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親友として


成人式が近くなると想像で思いついてしまったこの話。

とりあえず5人中2人。桐山柚斗、天野咲良。


割と中心の2人の関係がわかる話。

「ちょっと待ってよ~……う~」

「ったくもぉ……ちゃんといるから。ほらちゃんと立って。」

「えへへ…………」

「なにやってんだか……」

 

隣で歩く彼女、天野咲良あまのさくらの手をひくと、彼女はにへらとかそんな感じの擬音が似合いそうな笑顔で腕に顔をうずめてくる。普段は気が強そうな雰囲気のくせに、友達の女子とさりげなくいつも手をつなぎに行くなど甘えん坊な面も見せる彼女。その甘えん坊な一面のみが全面に出てきている。なにやってんだと思う。今日は成人式前日。久しぶりに地元に戻ってきた僕たちは高校時に仲の良かったメンツで飲み会をしていた。

 

「あ~ほら、鞄落とすよ。」

「え~……?あ、ほんとだ~……」

「もう……ほらそれ貸して。」

「いいの?やった~」

「いいからちゃんと歩く。」

 

そこで楽しくなりすぎたのだろうか。5人で飲んだ飲み会で一軒目で2人が、二軒目で1人が酔いつぶれた。明日は朝から成人式の準備がある女子ばかり酔いつぶれていたのは心配ではある。その癖全員が二軒目まできて、全員が笑顔で楽しんでいたのだからこのメンツの仲の良さは自分でもすごいと思う。今はそれぞれが帰宅中。俺は彼女を家まで送っていく最中だ。鞄を持ってやると、彼女はこちらの手を握り直して腕にもたれかかりながら歩く。自然とカップルつなぎになった手と彼女がもたれかかる腕は久しぶりの彼女のぬくもりを感じていた。

 

「やっぱり柚斗ゆずと君は優しいね~……」

「そりゃ嬉しいよ。そう思ってくれてたんだな。」

「だって色々あったし、今では本当に仲良しだもん。」

「……今日は本当にみんなしてそれでいじられたからなあ……」

 

今日の飲み会を思い出す。いつものようにバカ話で盛り上がるその感じは高校の時と何ら変わらなくて。みんな大学に通っていて忙しくなってきて、会う機会も減っているはずなのにそんなの全く感じないくらいで。正直に言えば楽しかった。

 

「だって元カップルだもん~」

「まあそうなんだけどさ。」

 

咲良の言葉にそっぽを向いて返す。咲良と僕、桐山柚斗きりやまゆずとは高校時代に一時期付き合っていた時期があった。男2人女3人の友達グループの中でできた最初で最後のカップル。結局様々な理由で3か月しか続かなかったのだが。

 

「っていうか今はお互いに恋人いるだろうが。バレたら本気で怒られるよ、これ……」

「柚斗君と私の仲だしいいのいいの~」

「彼氏は気にしないの?」

「バレなきゃい~の~」

「おいおい……まあいいか。」

 

そこでまあいいかと思えてしまう僕も大概酔っているのだろう。言ってからそう思い、次に飲むときはもうちょっと自重しようと心に決める。飲み会の最中からずっと今日はこんな感じ。いじられるたびに仲良しだからと手をつないだり、咲良が僕に抱き付いたり、寄り添ってピースで写真を撮ったり。大学の方に戻ったら、罪悪感で彼女の顔が少しの間見れなくなりそうだ。

 

「本当に咲良はもうちょっと自重しなよ?普段からボディタッチ多いし、あざといことするし、酔ってる今日にいたっちゃ抱き付いて来るし、それを指摘されたら顔真っ赤にして照れて見せるし……葵も言ってたろ。男子はちょろいんだよ。可愛いからやめなさい。」

「そんな可愛いとか言わないでよ……今日なんでそんな持ち上げるの~!!」

「そこでより近づいてきて顔を腕にうずめるその感じがもうね……彼氏、他の男とお前が一緒に話してるだけで怒る人なんだろ?僕死ぬんじゃないかな……」

 

顔を真っ赤にしているのだろう。腕にうずめられているために耳しか見えないがその耳まで真っ赤になっている。感情が心の奥で湧き上がりかけたのを収める。手をつなぎながらふらふらする咲良を支えながら歩く。僕も酔っているんだけどなと思わなくもない。すると、そこで彼女が顔を上げて僕に向けて悪戯っぽく言う。

 

「でも柚斗君は元カレでも彼氏にバレなきゃノーカンだよ~仲良しだもん~」

「はいはい。そうだな、仲良しだからノーカンノーカン。お前、こんなこと他の人にもやってんじゃないよな……」

「むぅ~高校の時の彼氏は柚斗君だけだし、それから今の彼氏まで誰とも付き合ってないもん。それに他にここまで仲のいい男の子は他にいないもん。」

「そーかそーか。じゃあ僕はノーカンな。あ~ほら段差危ない。」

 

むくれる咲良の頭をポンポンと叩くように撫でてやり、顔をうずめてくるのを段差を言い訳にやめさせる。こっちの気持ちも知らないでと思いつつ、咲良の顔を見ないように歩く。しかし、彼女はそんなのお構いなし。顔を上げて、僕に向かって話しかける。

 

「だって柚斗君も今さら私はなしでしょ?」

「まあな。今は彼女もいるし。」

 

悪戯っぽく聞いて来る咲良にためらいなく答える。好きだった。本当に好きだった。でも、今は恋人ではなくて親友だ。親友と言える友達5人でいる中の1人。自分が付き合っている人は別にいる。大切に思えて、本当に好きで、上手く付き合えている彼女が。それは咲良も同じ。咲良にも自分じゃない相手がいる。お互いに大切な人を見つけている。

 

「え~なしなの~?」

「ふざけてもダメだ。ありなしとか言う問題じゃ……」

「なしなの?」

 

夜になって下がった気温で冷えてきた体の芯が熱くなっている気がする。頬は赤くなっている自覚はあった。悪戯っぽく笑っていた顔から真剣な顔になった咲良の頬も赤くて。酔っぱらっているし、頬が赤いのは仕方ない。心の中で誤魔化す。しかし、

 

「……ありかもね……」

「ぅ~~~…………………!!」

「照れるなら言うなよ……お前が言わせたんだからな。」

 

心に残る熱さがそう言わせた。今度こそ酔っているとか関係なく顔を真っ赤にする咲良にざまあみろと思う。飲み会のあたりからずっと自分が抱えていたもやもやを彼女も味わえばいいのだ。でも、この心の奥底の思いは出してはいけないもの。言い訳するように口にする。

 

「……お前が振ったんだから僕はそりゃあまだお前のことありかもしれないだろ。」

「でも、柚斗君だってすぐに私と迷ってたっていう他の人と付き合ったじゃん……」

 

それで吹っ切れた部分もあるけどさ。そう言って咲良は僕に向かってむくれて見せる。昔咲良には言ったことがあった。他の子と迷っていると。正直咲良と別れた後にその他の子と付き合ったのは申し訳なく思った。あの時は色々理由があったとはいえ、最低の行動だったと思う。結局上手くいかなかったし。でも

 

「お前を選んだ時点で本気で好きだったって分かれっての。」

「……そうだね、ごめんね?」

「別に。僕も付き合うってよく分かってなかったしさ。」

 

ごめんなと言ってお互いに謝る。そしてなんだこれとお互いに笑いあう。ふらつく咲良の体を、手を強く握り直すことで支える。酔っていなかったらこんな会話できなかったんじゃないだろうか。この会話できただけで、今日のこの状況には意味がある。ずっとわだかまりが残っていたわけじゃない。今は全く気にもしていない。でも、きっとこの会話には意味はあったのだろう。何かあるのかは分からないが、何もないのかもしれないが。それでもよかったのだろう。彼女の家の前まであと少し。

 

「……でも今は仲良しなんだろ。じゃあそれで良しだ。」

「そうだね。なっかよし~!!」

「付き合ってた時でもここまで手をつないでないけどな。」

「もう言わないでよ~……」

 

悪い悪いと言って、いまだに手をつなぎながらも、僕の腕に抱き付いて放さない咲良の顔を見る。こんなことも昔あったなと思う。酔ってもいなかったし、ただただ公園にデートにいった時のこと。その時も咲良はこんな風に腕に抱き付いて来ていた。自分が好きだった少女。ずっと一緒にいたいと願った少女。きれいに、可愛くなったと思う。それは素直にそう思う。

 

「なあ……」

「ん~?」

 

咲良の顔を見ていて、心に湧き上がってくる思いを口にしたくて。つい彼女のことを呼ぶ。にへらと最初のように笑って見せる咲良の顔をまっすぐに見つめる。もう彼女の家の前に気が付けばついていた。

 

「………なんでもない。」

「え~なに~?」

「いいからほら。ちゃんと入って。すみませーん。」

 

でも、その想いは口にはできない。もう僕は彼女のものじゃなくて、彼女は僕のものじゃないから。後悔はしていない。仲良くできて本当に嬉しいし、今の咲良も大好きだ。でも、なんとなく思い出してしまって、想いが胸にあふれて仕方ないのだ。それを必死に抑えて、奥から出てきた咲良の母親に挨拶してから、咲良を残して玄関を出る。

 

「ねえ!!」

「……なに?」

 

外で呼び止められて振り返る。その前に背中に衝撃。酔っていて少しふらつく体にその衝撃をおさえるのは大変だったが、しっかりとその場に踏みとどまって顔だけ今度こそ振り返る。そこには背中に抱き付いている咲良がいて。

 

「……嬉しかった。楽しかったよ。ほんとにほんとに楽しかったんだよ。」

「うん、今日は楽しかったな。」

「…………………………」

「なんだよ。」

 

背中に抱き付いている咲良の顔は見えなくて。咲良の思っていることは伝わらなくて。当然だ。人の気持ちが簡単に分かるのなら、僕はこの少女と別れたりなんてしていない。無言の彼女を優しく自分から離して、玄関に座らせる。気を使ってくれたのだろうか。咲良の母はいなくなっていた。自分がいなくなればすぐに出てくるだろう。

 

「……もう帰るな。次は春休み?」

「うん。」

「後でみんなで予定たてような」

「うん。」

 

口数も少ない咲良に苦笑して見せる。抱き付いているときに何と言ってほしかったのだろうか。それは分かるような分からないような。きっと頭では分かっている。仲良しなのだからそのくらいわかる。でも、咲良と僕の物語は終わっている。その言葉は言ってはいけないのだ。だから分からないふりをして、じゃあなと咲良に背を向ける。

 

「なあ……」

 

そこでなんとなく口を開く。そして顔だけ振り返ってみせて言う。これは酔っているが故の言葉だ。今日は楽しかった。久しぶりに会ってテンション高くて、酔っている。そんな状況だからの言葉だ。昔の彼女。今の親友に向けての言葉。

 

「今の彼氏と仲良くしなよ?」

 

にっと笑って見せながら言う。心が少し痛んだ気がした。咲良が聞きたかった言葉はこれではないだろう。それは分かっていた。

 

「……うん、柚斗君も彼女を悲しませちゃだめだよ?」

「お前に言われるとリアルだな。」

「でしょ~?」

 

その答えるまでの間は何だったのだろう。それを気にせずに2人で笑う。そしてついに咲良の家の玄関を出る。先ほどまで咲良の手を握っていた掌。咲良が抱き付いていた腕。そこに残るぬくもりは夜の気温の低さに失われていく。それが無性に悲しくて。

 

「ばっかみてえ…………」

 

周りに誰もいないのを確認してから呟く。ふと振り返る。そこには咲良が帰って行った家。心がチクリと痛む。酔ってるからか。想いがあふれるのは仕方ない。小さく、小さくつぶやく。この呟きは酔いのせい。

 

「好きだよ……ずっとずっと好きだよ。」

 

少し間をあけて。この間は気持ちの整理の時間。咲良はもう、自分のものじゃない。自分も咲良のものではない。昔2人で望んだ、大切な人としてお互いのもので、仲良くいるという思いは半分が叶い、半分は叶わない。

 

「親友として。」

 

これが訣別の言葉だ。今回の会話でもう咲良との間には何もない。風が少し強く吹いた。

 


名前だけ出た葵はいつ出るかなぁ……

3話目くらいだった気も。

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