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始まらぬ物語
私はある日、不老不死となった。
老いることなく、傷の治癒力が高い。本来の人間の有り様からは完全に外れてしまった。
しかし私は悲しみなどしなかった。気持ちはまったくの逆で、人間を超越した存在になれたことが誇らしかった。
けれどその考えも、すぐに改めることになる。
他人と一緒にいると、成長しない私に不審の目を向けてくるようになった。
過去に1度、拐われて実験場に連れていかれた時はとても怖かった。
その時はどうにか脱出出来たが、特定の村で生活するのは10年が限界だと学んだ。
怪しまれる前に次の村へ、疑われる前に次の村へ、そんな生活を何度も繰り返した。
しかし、とある村で突如魔女狩りが決行された。
私以外にもたくさんの女性が火刑に晒される。
全員が喘ぎ苦しみ、すぐに息絶えた。
それはある意味羨ましかった。死なないだけの私は、それだけ長く火に炙られ続けた。
身体は再生するが、治癒速度は常人と変わらない。
すぐに致死量の火傷を負って、身体はボロボロになった。
私は痛みに耐えて死んだフリをする。
でなければ、この苦痛が終わらないどころか本当に魔女だと思われてしまう。
やがて、もう充分だと判断した村長が火刑の終わりを告げた。
私達は農具のピッチフォークで乱雑に掻き集められ、川に捨てられてどこかへと流された。
次に目を覚ましたのは、たまたま流れついた川岸だった。
その時には身体の再生は終わっており、私は化け物なのだと再認識する。
私は人間を超越したのに、どうしてこんなに不幸なのだろうか。
物語の中では、理解者が現れて幸せになるものじゃないか。
こんなことなら、私は人間のままでいたかった。
私は、超常の力を持っていても幸せになれるとは限らないと知った。