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序説 爆裂の英雄

 土煙の中、紅い外套を着た男が舞い踊る。

 頭上から降り注ぐ六本の巨大な剛腕を危なげもなくヒラヒラと躱し、手に持つ小瓶を鈍く光るアイアンゴーレムたちの身体にぶつけては、その中の薄紅色の液体を撒き散らしていく。


 それが幾度続いただろうか。先程まで陽光に照らされ光る鋼色だった三体の巨人が、ついには薄い赤に染まりきった。


 振り抜く腕の衝撃波だけでも吹き飛びそうな地獄の中、彼は余裕を見せつけるかのように、彼らの周囲をぐるりと周回して塗り残しがないかを確かめる。

 一人納得したよう、うんと頷くと、その長身には不釣り合いなほど身軽に高く跳び、後ずさる。跳ぶたびに後頭部で束ねた長い黒髪がはためき、まるで大きな鴉が空を舞うようだった。


「今ある手持ちは全部使った。スッカラカンだ。帝国騎士もお手上げのデカブツを潰すんだから、報酬ももう少し弾んでくれるよな?メアリ」

 少し離れた場所に佇む白い鎧の騎士に向かって、皮肉混じりの言葉を投げる。

「貴様のそれは自家製だろ、そう出費も掛かるまい」

 その鎧の威風からは不釣り合いな、凛とした女の声。剣に手は掛けているものの、鞘から抜く必要もないと確信しているのだろう。まるで自分は観戦者だといったふうにその場からは動かない。


「瓶代だって安くないんだ、それから出張料も上乗せしといてくれよ?」

「いいから早く潰せ。対物と防音の結界もそう長く保たん」


 そう言っている合間にも、ゴーレムたちは地を踏み固めるようにゆっくり前進し、男の方へと近づいていく。

「はいはい、じゃさっさと仕上げて昼飯だ。誰かさんのおかげで朝食も抜きだからな」


 言って、男はしゃがみ込み、何かに備えるように外套を広げて全身を覆う。

「破片に気をつけろよ?それでは、さん、にぃ、いち」


「ぼかぁん」


 男の言葉と同時に、轟音と爆風がその場を文字通り押し潰した。頭上に張られた半透明の結界はその威力の拡散を抑え込もうとしていたが、硝子のような膜にみしみしとヒビが入っていく。


 結界で半球状に包まれたその空間だけが、舞い上がる土煙のせいで一寸先も見えなくなった。

 数分ほどしてようやく視界が晴れてくると、アイアンゴーレムたちの姿は影も形もなく、それらが立っていた地面は大きく抉れていた。


 爆発の最中にも微動だにしなかった女騎士はそれを見定めると、自分の鎧に積もった土埃を気だるげに払う。

「あー、ちょっと使い過ぎたかな。あの半分で良かったかもしれん」


 晴れた煙の中から、男が悠然と歩いてくる。土が口に入ったのか、ペッと何度か唾を吐いていた。

「そうだな、あとでその穴を埋め立てるこっちの身にもなれ。やはり報酬は先の提示額通りとするぞ」

「えぇ.......ケチ。そんなだと税金払わんぞ」

「払ってないだろうが不法滞在者!」

「路銀が必要なんだよ。今回は二人旅だしな」


 男の言葉を聞き、女騎士はこれまでで一層不快そうな、見方によってはどこか拗ねたような表情を見せた。


「ちゃんと彼女を連れて逃げおおせろよ」

「あぁ、あの子は帝国に残して人殺しや(まつりごと)に巻き込まれるには、ちょっと若すぎる。きちんと面倒見るさ」

「.......私も同じような年頃には戦に出ていたぞ」


 いつの間にか横に並び立っていた男の脛を、いじけた様に蹴り回す。

「いたっ、いやお前とは境遇が違うだろ.......あの子は一般人、平民の出だぞ」

 拗ねた子供をあやす様に、クシャリと女騎士の頭を撫でる。彼女は抵抗するでもなく、細い金色の髪を揺らした。


「..............勝手に野垂れ死ぬなよ、爆裂の英雄」

「最近はな、王殺しの反英雄って呼ばれてるらしいぞ。そっちの方がかっこいい」

 撫でられたまま、彼女は顔を上げない。自分の表情を見られまいと、必死に俯く。

 男は苦笑しながら、最後にポンとひと撫でして女騎士の元から歩き出す。


 助けを乞われた、同郷の少女を迎えるために。

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