起
入学早々、僕は文芸部室を目指した。
空き教室の一つが、文芸部室になっていると聞いたので、文化部の部室の集まる、校舎の五階に僕は足を踏み入れた。
この学校は、一階に化学室や家庭科室、二~四階にそれぞれ一学年ずつ、通常の授業のの教室、そして五階に前述のように空き教室がある。とは言っても、五階も空き教室ばかりではなく、音楽室などもある。
ただ、楽器を最上階まで運ぶのって、結構な重労働だと思うのだが。
そんなことを考えている間に、文芸部室に着いた。
ノックして、扉を開ける。
「誰だ?」
中にいたのは、金髪の美少女と言って差し支えないであろう少女だった。
タイの色からして、先輩だろう。
だが、どうにも、文芸部らしい雰囲気はない。
目つきとかめっちゃ怖いし。
「え~と、間違えました?」
「何が? まずは名乗れよ、後輩」
「えと、今日から入学してきた、一年の遠山和也と言います。ここ、文芸部ではないですかね?」
「そうか。ここは文芸部であってる。あたしは部長で二年の上山真白だ。よろしくな後輩」
え、マジでこの人文芸部? うっそぉ……。活字からは一番遠い感じの雰囲気出してるんだけど……?
「よ、よろしくお願いします。先輩」
これが、僕と先輩の出会いとなった。
入部から三日。
僕は、持ってきたラノベを開いていた。
この学校の図書館は、ラノベも豊富で素晴らしい。
僕は普通より少し読むのが速いらしく、ラノベ一冊は、三十分ほどで読んでしまう。
だから、無料で本が読める図書館は、僕の生命線と言える。
さっそく持ってきたラノベを二冊読み終わり、三冊目に差し掛かろうとしていた。
結構前から気になっていたシリーズを読んでいる。
面白く、人気も高いが、いかんせん古い作品ではあるので、なかなか書店で見かけることがない。
ここにあってくれて歓喜の余り、飛び跳ねて注意されたのはいい思い出といっていいだろう。
先輩は、文庫本を読んでいるようだ。
「何を読んでるんです?」
「れ、恋愛ものだよ。似合わなくて悪かったな」
「いや言ってませんし。僕的には先輩みたいな見た目の人が本読んでる時点でだいぶ意外なんで、気にしなくていいです」
「お前、今結構失礼なこと言ってるからな? そういうお前は何読んでんの?」
「僕は何でも読みますよ。まあ、最近はラノベに偏りがちですけれど」
「別にいいんじゃねえの? てか、読むの速いな。怖いくらいだ」
「怖くはないですよ。昔から、なんか読むの速いんですよね」
「へえ、あ、なんか飲み物買ってくるけど、お前も欲しいか?」
「え、いいんですか?」
おお、実は優しいなこの人。
「ああ。金は払えよ?」
「じゃあ、コーラお願いします」
そう言いながら、僕は百六十円を渡す
「コカか?」
「当たり前ですね」
「ほれ、買ってきてやったぞ」
僕がさらに一冊を読み終わったころ、先輩は戻ってきた。
買ってきてくれたコーラを、投げてよこす。
「いや、炭酸投げます?」
「あ、すまん。ゆっくり開けろ」
「まあ、買ってきてもらっておいて、文句言える立場ではないですけれど……」
「仕方ないな。貸せ。あたし、振られた炭酸開けんの得意なんだ」
「マジですか、じゃあよろしくお願いします」
「おう」
すごいな、この人。
まったく噴出させることなく開けたぞ。
しかも、はたから見てると普通に開けたようにしか見えないのに。
「凄いですね」
「だろ?」
「ええ。絶賛に値します」
その翌日。
「そういえば、この部活、顧問っていないんですか?」
まだ見てない。入部届は、来たその日に部長である先輩に渡したので、顧問の先生を見ていない。
「あの人忙しいんだよ。優秀だからな。今日は古典の補習講座やってるんだったっけかな。昨日は現代文ので、一昨日は数学だったか……?」
「数学? 国語の先生じゃないんですか?」
「両方の免許持ってんの。他にも確か体育も持ってたはず。あたしのクラスには、国語と数学だけ教えてるけどな」
「それ、結構な量ですよね」
国語と数学は二種類ずつあったはずだ。
国語は古典と現代文、数学は確か、ⅠⅡとABを分けていたはずだ。
「ああ。だから、あんま部活では会えねえけど、大丈夫だ。授業では会えるし、会いに行きたければたいてい職員室にいるからな」
「なんか、めちゃくちゃよく知ってますね。僕、幼馴染の動向すらそんなに把握してませんよ。せいぜい、今は部活行ってるだろうなってくらいですね」
「え、全然把握とかしてないって……。別に、調べたりとかもしてないからな……?」
「わかってますよ。調べたりしてたら、もはやストーカーの域に手を突っ込んでますし」
「え、マジで……?」
「それ以外の何物でもないでしょ~。はは、まあ、顧問ですし、部長に自分のスケジュールを教えたりはしますよね」
「そ、そうだな……」
「ですよね~。あ、もう結構な時間ですね」
「そ、そうだな。そろそろ帰るか……?」
「そうですね。ちょうど終わったところだし」
こうして、僕の入部後の一週間は幕を閉じた。