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厨二病の真骨頂は転生後  作者: 琴熊
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無気力大学生とふざけた女神

「大学生にもなって厨二病とか、マジひくわ…」

 それが、大学で唯一の友達と絶交した瞬間であった。


 確かにもう21歳だというのに、彼女も作らず1人頭の中でファンタジー世界を妄想する日々。

 休みの日はゲームで冒険して一日が終わる。

 深夜にはハマっているアニメを見る。


 そんな俺は中ニの頃から親にも言えない秘密があった。

 ノート数冊に「秘術の書」と称し、自作の魔法や魔物、術式などの設定を細かく書き続けていたのだ。

 そしてつい先日俺のすべてのアイデアを書き終えたのである。

 我ながら、漫画の一作も描けるくらいの高密度な内容に仕上がったと言えるだろう。


 その完成版「秘術の書」があっさりと友人に見つかって読まれたのである。


 これは俺の青春をかけた作品だ、思い入れは尋常じゃない。

 なのに、表紙と一ページ目、その後のページを少しパラパラと適当にめくっただけで、俺の気持ちを踏みにじるかのようなあの一言である。

 いくら温厚な俺も流石に激昂した。



 そして気づけば、俺に友達と呼べる存在はいなくなっていた。

 俺は根暗だが人に好かれる才能があるらしく、学校でもかなりモテる。

 友達や彼女を作ろうと思えばすぐにできるだろう。

 でもいらない。

 1人の自由な時間が奪われるのがイヤなのだ。



 俺は厨二といっても、別に本気で二次元に恋したいとか異世界に旅立ちたいとか、そっちの重めのタイプではない。

 ちゃんと現実との分別はついているのだ。


 とはいえ俺もあのケンカ以来、妄想に走るようなモチベーションを失ったので、そこまで厨二ではなくなった。

 だからと言って他の事に身が入るわけでもないので、生産性のない日々である事は今も変わらない。



 言っておくが、こんな「無気力な若者代表」みたいな俺にも、ちゃんと趣味はある。

 その趣味とは音楽だ。

 特に芸術音楽と呼ばれるジャンルの音楽には深く関心を抱いている。


 そんな興味もあって、中学の頃から近所の琴・三味線教室に通い始めた。

「継続は力なり」というのは本当で、今まで続けてきた結果、俺の名は業界でそれなりに有名になった。


 自分で好きで続けているので、稽古の時ばかりは俺も人間らしく生きてるのを実感する。


 でも所詮は趣味、職業にするつもりはない。




 そんなわけで俺が今何を楽しみにして生きてるかっていうと、今度の琴の発表会に出ることと、録画しておいたアニメを見ることくらいだ。


 さっき大学生といったが、とっくに留年が確定している。「部活に打ち込みすぎて!」とかゆう名誉な理由ではなく、俺の場合は寝坊癖が祟っただけだ。

 まあ夜な夜な「秘術の書」を書いて徹夜していたからな。


 今、死んでしまったところで、これと言って思い残すことはないな。

 あるとすれば、秘術の書を誰にも見つからないように処分してから死にたいくらいか。



 死ぬのもめんどくさいし、死ぬ必要もない。

 なので生きてる。

 これからも空気のように、流れに身を任せて自由気ままな日常生活を営んでいく予定だ。



 この時期に就活生は、自分の将来像を考えさせられる。

 どんなキャリアプランをたてて、何を目標に人生を歩むのか。


 俺はもう決めている。無職の一択だ。

 理由は、普通の企業で働くと義務と責任という十字架を背負って生きることになるからだ。

 俺はそんな精神的に不自由な生活はゴメンだ。


 バイトを掛け持ちながら、大きな責任なんて負わないで生きる方がいい。

 飢えても死んでも自己責任だ。


 それこそが真の自由だと、俺は思っている。

(※よいこのみんなはマネしないでね)



 だいたい、俺はそれでも世を渡っていける自信がある。

 なぜそんな自信があるかって?

 俺がイケメンだからだ。モテるからだ。


 …いや、自分で思いはじめたんじゃない、周りが言うのだ。

 母性本能をくすぐる可愛い系の美少年だと評判だ。


 俺は男女問わずたいていの人に気に入ってもらえる。

 その気になって頼めば、飯を食わせてくれる人は沢山いるのだ。

 これはリアルに俺の特殊能力と言っても過言ではないだろう。



 例えば、気分を落ち着かせたい時に優雅に川のせせらぎを聞いていることがあるが、それだけで通りかかった年上のお姉さんがご飯に誘ってくれることもあるのだ。


 ちなみに誘いにのったことはない。女なら誰でもいいとかゆうわけではないのだ。俺は硬派だ。


 ホント、一生独身無職でも、なんの不具合もない。

 それで自由なら。



 とまあ、俺の人生観が捻じ曲がっていることはわかっていただけただろう。



 俺は平野良太、平凡な名である。

 さっきからツラツラと語ってきたように、何の取り柄もない無気力な大学生である。


 まあ演奏技術と顔面偏差値はあるのだが…

 それがあれば充分だとか言ってくる人には、「隣の芝生は青い」とかいうことわざを教えてやりたい。



 そんな俺が今何してるかというと、住んでいるマンションが大規模な改修工事をされるとのことで、代替の部屋に引っ越す準備をしていたところだ。

 まあ少し不便だがまあ仕方ない。


 荷物のダンボールをまとめ終え、後のことは業者に任せることにした。

 しかしこのまま家でゲームするわけにもいかないので、気乗りしないがどこかに出かけることにした。


 最低限の荷物を持って部屋を出て、階段を降り、エントランスを出て昼の太陽に久しぶりにあたる。


 この辺りは神社が多く、観光客に賑わっている。

 普段は人酔いするので避けていたが、太陽に当たって少し気分が良くなってきたので行ってみることにする。


 神社までは歩いて15分ちょっとだ。引きこもり気味の平野の運動不足解消にはちょうどいい。


 俺が外を歩くとすれ違う女性は俺の方を振り向く。

 こうして抑えきれないイケメンオーラを振りまいてしまうから、なるべく外には出たくなかったのだ。


 やはり凄い人混み…来るんじゃなかった…


 引きこもりの身にはなかなか堪える。

 しかしせっかくきたので、お参りしてみる。

 列に並ぶが、初詣並みに人が多い。


 前のおばちゃんが馴れ馴れしく話しかけてくるから、面倒になって一度列を離れ、また最後尾に並ぶ。

 正直帰るか迷ったが、我慢した。



 そしてようやく俺の番だ。


 五円を入れて、鈴を鳴らして二礼二拍手一礼だったっけ?

 まあ合ってるかわからんけどそれっぽくやる。


 チャリン…しゃらんしゃらん。パンパン!



 願い事考えてねえや

「世界が輝いていたあのころ、子供の頃に戻りたい…」

 

 こんなことしか思いつかない。

 こころなしか狛犬の目が哀れみを帯びたような気がする。

 ほっとけよ。


 また参道を歩いて帰りかけたその時、突然事件がおこった。



「「おいっっ!!鳥居が倒れるぞ!」」



 だれかが大声をあげた。悲鳴も聞こえる。


 は、何言って…と振り返ったら、本当に鳥居が倒れてくる。

 それも、10メートルは超えている大鳥居だ。



 あぁ、鳥居って動かせるんだ、すっげー迫力…


 などと考えていたからか、ちょうど俺の上に覆いかぶさるように倒れてきた。

 いやいや、神社に殺されかけるとか…縁起でもねえわ


 咄嗟に走って避けようとしたが、もう1人観光客らしい女性が腰を抜かして動けず、犠牲になりかけているのが目の端にうつった。



 近くには俺しかいない。これは、ドラマとかでよくあるアレをするしかないのか…?


 よし、一か八かやるか!

 女の方に向かってダッシュ。

「まったく…俺よりはいい人生おくれよ!!」

 とイケメンなセリフを吐きながら、女を安全なところまで思いっきり突き飛ばしてやった。

 恥ずかしい!


 結末は言うまでもない。

 既に避けきれない高さまで迫る鳥居。

 俺はそのまま覚悟を決めて目を閉じた。



 また誰かの悲鳴が聞こえる。なんだかさっきより悲鳴がおおきいな…

 目は瞑っているが、どうやら俺はやっぱり下敷きになったらしい。


 側頭部と背中に激痛が走って、息がまともにできない。これ、死ぬな。


 血がかなり出てるようだが、それよりも背中が痛い!背骨も肋骨もいってるな…はは…

 即死しなかったのが奇跡だ。

 むしろ即死したかった、苦しすぎる、痛すぎる。


 そんなに日頃の行いが悪いんですかね、かみさま…


 しかしそんな文句を言う体力もなく、ただ虚しく意識が遠のいていった…



 そして、そのまま俺は死んだ。




 うん、死んだのだが、意識がある。

 一瞬意識なくなったと思った。

 でもすぐにまた目覚めた。


 さすがにあの事故、生きのびれたわけはない。

 たしかに死んだはず。



 平野は暗闇の中にいた。やはり死んだようだ。それではなぜ意識があるのか。


 転生とかは全く期待してなかった。念押しするが、俺は次元を割り切って考えてるんで。


 でもこれ、完全に生きてる感じだよね…

 転生したの?


 無意識に体を見てみる。

 痛みはないし、傷もない。

 体は平野本人のようだ。




 困惑してキョロキョロしていると、目の前の暗い空間が一瞬歪んだように見えた。

 そして、一点から次第に強い光を放ち始めた。


 眩んだ目を押さえてなんとか前を見てみると、うっすらとザ・女神様みたいなシルエットが見える。

 光が弱まってから一度目を閉じて、もう一度前を見直す。


 雪のように白い肌に整った顔、少し不機嫌そうに見える。

 白くヒラヒラした衣服、姿は人のようだが宙に浮いている。

 その女神風の女は、だまって平野を見つめている。


 平野は怖いと思いながらも


「あの、俺死にましたよね」

「俺何か罰当たりなことしました?」

 ストレートに聞いてみる。

 すると、その女神風の女が表情を変えずに答えた。


「はい、死にました。でも貴方は悪くありませんよ。ごめんなさい」

 なぜ謝るのかという顔をしてみると、


「私のせいで鳥居を倒しちゃったみたいで…」



 なるほど、おまえのせいかい!!という怒りは不思議なほど湧かなかった。

 むしろ、全く悪びれない女神がちょっと面白いと思った。


 詳しく聞くと、日本の神社の神と些細なことでケンカになり、頭に血が上った女神がうっかり時空間魔法で現世に妖力波を飛ばしたらしい。


 どの世界も女は怖い…


 それが鳥居に直撃して、根元から折れて倒れたようだ。神社の神も女神もかなり焦ったらしい。


 そして日本の神社の神が、

「あーあ、オレしーらねぇ、お前がやったことなんだしお前がこの男(平野)の面倒みろよー」

 って女神に丸投げしたから、女神が責任を取って俺の魂を世界の狭間に招き入れたんだとか。



「こんなアホな理由で死んだのか…

 でもいいんですよ、どうせ心残りもないですし」


「いえ、何かお詫びをさせていただきます。人を1人庇ってくださったようですし…」


 とさすがに申し訳なさそうに女神が頭を下げてくる。

 まさか俺が女神に詫びられる日がくるとは…これはもしかして願いを叶えてくれるのだろうか。



「もし願い聞いてくれるなら、俺のマンションのダンボールから秘術の書を取ってきてくれます?死んでもあれを誰かに読まれるわけにはいかない。」


 まず思いついた願いがこれだ。死ぬ前に絶対処分しようと決めていたからな。


「おやすいご用です」

 女神が手を振り上げ呪文のようなものを唱えると、気づかないうちに俺の手は例の書物を握っていた。

 あっさりと人生最大の願いは叶えられた。


 この時、女神が唱えた呪文を聞いて、平野の爆発的な厨二心に火がついた。

 さっきは異世界とか次元とかとか割り切って考えてるんでとかイキッたことを言ったが、ほんとは異世界への転生とか魔法とか、マジで夢だった。


 願いはそれだけ?という顔で女神がこちらを見ている。そして、平野が何か言いだす前に、女神の方から口を開いた。

「すぐに現世に蘇れるように手配しますね。

 あと、平野さんイケメンなので、これまでよりも優位な身分になるよう調整いたしますね」


 なんなんだこの煩悩丸出しの女神は…

 まあ、俺がして欲しかったのとのと違うが、蘇れるようだ。

 しかし、いまさらもとの現世か…あんまり嬉しくない。


 少しがっかりしていると、女神が小さくガッツポーズをした。

「調整に成功しました!天皇のお家に蘇れそうですよ!!」


 何を言われてるのかわからない。そして、あわててツッコむ。

「そんな息苦しそうな世界いやだ!もっと自由な人生が欲しいんですけど!」


「えー、そんな贅沢な…

 もう平野さんの存在データは抹消しちゃいましたよ?」

 と、テヘッて顔をしている。


 そんな可愛い顔で怖いことゆうな!


 満を待して話をきりだす。

「たとえば、ファンタジーの世界に転生とかしたいです!」


 女神は「うわ、こいつマジか…」的な表情をしたが、そうゆう反応は慣れている。

 俺はこんなにも目をキラキラさせているのだぞ。


「まあ、そんなことなら容易く…

 あれ、さっきの天皇家の調整で力使い過ぎちゃった…」

 女神が力が尽きたのかフラフラとして座り込んだ。


 何やってるんだこの女神は、バカにしてるのか!

 いやいや、そんなすぐ怒るのは、大自然のような心を持つ俺らしくないぞ。

 しばらく反応をみてみる。


「がんばればなんとかいけそうです、異世界への転生。私の力の残量的に、あまり待遇は期待されない方がよいのですが…」


 待遇悪しか…実力主義であろう異世界ではやはりかなり不利だろうな。

 でもまあ、いくらなんでも天皇家よりはのびのびと生きられるんじゃないかな。

  なにより条件だけ目を瞑れば、俺の中二からの夢が叶うんだよな。


「よしきめた、その世界に転生させてくれ!」

 女神がと頷くと、ヘロヘロの体をなんとか起こして、呪文を唱え始めた。

 そしてまた強い光を放ち、勢いよく叫んだ。

「転生!」


 はやる気持ちを抑えながら、その転生のパワーに身を委ねた。


 その場にへたり込んで力無い笑顔で手を振る女神に手を振り返し、一応ありがとうと礼を言った。


 俺は徐々に体が溶けて空気のように漂う感覚になった。

 そのまま何かの力に流されて、光の中に吸い込まれて消えた。

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