シュリア失踪
目を覚ますといつもより強い日差しが窓から差し込んできている。
ポカポカ陽気が心地がいいなぁと呑気に起き上がったのだが、ミルは今の時刻を確認して青い顔で焦り始める。
8時…ヤバイ…
1時間も寝坊した…
シュリアに殺される…
あれ、でもなんでシュリアは起こしに来ないんだろう?
隣の部屋のスライムの様子を見に行く。
やっぱり…スライムも絶賛爆睡中だ。
「スライム!おきて、8時だよ!」
スライムはボヤンと目を開けると、その言葉の意味を理解したのか慌ててベッドを飛び出る。
「ヤバイ!シュリアにおこられる!」
ミルと同じようなことを言いながら猛スピードで身支度を済ませる。寝癖は直しきれなかった様子。
昨日のことはとりあえず忘れて、2人で急いでドタドタと下に降りていく。
どこにもシュリアがいない、台所にもリビングにも、店にもいない。
こんなこと今までなかった。
出かけるならシュリアは置き手紙くらいしていくだろう。
考える2人にしばらく沈黙が流れる。
「怒って出て行っちゃったのかな…」
スライムが半泣きでそんなことをいいだす。
「僕が弱かったからいやになったのかな…」
昨日の一件を掘り起こしはじめた。
おいおい、病み期かよ…
まあ、やっぱ一晩寝ただけでは忘れてくれないよね…
「それは絶対関係ないと思うよ、だってスライム剣うまかったもん!」
「そう?うーん、でも…」と、スライムはまだメンタル養生中らしい。
シュリアは失踪、スライムはメンヘラ化、やれやれ心のやり場に困るミル。
どうしてこうなるの!?
「と、とにかく2人で近くを探してみよう」
そうスライムに提案して、二手に分かれてシュリアを捜索することになった。
何かあったら魔石越しに連絡を取ることにして、ミルは北、スライムは南を探す。
ちなみに魔石でシュリアに念波を送ってみても応答はなかった。
周辺に増えた魔物を警戒して、2人とも真剣を装備していくことにした。
さすがに2回も襲われたので学習したのだ。これで少々の魔物になら対応できるだろう。
そして互いの幸運を祈って、一斉に二手に散る。
南の道無き草むらを掻き分けてスライムが進んで行く。スライムの身長では到底辺りを見渡すことはできないが、魔物は今のところ近くにはいないような気がする。
それでも、前に剣を構えていつでも対応できるように警戒は緩めない。
しばらく進んで声をかけながら捜索したが、魔物もシュリアもなんの気配もしない。
たぶんこっちには来てないかな…
そう判断し、魔石を取り出してミルに「こっちはいないみたいだよ」と連絡を入れる。
「…」
返答がない。
「もしもし、ミル?」
「…」
やっぱり、ミルは反応しない。ミルなら魔力感知力が高いから連絡に絶対気づくはずなのに。
まさか、何があったのか!
まさか魔物が!
悪い予感がしたスライムは来た道を急いで引きかえす事にした。
スライムの体ではスピードは出ないが、それでも懸命に足を動かす。
シュリアがいなくなったのに、ミルまでいなくなったら独りぼっちだ。そんなのイヤだ!
ミルは大切なトモダチなんだ!
ぼくが行っても力になれないかもしれないけど…
いつのまにか涙を流していたが、なんとか堪えて走り続けた。
そんなアツい想いを受けているとも知らないミルは、スライムの想像どおり、いや、それよりもっとヤバい状況に陥っていた。
ミルはスライムと分かれてから北の草原を抜け、小さい湖のほとりまで来ていた。
途中で魔物が数匹現れたが、スライム直伝の剣術で圧倒した。まあ、Gランクの奴だったから勝てたんだけど。
うーん、見た感じシュリアはどこにもいない。
やっぱり近くにはいないのかな、考えてみれば、高速で空飛べるわけだし近くに限定して探すのは意味なかったかもな…
そう思いながら、半ば諦め気味に湖に沿って歩き始めた時だった。
静かな湖の水面に突如、黒色の魔法陣が出現した。それもデカイ!
そこを中心に波が起こり、その一帯は嵐のような風が吹き始めた。
ミルは反射的に剣を抜いて警戒し、解析スキルで魔法陣を観察した。
しかし妨害念波が生じているのか、詳しく正体が読み取れない。わかったのは、魔法陣の中から禍々しいほどに凶悪な魔力が漏れ出ていることだけだ。
正体はわからないが、“とにかくその場から逃げろ”と脳内で危険信号が鳴り響く。
ミルはダッシュで魔法陣がある湖から離れ、草原に駆け抜けてゆく。
そのはずだった。
草原に身を隠そうと無我夢中で走っていると、何もないところで激しくぶつかって転倒した。
なんだ…?なにかにぶつかった!?
目の前に手を伸ばすと、どうやら透明な壁があるみたいだ。
「解析!」
判明したのは、湖を中心に直径1キロ規模の結界が発生していること。
ミルの力では解除どうこうできるレベルではないようだ。
完全に囲われた、なんだよ、俺が何したってゆうんだ!?
全く理解が追いつかないぞ…
そうして、その結界を生み出した張本人であろうナニかが、ミルの後ろの湖の魔法陣から強烈なオーラと共にゆっくりと姿を現した。
先程感じたのとは比べ物にならないほど、悪意に満ちたオーラ。ヘルメアイーグルに対峙した時と同様に、ミルの体は恐怖で硬直してしまった。
体がふるえる…振り返ることもできない。まずい、これ、殺される!
正直、めちゃくちゃテンパった。
だがミルはこんな時にも冷静さを取り戻せるという、超絶都合のいい特技がある。
たしか、魔法教本でこうゆう時の対処法を読んだな…
圧倒的な魔力に当てられると、気圧されて動けなくなる。その対策は………
魔力流動で体をガードするバリアを形成すること!
そうだ、思い出したぞ、勉強しててよかったぜ。
さっそくミルは魔力を意図的に薄く膜状に形成し、体を覆うように巡らせた。10日の修行の甲斐あって、すんなりとバリアの形成に成功した。
ほんとは10日で習得できるような簡単な技術じゃないらしいけど、細かいことは気にしない。できたからよし!
そうすると後ろの魔力がミルの体に突き刺さるような感覚が消え失せて、自然と体の震えと硬直もなくなった。
「やったぜ!」
…いや、全然やったぜじゃない。窮地に立たされている現状は変わらないじゃないか!
後ろを振り向くのが怖すぎる。後ろにはどんな魔物が…
その気配は一歩、また一歩と迫ってくる。
やっぱり俺、ここで死ぬんじゃない?
見なくてもわかる。勝てる相手じゃない。
だってこれ、目の前の草原、邪悪な魔力を浴びてどんどん黒ずんで枯れていってるんですけど…
俺バリアしてなかったら既にミイラにされてたんじゃない?ホントに危なかった…
いやでも、振り向かなければ何もわからないまま殺される。それだけはイヤだ。
死ぬならせめて強力な敵キャラの姿を目に焼き付けてから死にたい。ゴリゴリにゴツくて強力な装備、凶悪だけどカッコいい見た目。
悪役、それは全ての男のロマンだ。
俺が夢にまで見たファンタジー生活、その強敵と対峙して全力を尽くし、華々しく散ろう。
「いざ、勝負!」
ミルが腹をくくって、そのバケモノがいる方向に振り向く。
そこにいたのは、恐ろしい風貌の怪物!
というわけではなかった。
目に入ったのは、かわいい黒い小ヤギ。
ヤギはすごいこっちを見ている。
いやいや、そんなわけないじゃん。
オーラの凶悪さからして、
黒く大きな筋肉質な体に太い二本の角、鬼のような強面に紅く光る眼光、体は棘のついた甲で覆われ、太刀を腰に携えて全身に返り血を浴びている。
こんなのを想像していた。
あれ?俺の勘違いかな?
こんなつぶらな瞳、こんな細い体、こんなにも丸っこい尻尾、こうも人畜無害そうな子が草を枯らすほどの魔力を出すわけないじゃないの。
でも気のせいかなぁ、あのヤギからさっきと同じ魔力を感じる気がするんだよな…
ヤギはこっちを見て動かない。かわいい…
いや、でもどこか殺気を放ってる気もしないでもない。
やっぱこいつなのかな、あれ?パッと倒せるんじゃね?と思ってしまう。
いやいやいやいや!冷静に考えろ!
ミルは自分の頬を両手でパチーンと叩き、慎重さを取り戻した。
油断は禁物だ。ヤギを見た目で判断するなって母さんに教わった(気がする)。
結界の主はこのヤギとみて間違いないだろう。俺はコイツを倒さないとここを脱出できないわけだ。
なら、少々心が痛むが斬り捨ててしまうしかないだろう。
ミルはもう一度正面を見据えて剣を構える。ヤギは全く動く気配がない。
「よし、一撃で首を刎ねてやる」
しっかりと呼吸を整え、心身を極限に高める。
集中したミルの体運びは極めて滑らか。相手に回避する意思を持たせる前に、剣先が届くところまで距離を詰める。
ヤギはまだ反応しない。美味そうに草食べてる!?
「いや、躊躇うな俺!」
このままセオリー通りの動きで上に構えた剣を、ヤギの首めがけて一気に振り下ろす。
冷静なミルの手には一切力が入っていない。剣の重みに依存した重力のみ、最小限の力で刃は首に向かって一直線に沈んでゆく。
「刎ねた!」
と思ったのだ。剣先は確かに首を通り越して地面の寸前まで進んで静止している。
だが、手応えがない。
ヤギの首は繋がっている。
「ウソでしょ…今確かに首をとらえたはず」
一瞬困惑したが、攻撃の手は止めない。剣を切り返し、今度は下から上に向かって、ヤギの喉を切り裂くように力を込めた。
だが、振り上げられた刃に、血は一滴たりともついていない。やはり斬れない。
落ち着け俺…!よく見るんだ!
切ったはずのヤギの首を観察する。やっぱり、首は何事もなく繋がっている。
さっきから解析スキルでヤギを観察しているのだが、種族名と能力値が???と表示されているのだ。
こんなことは初めてだ。
ただ、斬った瞬間の首を観察していると、そのカラクリが判明した。
ミルが斬りつける瞬間、ヤギの体は黒い霧のような性質に変化していたのだ。
実体がないため刀の攻撃は効かない。
やっぱり可愛いだけのヤギじゃないようだ。ミルはこのヤギを完全に強敵と判断する。
くそ、剣がダメならこれでどうだ。
「シレークス!」
ヤギの顔に手をかざして、ミル唯一の魔法を放った。手から放たれた火花はヤギの顔や上半身を覆って広がり、爆竹のように小爆発を繰り返した。
まだ威力は不十分な魔法だが、直撃を食らって無傷では済まないだろう。
そう思ったのだが、爆煙が晴れて再び目に捉えたヤギの姿をみて、そうは簡単にはいかないなと思い知らされた。
ヤギは傷どころか汚れの一つもついていない。
また実体をなくして回避したのか…
ミルには他に攻撃手段がない。絶対的にヤバい。
しかしふと気付いた。
「アイツ攻撃してこなくね?」
ヤギはずっと同じ場所に立っている。攻撃の意思があるのかないのかも、よくわからない。
ミルの攻撃が通らないのは厄介だが、案外焦って勝負をつける必要はないのか…?
ミルは一旦攻撃をやめ、距離をとりなおす。そしてその油断のせいか、つい気を抜いてしまったのだ。
ヤギはミルが気を抜いたのを察知したかのように、ミルの方に歩き出す。
気づいたミルは再び警戒モードに入る。ヤギの歩みは止まらない。
ミルまであと5メートルくらいまで迫ると、ヤギは突然前足をあげて二足で立った。
剣を構えながらも目を見開いて驚く。しかし驚くのは早かった。
ヤギは二足で立ったまま周囲の魔力を取り込みはじめると、ギシギシと音を立てながら体を大きくし、瞬く間に背丈はミルの倍以上になった。
可愛かった顔は面影もない。幾本もの筋が走り、目が不気味に白く光る。
数秒前とは別者、世にも恐ろしい魔物の姿に変身したのだ。
正体を現したからだろうか、ここにきてようやくミルの解析スキルが正常に機能した。
しかし目の前の魔物の解析結果は、もしかしたらミルは知らない方が幸せだったかもしれない。
あのヤギの正体は、莫大な魔力をもつ悪魔族の中でもさらに高等で残忍とされる個体、上位悪魔。
そこらの魔物とは存在自体の格が違う。紛うことなきAランクの魔物だ。
なぜここに出現したのか、そんなことはどうでもいい。もはやミルに生き残るという選択肢はなくなった。
「運が悪すぎた、上位の悪魔にでくわすなんて…」
ミルはそう言いながら、想像通りに凶悪な悪魔の姿を目に入れることができて、ちょっと満足げな表情だ。
ここまで厨二が進むと、恐怖の感覚がマヒするのだろうか…
足搔けるとこまで足掻いてやる。一撃でも攻撃を食らわせられたら上出来だ!
今度こそ覚悟を決めて、討ち死に覚悟で悪魔に突進した。
心は燃えている。しかし剣は冷静。
的確に悪魔の隙をついて斬りかかる。しかし当然のようにかわされる。
それだけならまだしも、悪魔はミルの剣の刃を左手で握ると、そのまま握力で捻り折った。
大した剣ではないが、刃を握って血が出ていない。どんだけ強靭な皮膚してるんだ…?
武器を失ったミルはもはや戦闘不能に等しい。その機を伺ってか、ニヤリと笑みを浮かべた悪魔が反撃を開始した。
目にも留まらぬ速さで右の手をミルの胴に押し当てると、強烈な衝撃を放つ。これもおそらく本気ではない。
それでもミルは一瞬意識が飛んだ。そのまま衝撃波とともに勢いよく後方に吹き飛ばされ、結界にぶち当たって止まった。
この一撃は、ミルの足を立てなくするのには充分な威力だった。
悪魔はジリジリと迫る。
さっきは余裕があったから魔力を腹に集中させてダメージを和らげた。しかし次はそうはいかない。
次食らったら、確実に死ぬ。
ミルはもう、生き延びることはないだろうと悟っている。
「シュリア、スライム、こんな俺を拾ってくれてありがとう…
短いけど楽しい人生だったよ…」
最後にスライムと仲直りしたかったな…
徐々に意識が朦朧とする。さっきのダメージが後から効いてきているのだ。
悪魔の足が近づくのを茫然と眺めることしかできない。
いよいよ最期だ…
悪魔から攻撃の意思を感じた。殺気がビンビンと伝わってくる。
薄っすらと目を開けているミルは、その悪魔の後ろに青いなにかが動いているのが見えた。
「なんだ…?」
「メーーン」
次の瞬間、威勢のいい掛け声と物凄い音と衝撃とともに、悪魔の膝が地面についた。
何事?
悪魔の頭が真っ二つにパカンと割れて、黒っぽい血のようなものがそこから止めどなく溢れている。
悪魔は断末魔のような叫びを残して、黒い霧となって消えたようだ。
ミルはぼうっと何が起きているのか理解しようとした。でも頭が回らない。ねむたい。
“ミル!ねえミル!”
そんな声が遠くに聞こえる。
そのまま気を失ってしまった。
そして気づけばいつものベッドで朝を迎えていた。
また一段と強い日差しが窓から降り注いでいる。
「はっ!!??
なにが起きた?悪魔は?
俺は死んだのか?だとすればまた女神様がどこかにいるはず…
ん?ここは…俺の部屋?
じゃあ生きてたのか、どうやって助かったんだっけ…
青い何かが現れて悪魔が2つに割れて、そこからどうなったっけ…?
昨日の記憶が断片的にしか無い。
何気なく時計を見ると9時だ。
「ヤバい!今日こそシュリアに殺される!」
慌てて身支度を整えて、下の階へとドタバタと降りる。
その途中で、そういえばシュリアは帰ってきたんだろうか、スライムは無事だったんだろうかなど、昨日の記憶がぼんやりと蘇る。
台所にもリビングにもシュリアはいない。スライムの姿も見えない。
「どうなってるんだ…?」
とりあえず外に出てみる。
そこには意外なヤツがいた。
黒く筋肉質な体、鋭い目、頭にヤギの角が生えている。
「おまえ!確か昨日の悪魔じゃないか!」
悪魔はこちらに気づくと、驚いたように答える。
「む、わかったか!少しばかり姿が変わったはずなのだけど…」
ほーう、たしかに、少しシュッとして男前になったような…
そんなことどうだっていい!!
「なんでお前がいるんだ!お前、昨日俺を半殺しにしただろ!」
ふむ、なんのことやら?って顔をしてやがる。
頭にきた!
「シュリアとスライムをどこにやった!」
流石のミルもキレながら質問する。
悪魔は困った様子で答える。
「はぁー、なんか勘違いして無いか?」
「オレはシュリア様の部下だぞ?」
絶対ウソだ、シュリアはこんな悪趣味じゃない。可愛いものが好きなのだ(推測)。
イマイチ信じてないミルに、これを言えば信じて貰えるだろうと思って教える。
「シュリア様とスライム君はサドラに飛んでいかれた。オマエの折れてしまった剣を新調しに行くとか仰ってたぞ」
サドラか、じゃあシュリアが帰ってきたらコイツのこと信じるとしよう。なんか胡散臭いんだよな、コイツ。
てゆうか剣折ったのオマエな!オマエが弁償しろ!
どうゆう経緯でこの悪魔を従えたのか知らないが、シュリアならやりかねない。
しばらく待つことにした。悪魔が気を遣ってお茶を淹れてくれたのでしばしティーブレイクと洒落込む。
…
気まずい。空気感がまだ掴めない。
なんで殺されかけたヤツにお茶を淹れてもらってるんだ。解析で見たところ毒は入っていなさそうだ。
てかコイツはなに考えてるんだ?
「あっっ!お前それ!シュリア様が楽しみにとってたドーナツではないか!
あーあー、あとで怒られるー(笑)」
なっ!
しまった!つい悪魔に気を取られて、シュリアのドーナツ食べちゃった…
どうしよう、どうしよう!
悪魔よりもシュリアの帰還が怖い…
「あ、悪魔、なんか魔法かなんかでどうにかならないか!?!」
首を横に振られた、ダメだ。
あれ、そういえばコイツ、シュリアのドーナツのこと知ってるってことはやっぱりシュリアの部下なのか…
じゃあ悪魔が脅威では無いことはわかったけど、こんな形でわかりたくはなかった。
そうだ!俺の方がシュリアの信頼を得ているに違いない!
悪魔が食べちゃったことにすれば…
ミルが悪い事を考えていると、悪魔が疑り深い目で見てくる。
「よもや、良からぬ事を考えているのではあるまいな!
冗談じゃないぞ!オレまだ新米だからシュリア様に殺されるかもしれんのだぞ!」
やっぱり、コイツ新入りだ。
「後輩に責任を押し付けるのはどうなんだ!ブラックだ!このオニ!」
悪魔にオニ呼ばわりされる筋合いはないが、まあ長い付き合いになるならいざこざは起こさない方がいいか。
「わかった!じゃあ2人で食べたってことにしよう!」
「えぇっ!コイツ全然わかってねぇ!」
悪魔とミルの醜い口論はダラダラと続き、昼を過ぎた。
シュリアはまだかな、帰ってきてほしいような欲しくないような…
そう思ってたら、家の前の空き地に隕石が落ちた。
悪魔は何事か!と驚いて外に出る。ミルは家の中で洗い物をしていたが、だいたいなにが起きたのか想像ついていた。
「おいミル君、シュリア様のお帰りだぞ!」
悪魔が大声でミルを呼んだ。
やっぱり。シュリアは飛行速度が速すぎて着陸時の衝撃波が隕石並みなのだ。
ミルも外に出て出迎える。
すげぇ、ミステリーサークルみたいな円が出来てる…
その中心に立つのはシュリア。そしてシュリアの腕に抱えられているスライムは気絶しているようだ。
「あっ、ミル、無事目を覚ましたのね、おはよう」
「お、おはよう…いやシュリア、どこ行ってたの!」
「あれ?ジーマに伝言してたはずよ?」
ジーマ?もしかしてこの悪魔のことか?
「ごめん。ちょっと分からないことが多すぎて…まずこの悪魔は?」
シュリアはあんまり言いたくなさそうだ。
いや!言ってもらおう!シュリアには説明責任があるぞ!
シュリアの失踪と悪魔“ジーマ”の関係、全部吐いてもらおう。
「まあ、家の中でティーブレイクがてらゆっくり話しましょう。ちょうどスライムも寝ちゃったみたいだし。」
寝ちゃったってアンタね…
いや!今なんて言った!?ティーブレイク!?
おい、シュリア、ドーナツドーナツって口ずさみながら家に入っていくな!
お目当てのドーナツは俺の腹の中だ!
ミルが青ざめているのをジーマは嬉しそうにながめている。やっぱり悪魔だ。
テーブルについてミルはソワソワしている。シュリアに問い詰めることなんてもはや頭にない。
ジーマが紅茶を淹れて戻ってくると、シュリアが禁断の一言を放つ。
「そうだ、私のドーナツももってきてくれるかしら?」
場が凍りつく。
ミルは目が泳いで焦点が定まらない。
ジーマはまた嬉しそうに、あの真実を述べる。
「ミル君が食べちゃいました!」
ミルとシュリアの目があった。
なんの感情も感じさせない目を向けてくる。
よし、先手必勝!
「ごめんなさい!」
頭をテーブルに打ち付けて謝る。
なにも、いわない…?
なぐられる?
数秒の無音空間を破って、シュリアがボソッと呟く。
「そう、残念…」
「そうね、かわりにジーマにサドラまで買いに走ってもらいましょうか」
セーフ!シュリアが怒らない、どうなってるの?
「あっ、ジーマ、ドンマイ…」
ジーマはシュリアの言葉に驚愕して顎がはずれそうになっている。言葉も出ない…
「コノヤロウ、ミル!」とキッ!と睨んだが、シュリアの命令だし仕方なく、寂しそうにトボトボ出かけた。
「心配ないわ、ジーマも空飛んでいけるから」
そうゆう問題?
まあ、なんにせよ助かった!
そしてミルとシュリア2人になった。
「邪魔者はいなくなったわね、いいわ、話しましょう」
いよいよシュリアがこの2日間の全貌を話し始める。