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鉄血令嬢戦  作者: 文屋源太郎
序章 領地改革と学園生活
9/30

直筆の恋文と出陣

 私はメリーたち三人をホド爺に任せ、執務室へと向かった。

 ホド爺には研究できる環境と人員が整うまでの間、子供たちに魔術を教えてもらうことにした。

 

 執務室に入るとすでに何人かの家臣たちが待っていた。

 

 「報告を」  

 「はい。まず、市井の錬金術師、魔術師ですがリストにあった人物は大半が登用できました」


 この世界には、独自の研究を続ける物好きな魔術師や錬金術師がいる。

 彼らは理解されず、変人扱いされているものも多い。

 まあ、確かに人格は特殊なものが多いが。

 

 のちの時代に科学者と呼ばれることになる錬金術師は魔術師以上に理解されない。

 一括りに錬金術師と呼ばれているが、彼らは生物学者であったり、物理学者であったりする。中には農学者なんてのもいる。

  

 私は化学や物理学、生物学の発展が、魔術の発展と組み合わさることで絶大な技術的進歩を遂げることを知っている。

 そこで、施設を作り、資金を提供し、将来、実を結ぶであろう研究をしているものを一か所に集めて、技術革新を促すことにした。


 私自身も人材登用に奔走したが、公爵という立場上、屋敷の外をおいそれと出歩くわけにはいかない。

 そこで家臣たちに私の知る、将来名をはせる人物のリストを作り、領内そして時には世界中から登用させている。

 

 領内の登用はかなりうまくいっているようだ。

 これならば名が売れてなくても有望そうな連中を集めるのもいいかもしれない。

 

 「ですが、領内に一人だけ、中々、要請に応じ者がおりまして」

 「よくやった。そいつは私が対処しよう」

 「承知しました」


 大半は資金を提供すると言えば、ころっと落ちるが、そうでない偏屈者もいる。

 そんな偏屈者は私が知る限り、この領内には一人しかいない。

 ホド爺と同じく魔術の発展には欠かせない男だ。

 長い付き合いになりそうなので、私から出向くことにする。

 

 「それから、税制改革や新法の整備に関する草案が完成いたしました」

 「あとで目を通すとしよう」

 

 この時代の法律はまだ古い。

 将来的には戦争遂行のために各国で近代的な法整備が始まる。

 その前に導入できるものはしておきたい。

 産業や経済が効率化し、統治も円滑なものとなる。 


 私を頂点とした行政機構の完成を目指し、各機関の再編または新設が始まっている。


 「また、孤児院や研究施設に関しましては、いまだ計画中の段階です」

 「急ぎすぎることはない。一つずつ丁寧にやれば問題はない」


 多くの計画があるが、領内はすでにフル稼働状態だ。

 すでに多くの土地なし貴族たちは改革のために方々を寝ずに走り回っているような状況だ。

 領内の動かせる労働力はありったけ動員している。

 これ以上、無理をさせれば壊れてしまうだろう。 

 

 大いに急ぐべきだが、急ぎすぎてこけてしまえば本末転倒だ。

 

 「最後に商人たちとの会合の日取りをお教え願いたいのですが」

 「後で伝えよう」  

 「承知いたしました。私から以上にございます」


 領内の改革には貴族だけでなく、農民そして商工業者の協力が不可欠だ。

 特に商人たちにはこれから領内に莫大な富をもたらすために色々と動いてもらう必要がある。

 

 商人というのは基本的に貴族が嫌いだ。しかし、自分にも利益があると分かればすぐに飛びついてくる。

 金の切れ目が縁の切れ目。といった具合に利益をもたらしさえすれば、強力な手駒になりうる。

 この時代は何かと自由に世界を動き回れないが、商人ならば、貴族である我々よりは大っぴらに動ける。

 何としても信用を勝ち取る必要がある。腕の見せ所だ。

  

 「ならば次は俺ですね」

 

 軽装の鎧を身に着けたこの無作法な初老の男。

 名はゲルトハルト・フォン・ラング。

 

 何でも聞くところによると一騎当千の腕前で、兵たちから絶大な信頼を集める、偉大な騎士だったという。

 父の右腕とまで言われたこの男は、戦争終了後、この屋敷で庭師として余生を送っていた。

 騎士という一代限りの貴族でありながら、父から領地を受け取る予定だったが断ったという。

 

 彼は未来では私の剣の師となるのだが、今回は説得して軍の指揮官になってもらった。

 今更、私がもう一度、彼から剣を教わることもない。近い将来、神器を除いて、剣術などという技術は不要になる。

 

 「トート伯、シュネー伯、シュタイン伯はそれぞれ兵八百ほどを集めて行動を開始してます」

 「わが軍はどうなっている」

 「古参の兵もかき集めて、三千といったところですかね」 


 ということは味方の兵は五千を超えるといった程度か中々の数だ。

 未来では何十万という単位で動員されることになるので、かなり少なく感じるが。

 

 結局、離反した貴族たちは私への反発から兵をあげた。

 もとよりそのつもりだったが、まったく面倒なことだ。 

 

 「それに対して敵軍はざっと四千といったところでしょう」

 

 離反した貴族たちのを合わせるとその程度になるだろう。

 だが、問題なのは各地に分散しているということだ。

  

 「作戦通りブルタール伯のもとに戦力を集中させ、会戦で一気に葬る」

  

 各個撃破したほうが、効率もいい上に楽だが、私には考えがある。

 貴族たちも馬鹿ではない、戦力の分散を避け、ブルタール伯のもとに集まるだろう。

   

 「トート伯たちは作戦通り、裏切り者どもを刺激しながら、目標地点に進軍中です」

 「お前の息子は初陣か」 

 「まあ、そうですな。あのひよっこどもに務まるかどうか」

 

 ゲルトハルトは頭をかく。

 

 この男には息子や娘たちがいる。 

 皆、父の背中を見て育ったために騎士になりたいらしい。

 とっくに成人はしているが、長らく戦乱に見舞われていなかったので、みな初陣だ。

 かなり張り切っているようで心配だ。

 戦場での勝手な行動は若気の至りでは済まされない。

 

 ちなみにリアやザンドの兄や姉たちも各家の軍に加わっているらしい。 

 

 「やってもらわねば困る。ここで負ければ私の威信は地に落ちる」

 「そうですな」

 

 ガハハとゲルトハルトは高らかに笑う。

 公爵となったばかりの五歳の少女にどれほどの威厳があるかは知らないが、少なくとも負ければフレイヘルム公爵家は立ち行かなくなるだろう。

 何としてでも勝たねばならぬ。

 

 「よし。私たちも出陣するとしよう」

 「本当にルイーゼ様もいかれるので?」

 「当たり前だ。当主、自ら出向かねば兵の士気はがた落ちだ」

 

 ゲルトハルトが心配なのは十分にわかる。

 私のような子供が戦場にいては危なっかしいことこの上ない。

 公爵とはいえ少女が陣頭指揮を執って、兵たちの士気が上がるかは疑問だが、私はここで威厳を示す必要がある。

 

 今回はメリーたち三人組も連れていくつもりだ。戦場の雰囲気を知っておいて損はない。

  

 神器、クロノスの力の一端を披露するとしよう。

 

 「さて、最後に。書状は滞りなく届いたか」

 「はい。ここに返事も来ております」

 

 文官から手渡された書状にさっと目を通す。

 

 なるほど。やはり、私直筆の恋文は効果てきめんだったようだ。

 思った通り、勢いで離反したものの中にも臆病者や話せばわかる連中はいる。

 

 「では、行こう。みな、留守は頼んだぞ」

 

 文官である家臣たちが一礼する。

 

 いよいよ、出陣だ。

 戦争に明け暮れる未来から過去に戻ってきてからほんの数週間しかたっていないというのに、久しぶりに戦場に行く気分だ。

 

 執務室を出ると戦支度を始める。

 

 私はさすがに甲冑は身に着けられないので、戦場でなるべく目立ちそうなドレスに着替えた。

 侍女たちが引っ張り出してきた純黒のドレスだ。

 

 メリーたち三人を引っ張て来て、馬車に突っ込み、屋敷を出る。

 

 そういえば、この子らに事前に話していなかったな。まあ、問題ないだろう。 

 久しぶりに家族に会えるだろうとメリーに伝えるととても喜んだ様子だ。 

 一方で、リアはげんなりした様子だったが。

  

 屋敷がある公爵領の中心地、フレイガルドの門を抜けて、城壁を出るとゲルトハルト率いる三千の軍が私を出迎える。 

  

 雪がちらつくなか、私たちは決戦の地、エキドナ平原へと向かった。

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