不老不死の半獣と新住人
昔々のそのまた昔、ある国にコフィーと言うそれはそれは美しい姫がいた。しかし、突然城を襲ってきた怪物に呪いをかけられ不老不死の半獣になってしまった。なんとかして姫にかけられた呪いを解呪しようと全世界から賢者達が集まったが、誰にもその呪いは解けなかったそうだ。
それから、約一万年後
姫の呪いを解くため「ある男」がやってきた。名はドルフ……自称賢者を名乗るものであった。
さっそくドルフは姫の住んでいるはずの城の前に立ち、はて?と首を傾げた。
「こんなに姫の城ってちっちゃかったけか?」
ドルフの前にはそれは貧相な城が鎮座していた。
「あー、少年そこは近づかないほうが身のためだぜ、なんせここに住んでる獣は誰彼構わず襲ってくる奴だからね」
全く、あれが前のお姫様だって言うんだから信じられないよ、
なんてぶつくさ去っていく男を尻目にドルフはもう一度貧相な城を眺めた。
「姫も墜ちたもんどぅはぁ!!」
ドルフはいきなり腹に衝撃を受け尻餅を付く
「あんた!さっきから人の家ジロジロ見て何なの!?見世物じゃないわよ!用が無いんなら今すぐこの場から消えて頂戴!!」
一体何があったのだとドルフは痛む腹を押さえ、いまだ喋り続ける人物に目を向ける。
そして……驚愕に目を見張る
「あっ……あんた、もしかしてコフィー姫か?」
「むっ?私のことを知ってるの?見たところここらの人じゃないようだけど?」
何かがおかしい、伝承によれば姫は醜い不老不死の半獣にされているはずである。しかしどうだろう実際には……
「綺麗だな〜」
「なっ……あっ……あんた!初対面の女性に対して鼻の下を伸ばさないでよ!気持ち悪い!!」
綺麗……なのである、耳や手には獣の痕跡がやや残っているがそれ以外は思わずニヤけてしまうほどに完成された身体であった。
「あんたほんとに何しに来たの?」
「おっと、目的を忘れかけてたぜ、まず自己紹介からだな。俺の名はドルフ!賢者だ。」
瞬間、コフィーの目から感情が消え去った。
「……帰って」
「…………へっ?」
閉め出されてしまった。俺、なにか悪い事したか?と今までの会話を振り返ってみるが思い当たる節は全くと言っていいほど無い。
とりあえずドルフは姫に呼びかけてみることにした
「コフィー姫〜何か俺いらない事言っちゃいましたか〜?」
コフィー姫コフィー姫〜と何度か呼びかけるとようやく姫が家の中から出てきた。
「賢者は信用できない……」
「なんでさ?」
「一万年前、私の呪いを賢者達は解呪しようとしなかったどころか私を研究材料として扱ったからよ……どうせあんたも同じでしょ」
これには流石にカチンと来たドルフは
「それはそいつらだけだろ!他の賢者は関係ないだろ!?」
と言い返したが
「どうだかね?賢者という生き物は知的好奇心に煽られるとどう動き出すか分からないからね、どうせあんただって私の呪いを解呪するとか言って私に酷い事をやらせるんでしょ?」
姫の心の傷はドルフが思っている以上に深いようだ……ならばとドルフは一つ提案した
「………一週間だ……」
「何よ?」
「一週間でアンタのそのふざけた偏見をなくして見せる」
「は?なくせるわけないでしょ?私がどれだけアイツらに辛い思いをさせられてきたか分かって」
ドルフはコフィーの言葉を遮り訴える
「それでもだ!!アンタは俺の事信用しないだろうけど、俺はアンタを本気で救いたいと思ってる!少なくともこの気持ちだけは嘘偽りは無い!」
何故彼が彼女の解呪に必死になるのか?それが明らかになるのはまだ先の話……
暫く睨み合った後、先に折れたのは姫の方であった。何かを諦めたような目でドルフを一瞥し口を開く。
「…………いいわ、入りなさい。ただし一つ条件があるわ、一週間以内で私の呪いを解呪すること……いいわね?」
随分ドスのきいた顔で確認を取るコフィーにドルフは返事をする
「分かっている、元々そのために来たんだしな」
「……そう、じゃあ入って、勝手に物とか触ったら殺すから」
見た目とは裏腹にとても子供には見せられないような表情をして、お世辞にも広いとは言えない部屋の中でコフィーは両手を振り上げ吠えた
「ようこそ!私の私のためだけの空虚で孤独な城に……!」
これは、「半獣」と「賢者」の儚くも優しい……遠い遠い遠い昔に本当にあった出来事である………