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厨二病の真骨頂は転生後  作者: 琴熊
10/12

覚醒

 魔法は古来より悪魔や魔物の力であり、本来は人間が持ち合わせるものではない。

 つまりは魔法使いになるということは、人間を辞めて魔物の世界に片足を踏み入れるほど重大な意味を持つ。


 もっとも、資質に目覚めて職業にまで昇華できるのなんてほんの一握りの天才だけだから、その本質を理解している者は数える程度だろう。


 憧れや軽い覚悟で魔法使いを目指す者はごまんといるが、魔法使いも楽じゃないのだ。


 そう、そんな人々がよく勘違いしていることがある。

「箒に乗ったら空飛べるんでしょ?」



 んなわけないだろ。あの箒は飛行機でもドローンでもないんだぞ?

 ただ少し魔力を飛行力に変換する補助ができるように加工された、ただの箒だ。


 魔法使いが空を飛んでるのは、実は自分の魔力操作によるものだ。シュリアやジーマも自力で飛行しているし。

 ただ、あまりにも2人が当然のように飛ぶから「あれ?簡単なのかな?」と思いがちだが、そんなんとんでもないことだ。

 自力での飛行なんて高等技術、完全に制御できる人の方が少ないだろう。


 通常飛行魔法を初めて習う時は、魔力が飛行の動力に変換されている感覚を掴むため、箒を使用するのが定説だ。

 そして熟練した後もそのまま箒を使用し続ける者も多い。だってその方が楽ちんだから!


 杖とかの魔法道具も、同じ理由でずっと使い続ける魔法使いも珍しくない。

 魔力の動かし方を誘導する魔法道具に頼るのは至極合理的だろう。


 だから最初はそれを用いて修行するのが一般的なのだ。



 なのに、ウチの師匠達ときたら…!


「魔法道具なんか甘えでしかない」


 とか言い出す始末。

 あの、一応ここ魔法道具店なんですけど?


 そんなわけでミルは魔法修行の初期段階ですら杖を持たせてもらえなかったし、当然今回の飛行修行も箒なんてどこにも用意されていない。


 オレだって何回もジーマに確認した、箒使わないの!?と。

 そしたら、

「オレ様は生まれた時から箒なしで飛んでたぜ!」


 とか訳の分からない理屈を通されて呆気なく押し負けた。

 そんな状況でジーマがなんと言ったか?!

「よし、じゃあ早速浮いてみましょう!」


 ほんとに早速だな。

 心配が的中したようだ。

 ジーマも教えるのニガテらしい…


 ミルはとりあえず言われたとおり、浮こうとする。


 シュリアの飛行を予々観察していたのでだいたいトリックはわかってる。

 要は魔力で体を包んで上に持ち上げればいいんだろ?


 ジーマが手本に浮いている。無言で…

 おい、なんか言えよ。


 仕方ない、見よう見まねでミルもやってみる。


(フワッ)


 ……あれ?浮けた。

 へえ意外と簡単にできたな、こんなもんなのか?


 ジーマはなかなか筋がいいと褒めてくれている。

 もう一回!と言われ、何度も繰り返しで浮遊と着地を繰り返す。


 ジャンプとはまた違う、初めて感じる感覚で体が浮き沈みする。

 なんだ、簡単にできるんだな…想像とだいぶ違った。



 シュリアも家の中から庭で特訓する2人の様子をコッソリ見てた。ミルのいきなりの成功で少し驚いている。

 2人がわいわい楽しそうなのを見て仲間外れ感に苛まれたが、ジーマに全任せした手前今さら「私もまぜて!」とは出て行きづらい…


 ミルとジーマが交互に浮かび上がるのを羨ましそうに伺って、シュリアも独りその場でふわっと軽く浮き上がってみた。

 …

 …

「何してんだろ…私」

 ハッと顔を赤らめてシュリアは名残惜しそうに自分の仕事に戻った。


 ミルはその間にもどんどん成長し、ものの5分くらいで継続浮遊を体得した。

 飛行の感覚さえつかめば後は早い。


「次の段階だな、オレについて飛んできてくだせぇ!」

 そう言ってジーマは庭を飛び出して、東の上空に向かって飛んだ。


「お、おいまた急に!」

 ミルも追いかける。


 初めは思い通りの方向に飛ぶのが難しくフラついたが、だんだんとバランスをつかんでくると、魔力を推進力としてスピードも上げられるようになってきた。


 だが、ジーマの姿はすでに見えない。


 …アイツ完全に1人で楽しく飛んでやがるな?

 ちょっとはオレを見てくれよ。


 ミルはジーマを見失ったので、とりあえず好きなように空中散歩を楽しむことにした。


 空から見下ろす風景は日常味わうことのできない絶景。どこまでも続く深緑の草原、遠くに湖と川が見える。

 風を強く受けて髪がビュオぅっとたなびく。


 シュリアに持ち上げてもらった時と違って本当に自分の力で飛んでいるのがわかる。

 …気持ちいい!鳥になったようだ!


「ヤベェ、たのしい!」

 ミルの夢がまた一つ叶ったのだ。

 異世界で魔法使いになって空を飛ぶ、厨二でなくても全人類の憧れじゃないか!?


 最高な気分で快調に飛んでいると、知らないうちに相当なスピードが出ていたようだ。


 やば!止まり方がわからない!

 そんな時に限ってジーマが目の前にバッと現れる。


「どいてジーマ!ぶつかる!どいて!!ジャマー!!」


 ジーマは高速で突っ込んでくるミルに気づき口をアワアワさせて慌てるが、もう間に合わない。

 盛大に交通事故を起こした。


 攻撃がジーマに無効になる呪いの効果で衝突の瞬間ジーマが霧化されてなかったら、お互い撃墜されていたな。

 ジーマでよかった。


「どこ行っておったのです?戻って修行の続きですぞ!」

 ジーマもまたマイペースな奴だ。まあいい。


 再び庭で特訓開始だ。

 スピードは充分。次はコントロールと小回りを教わる。


「こうだ!」

 そう言ってジーマは浮かび上がると、ミルの周りを半径2メートルくらいでグルグル回り始めた。


 なるほど、たしかにこれは有効な特訓かもしれない。

 ミルもやってみる。

 ジーマの周りを小さな円を意識してぐるぐる飛ぶ。


 …

 できた。

 うん!


 …

「よし!合格!もう教えることはないですな、卒業!」


 ジーマが拍手してくれている。

 おかしいな、まだ飛行訓練初めて1時間も経っていないんだけど…


 やけにあっさり。


 シュリアもその様子を見て庭に出てくると、薄い笑みを浮かべてミルに声をかける。


「やればできるじゃない。これでバイト行けるわね。」


 ハッ!

 そうだった…そのために特訓してたんだった。


 飛べるようになった嬉しさとバイトのめんどくささでプラマイゼロだな。


「じゃあ明日からサドラまで行ってもらおうかしら。

 まず人材派遣会社に行って、自分で稼げるバイト見つけてきなさい」


 ジーマとミルは揃って「えぇぇ…」と悲壮な顔を浮かべる。

 てっきりシュリアが何か手配してくれているものかと…


 あっ、スライムめ、我関せずみたいな顔で口笛吹きやがって!

 特訓も疲れたので、スライムをこねくりまわしに行こう。

 不敵な笑みでスライムに飛びかかろうとした時、シュリアが口を挟む。


「ミル、実践魔法の特訓は順調?」


 そうだった、いや忘れてたわけじゃない。

 ちょっと頭になかっただけだ。それもあるんだったね。


 魔力操作の訓練は怠っていないが、火花魔法はジーマ戦以来の成果を見ていなかった。


「仕方ないわね、私が相手になってあげるから、実践訓練するわよ」

 シュリアがなぜかちょっと嬉しそうにため息をついて提案する。


 ジーマばっかりミルの相手して寂しかったのだろう。

 その顔、どうゆう感情?と疑問に思いながら、ミルはシュリアに稽古をつけてもらうことにした。



 庭で準備体操するミル。

 いや別に体の動きは魔法の出来には関係ないんだけど、なんとなく気合いを入れる意味でな。



「じゃあ行くよシュリア!」


「言われなくてもあんたの攻撃くらい反応できるわよ」


 ムッ!あんなこと言われたら本気を見せるしかないな!

 最近魔力操作の技術が上がったと自分で感じている。

 特にジーマと戦って以来、かなり感覚が掴めてきていた。

 実践の中で咄嗟に防御したりバリアを張ったことで、魔力の流動が無意識でも行えるようになっていたのだ。


「そうかい!じゃあ遠慮なく」


 魔力を掌に溜める。魔力の揺れに髪もたなびく。

 明らかにそのオーラは以前とは別物だ。


 格段に溜めの所要時間も短縮された。

 高濃度で凝縮された魔力に火打石で火花を起こすイメージを被せる。


 そして詠唱。

「シレークス!」


 掌に高熱を感じる。でも自分の魔力だからか、手は熱くはない。

 バチバチと弾けるような炎が手から解き放たれると、凝縮した魔力が1ミリの無駄もなく魔法に変換されていく。


 無数の小さな火の粉が空気に触れて活力を増し、火花は大きく強力に勢力を増す。

 そして次の瞬間、シュリアに向かった火の粉の大群が一気に弾けて燃え盛る。


 そしてまるで花火のように大きな炎弾が四方八方に飛び交い、辺りを一瞬赤く染めあげる。

 ミルの目には炎と煙でシュリアの姿が見えない。まあ心配はいらないけど…


 ジーマはミル後ろでアゴが外れそうなほど驚愕している。

「これが、あの日オレが受けたちんまいザコ火花と同じ魔法か…」


 うるせぇ!そこまで言う必要ないだろ!


 家の方にも炎弾が飛んで行った、燃え移っていないよな…

 よかった、どうやらシュリアが魔物避けに張った結界が防いでくれたらしい。


 周囲の煙が晴れ、シュリアの姿を目にとらえる。

 傷も汚れもない。

 当然か、でもちょっと残念…


「シュリア、ど、どうかな?」


 シュリアは無言で今の魔法を振り返り、感慨深い様子でミルに告げる。


「直撃したのが私じゃなければ身体が爆発四散するか全身大火傷は免れないわね。

 よく成長したね、ミル!」


 そんな威力あったの!?怖っ!!

 しかしシュリアが褒めてくれたぞ、スゲェ嬉しい!


 ミル自身もこの成長が未だ信じられないでいる。

 これで証明された。間違いなくミルは天才だった。


「もう基礎修行にこだわる必要はなさそうね、魔法のレパートリーを増やしていってもいいわよ」

 シュリアから制限解除のお許しが出た。


 これでミルは火花魔法以外も使っていいのだ。

 ついに秘術の書を本格的に解禁する時が来た!

 厨二ミルの心にボッと火がついた。


「やった!明日は魔法の実験がしたい!シュリア手伝ってくれる!?」

 ミルが興奮して言うと、シュリアが冷静に、呆れたように諫めた。


「あなた、明日からバイトでしょ?」


 ………

 ああ、この感情、どこかで感じた気がする。


 …そうだ、半年間発売を待ちに待ってようやく手に入れたゲームを、テスト期間という理由で没収されたあの夏の日の夕焼け…


 ミルは目の前が真っ白になった。

 うぅ、ガッカリ。


 両手を地についてに絶望オーラを解き放つミルに見兼ねて、シュリアが優しく声をかける。

「心配しないでも、休みの日に付き合ってあげるから、ね?」


 う、うん。仕方ないか。

 ここで駄々をこねたら本当に子供みたいだ。

 オレは見た目は子供、頭脳はなんとやらだ。


 人生初バイトかぁー、気乗りしないなー。

 ジーマもそれには激しく同意してくれる。

 シュリアが言うことだしもう覆ることはないよな。


 仕方ない、働くか…。

 ミルはついに、そう決意したのだった。



「でもやっぱり新しい魔法のことは気になるんだよなぁ」

 往生際の悪いミルが、夕飯前にスライムとジーマに相談する。

 ミルは秘術の書をパラパラと見返す。


 この書物の魔法は独自のランク分けがされている。



【手ほどき魔法】実践魔法に向けての練習用

【簡易魔法】属性の力を引き出す基本的な魔法

【中等魔法】一定量の魔力を持つ者だけが使える派生魔法

【高等魔法】さらに熟練した者のみが使える奥義級の魔法

【秘術】高等を圧倒的に上回るポテンシャルをもち、使う者を選ぶ。




 火花魔法は手ほどき魔法だが、ミルのは中等クラスの威力だった。

 つまり、ミルは中等魔法までは使おうと思えば使えるのだ。


「…でもやっぱり、最初からできるのはおもしろくないよね。

 手ほどきから順に極めて行った方がRPG感出るくない?」


「あーるぴ?じ?とはなんぞや?」

 ジーマがきいてくる。


「あ、なんでもないです。」

 ああゆうのは説明がめんどくさい。


 とりあえず、まず手ほどきを全種類極めていくことにしよう。

 手ほどきは暴発防止で念のため微弱な設定にしてある。シュリアがいなくても手ほどき魔法は研究できそうだ。


 夕飯までの少しの時間だが、ミルは庭の外の草原まで出て行って訓練を始めた。

 一応心配したジーマも見に来てくれた。

 


 魔法というものには属性があり、手ほどきもそれに準じて作っている。

 属性は得意不得意があるって聞くけど、オレはどの属性向きなのかな?


 オレの秘術の書にある属性はこれだ。


【火属性】炎、熱、爆発、

【水属性】水流、水圧

【風属性】風圧、真空、切断

【土属性】地震、岩石、鉱物、重力

【木属性】植物、回復、吸収

【氷属性】凍結、冷気、氷塊、保存

【毒属性】毒、酸、解毒、腐食

【雷属性】電撃、麻痺、身体能力向上、操作

【光属性】閃光、レーザー、結界、浄化

【闇属性】闇、影、幻覚、精神


 この10種がある。

 多くね?と思われるかもしれない。

 オレもそう思う。

 でも何卒わかってほしい、厨二やってると好奇心からいっぱい属性作ってしまうものなのだ。


 全部は覚えてもらわなくてもいい。

 実際この世界に存在する魔法はこんなに多くの属性がない。

 せいぜい火、水、土、風の4つがメジャーで、あとは無属性とか各属性に無理やり振り分けられている。


 だがオレはそれを明確に分けて使いたい。

 ファンタジー系のゲームなんかをプレイしていると、

「えっ?これがなんでこの毒攻撃が水属性?いや液体とはいえ無理矢理すぎない?」

 みたいな煮え切らない思いを幾度となく経験した。


 4種では無理だが、10種もあれば全ての魔法がしっくりとくる属性に分類できるだろう。


 さーて、オレが何属性に向いているのかは手ほどきの段階でちゃんと把握しておかねばならない。

 なので、一度全属性の手ほどき魔法を使ってみることにした。


 サンドバック役はもちろんジーマにお願いする。

 え…どうせ何やっても効かないんだろ?

 悔しいから皮肉ってやるのだ。


 ではこれより、手ほどき魔法の実験を開始する。

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