不老不死の半獣と孤独
私が怪物に呪いをかけられた数日後、貴方は庭で洗濯物をしている私の前にふらっとやってきて、こう言った。
「お嬢さん……あんた、可哀想だねぇ」
正直、びっくりしたんだよ?裕福で何の不自由もなく暮らしていた私に「可哀想」なんて言ったの貴方が初めてだったんだから……でも今考えればそうだったのかもしれない。家族には汚れた獣だと見放され、呪いを解呪しに来たはずの賢者にも研究材料にされ、こんな国の端っこにある「城」に監禁された私は確かに「可哀想」だったのかもしれない。
「どうしてこんな所に人がいるの?」
至極当然な質問を私はあなたにしたんだっけ………そしたら貴方は…………
「なに、君の呪いを解きに遠路遥々やってきたのさ」
そう答えニコッと笑った。その顔は今でも覚えてる、とても綺麗な笑顔だったから………
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「ん………おじ…さ…………?」
コフィーはゆっくりと目を覚ました。
懐かしい夢を見た。もう何千年前かもわからない記憶の夢……
昔の思い出に浸っていると、ドルフがノックもせずに部屋に入ってきた。
「おっ……起きたか!びっくりしたよ……急に倒れるもんだからさ〜……んっ?なんで泣いてんの?」
不思議そうに首を傾けるドルフにコフィーは必死に反論する
「っ…!泣いてないし!ってか何人の部屋に勝手に入ってきてんのよ!!出てって!」
「うぇ……!?ちょっ…押すなって!」
コフィーは顔を真っ赤にして、無理矢理ドルフを部屋から追い出した。
「泣いてなんか……ない!」
そうだ、泣いてなんかいない、泣いてないからこの頬を伝うしょっぱい液体はきっと汗だ……
「泣いてない!泣いてない!」
そう自分に言い聞かせ、目から次々出てくる汗を「獣」は服の袖で拭い続けた。
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「賢者」は困り果てていた。
コフィーに部屋から追い出されて数時間、与えられた部屋の掃除に専念していたがどうしてもコフィーが気になって仕方がない……
「あんな泣き顔見せられたら、そりゃあ気になるよなぁ」
ドルフはどこか他人事のようにそう呟き、部屋に未だ篭り続けているコフィーをどうやって引っ張り出すか考えた。
自分でも地雷を踏んだことは薄々気付いていた。
「可哀想だとか!寂しかったねとか!辛かったねとか!そんな薄ぺっらい言葉はもう聞きたくないんだよぉ……!」
コフィーの悲痛な叫びがドルフの頭をぐるぐる回る。
(薄っぺらい言葉……かぁ)
そんなつもりで言ったのではなかったが………
「あーーー!!わかんねぇ!!」
とりあえず謝りに行こう、そう決意しドルフはコフィーの部屋へ行こうとした。
次の瞬間、「獣」の遠吠えが「城」に響き渡った。
その声はどこか悲しげで、とても孤独だった。