに今もついてたもん、はあとまあく。
いや、ビビった。
まさに驚き桃の木山椒の木だね。
まあ、そういう理由なら、この先輩がこの部活にいるのも、納得だ。
「君が遠山君だね」
「あ、はい。そうです」
「僕がここの顧問の上川だ。よろしくね」
「お願いします」
「それで、先生、パソコンを一台入れたいんですけど~♡」
「そうか、それじゃ、学校の備品のを一台貰うか」
「もらえるんですね。てっきり部費で買うかと」
「あはは、全然足りないよ。最近は使ってないからね。毎年減らされて、今はもう、一万円くらいだよ」
「そうなんですか」
「それと、三人以上集まらないと、部として存続できないから、四月中に、もう一人連れてきてくれるかな……? 友達とか誘って」
「頑張ります~♡」
「ど、努力させてもらいます」
いや、無理だな。
教室で僕はボッチだ。
とにかく、この日から、この部活には、一台のノートパソコンが入ることとなった。
先輩に聞いた話では、三年生が卒業する三月と、その後部員の補充期間となる四月だけは、部員数が三人を下回っていても、許されているらしい。
「入部だけしてもらうのはどうです? 来なくてもいいからって言って」
「無理だろうな。先生は結構真面目だから、そんなことを許してくれるとは思えない。まあ、最悪の場合は、そういう手段も検討しなきゃだけど、今月はまだ二週間ある。大丈夫だろ」
「そうですかねぇ……」
「あたしも部活に誘えるような友達とかいないからな、仕方ない」
「僕も同じ感じですしね……」
「わかってるわかってる。文芸部は、たいして人気のある部活でもないからな。本読むだけなら自宅でもできるし」
「そっすね」
僕の場合は自宅では読めない理由があるのだ。二人の幼馴染達とか妹とかが絡んでくるからな……。
「あと一週間たっても来なかったら、何か考えよう」
この部活も、あと一か月の命か……。
その一週間後。
「よ、よろしくお願いします……」
「えっと、同じクラスの、春山、……で、あってたよな?」
「う、うん。春山小春といいます。二年間? よろしくお願いします」
春山小春が文芸部に入部した。
僕と彼女が出会った経緯については、同一作者の別作品を読んでほしい。シリーズ化されているため、見つけやすいはずだ。
「あたしは上山真白、よろしく。えと、お前らは、付き合ってたりすんのか?」
「いえ、今日出会ったばかりです」
「ですね……。付き合うとかは、無いです……」
「なんだ。あ~、その、なんだ。もしそういう関係になったら教えろよ? 去年までいた先輩たちに付き合ってる人たちがいて、空気が気まずくてさ……」
「大丈夫ですよ」
「は、はい……」
「まあ、よろしく頼むな」
まあ、そういうわけで、彼女が入り、この部活の男女比は、僕が不利なほうへと傾いたのだった。
それからも、部活の活動内容は変わらなかった。
ノーパソが入ったものの、書く内容も思いつかず、使用方法としては、大抵小説投稿サイトで小説を読むくらいだ。
つまりは、ずっと小説を読むだけの部活である。
三人に増えたとは言っても、特に変わりはない。
部活中のおしゃべりが増えたくらいだ。
とは言っても、僕に会話が振られることは逆に減ったのだが。
おかげで読む速度は上がりがちだ。
すでに図書館にあるラノベのうち、一割ほどを消化してしまったような気がする。
とすると、ちょうど一年生を終えるころに、すべての本を読み終えるくらいだろうか。
閑話休題。
兎にも角にも、春山が入ったことで、文芸部は存続の危機を脱したというわけだ。
シリーズでまとめて読んでもらえると、全体が把握しやすいかと思います。