第九幕 パリスの審判とトロイア戦争(1)
D「でね、お姉さまからのご提案で、演劇部と合唱部合同でミュージカルをやってはどうかしらと」
部長「ミュージカル?そりゃちょっとどうかのう」
A「僕は反対です。何か嫌な予感がします」
D「あら、どうして?」
A「何か企んでいるんでしょう」
D「何も企んでなんかいないわ」
A「そもそもどうして急にそんな提案が出たんですか?」
D「それは・・・どうしてかしらね?」
A「知りませんよ、僕に聞かれても。大体、演劇部と合同と言うのが、僕はどうかと思いますね」
部長「そこよ、問題は。向こうさんはどうなの」
A「え~!?そういう問題じゃないでしょう」
部長「ほうか?僕はそこが問題じゃ思うたのよ」
D「部長のいう問題は、お姉さまに懸っているわ。私が申し出る訳には参りませんもの」
部長「そらそうよ。まあ、僕は向こうがええ言うなら構わん。どうせ4人じゃ合唱が出来んけのう」
A「部長」
部長「何ね」
A「僕は反対です」
部長「どうして?」
D「私に対する嫌がらせでしょ?」
A「失礼な!それは半分だけです。もう半分は別の理由です」
部長「ほう、言うてみんさいや」
D「半分はそうなのね」
A「それはそうですよ。もう一つの理由は、僕にはどうしても先先代やDさんの個人的な事情がそもそも動機になっているんじゃないかという疑念を拭うことが出来ないことです。加えるなら、合唱部と演劇部では人数が違いすぎます。合同とは名ばかりで、対等に事が進むとは思えません。あと、これは個人的なことですけど…、僕にはまだ演劇部、特に女形連中に対して蟠りがあります・・・」
部長「・・・。ほうか・・・。うん、ほうじゃのう。Dよ、やっぱりA君と和解するのが先じゃ。これは譲れんわ」
A「部長・・・」
D「はいはい。そうですか。部長ったら後輩ちゃんに甘いのね」
部長「あほ。そんな話じゃないわい」
D「まあ、判ったわ。取り合えずその問題が先って事ね」
部長「ほうじゃ。それ以外は妥協の余地が何ぼでもあるけんども」
A「そんな」
部長「A君。君も妥協できる事はこらえてくれんならんで」
A「・・・」
部長「な?」
A「・・・一つだけ、一つだけいいですか?」
部長「何よ?」
A「部長とDさんがペアで主演とかだけは嫌です・・・」
部長「はあ。そりゃないじゃろ」
A「そ、そんな・・・」
部長「いやいや、そんな舞台は考えられん言う事よ」
A「そうでしょうか・・・」
部長「君の言わんとする意図が僕にはよう判らんのじゃけど、君の言うような事は万が一にもないで、のう」
D「え、ええ、きっとそうね」
部長「ほら、Dもこう言うとる」
A「何かちょっと言葉を濁してましたけど」
D「そ、そんな事ないわよ?」
A「まあ、部長にその気がなければ、僕はそれだけで十分です」
部長「ほうか。ま、そういう訳じゃ。演劇部の方もうまく行ったとしても、とりあえずA君と女形との間の問題は何とかせんならんけんの」
D「わかったわ。その責任の一端は私にもあるから善処します」
A「一端?」
D「何よ?」
A「いえ、別に」
部長「まあまあ、それが解決できたら、ミュージカルやろうじゃあないの」
D「部長がそう言ってくれたら安心だわ」
A「・・・・」
部長「どしたの?まだ、言いたい事あるの」
A「いえ、別に・・・。ただ、やっぱり長い付き合いは有利だなあ、って」
D「やっと気付いたの?」
A「ふん、今にギャフンと言わせてやりますけど」
部長「もう・・・、仲良うしてくれや」
先先代「というのを考えてみたのだけどどうかしら?」
演劇部長「なるほど、悪くないですね」
新マドンナ「・・・」
先先代「Cちゃんは何か言いたそうね」
新マドンナ「はい・・・。私は・・・、私は賛成いたしかねます。」
先先代「あら。理由を聞かせて貰えるかしら?」
新マドンナ「まず、誤解の無いように申し上げておきたいのですけれど」
先先代「何かしら」
新マドンナ「私は個人的にはどのような形であれ、お姉さまと同じ舞台に立てるのであればそれは望外の喜びなのです。嫌な訳がありませんわ。それに、もしA君とも掛け合えるとすれば、それもまた楽しみです」
先先代「あら、そうなの」
新マドンナ「ですが、まず、演劇部を去られたお姉さまが合唱部員として参加される事に違和感を覚える部員が居るのではないかという事、キャストの振り分けできっと不公平感を抱く人が出るのではないかという事、そもそも十分な人数が居る演劇部が他の部と合同で公演を行うことに納得できない人がいるのではないかという事、それに、A君とうちの先輩方の間にはまだしこりが残っている事、これらの事が解決できないように思います」
先先代「まあ、あなたって思いの他理知的なのね」
演劇部長「俺よりよっぽど部長に向いてるよ」
新マドンナ「茶化さないで下さいませ」
先先代「ごめんなさいね、そんなつもりじゃなかったのよ。でも、あなたの言う通りね。クリアしなきゃいけないハードルが多すぎるわ」
演劇部長「演劇部の公演を二つに分けるか」
新マドンナ「そんなの駄目ですわ。皆、お姉さまが出る方に出たいに決まってますもの」
演劇部長「そうか・・・。俺が片方の座長でも?」
新マドンナ「語るに落ちますわ」
演劇部長「うわあ・・・。きついなあ」
先先代「まあ、Cちゃんの言う通りね」
演劇部長「先代様、少しは後輩のフォローをして下さいよ」
先先代「冗談はさておき。どうしようかしら」
新マドンナ「私も個人的には大賛成ですので、出来る事は何でも致しますわ」
先先代「ありがとう。心強いわ。とりあえず、もう一度Dちゃんと話し合ってみるわ」
演劇部長「後、生徒会の問題もありますが」
先先代「それはあなたお願いね」
演劇部長「丸投げですか!?」
先先代「何か?」
演劇部長「最善を尽します」
先先代「じゃあ、またね。Cちゃん、私のワガママを許してね」
新マドンナ「そんな・・・。私は大賛成ですから」
先先代「ありがと。それでは、ごきげんよう」
先先代「それで首尾はどうかしら」
D「はい。やっぱりA君がネックですわ」
先先代「あら、演劇部もCちゃんが意外と堅くて」
D「申し訳ありませんわ、妹が」
先先代「それはいいのよ。それにCちゃんは個人的にはあなたと同じ舞台に立てるのであればとても楽しみだと言ってるから」
D「あら、そうでしたの」
先先代「そうよ。でね、Cちゃん曰く、問題は色々あるんだけど、あなたが合唱部員として
参加する事、キャストの配分、それに、演劇部がわざわざ合唱部と合同で公演すること無いって事、これが大きいみたい。あ、あと、A君とうちの娘たちのシコリ?あなたがけしかけたアレよ」
D「まあ、お姉さまったら。言いがかりですわ。私がけしかけたんじゃございません。私は仕方なく担がれただけですもの」
先先代「嘘おっしゃい。A君をやっつけてやろうって魂胆だったのでしょ」
D「そ、それは無くも無かったですけれど・・・」
先先代「ほらね。まあ、その問題はあなたが直接Cちゃんと一緒に説得するなり何なりするしかないわ。それでね、結局、演劇部が合唱部に何かを譲歩するって形は取れそうにないの」
D「はい、わかりますわ」
先先代「キャストの配分は人数がそもそも違うんだから、これはうちが譲歩するしか無いでしょ」
D「ええ」
先先代「あなたが合唱部員として参加する事も変えられません」
D「はい、そうですわ」
先先代「そうなるとね、合同公演の申し入れをね、その、合唱部から演劇部にお願いする形にして貰う必要があるのよ」
D「そこしか考えられませんわね」
先先代「そうでしょ?合唱部が演劇部にお願いする形になれば、演劇部がわざわざ合唱部と合同公演する理由も出来るし、演劇部の面子も立つのよ」
D「わかりました。部長に相談致します」
先先代「お願いね。それ以外の説得は演劇部長とCちゃんと私でします。あとは、うちの娘たちに関しては、私とCちゃんとあなたで参りましょ」
D「はい。」
先先代「それじゃあ、善は急げよ。早速、明日にでも部長さんとお話してみて頂戴。私も演劇部長やCちゃんとまた相談します」
D「かしこまりました。色々とありがとうございます」
先先代「そんな他人行儀はやめてちょうだいな。何より私が何としても見てみたいの。今のあなたたちを舞台の上でね」
D「必ずお姉さまのお心に沿えるように頑張りますわ」
先先代「期待してるわよ」
部長「ほうか・・・。こっちからのう」
D「そうなの・・・」
部長「それは構わんで。それで万事うまく運ぶんじゃったら」
B「今初めてその計画を聞かされて何だけど、俺も構わないよ」
A「不満ですけど、あんまり歯向かっても嫌われたら嫌なんでもういいです」
D「よかったわ・・・。みなさんありがとう。これで向こうの譲歩も必ず引き出せる筈よ。」
部長「それはええけども、A君と女形の問題は」
D「それはこれから私とお姉さまとCちゃんで説得します」
部長「ほうか・・・。マドンナは賛成なんか」
D「ええ、あの子は真面目だから、部員が抱くだろう不満について随分心配しているようだけど、個人的には賛成してくれてるから」
部長「ほうか、それならええんじゃが」
A「余りCに迷惑掛けないで下さいよ、まだ彼も一年生なんですから」
D「あら、あなたあの子の心配なんてしてくれるの?意外ね」
A「別に・・・、これでも僕は彼の事を友人だと思ってますから」
D「そっか…、ありがと」
A「Dさんから礼を言われる筋合いはありませんけど」
D「素直じゃないわね。まあいいわ。それじゃ、これからお姉さま方と落ち合って話をしてきます」
部長「はいはい。いってらっしゃい。その間に僕も向こうの部長さんと話をつけとくで」
D「悪いけどお願いね、それじゃ」
部長「はいはい、早う行ってきんさい」
B「何か夫婦みたいだな、お前等」
部長「はあ?馬鹿じゃないか。何を言うかと思えば」
A「Bさんの言う通りだと思います」
部長「A君よ、君までそんな事を」
B「よっしゃ、初めてA君に認めてもらえたぞ」
部長「はあ・・・。じゃあ、僕もちょっと出るでの」
部長「そういう訳でして、合唱部からそちらさんに合同公演をお願いするという事でお願いします」
演劇部長「いやあ、わざわざすいません。気を使って貰っちゃって。これで、色々な面倒も無くなりました。ありがとうございます」
部長「いえいえ。こちらこそ。まあ、僕らは何も判らんので。話や配役何ていうのはもうそちらにお任せすることになるか思いますで」
演劇部長「ああ、判りました。多分、先代様が手配されると思いますんで、その点はお気遣いなく」
部長「ほいでですな。うちのAとそちらの女形方の話は、今多分先代様やらDやらマドンナさんがつけてくれる思いますんで」
演劇部長「それも、どちらにしても、僕もタッチ出来ない問題ですから」
部長「ほうですか。まあ、色々迷惑お掛けしますけど、そういう事でお願いします」
演劇部長「はい。こちらこそ。あ、それで」
部長「はい?」
演劇部長「うちの連中とA君の手打ちが済んでからの話ですけど、われわれで企画書を持って生徒会に行かなければならないので、またその時はよろしく」
部長「はいはい。了解しました、ほいたらこれで。お邪魔しました」
演劇部長「はい、よろしくどうぞ」
D「ごめんね。あなたをまた面倒に巻き込んでしまって」
新マドンナ「面倒に巻き込んでから謝られましても、私は困るだけですわ」
D「まっ、あなたったら最近急に言うようになったわね」
新マドンナ「申し上げたくも成るようなことが続いたからですわよ」
先先代「Dちゃんの負けね」
D「お姉さま。お姉さまからも何とか言って上げてくださいまし」
先先代「私はどちらかと言うとCちゃんの味方よ。だって、今あなた合唱部員じゃない」
D「まあ、お姉さままでそんな事を仰るの!?」
先先代「言われるような事をさんざんしておいて、ねえ?Cちゃん」
新マドンナ「そうですわ」
D「はあ。やっぱり私には部長しか居ないのね」
新マドンナ「先代様、姉妹の縁なんてこんなものなのですか?」
先先代「そうよ。恋する乙女には姉妹なんて関係ないのよ」
D「ちょっとやめて下さいません?恋する乙女とか、部長に迷惑が掛かりますわ」
先先代「ま、生意気な妹ね」
D「あっ、申し訳御座いません。私ったら・・・、嫌だわ」
新マドンナ「お姉さまは私の口の聞き方よりも先にご自身の世話をなされる事をお勧めしますわ」
D「ぐぬぬ・・・」
先先代「まあまあ、Cちゃん。あんまり追い詰めちゃ駄目よ。逃げ道も作っておいて上げないと」
D「く、悔しいわ・・・」
新マドンナ「悔しがってお出でになる暇はありませんことよ。これから、女形の皆さんを説得なされなければならないのですから」
D「そ、そうね。そうだったわ。ちょっと忘れかけちゃってたわ」
新マドンナ「しっかりして下さいませ」
先先代「フフフ。やっぱり姉妹って良いわね」
D「お姉さまったら、あんまりからかわないで下さいまし」
先先代「あら、ごめんあさーせ」
女形A「女形全員揃いました」
新マドンナ「ありがとう。本日はお姉さまから皆さんにお願いがあるとのことで集まってもらいました。もう私はお姉さまから伺っていますけれど、皆さん、最後までちゃんとお姉さまのお話を聞いて差し上げて下さいませね」
先先代「私からもお願いするわ」
女形「はいっ!」
新マドンナ「お姉さま、どうぞ」
D「…皆さん、ごきげんよう。お久しぶりね。元気にしてたかしら?」
女形「はいっ!」
D「その…、今の私は皆さんに何かをお願いできるような立場ではないのだけれど…、何て言ったらいいのかしら…」
新マドンナ「お姉さま…、仰りにくいのでしたら、やっぱり私が」
先先代「駄目よ。Cちゃん。これはDちゃんの仕事なの。あの子がちゃんと話をつけなければいけないわ」
新マドンナ「はい…、お姉さま…」
D「…、今、私は演劇部と合唱部合同でミュージカルが出来たらと思っています」
女形B「えっ?合唱部と?」
女形C「どういうこと?」
D「びっくりしたわよね。皆さんは今初めて聞いたのだものね。今頃、合唱部長の方から演劇部に正式にお願いしに行ってると思います。それでね…」
女形D「お姉さま!お姉さまと同じ舞台に立てるということですの!?」
新マドンナ「不躾な。ちゃんと最後まで聞いてからになさい!」
女形D「あっ、申し訳ございません…」
D「いいのよ。Cちゃん。怒らないで上げて頂戴。」
新マドンナ「はい…」
D「もし…、もし皆さんにもこの計画に賛成してもらえるなら、そして、赦してもらえるなら、私も皆さんと同じ舞台に立ちたいと願っています」
女形「もちろんですわ!」
女形「お姉さまと同じ舞台にもう一度立てるなんて」
女形「夢みたいだわ!」
D「ありがとう…。皆さん、本当にありがとう…。こんな図々しいお願いを聞いてもらえるなんて…、ごめんなさいね、本当にごめんなさい…」
女形「お姉さま…、そんな…」
D「…、うん、それでね、図々しいお願いをもう一つしたいのだけど…。今回の計画では、合唱部のA君にも舞台に立って貰いたいと思っているの」
女形A「お姉さま、それはちょっと承服しかねますわ!」
女形B「そうですわ。彼は私たちを侮辱しました」
D「でも、それについては謝ったでしょ?」
女形A「お言葉ですが、A君は今でも私達の存在に否定的であると聞きました」
女形C「彼の私たちを蔑むような目は今でも忘れられません!お姉さまのお願いでもそれは…」
D「…、そうよね…」
新マドンナ「お姉さま…」
先先代「…、はあ。仕方ないわね。皆、ちょっと私の話を聞いてくれる?Dちゃんはね、この計画を自分が発案したと言ったけれど、本当はね、私やOBの希望なの」
女形「えっ!?」
先先代「今回のことで、Dちゃんはすごく成長したわ。今までお人形さんだったのが人間になったの。あなたたちには分からない?Dちゃんは今すごく輝いているの。内側からも、女性らしさが自然に溢れ出ているのよ。だからね、私たちは、いいえ、私はDちゃんのマドンナをもう一度だけで良いから見てみたいのよ。今までよりも格段に素晴らしい演技が出来るわ。あなたたちはそれを見たくない?同じ舞台で感じたくない?何千回のお稽古よりもきっとこの一回の舞台があなたたちを成長させてくれる筈だわ。私は、あなたたちの一先輩として、つまらない嫉妬や怨みなどを捨てて、この舞台で成長して欲しい、そして、私たちを安心して卒業させて欲しいと願います」
女形「…」
D「お姉さま…」
新マドンナ「…、皆さん、先先代様がここまで仰っていますのよ。何か申し上げないと失礼ではありませんか」
先先代「ね?お願い」
女形「承知いたしました!!」
先先代「ありがとうね。OBの我が侭に付き合わせちゃうことになるけど、よろしくね」
新マドンナ「お姉さま、お聞きになりましたでしょう?何か仰って下さいな」
D「え、ええ。そうね。お姉さま、ありがとうございます。皆さんもありがとう。それで、A君に舞台に立ってもらうには、その、この前の件について、何と言うか、その…」
新マドンナ「もう、まどろっこしい!私から申しますわ!皆さん、今から音楽室に参りまして、A君と手を打ちに参りますわよ。それが向こうの条件なんです。ミュージカルに賛成した以上は、いやとは言わせません!さあ、付いてらっしゃい!」
女形「は、はいっ!!」
新マドンナ「お姉さまも!」
D「は、はいっ!!」
先先代「やれやれね、これじゃどっちが姉だか分からないわ。Dちゃん、もっとしっかりなさいな!」
D「は、はいっ!!お姉さま!」
新マドンナ「お姉さま!早く参りましょう!」
D「ま、待って頂戴~」
先先代「まったく…」
新マドンナ「というわけで、私ども演劇部女役は皆、A君との和解を望んでいますわ。これまでの事は水に流して、赦して下さいません?」
A「本当に皆さんが僕のことを許してくれてるなら、もう僕の方からは何も言うことは無いです。僕も生意気だったのは間違いないんで」
新マドンナ「それじゃ、和解成立ですわね。舞台にも出て下さるのね?」
A「仕方ないでしょ。こうなった以上は」
新マドンナ「いいこと、皆さん。今日からはA君も私たちの仲間ですわ。もう喧嘩したりしてはいけませんわよ。」
女形「はいっ!!」
A「じゃあ、もういい?」
新マドンナ「ちょっと待って下さいます?」
A「何だよ」
新マドンナ「折角和解できたんですから、同じ舞台に立つことになる訳ですし、もっと親睦を深めませんこと?」
A「いや、もう君とは結構仲良くなったつもりだったけど」
新マドンナ「そうじゃありませんわ。女役の皆とですの。ね?」
A「う、ううん。」
新マドンナ「さあ、A君を女役部屋に御招待しますわよ」
A「え、ええっ!?」
女形「さあ、どうぞどうぞ」
A「ちょ、ちょっと、やめて、Dさん、ちょっとこの人たち止めて」
D「ごめんね。好きにさせて上げて?」
A「は、はあ?」
新マドンナ「つべこべ言わない!」
A「う、うわあー」
B「Cちゃん、何か様子が変ったな」
D「そうなの…」
先先代「Dちゃんがしっかりしないから、妹がその分頑張ってるんじゃないの。何言っているの」
D「ごめんなさい、お姉さま」
A「C!これはどういうことだよ!?」
新マドンナ「はあ。お姉さまは私が良いと言って下さったけれど、やっぱりあなたには敵わないわ」
女形A「悔しいけど、完璧ですわ」
A「おい、僕の話を聞けよ」
新マドンナ「あとは、立振舞いだけですわね」
女形A「そうですわね」
先先代「どう?できた?」
A「ちょっと、先輩!これはどういうことですか!?」
D「ごめんね?」
新マドンナ「先代様、いかがでしょう?自信作ですわ」
先先代「予想以上ね。化粧映えと言い、雰囲気と言い、Dちゃんに匹敵する美しさね。はあ、溜息しかでないわ。勿体ないわねえ」
A「何で僕が女装させられなきゃならないんです!?」
D「ごめんね?」
A「いや、謝られても無駄なんですけど」
新マドンナ「こっちもかなり我慢してるんだから、あなたも我慢なさいな。」
A「はあ?」
新マドンナ「それに、あなたの大好きな部長さんが見たら、一目ぼれするかもしれないわよ?」
A「そ、そんなこと、あ、あるわけないだろ///」
先先代「まんざらでもなさそうね。良かったわ」
D「Cちゃん!?何言っているの!?」
新マドンナ「お姉さまもちょっとは我慢なさってください!」
D「Cちゃん…、お姉さま、寂しいわ」
A「そ、そっか、部長褒めてくれるかな…」
新マドンナ「きっと褒めてくれるわよ。皆は鬱憤晴らしもあっただろうけど…、(耳元で)僕は君を応援してるんだからね?」
A「う、うん、ありがと」
演劇部長「入るぞー?」
部長「お邪魔しますで」
新マドンナ「お待ちしてましたわ」
演劇部長「おお、マドンナ直々にお出迎えとは珍しい。それで、話はついたかい?」
新マドンナ「はい。先先代様が皆を説得してくださいまして。A君とも和解できました」
演劇部長「そうか。そりゃ良かった。なあ、部長」
部長「ホンマじゃ。C君はしっかりしとるで、演劇部も安泰じゃのう」
新マドンナ「そんな、褒めて下さっても何にも出ませんわ。何より、お姉さまとまた同じ舞台に立てるのですもの。頑張りもします。さあ、皆奥に居ますわ」
A「あ、あの、どうでしょうか?」
部長「お、おお、君はA君かな。美しかろうとは思っておったけんども、まあ、これは綺麗になったもんじゃ」
A「ホントですか!?」
部長「おお、おお、ホンマよ。まあ、これは演劇部長が目え付ける訳じゃ」
演劇部長「そうだろ?」
A「やったあ(部長の腕に抱きつく)」
部長「ちょ、ちょっやめや、恥ずかしいけえ」
A「いいじゃないですか。普通の恰好じゃこんなこと出来ませんし」
新マドンナ「(意地の悪そうな笑顔で)いいんですの、お姉さま?」
先先代「あの子目覚めちゃったかも知れないわよ?」
D「きょ、今日は…、今日だけは我慢しますわ…、今日だけですけど…」
新マドンナ「お姉さま、そんな涙を流す程悔しがらなくても…」
先先代「何か、気の毒になってきたわね」
D「いいんですのよ。私は今までさんざん我慢してきたのですもの。いくらでも我慢できますわ…」
新マドンナ「お姉さま…、私がちょっとけしかけてしまったかも知れません。ごめんなさい」
D「いいのよ。今度のお稽古でしっかりお仕置きしてあげるから。謝らないで」
新マドンナ「ちなみに、どちらにお仕置きなさるのか教えて下さいませんこと…?」
D「どっちもに決まってるじゃないの?あなた、何言ってるの?(冷たい笑顔で)」
新マドンナ「は、はい」
先先代「ちょ、ちょっと。Dちゃん。あんまりいじめちゃ駄目よ。Cちゃんは今回すごく頑張ったのだから」
D「ですから、私はもう目一杯我慢してますわよ?お姉さま」
先先代「そ、そうよね?うん、Cちゃん。頑張ってね。」
新マドンナ「そんな…」
A「部長、初めて僕を意識してくれましたね?」
部長「な、何をアホなことを言うとるの」
A「照れないでいいですよ?」
部長「は、はあ?照れてないで、何も照れることないがな、ホンマじゃ」
A「じゃあ、もっとギュってしちゃおっと」
部長「お、おい、堪忍してくれえや」
D「あれを邪魔しないだけでももう目一杯を超えてるんですわよ。この苦しみ、お分かりになって?お姉さま」
先先代「わ、分かったから、もうそんな顔をしてはいけないわ」
新マドンナ「お姉さま、ごめんなさい…」
演劇部長「さあて、A君、もう自分を十分に解放しただろうし、そろそろ部長を解放してくれないか?」
A「え~っ、もうちょっといいでしょう」
部長「お」
D「(割り込んで)はいはい!部長と演劇部長はこれから生徒会に行かなければいけないのだから、我がままはそれくらいにしないといけないわ」
部長「お、おう…、そうじゃ。Dの言う通りじゃからの。のう、演劇部長!」
演劇部長「あ、ああ。ちょっと場所を移して打ち合わせしようか」
部長「というわけじゃから、二人とも仲ような。頼むで」
A「は~い」
D「まあ、何て口の聞き方なのかしら。まずはここから躾けなければいけないようね」
A「いや、そんな。僕、女方じゃないですし」
D「何言ってるの。もうこれからは関係ないわよ。演じる以上は私が先輩として責任を持って躾けます!」
A「横暴だ!」
部長「わかったわかった。もうそういきり立つなや。とにかく仲ようしんさいよ」
演劇部長「じゃあ、行こうか」
部長「おお」
先先代「Dちゃん。ちょっとはしたないわよ」
新マドンナ「そ、そうですわ。部員達の手前、あんなにむきになられましては…」
A「そーだそーだ」
D「お姉さま。そして、Cちゃん。私は何も個人的な感情で動いているのではありませんのよ。飽くまでも、今度のミュージカルを成功させるために、心を鬼にしているだけですの。決してA君が目ざわりだとか、女装した途端部長に遠慮がなさすぎだとか、そういう事ではありませんから。誤解なさらないでくださいな」
A「自分で認めてるようなもんじゃ…」
D「何っ!?」
A「ひっ、いいえ。先輩のご指導に与りたく、何とぞ宜しくお願い申し上げます!」
D「そう、それでいいのよ。後輩というのは素直でなくてはね」
A「は、はいっ!」
先先代「あの子あんなだったかしら…」
新マドンナ「いえ、変ってしまわれたのですわ…」
D「何かございまして?」
先先代「何もないわよ。それじゃ、とりあえず私はお暇しようかしら」
D「あら、そんな急がれなくとも」
先先代「一応受験生だから、私も。それでは、ごきげんよう」
D「ごきげんよう、お姉さま」
A「ずるい!」
新マドンナ「先代様、おいて行かれるのですか!?」
A「(ボソッと)っていうか…、そもそも女装するかどうかまだ決まってないじゃん」
D「何か言った?」
A「い、いいえ!」
D「Cちゃん、それじゃ、まだ何の演目をするかも決まってないから、お姉さまと久しぶりにみっちりと基礎練習でもしましょうか?」
新マドンナ「は、はいッ!」
A「じゃあ、僕はけn」
D「あなたもに決まっているでしょ?何言ってるの?ねえ?」
A「そうですね…」
新マドンナ「お気の毒…」