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厨二病の真骨頂は転生後  作者: 琴熊
9/12

種明かしと和解

 昨日のシュリアの失踪、そして悪魔の出現。立て続けに事件が起こりすぎた。


 ただでさえ傷心モードのスライムに悩むミルは、もはや思考が追いつかない。


(えっと…どこから聞いたらいいものか…)

 とりあえずシュリアに、事の経緯を説明してもらった。



「まあ…端的に言うと、全て私の筋書き通りだったわけよ。

 私が姿をくらましたのも、ミルとスライムに捜索させたのも、悪魔と戦闘を仕組んだのも、悪魔が家に住み着いたのも、全て私がやったこと」


 え??全部シナリオってこと?

 どうゆう目的でそんなことをしたのか…


 シュリアはあの夜、ミルとスライムの関係が元に戻るようにいろいろ思案したそうだ。その結果が今回の一連の事件。


 シュリアはスライムが落ち込んでいた原因は、自分自身の力の無力さ、自己嫌悪に他ならないと考えた。

 引き金を引いたのはミルだったが、これはスライムが自分の力で解決すべき問題だ。


 そこでシュリアは考えたのだ。スライムに成功体験を与えよう。と。

 うんうん、ここまではミルにも理解出来る。それどころか、保護者としては最高の判断だろう。


 この後だった。シュリアの頭のネジが外れてたのは。


「そうだ、“スライムがミルのピンチを救う”という状況になれば、スライムの自尊心は取り戻されるんじゃないかしら。

 そう思って、ミルに悪魔をけしかけてみたのよ」


 なんちゅう荒療治、規模感がおかしいというか…

 しかも場違いなほどの上等ランクの悪魔を…。



 ミルはここまでは黙って聞いていたが、ついに文句を言った。

「なぜよりによってそんなバケモンを雇ったの?!明らかに人選ミスじゃん!

 それに、俺に相談してくれてもよくない!?」


 すると1ミリも悪びれることなく、シュリアが返答する。


「仕方ないでしょ、私がテイムしていた魔物は彼しかいなかったんだもの。

 もっとも、言うことを聞いてくれるようになったのは一昨日の夜からだけどね」


 なんでも、先日なんとなく捕まえて魔法牢獄に閉じ込めていた悪魔を拷問して、無理矢理従わせたらしい。


「いやでも俺、殺されかけたんですけど…」

「いいじゃない、生きてるんだし」

 そゆことじゃなくて…


 ジーマはシュリアによる魔法で特殊な制御を加えられていた。

 ミルの攻撃は効かない。そのかわりジーマはスライムに対して一切の手出しが出来ず、スライムはジーマに対して無敵状態で攻撃できる。


 シュリアが強制的に設定した力関係により、ジーマはミルを圧倒し、かわりにスライムはジーマを圧倒するという構図が出来上がった。


 そう、全てはスライムの自尊心を取り戻すために。



「で、でもジーマは本当に殺しにかかってきましたけども、そこんとこどうお考えで!?」


「それは、私もそのつもりでやるように指示したから。ミルの極限状態を作らないとスライムも助け甲斐がないでしょ?」


 シュリア、思ってたよりヤバい魔女だった。

 そこまでしなくても…と口から出そうになったが話が進まないのも困る。

 抑えて次の質問をする。



「そんな凶暴な悪魔をなんでウチに住ませてるの?」

 いくらシュリアの言うことを聞くとはいえ、ミルたちには脅威でしかない。できればまた牢獄にぶち込んで頂きたい。


「それは、協力してくれたら牢獄から出して名を付けてやるって約束したからね。」


 (なんて身勝手な…)

 (また殺されかけたらどうするんだ!)


 ミルの心配そうな顔を見てシュリアがフォローする。

「確かにジーマ昨日までは暴れん坊だったけど、名付けしたからか忠誠心が芽生えたみたいよ。もう暴れたりしないわ」


 シュリアの言い分は、名付けをして家族同然になったから、もう危険ではないよ〜ということらしい。

 「信じられるか!」


 でも確かにお茶淹れてくれたり口喧嘩したりしてる感じでは、昨日の魔物とは違う雰囲気だけど…

 それでも昨日半殺しにされた相手を今日から家族と認めるのはいくらミルでも抵抗がある。

 “昨日の敵は今日の友”なんて笑えるレベルではない。殺し屋と同棲するくらいの気持ちだ。


 どうにも煮え切らないミルをよそに、シュリアは全てを話し終えてスッキリした顔で、紅茶を飲んで一息ついている。

「ミル、このことはスライムには内緒よ。

 本人は自分の力でジーマを倒したと思っているから。」


 やっぱりあの時見えた青いモノはスライムだったんだな。

 ミルもそれには同意した。これで仲が元どおりになればそれでいいか。



「ところで、ジーマにかけた呪いってのは、まだ解いていないの?その、俺の攻撃が効かないってゆう…」

 シュリアがコクリと頷く。


「ちょうどいいかと思って。3人の力がいい感じに釣り合うでしょ?」

 ミルはスライムより強い。

 スライムはジーマより強い。

 ジーマはミルより強い。


 そう、俺たち3人はシュリアによって、力関係をうまく調整されていた。


 うん、確かにちょうどいい!

 とはならない。

 ミル的には絶対に勝てない悪魔と同棲するという恐怖に付きまとわれるのだ。


 そんな話をしていると、噂のジーマがおつかいから帰ってきた。さすが、馬で走っても片道1時間半はかかるサドラまでを往復したのに、まだ1時間も経っていない。

 ハアハアと息を切らして家に駆け込んでくる。

「シュリア様、ドーナツでぇす!」


 膝をついてドーナツの箱を差し出す。

「ご苦労さま、ジーマも手を洗って席に座りなさい」


 シュリアは中身を見て、満足そうに1つ取り出す。細かくチョコレートでコーティングされた、カラフルなドーナツ…美味しそう。


 ミルとジーマは唾をのんだ。

 すると、シュリアは思いがけない行動をした。

「ミル、いろいろ迷惑かけたわね、ゴメンね。これ、お詫び…」


 そう言って、ミルにドーナツを手渡した。

 シュリアが、ドーナツをくれた…?

 天変地異?雪降る?世界の終末?


 ミルは不思議に思いながらも、シュリアの気遣いと思われるこの行動がめちゃくちゃ嬉しかった。

 見事に懐柔され、全てを許してしまった。

「ありがとう!いただきます!」

 うまい!さっきは恐怖のあまり味わえなかったが、甘過ぎないドーナツにビターなチョコがアクセントになって、品の良い味わいだ。



 ミルの幸せ顔を見て、ジーマも欲しそうにシュリアに目で訴えている。

「アンタはミルを傷つけたでしょ?罰としてドーナツはナシ。」


 ガーン。

 あんまりだ…アナタの指示を守っただけなのに…とガックシしている。


 はぁ…これが悪魔か、まるでイメージと違う。

 見ていて哀れになるぞ、ジーマ。

 ミルが見兼ねてドーナツを半分ちぎってわけてやる。


 ジーマは目を輝かせている。一気に顔がパッと明るくなった。

「いいのかミル君!いやミル様!」


 有難そうに受け取り、一口かじる。

 ジーマの口の中に電撃が走った。

「ぐわぁあ、これは!口の中で味覚が暴れている!とてつもなく美味!」


 ジーマはドーナツを食べたことがないのか?

 感動のあまり涙している。

 そしてミルの方を向き直し、両手を握ってきた。

「素晴らしい!ミル様、オレはあんたにもしたがうぞ!」


 大げさなヤツだな、もはやコイツ全く怖くない。ミルの顔にも安堵の笑みがこぼれる。

「これからよろしくな、ジーマ」


 それが聞こえていたかどうかはさておき、また一口食べては絶叫を繰り返している。

 はは、幸せそうでよかった。


 シュリアはその横で2個目のドーナツに手を伸ばしている。しかし太ると思ったのか、途中でやめた。


 ティーブレイクは3人の和解の場になり、同時にジーマの歓迎会のようにもなった。

 スライムがいないのは寂しいが…


 スライムはこの話に混ざるとややこしくなるので、わざと寝かした(気絶させた)らしい。

 じきに目も覚めるでしょうとシュリア。

 ジーマも自分を倒したスライムの力を認め、忠誠を向けているようだ。



 時刻はもう夕方の4時。そろそろ夕飯の支度だ。

 スライムはまだ寝ている。いい加減そろそろ起きないとシュリアのご機嫌が損われそうだ。


 ミルがいち早くにそれに気づいて、スライムの部屋に入る。

 思った通り、ベッドでぐっすりだ。

「スライム、起きて、もう夕飯にするよ」


 飯という言葉を聞いたからだろうか、バチっと目が開いた。

「ごはん?今何時?」


 時計を確認するスライム。

 4時…なんだ、まだ4時じゃん。


「朝じゃないぞ、夕方だぞ」

 え?夕方?

 スライムの目には窓の外の夕焼けが飛び込んでくる。そして今の状況を理解して、お決まりのように青ざめる。


「ヤバイ、シュリアに怒られる!」

 デジャヴかな。この件前にもあったような…


 まだ寝ぼけながら飛び起きたスライムだがすぐに昨日のあれやこれやを思い出し、ミルの元気な姿を見て安堵の表情を浮かべる。


「ミル大丈夫だったんだね!よかった!」

「うん、この通り!スライムが助けてくれたんだってね、ありがとう!」


 シュリアの狙い通り、スライムは鼻高々だ。すっかり自尊心は回復したらしい。

「なぁに、まあ弟子のピンチを救うのは師匠として当然ですから?」


 その場でエア素振りをしてカッコつけている。

 かなり調子に乗ってるな、効果が出すぎたようだ。


「うん、それはそうと早く手伝いに行かないと怒られるよ?」

 そう聞いてハッとしたようで、急いで下に降りて行った。


 シュリアが料理を始めている。

「アンタたち、明日から早起きの体に強制してやらないとね…」

 包丁が鋭く光った。


 2人は仲良く震え上がる。

「す、すみませんでした!」


 ジーマが野菜を切るのを手伝っている。見かけによらず器用なようだ。

 今日はお鍋だ。なんだか見たことのないグロい食材も混じっているが…これは…


「妖精の幼体よ、食べれるの。」

 ジーマの好物らしい。

 ミルはできれば遠慮しときたい。なんならもう食欲がなくなった…


 そんなミルをよそに、エプロン姿のジーマが豪快に具材をぶちこんで、強火にかける。

 悪魔界ではみんなで食卓を囲むという経験がなかったらしく、張り切っているようだ。


 グツグツと湯気を立てて煮えた鍋、シュリアがみんなの分の小皿に取り分けている。

 そんなほのぼのとした光景を見て、ジーマはなんだか心にジーンとくるものがあったらしい。

「あれ、ジーマ泣いてる!」


 スライムがジーマの涙に気づいて放った言葉で、皆がジーマに注目する。

 ほんとだ、目がウルウルしている。

「な、泣いてなどおらんわ!なんで鍋みて泣くことがあるのだ!湯気が目にしみただけだ!」


 オマエさっきドーナツ食って泣いてただろうが…

 というか湯気で目をやられる悪魔、それはそれでダサいと思うけど…


 でもミルはなんとなく察していた。この悪魔もきっと孤独だったんだろう。


「わかるよ、わかる。皆んなで囲む食卓がこんなに幸せだって俺もここに来て初めて知ったもん」

 ミルが同調すると、ジーマは恥ずかしそうに頷いた。

(へぇ、意外と素直なとこあるじゃないか。)

 今のでミルの中での好感度が上がった。



 そして始まった鍋パーティー。

 黙々と食べはじめて沈黙が流れる中で、特に誰かが訊いたわけでもないのに、ジーマは自分の過去の話をし始めた。


「オレは悪魔界で落ちこぼれだったんだ。家族や仲間にもイジメられて見放されて、いつも一人で生きてきた。

 そして絶対に見返してやる!と思って努力した。そして時間はかかりはしたが、数少ない上位にランクアップした。


 その途端だ、昔の仲間がオレの力を頼ってきた。いいように利用しようとしているのが見え見えだった。

 許せなかった。オレはそいつらを皆殺しにして、逃げるようにこの世界にきた。


 そこでシュリア様に出会った。シュリア様は暴走して暴れまわっていたオレと対峙し、圧倒的な力でオレを倒した。

 いよいよ命取られると思った時、シュリア様はオレに下僕にならないかと提案なされた。

 この人はオレが仕えるに値するお方だ。戦闘に敗れた時に、直感的にそう感じていた。

 だがオレは高いプライドのあまり、その誘いを頑なに断った。


 そこからは無様に牢獄に入れられて拷問の日々だ。シュリア様はなぜオレを殺さず、部下にすることにこだわられたのか、オレは拷問を受けながらずっと考えた。

 そして昨日名を与えると言われた時にようやく、オレはシュリア様の気持ちを汲み取ることが出来た。」



 ……モグモグ…おかわり。

 ミルとスライムは話をきいてるフリして鍋に集中している。

「おい!せっかくオレのいい話を聞かせてやったのに!」

「ごめんごめん、あんまり長いこと喋るもんだから…」


 シュリアは真剣にその話をきいていた。

「ジーマ、あなたを誘ったのはただの気まぐれよ。ただ、少し似たような匂いがしたから殺さずに手元に置いておこうと思ったの」


 シュリアは自分の孤独感を埋められそうな者を求めてるのかもしれない。

 微弱な魔物でも、Aランクの上位悪魔でも、異世界転生者でも、シュリアには大差ない。


 おおらかというか、大雑把というか、シュリアらしい。


 ジーマが来たことで、我が家は実質4人家族になった。

 ジーマは「オレはペットでいいのです!」とか言ってるが、単純な力だけならシュリアに次いで2番手だ。

 なにより、ミルはペットに勝てないという状態が気に入らなかったので、ジーマには同等の家族としていてもらった。



 ただ一つ問題があった。ジーマが来たことで、かなり生活費用がかさむのだ。

 強力な魔力を持つだけあって、とにかくご飯をメチャクチャ食べる。


 しかもジーマの部屋はまだないので、当分はミルと一緒に寝ることになった。

 ドーナツの一件以来ミルが懐かれたからだ。


 とはいえ、何ヶ月も同じ部屋はちょっと嫌だ。むさ苦しいことこの上ない。

 シュリアはそのうち増築工事をして部屋を作ろうかと考えている。


「今のままじゃ増築費用が足りないわね。だいたいジーマの分の生活費がこんなに増えるのは想定外だったから、サドラからの補助金もカツカツだし」

 家計簿を見ながらため息をついている。


 ジーマは自分のせいで生活費が削られていると気づき、気の毒なくらい気落ちしている。


 シュリアは少し考え込むと、また3人の想像してない言葉を放った。

「3人ともヒマでしょ?ならバイトしてきなさい」


 ミル、スライム、ジーマは同じ顔をして呆気に取られる。

 アルバイトか、前世では最後まで避けてきた道だ…

 正直めんどくさい…


「バイトって、近くにバイトできるところってここしかないんですけど…」


「サドラまで行ったらなにかしらあるでしょう」


 シュリアは公道の工事中だということをお忘れか…!?

「ジーマは飛んでいけるでしょ?ミルもジーマに飛行魔法教わりなさい」


 簡単にいうな!まだ魔力流動もマスターできてないのに…

 ジーマはなにも言わないが、面倒くさそうな顔だ。


「じ、ジーマ、飛行って簡単なのか?」

「うむ、簡単ですぞ?」


 …おい、そこは難しいって言ってシュリアに抵抗することだろ!

 目で訴えたが伝わらなかったようだ。


 スライムは飛べないから家に残って手伝いをするらしい。だから完全に他人事だ。


 くそう、どうやらミルの味方はいないようだ、有無を言わさず飛行修行及びサドラでのアルバイトが決定した。


 ジーマは今日はもう遅いから明日から始めますぞ!と、なかなか気合が入っている。


 はぁ…やっぱりやるのか



 まあ…飛行魔法はどのみち、手に入れたい力ではあったけど?

 むしろ、そうと決まれば結構乗り気だけど?

 いや、かなり楽しみだけど?

 つまり何だかんだ言っておいてあれだが、ウィンウィンだ。



 ん?そもそもジーマは教えるの得意なのか?

 話聞く感じだと、アイツもあんまり弟子持つタイプではなさそうだったけど…


 まあ、いいか、細かいことは…

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