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厨二病の真骨頂は転生後  作者: 琴熊
3/12

スライムと魔女のシュリア

 サバイバル3日目。


 草と水だけで生き延び、食事の他の時間はひたすらに瞑想する。

 たまにそのまま居眠る。

 かなり退屈な絵面だな。



 水分が自由に手に入るのは救いであった。

 意外と水があればなんとか生きていけるようだ。

 草も、味には飽きたが腹は満たせる。


 思っていた異世界ライフとはかけ離れた修行僧のような生活を送っている。

 うん、質素謙虚は俺のいいところだ、俺らしい生活。



 今日も人は来ないか。

 流石の我慢強い俺もそろそろキツくなってきたぞ。

 とはいえ、瞑想を続けたおかげで正常な思考を維持できていたのは幸いだった。



 そういえば、瞑想をしながら周囲の空気の流れを感じていると、よくわからないけど魔力っぽいのが辺りに漂っている感じがした。


 その感じを追って集中していると、また頭に声が響いた。


「魔力操作が可能となり、魔法が使用可能となりました」

 といった具合で、あっさり夢だった魔法が使えるようになったのだ。



 俺もその時ばかりは流石にテンションが上がり、手の先に力を込めて、魔力っぽいのを放つ感じで「はぁーっ!」とやってみた。



 結論から言うと、何も出なかった。

 洞窟内に自分の声が響いて恥ずかしかったのだった。


 たぶん、具体的に魔法を知らないからだろうな…

 ステータス画面も「魔法 使用可能(未取得)」になっている。


 それこそ先生とかに習わないといけないんじゃないか?

 あーあ、ちょっと期待したのになぁ


 とまあガッカリはしたが、瞑想がこの世界では有効な手段だというのは証明されたな。



 魔法が使えないとなると、やっぱり状況は変わらない。

 引き続き、人を待つしかないのだ。



 そんなこんなで今日も夕方になった。

 諦めてまた食料の草を採取しにいくことにした。


 草を刈り取ろうと草むらに近づくと、何かが奥で動いた。

 風かと思ったが、そんな様子ではない。

 まさか、生き物がいるのか?


 草が揺れているその辺りに近づき、背の高い草をかきわけた。


 すると、見たことない薄青っぽい丸いモノがフヨフヨと動いている。


 服を着ているが、一目でその正体がわかった。

「スライム?」


 そう声を出すと、その丸い物体は驚いたのか飛び跳ねて体を波打たせる。


 恐る恐るこちらを振り返るソイツ。

 ペンで書いたような顔だが、一応目と口はある。

 服の手足の部分から手足らしき突起を無理やり出している。


 初めてみた生命体、しかもファンタジーの住人スライムだ。

 俺の興奮は最高潮に達した。

 たまらず、タックルするような姿勢で抱きついた。


 スライムは驚いて避けようとしたが避けきれず後ろにすっ飛ばされ、ガッシリとホールドされた体を必死にジタバタとくねらせるて脱出を試みる。

 でもうまく抜け出せなくて、すぐに諦めてぷるんと身を委ねてきた。


 俺も能力値低いとはいえスライムよりは力が強いようだ。ちょっと安心。



「あ、あの…」

 恐る恐るスライムが喋った。

 スライムはてっきり喋らないものと思っていた。

 少し驚く。


「い、いのちだけは…」

 と言ってふるえている。

「すまん、つい、久しぶりに人に会えたから…」

 すぐ降ろしてやる。

 よく考えたら人じゃないけど、そんなの関係ないのだ。

 ずっと1人で瞑想してたもんだから、スライム登場で一気に寂しさが癒された。



 スライムもしばらく戸惑っていたがこちらの状況を理解したのか震えが止まって、俺の顔をキョトンとした顔で見上げている。


 俺もスライムをジッと見る。解析のためだ。

 ふむふむ、名はそのままスライムだな。

 スキルは自己再生と吸収か、平凡だな。

 所属は野生かな…え、野生じゃない。

 魔女の家?


「おまえ、魔女の部下なのか?」

 スライムは驚いた顔で「なんでわかったの?」と聞いてくる。

 当然の疑問だ。


 こちらのスキルをバラすのはあまり良くないだろうから「勘で」と誤魔化した。


 スライムはそっかぁと納得してる。

 なかなかのおバカのようだ。


 スライムも俺のことを知りたそうな目をしているので、ここまでの冒険を語った。

 スライムは反応がいい、別に武勇伝を話していたわけでもないが気分が良かった。

 特に飲み水の生成に成功した件は食い入るように聞いてくれた。


 コイツ、なかなかいいヤツじゃないか。


 すると、「ぼくのマスターならいろいろ教えてくれると思うよ!ちょっぴり怖いけどいい人だよ!うちに来ない?」

 と提案してきた。


 大変ありがたい。


 魔女とはどんな人物なのか、鍋で煮込み殺されたりしないだろうか?

 若干不安だが、このスライムのユルさを見てるとなんだか大丈夫な気がしてくる。


 ここで人を待ったり得体の知れない村に訪れるよりは、スライムの紹介で魔女に会う方が何かとストーリーが展開する可能性もありそうだ。


「スライム、その魔女のやらに合わせてくれるか?」


 スライムは親指を立てて「まかしといて!」と胸を張って案内してくれた。

 まあ親指も胸もないのだが。


 スライムはなぜか二本足で歩いていく。

 服から出た足らしき出っ張りを器用に動かして歩いている。

 魔女の部下だからこんな格好してるのかな?



 道中スライムから、この世界の仕組みついて少し聞くことができた。


 人には商人や貴族などの他に、魔法使いや魔女、魔術師、剣士や魔物使いなどの職業があり、各人がギルドに所属している。

 それぞれの地区にある支部からクエストを受けて報酬を得て暮らしている。

 成績により英雄、勇者、賢者などの称号が与えられ、昇格すれば王家に仕えることもできるようになる。



 町のはずれには野生の魔物や集落を形成している魔物がいて、人を襲うものから友好的なものまで一概に特性をまとめられない。

 魔物は特殊なスキルを持っていることがあり、その中でも上位の能力を覚醒させたものや、勢力規模を拡大させたものの中から魔王と呼ばれる存在が生まれる。


 世界に数多ある王国は、自国の兵団を持ち互いに牽制し合い、ギルドを使って危険な魔物から国を守っている。



 俺は半分人間だけど、ギルドには入れるのだろうか…

 その辺りも魔女に聞いてみよう。


 ちなみにスライムは今日、魔女がギルドから受けたクエストのため、ヒリン花という貴重な薬の材料を採取しに洞窟周辺まで来ていたようだ。

 でも結局1人で見つけられなくて、日も暮れてきたから帰ろうとしていたところらしい。


 たしかにこれだけ一面に草が生えてたらわからないよな、見たところこの辺りは何百種類もの植物がランダムに生えている。

 お目当ての一種類を探すのは、困難なようだ。


 俺の解析の探知機能を使えばすぐ見つかるだろうが…


 そう思って歩いていると、なんと偶然、目の前にヒリン花が群生しているではないか。

 解析スキルが発見した。

 いや、解析を使わずとも俺にはわかる。


 白く大きな弁がついていて、優しいピンクや薄黄色に煌々と光る花びらがチューリップのように開いている。

 先っちょが丸く珠のようになっていて、この花だけ明らかに魔法植物っぽいのだ。



 スライムはぜんぜん気づいていない。

 てかこのスライム、ヒリン花どんな花なのかほんとに知ってるのか…?

 コイツのことだからクエスト頼まれて意気揚々と出発して、目当てのアイテムの情報を確認せずに来たんじゃ…


「おい、これヒリン花じゃないのか?」

 たまらず教える。


 えっ?これかな!とスライムは全く見当違いの雑草を採取しようとしている。

 やはりよく知らずに来たようだ。


 はぁ…俺が代わりに採取してやる。

 そのままそのへんのヒリン花を摘めるだけ摘んで、スライムに渡した。

 スライムは嬉しそうに、ヒリン花を受け取ると、口の中に放り込んだ。

「そうやって運べるのか、すごい便利だな」


 スライムは褒められたと思ったのか、小躍りしている。


 思いがけずスライムに恩が売れた。

 また魔女の家に歩き出す。

 スライムが歩くたびに上下左右にぷるんぷるん揺れてるのが可愛らしい。



 そうして歩くこと1時間くらいだろうか、草原を抜けた。


 すると、一軒の家が見えてきた。

 見た感じ綺麗な木造二階建て。

 家の造りは日本のそれとは全く違い、まさに童話に出てきそうなお家だ。

 白っぽい外壁に、丁寧に磨かれた窓、小さな煙突、丸っこくて可愛い扉。

 家の前には花壇と農園があり、どうやら自家栽培しているらしい。

 その隣には魔法道具らしきものが整然と並べられている。


 近づいていくと、扉の前に小さな看板が出ているのがみえた。【魔法具店 シュリア】


 へぇ、店を営業してるのか。

 商品らしきものが店の外にも陳列されている。

 思ったより中に入りやすそうな雰囲気だ。


「ついた、ここだよマスターのおうち。どうぞどうぞ!」


 スライムがそう言って、先に家の中に入っていく。

 とりあえず慎重に、様子を見てから入ろう。



 すると次の瞬間、今入っていったはずのスライムがとんでもない勢いで扉を突き破ってすっ飛んできた。

 みると、涙目になっている。


『あんたは!クエスト内容もちゃんと確認せずに出ていっただろ!今まで何してたの!』


 家の中から怒号が響く。

 おそらく魔女だろう。

 思った通り、このスライムはヒリン花の絵も確認せずにクエストに出かけたらしい。


 それにしても、さすがは異世界の上下関係。

 こんなゲンコツくらわせたら前世ならパワハラどころか、暴行罪に問われるぞ。


 スライムのほっぺたが赤く腫れ上がっている。

 ドンマイ、スライム…



 心配していると、魔女らしき華奢な女性が家の中から出てきた。


 かなり若い、20歳くらいだろうか?

 ブロンドのストレートな髪が腰くらいまであり、つばの広い帽子を浅く被っている。

 黒を基調とした個性的なワンピースに、派手めなタイツ。右目の下に逆三角的なマークが入っている。

わりと想像通りの綺麗な魔女って感じだ。


 それにしても異世界の人間に始めて遭遇したけど、こんなに美人なのか…

 前世なら余裕でミスコン取れるんじゃね?

 こんな鬼人の如き剣幕でなかったらもっと綺麗なのに…


 両手の拳を握りしめて、眉間にシワを寄せてスライムに迫る。

 えげつない魔力を感じる。

 しかし俺に気づいたようで、一旦攻撃を中断した。


「この人は?」

 声色も表情も落ち着かせてスライムに尋ねる。

 やっぱり落ち着いたら、この人とてつもなく可愛いな。


「クエストを助けてくれたんです、この人のおかげでヒリン花いっぱい手に入りました!」

 スライムは取り繕うように説明をはじめた。


 俺も恐る恐る、「はじめましてー、お綺麗な方ですねー」とご機嫌伺いをしてみる。


 するとスライムがおもむろにヒリン花を取り出しまじめた。いやドヤ顔してる場合じゃないぞー、怒られてるんだぞー


「すごい、こんなにたくさん…」

 魔女はちょっと引いている。しかしスライムのことはとりあえず許してくれそうだ。


 そして俺の方を振りむいた魔女は、「何者なのかしら?」と不思議そうな顔して聞いてきたので、とりあえず旅の者という事にしておいた。


 すると、

「そう、お礼しなくてはね」と言ってとりあえず家の中に入れてもらった。


 中はやはり販売店のようだ。

 家の内装も素晴らしい。

 高価そうな防具や杖などの魔法道具が壁の棚にズラッと陳列されている。

 二階に階段が続いている。上には居住スペースがあるんだろうか。


 見たこともない観葉植物が窓のそばに置かれて活き活きと育っている。

 大きな丸い光の玉が天井付近に浮遊している。おそらくあれが照明だろう。

 まさに魔法使いの家って感じだ。


 店内に客はいなかった。

 この時期はこの近辺に来ても収穫がないから、客足が遠のくらしい。

 だが半年後には近くの草むらに珍しい植物が芽吹くので、一斉に冒険者の客が押し寄せるらしい。


 そうゆうわけで伽藍とした店内には、机に案内されて席に着いた俺と魔女、そして怒られ終えて半泣きでお茶の用意をさせられているスライムの3人だけだ。


 すぐにお茶とお菓子が出てきた。

 ちゃっかり自分の分のお茶も入れてきたスライムも机に着く。

 そして俺もお菓子をいただこうと何の気なしに手を伸ばした。

「ん?お茶とお菓子!」


 俺はこの数日の環境を振り返った。

 一歩間違えば体の内側を溶かされる水、食べても食べても尽きない草原の葉っぱ。

 この世界でまともな食べ物を始めて見たんじゃないか!?


 そう考えながら、早速一袋めの菓子を食べ始める。

「美味い美味い!」それ以外の言葉が出ない。

 改めて普通の生活の有り難みに気づく。

 次から次へと手が出る。


 魔女は目の前で人の家に入るなり礼節わきまえずに菓子を貪りだす子供を見て、何を思っただろう。

 俺にはそんなこと気にする余裕もない。


「あんた、どんだけ腹をすかしてたのよ…」

 魔女は見かねて家の奥に入っていき、しばらくして何か皿を持って戻ってきた。

「昨日の夜ごはんの残りだけど、よかったらどうぞ」


 なんて優しい人、これがこの世界の魔女か!

 感動のあまり涙を流す。

 そしていただきますと言いながら一口めを頬張った。

 ビーフシチューだ!温かい。

 心の奥まであったまる…


 一気に口にかきこんで、ペロッと一皿食べてしまった。

「ありがとう、ごちそう様でした!!」


 魔女は口を結んで呆れているが、どこか優しさを帯びた顔をしている。

 横でスライムもお腹を鳴らしている。

 魔女も俺がシチューを食べるのを見てお腹がすいきたのだろう。


「仕方ない…このまま夜ご飯にしましょうか。旅人さんもよかったらご一緒に」

 やれやれといった感じでまた台所に戻る魔女。


 数分待っていると、もう料理を持って戻ってきた。スライムも運ぶのを手伝っている。


「もう出来たんですか?はやいですね」

「ま、まあね…魔法を使えばこんなもんよ」


 いきなり褒めたからか、魔女は嬉しそうに顔を赤くしている。

 しかし必死に平常でいようとしている。

 褒められるのに慣れてないのかな?


 料理が机に並べられていく。

 品数が多いなぁ、サラダや肉料理、野菜炒め、スープ、焼き魚、さらにはデザートまであるらしい。


「わぁ!いつもこんな豪華なごはんしてくれないのにー」

 スライムが余計なことを言って、魔女が横目で睨む。

 どうやら彼女なりに、歓迎してくれているようだ。


「ありがとうございます、こんな豪勢な食事を」

「気にしないで、今日はたまたま気分が乗ったからたくさん作っちゃっただけよ」

 おや?ツンデレってやつか?可愛いとかあるじゃないか。


「そのかわりあなたの話もじっくり聞かせてもらおうかしら?」

 机に肘を乗せて、前のめりになって俺の方を見てくる。


 お、やっぱそうくるよな。

 でもスキルのことは今は黙っておこう。


 食事をしながら、俺のことで話せることを話した。

 転生したところからここまでの冒険を、ざっくりとだ。


 転生はよほど珍しいのか、2人とも少し驚いているようだ。

 いやスライム、おまえにはさっき話しただろ…何驚いてんだ…



 話し終えると、魔女は俺にかなり興味を持ってくれた。


「なるほどね、突然のことで大変だったでしょう。

 転生者はたまに現れるらしいけれど、半妖で産まれるなんて聞いたことないわね」


 詳しく聞くと、半妖とは魔族と人間を親に持つ種族であり、通常は親がいなければ存在し得ないらしい。

この世界では単純に〈ハーフ〉と呼ばれている。

 とにかく、自然発生のハーフというのは理に反している存在なのだ。


 気になっていたことを聞いてみる。

「ハーフってギルドに登録したりできるんですかね…?」


 魔女は少し考え込んで、はじめる。

「ギルドは人間の血を引いていれば誰でも登録できると聞くわ、あなたも問題なく受験できるはずよ。

 ただ、出身地が不明というのは書類に引っかかるかも…」


 やっぱり、自然発生の俺は魔物寄りの扱いなのかな…




 落胆する平野を見て、魔女は何が考える仕草をした。

 そして唐突に提案した。


「あなた、ここで働かない?部屋は一つ余ってるから」


 あまりに急展開で少し戸惑う。


「えっ、でも俺今日会ったばっかですよ?いいんですか?」


 本当ならこれ以上ないありがたい話だ。

 ここなら最低限は生活が保障される。

 それに住所が決まればギルドの書類もなんとかなるかもしれない。


「ええ、あなたなかなか気に入ったし。

 さっきスライムを手伝ってくれたみたいだしお礼も兼ねて」

 やはり優しい魔女だ。

 今まで無表情で冷たい感じだったけど、やっと微笑んでくれた。

平野はその笑みの可愛らしさにズキュンと心射抜かれた。


「仕事内容は、家事とクエストの手伝い。時には危険なこともあるから身の安全は保証しきれないわよ。

 報酬は住居と食事、頑張ってくれたらボーナスあげる」


 充分な条件だ。もはや断る理由もない。

「ぜひとも、よろしくお願いします!」


 魔女が頷いて何か言おうとしたが、スライムが「やったー、よろしくね!」とか言って遮る。

 とりあえず2人とも歓迎してくれるようだ。



「そういえば自己紹介してなかったかしら、私はギルド所属の魔女、シュリア・アレリードよ。スライムと一緒にここで魔法道具の店も営んでる。あなた名前は?」


「それが…名前がないんです」

 シュリアは困った表情をしている。


「名無しはギルドに登録できないの。私が名を付けてあげることはできるけど、それでもいいかしら?」


「ほかに付けてくれそうな人もいないし、お願いします」

 即答した。


「お安い御用よ、名付けには魔力を消費するの、一晩ちょうだいね」


 そう言ってるうちに夕飯を終えると、食後のデザートにプリンが出てきた。

 スライムがはしゃいで皿からこぼしそうになる。

 また怒られるぞと思いながらシュリアを見ると、プリンを食べながら上の空になってる。


 もしかして名前考えてくれてるのかな、すごく真剣な表情だ。


 プリンを食べ終えると、シュリアは俺を寝室に案内してくれた。

 そして、早めに部屋に籠るからと言って後のことをスライムに丸投げした。


 スライムがシャワーとかトイレの場所を教えてくれて、ひと通り家の中は見て回った。

 外から見るよりも広く感じるな。


 シャワーを浴びに行くと、ここで初めて鏡で自分の姿を見ることができた。


 見覚えのある顔、髪は少し乱れているが、俺のこだわり通りにカットされた髪型だ。

 どうやら前世の容姿のまま子供になったみたいだ。

 どこぞの名探偵と同じような状態だな。


 こころなしか前世より男前になってる気がするな。アイドルの卵って感じの顔だ。

 自画自賛だって?そのとおり、俺はナルシストだよ。


 知らない人が見たら半妖だなんて思わないだろうな、外見はただのイケメンの人間だ。

 これならギルドも受けられそうだ。


 一安心してシャワーを浴びる。こうゆう一つ一つのことが今は感動の対象だ。

 背中にかかるお湯が気持ち良すぎてたまらず声が漏れる。



 髪を乾かしてベッドに入ると、スライムがノックして寝室に入ってきた。

「一緒に寝よー」

 頭に毛糸の帽子をかぶってパジャマに着替えている。


「いいぞ、おいで」

 ベッドを半分空けてやった。

 すぐさまスライムが潜り込んでくる。


 コイツを抱き枕にしてすぐ寝ようと思っていたのだが、修学旅行の夜みたいなノリで昔話やら好きな娘のことやら話に花を咲かしてつい夜更かししてしまった。


 スライムとシュリアとの出会いや名付けられた時の話も聞いた。

 シュリアがまだ半人前の頃、旅先で魔物狩りに遭っていたスライムを気まぐれで助けたらしい。

 スライムはすっかり懐いてシュリアについてここまできたとか。


 名付けの時は一晩夜なべして考えに考えて、結局良いのが思いつかずそのままスライムと名付けられたとか…

 意外と愛が深いんだな、シュリアは。


 俺の名はどうなるだろう。少し心配になってきたぞ。

 結局思いつかず半妖のハンヨーとかにされるんじゃないだろうな…


 そんな話をしているうちにスライムがだんだん支離滅裂な発言をはじめた。

 眠たそうだな。


「もう寝なさい」と言ったら、一瞬で落ちたようだ。

 もともと柔らかかった体がさらに力が抜けてふにょふにょになった。


 久しぶりの暖かいベッド、横には素晴らしい感触の生き物、俺もどっと疲れが出て力が抜けてくる。

 そうして、俺は知らない間に眠っていた。

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