第五幕 第二の波乱(2)
会長「マドンナ!」
マドンナ「ごきげんよう、会長。何か御用かしら」
会長「君。一昨日の晩から昨日の朝、どこにいたか教えてくれないかな」
マドンナ「いかがなさいましたの」
会長「いいから」
マドンナ「理由も無しにプライベートを詮索されるのは不愉快です」
会長「じゃあ言おう。僕は一昨日の晩君の家に電話したんだ」
マドンナ「あら、家の者からは聞いておりませんが」
会長「僕が言わないで置いて欲しいとお願いしたからだよ」
マドンナ「まあ、どうして」
会長「君がしらばっくれないようにさ」
マドンナ「存外に陰険な人ね」
会長「陰険でも卑怯でもいい。家に居なかった君はどこに居たのかな」
マドンナ「あなたには関わりの無い事ですわ」
会長「残念ながらあるよ。マドンナは単なる演劇部女役のトップではなく、我が校の生徒自治制度の要だからね。君の行動はマドンナである限りにおいて、プライベートは制限されなければならないし、不適切な事があってはならないだろう?」
マドンナ「どういう意味かしら」
会長「誰の家に外泊したんだい」
マドンナ「まあ、夜中に帰ってきたとはお考えにならないの」
会長「残念だったね。次の日の朝、改めて電話して確認したんだ」
マドンナ「あらそう」
会長「正直に答えて欲しいね」
マドンナ「答える必要が私には判りません」
会長「誰を庇っているのかな。まさか、他校の生徒という事はないだろう」
マドンナ「さあ、どうかしら。案外、他校の女子生徒の家かも知れないわよ」
会長「(語気を強めて)冗談はいい。どうなんだ」
マドンナ「私を脅すおつもりかしら?まあ、どちらにせよお答えするつもりはありません、それではごきげんよう」
会長「待ちたまえよ!」
マドンナ「馴れ馴れしくてよ、おどきになって頂戴」
会長「……、これは失礼した。最後に聞いておくが、君はこれを正式な問題にしても良いんだね。これは脅しじゃない」
マドンナ「どうぞ御勝手に。私はマドンナに成るためにこの学校に参った訳ではありませんわ、お姉様までの皆様と私は違いますのよ。それだけは判っておいて頂戴ませね。ごきげんよう」
会長「残念だよ」
会長「副会長!」
副会長「は、はい」
会長「文化部長はいる?」
副会長「今日は所用で帰りましたが……」
会長「そうか……」
副会長「どのようなご用件で」
会長「いや……。そうだ、副会長、悪いが君に頼もう」
副会長「何でしょうか」
会長「明日の放課後、ある問題について演劇部長とマドンナを召喚したい。その旨を演劇部長に伝えて欲しいんだ」
副会長「それは内内にですか」
会長「いや、正式な召喚だ」
副会長「それでは直ちに召喚状を作成して、演劇部長に渡しておきます」
会長「宜しく頼むよ」
副会長「理由は何でしょうか」
会長「マドンナの品行問題についてだ」
副会長「判りました」
会長「君にはその場で説明するから、それまではちょっと待っていてくれ」
副会長「はい、それでは」
会長「頼む、あ、あと、もう一つ頼みたいんだけど」
副会長「何でしょうか」
会長「もう一人呼び出しておいて欲しい人が居るんだ」
演劇部長「マドンナ!」
マドンナ「何をそんなに慌ててお出でなのかしら」
演劇部長「君、会長に何を言ったんだ?大変な事になっちゃったじゃないか」
マドンナ「ふん、別に何も」
演劇部長「そんなわけ無いだろ、僕と君で生徒会に正式に召還されたんだぞ」
マドンナ「あらそう。あなたまで巻き込んじゃったのね。ごめんなさい」
演劇部長「いや、僕も呼び出されたのはどうでも良いんだ。何があったんだよ。それだけ、それだけで良いから教えてくれよ。そうじゃないと、庇う事も出来ないじゃないか」
マドンナ「別に庇ってくれなくていいのよ。ただ、巻き込んじゃった以上は、あなたには話しておかなければいけないわね」
演劇部長「聞かせてくれ」
マドンナ「その前に化粧室の前に集まってる連中を帰して頂戴」
演劇部長「え!?」
演劇部員たち「やべ、ばれてる」
演劇部長「(ドアを開けて)こらお前等立ち聞きなんて卑怯な事するんじゃねえ。さっさと帰れ。今日の稽古は中止だ!!」
C「あの……」
演劇部長「C、君も今日は上がってくれ」
C「でも……、お姉さまが心配で……」
演劇部長「いいから、帰るんだ」
マドンナ「部長、Cちゃんは私の妹だから。Cちゃん、あなたには知る権利があるわ」
C「じゃあ……」
演劇部長「良いのかい?」
マドンナ「ええ」
演劇部長「じゃあ、入って。(外の部員に対して)さあ、お前等は早く帰れ!」
演劇部員たち「はい!」
C「お姉さま……」
マドンナ「ごめんなさいね、Cちゃん。もしかすると、あなたには迷惑をかけるかも知れないから、先に謝っておくわ」
C「お姉さま、それって……」
演劇部長「まあ、生徒会が何を考えているかはまだ判らないから、余計な心配はしない方が賢明だ。それよりも先ず、一体何があったのか教えてくれよ」
マドンナ「ええ、そうね。あなた達にはお話してなかったのだけれど、実はね、私と合唱部長は幼馴染なの」
演劇部長「は?」
C「えっ!?」
マドンナ「中学は別々だったのだけれど……。それで、私がこの学校に来たのは、彼を追って来たのよ」
演劇部長「初耳だぞ、そんな話」
マドンナ「それはそうよ。誰にも言ってなかったもの。これを知ってるのは、あなたたちの他には、合唱部長とA君だけよ」
C「どうして、Aが?」
マドンナ「まあ、それは追って説明するわ。兎に角、他の子には悪いけど、私はマドンナに成りたくて入ったわけじゃないの。でも、成り行きで、先代様の妹になり、マドンナになってしまって、彼とは殆んど接触できなかった」
演劇部長「ああ、この前までマドンナが合唱部長と話す所なんて見たことがなかった」
マドンナ「それが、A君の件で残念な形であれ、また話せるようになって。嬉しくなっちゃったのね」
演劇部長「なんだ仲直りしてたのかよ」
マドンナ「そうなの。私が彼の家を数年ぶりに訪ねて、謝ったの」
C「お姉さまが私のせいで……」
マドンナ「違うのよ。あなたのせいじゃないの。私がマドンナ制度に飲み込まれてしまっていたのと、A君に嫉妬したからなのよ」
演劇部長「それで?」
マドンナ「それで、この前、合唱部長の家に外泊しちゃったの」
C「えっ!?」
演劇部長「おい!それは不味いよ」
マドンナ「ごめんなさい。まさかばれると思わなくて」
演劇部長「誰にばれたんだ?」
マドンナ「会長よ。あの男、晩と翌朝、二回もうちに電話してきてたらしいの」
演劇部長「あちゃ~。これは厳しいな」
C「お姉さまはどうなってしまわれますの?」
マドンナ「さあ。まあ、この前、会長から誰の家に外泊したのかと聞かれて、やけに高圧的だったから頭に来ちゃって、けんかを吹っかけてしまったの。馬鹿よね、Cちゃんの家に居たとでも言っておけば良かったんだろうけど」
C「そうですわ、そう言って下されば、私もちゃんとお答えいたしますのに……」
演劇部長「そうだ、それがいい。そうしよう」
マドンナ「もう無駄よ。Cちゃんの家に外泊したのであれば、それはけんかしてまで隠す事じゃないわ。妹ですもの、自然な事よ。だけれど、多分会長はもう見当を付けてると思うの」
演劇部長「しかし、言ってみなければ判らないじゃないか」
C「そうですわ、お姉さま」
マドンナ「ううん、きっと無駄よ。あの男は、私が自分で言うのも何だけれど、私にご執心なの。だから、絶対に判ってる」
演劇部長「そうか……」
C「でもっ……!」
マドンナ「いいの、Cちゃん。これは私自身の問題だから。ただ、演劇部のみんなに、特に部長とあなたには迷惑を掛ける事になると思うわ、それが申し訳なくて……」
C「お姉さま……」
演劇部長「マドンナ……。気にするなよ。いつもは俺等が迷惑掛けてばかりじゃないか。今までマドンナに頼りすぎてた位さ。だから、たまには迷惑かけてくれよ」
マドンナ「部長……、ごめんなさい……」
演劇部長「いいから、な、いいから。大体、まだどうなるか全く判りはしないんだから、な、そんな暗くなるなよ、Cもだぞ」
C「でも、でも……」
マドンナ「そうね、まだ負けた訳じゃないわね」
演劇部長「そうだよ、生徒会と渡り合うには堂々としていなくてはね」
マドンナ「ええ、だから、Cちゃんも応援してね」
C「お姉さま……、……、はい、判りました」
演劇部長「取りあえず、もう行かなきゃ、随分待たせてしまったよ」
マドンナ「会長もせっかちね」
演劇部長「ああ、そうだな」
マドンナ「じゃあ、参りましょうか」
演劇部長「そうしよう」
C「お姉さま、私は」
マドンナ「あなたは、今日はもうお帰りなさい。いつ終わるか知れないわ」
演劇部長「それがいい。送迎を呼ぼう」
C「いえ、今日はバスで帰ります」
マドンナ「いいの?」
C「はい。私はまだお姉さまの妹でしかありませんもの、さあ、早くお出でにならないと」
マドンナ「そうね」
演劇部長「じゃあ行こうか」
マドンナ「ええ」
C「お姉さま、負けないでくださいまし!」
マドンナ「(微笑んで)ありがとう、それじゃ行ってきます」
演劇部長「それじゃ、また明日」
C「(一人残って)お姉さま……、お姉さま……」
演劇部員「すいませーん!合唱部長はいますか!?」
部長「はいはい、何ですかの」
演劇部員「あ、すみません。あの、うちの部長とマドンナが生徒会に呼び出されたんですけど、何か知りませんか?」
部長「何!?」
A「えっ!?」
演劇部員「やっぱり、ご存知ですか」
部長「ああ、心当たりがないじゃないが……。そうか……、すまんが、ちょっと僕も生徒会に用があるで、失礼するで」
A「部長!僕も一緒に行きます」
部長「君はええが」
A「でも、僕がいないと……、色々まずいですよ」
部長「ほ、ほうじゃのう、じゃあ、行こか」
A「はい」
部長「じゃあ、すまんけんども」
演劇部員「あ!あの・・・」
B「悪いねえ、うちの部長はちょっと直情的な所があるからさ」
演劇部員「いえ、所で、Bさんは何かご存知ないですか?」
B「へへ、俺も蚊帳の外なのよ、悪いね」
演劇部員「い、いえ。こちらこそお邪魔しました」
B「はい、どうも」
演劇部員「失礼しました」
B「……、面倒な事になりそうだな」
副会長「演劇部長とマドンナが参りました」
会長「そう、通して」
副会長「はい。(二人に向かって)さあ、どうぞ」
演劇部長「失礼します」
マドンナ「失礼致します」
会長「突然お呼び立てして申し訳なかったね」
演劇部長「いいえ、こちらこそご迷惑をお掛けしたようで」
会長「いやいや、まだ問題になっている訳じゃないから、まだ、ね」
マドンナ「陰険な仰い方だこと」
会長「マドンナ、君がきちんと説明してくれさえすれば、こんな面倒をせずにすんだんだよ?」
マドンナ「私には会長が勝手に面倒になさっていかれているだけのようにしか思えませんわ」
会長「ふふ、まあいいさ。好きに言いたまえよ。所で、演劇部長。僕が君たちを召喚した理由はマドンナから聞いたかな」
演劇部長「はい。聞いております」
会長「僕はね、事を荒立てたくは無いんだ。全校的な問題にするのも出来れば避けたい。そのためには、君とマドンナの協力が必要だ、判るね?」
演劇部長「はい、会長の言わんとされる事は判ります」
会長「結構。さて、今僕が問題としているのは、マドンナの外泊だ。僕は外泊一般が問題だとは思っていない。一々学校や生徒会への報告など煩わしいだけだとさえ思う。しかし、マドンナは別だ、それはマドンナ、君が一番判っている筈だね」
マドンナ「ええ、そうですわね」
会長「百歩譲って外泊自体は大目に見てもいい。しかし、マドンナ、君は外泊先を隠している。僕はね、それを問題としているんだ」
マドンナ「それを知ってどうなさるの?」
会長「相手によっては君の進退問題に関わるだろう?」
マドンナ「誰であれば宜しいのかしら」
会長「さあ、それは聞いてから判断しなくてはいけないな」
マドンナ「意地の悪い言い方をなさるのね」
会長「言いたまえ」
マドンナ「厭です」
会長「聞き分けの無い事を言う者じゃない。言いたまえよ」
マドンナ「申しません」
演劇部長「マドンナ……」
マドンナ「あなたには申し訳ないけれど、やっぱりこの方には言いたくないわ」
会長「では、演劇部長。君は知っているんだね」
演劇部長「はい、私は先ほど聞きました」
会長「じゃあ、君で良いよ。教えてくれないか」
演劇部長「申し訳ありませんが、本人の口からお聞きになるべきであると思います」
会長「ふうん、き、君もそういう態度を取るのか……。いいだろう、誰を庇っているのか知らないが、まあ、見当がつかない訳でもないけれど、もう一度だけ、マドンナ、君に聞く。これが最後のチャンスだ。誰の家に泊まったんだい?」
マドンナ「どのような脅しを受けましても、決して申しません」
会長「強情だな。でも、それがいつまで持つかな。副会長!」
副会長「はい」
会長「あの方をお連れして」
副会長「判りました」
マドンナ「どなたをお呼びなさるの」
会長「まあ、直に判るよ」
演劇部長「新聞部じゃないだろうな……」
副会長「お連れしました」
会長「どうぞ、お入りください」
「失礼致します」
マドンナ「お、お姉さま……」
先代マドンナ「お久しぶりね、お元気?」
演劇部長「先代……」
会長「先輩、今日はわざわざお呼び立てして申し訳ありません」
先代「いいえ、可愛い妹のためですもの、受験勉強どころではありませんわ」
マドンナ「お姉さま……、申し訳ございません」
先代「いいのよ、Dちゃん。それで、会長、私は何のために呼び出されたのかしら」
会長「それはですね」
マドンナ「卑怯者!」
会長「何とでも言いたまえよ」
マドンナ「お姉さまをだしにして、私を脅すなんて見下げた者ね」
先代「Dちゃん!言葉を慎みなさい。どんな事があろうと、あなたはマドンナなのよ」
マドンナ「はっ、はい。お姉さま、申し訳ございません」
先代「会長、妹が失礼しました。どうぞお続けになって」
会長「それでは。簡単に申しますと、マドンナが先日無断外泊を致しまして、外泊先を報告してくれないのです」
先代「あら……、それはいけないわ。Dちゃん、どうしてご報告申し上げないの?あなた、マドンナなんだから、余り勝手に動いてはいけないでしょ」
マドンナ「はい、申し訳ございません、お姉さま」
会長「最初は内々で済まそうと思い、個人的に聞いてみたのですが駄目で、それで、このように正式に生徒会長による召喚査問の場を設けざるを得なくなってしまいまして、しかし、それでも、マドンナは口を閉ざすものですから」
先代「あらそうでしたの。どうして?、Dちゃん」
マドンナ「相手に迷惑が掛かります……」
先代「でも、既に会長さんや演劇部長には迷惑を掛けてるじゃないの、それはいいの?」
マドンナ「それは……」
演劇部長「先代、お言葉ですが、僕は迷惑だとは思っておりません」
先代「ありがと、部長。あなたも立派になったわね。でもね、あなたはそう思っていても、やっぱり迷惑は迷惑よ、そうでしょ?Dちゃん」
マドンナ「はい……」
先代「ねえ、どうしても言えないの?」
マドンナ「お姉さま……、お姉さまに申せぬ相手ではございませんわ、それだけは信じて下さいませ」
先代「ええ、そうでしょうとも。それは私もあなたの姉です。あなたを信じています。だからこそ、会長にだけ言えない筈がないと思うのよ」
マドンナ「申し訳ございません……」
先代「別に謝って欲しいのじゃないのだけど、困ったわね」
会長「いい加減にしてくれないと困るな、先輩に迷惑を掛けてはいけないね」
マドンナ「決してあなたには申し上げません」
会長「なっ……!」
先代「ふう、しょうがないわねえ。Dちゃん、あなた、そこまで言うのであれば、もう覚悟は出来ているのでしょ」
マドンナ「はい、お姉さま。申し訳ありません」
先代「いいのよ、元は私が無理に誘い入れた道ですもの。あなたを止める資格は私にはないわ」
マドンナ「お姉さま……」
先代「という訳ですから、会長。私はお力にはなれませんわ」
会長「そんな」
先代「Dちゃん、私はどうなってもあなたの味方よ。好きになさい」
マドンナ「ありがとうございます」
先代「部長、妹が迷惑を掛けるけど許してあげて頂戴ね」
演劇部長「はい、覚悟は十分出来ました」
先代「それでは、会長。私はこれで。ごきげんよう」
会長「先輩、ちょ……」
マドンナ「お姉さま……」
会長「……。ふ、ふふ。まあいいさ。じゃあ、マドンナ、君の覚悟とやらを聞かせておくれよ」
マドンナ「あなたのご想像どおりよ」
会長「さあ、僕には想像がつかないね」
マドンナ「あら、そう。では、はっきりと申します。私はマドンナを退く覚悟で参りました、ですから、私の不品行を問題にして、マドンナからの退座をお命じになるのでしたら、どうぞ御勝手になさいませ、私はこの場にこの事だけを申し上げに参りましたの」
会長「お、おい。やけに簡単に言ってくれるじゃないか。それがどういう事か判っているのかい?な、なあ、演劇部長」
演劇部長「申し訳ないですが、僕はマドンナの意志を尊重します、僕は仲間として、彼を守りたいと思います」
会長「い、今まで任期中に退任したマドンナはいない!君がもしもその最初の例になるとすれば、マドンナ制度自体が問題となるかも知れないんだぞ」
マドンナ「お姉さま方には申し訳ありませんけど、その程度で無くなる制度でしたら、どうぞもうお止めなさいませ」
会長「言ったな……。判った、いいだろう。もう結構だ。これ以上は時間の無駄だろうからね。処分は追って公示する、下がって良いよ」
演劇部長「失礼します」
マドンナ「ごきげんよう」
会長「……マドンナ!」
マドンナ「まだ、何か?」
会長「本当に良いんだね?今ならまだ間に合うよ。正直に言うけれど、僕は君の第一のファンだ。誰よりも君を惜しんでいるんだ、だから……」
マドンナ「くどいですわ。それでは、ご免遊ばせ」
会長「マドンナ!!何故、何故……」
副会長「失礼致します」
会長「……」
副会長「会長」
会長「……」
副会長「会長!」
会長「……、ん、ああ、何?」
副会長「二人をあのまま帰して宜しかったでしょうか」
会長「ああ……。悪いけどね、直ちに執行部員を全員招集して」
副会長「はい、もう処分を」
会長「うん。早いほうが良いよ、きっとそれがマドンナのためにもいいんだ……、うん、きっとそうだ……」
副会長「会長?」
会長「ああ、兎に角、明朝には公示できるようにしたいんだ」
副会長「それでは、回覧にしますか?」
会長「いや、一応、執行部会を開いておきたい」
副会長「承知いたしました」
会長「よろしく、僕はちょっとそれまで休んでるから、集まったら呼んでくれるかな?」
副会長「はい、あの……」
会長「何?」
副会長「本当にお宜しいのですか?」
会長「うん、もういいんだ……」
副会長「承知しました、失礼致します」
会長「よろしく……」
部長「おっ、ありゃマドンナじゃないか?もう終わったんか?」
A「はい、マドンナとあれは……、演劇部長ですね、やけに早くないですか?」
部長「ほうじゃのう、厭な予感しかせんぞ。おい!マドンナ!」
マドンナ「あ、ああ、部長さん、どうなさったの?そんな血相を変えて」
部長「何を言うとんの。演劇部の子からもう話は聞いたで、慌てて来たんじゃ」
マドンナ「あらそう、まあA君まで、悪いわね、心配かけて」
A「い、いえ。あの……」
部長「そんで、そんでどうなったの?」
演劇部長「ここでは何だから。うちの部室で話そう。ここでは誰が聞いているか判らない」
マドンナ「そうね」
部長「ほ、ほうじゃのう……」
マドンナ「あら。鍵が開いているわ」
演劇部長「まだ誰か残ってるのか?帰れって言ったのに」
C「お、お姉さま!!」
マドンナ「Cちゃん!あなた待っててくれたの?」
C「だって……、だって心配ですもの……」
先代「実はあたくしも居たりして」
マドンナ「お、お姉さま!?」
演劇部長「先輩!」
先代「やっぱりあたくしも心配しちゃうわ」
マドンナ「申し訳ありません、お姉さま……」
部長「あ、あの、僕らも入ってええの?」
A「失礼します」
先代「Dちゃん、この方がお相手ね?」
マドンナ「お姉さま、ちょ、ちょっと……」
部長「あ、どうも、お初にお目に掛かります。合唱部長です」
先代「ええ、存じ上げてますわ。あなた、独唱なさってたから」
部長「それはどうも」
A「あの、始めまして、1年生のAと申します」
先代「知ってるわよ、あなたね、生意気な子ってのは。現役やOBの子たちがあたくしの所にも来て大変だったのよ」
A「それはご迷惑をお掛けしました」
先代「それは別にいいのだけど、でも……、あなた勿体無いわねえ」
マドンナ「お姉さま、私にはCが居りますわ」
先代「そうね、失礼しちゃったわ。それで、Dちゃん、やっぱり、あなた……」
マドンナ「はい。私マドンナを退きます」
C「えっ!?お姉さま?お姉さま、どうして、どうして……」
部長「何でじゃ、急に、どうしたんな、まさか……」
演劇部長「まあ、そのまさかさ」
部長「僕なんか庇うたんか」
マドンナ「僕なんか、じゃないわ。あなただからよ、私の一番大切なあなただからよ」
部長「何を訳のわからん事を言うとんのや」
A「部長ってば、ニブチン……」
演劇部長「全く……、ニブチンだな……」
先代「もう……」
マドンナ「私はあなたが好きなの、愛しているの。この前久しぶりにお話した時、友情ではなくて、あなたを愛していると気付いたのよ」
部長「お、おい……、いきなりそんな、困るで……」
マドンナ「そうよね、困るわよね。別に、今ここであなたの答えを聞きたいんじゃないのよ。いいえ、聞くのが怖いくらいだわ。ただ、私がマドンナを降りる理由はこれしか無い事を解って欲しいの」
部長「ううむ……、ほうか……、しかしのう、何と言えばええのか判らんで」
先代「部長さん、あの子が答えは良いって言ってるのだから、頷いて上げて頂戴」
部長「は、はい。……とりあえず、解った」
マドンナ「ありがとう。何か急にすっきりしちゃったな」
C「お姉さま!!お姉さまはそれで宜しくても、私はどうすれば良いのですか!?」
マドンナ「ごめんなさい……。まだ私にも判らないの。でも、マドンナ制度が残るとすれば、次のマドンナはCちゃん、あなたしか居ないわ」
C「そんな……、お姉さま、無責任です!あんまりです……」
マドンナ「……」
先代「Cちゃん」
C「先代様」
先代「Dをどうか許して上げて……、お願い。今まで我が儘なんて一度も言わなかったのよ。どうか許して上げて頂戴」
C「先代様……、でも、でも」
マドンナ「Cちゃん、私は姉失格ね。あなたの事よりも先に部長の事を考えたのだから。本当に申し訳ないと思うの。でも、私はマドンナである前に、Dでありたかったの。判って貰えなくても良い、許して貰えなくても良いの。その覚悟は出来てます。でも、これだけは信じて頂戴。私はCちゃんをマドンナとなるべき人と見込んで妹にした事だけは信じて欲しいの」
C「お姉さま」
マドンナ「マドンナに成りたくて、その一心でこの学校に入り、誰よりも稽古に励み、誰よりも芝居を愛する、Cちゃん、あなたこそマドンナに相応しいわ」
C「……(走り去る)」
A「待てよ……!(追いかけていく)」
マドンナ「Cちゃん……(顔を覆う)」
部長「おい、どこ行くんなら!」
演劇部長「(追いかけようとする部長の肩を掴み、止まらせる)部長。とりあえず、A君に任せてみようよ」
部長「し、しかし……、ほ、ほうか……。ほうじゃのう」
先代「青春ねえ……フフッ」
A「待ちなよ」
C「何で追いかけてきたんだよ、何で君なんだよっ‼」
A「なあ、ちょっと落着こうよ」
C「どうしてこれが落着けるんだよ」
A「そりゃそうだけどさ、僕だって辛いんだ」
C「えっ……!?あ、ああ……、そうか……」
A「だからさ……」
C「うん……」
A「でさ、僕が言うのも何だけど、余り上の人を困らせちゃ駄目だと思うよ。君はマドンナさんが好きなんだろ。好きなら応援してやりなよ」
C「君に何が判るんだよ……」
A「何も判らないさ。僕はそもそもマドンナ制度なんておかしいと思っているんだからね。でも、君はマドンナ制度を守りたいんじゃないの?」
C「勿論だよ」
A「じゃあ、君が承知しなきゃ」
C「……」
A「僕もマドンナや先代さんと同じく、君こそマドンナに相応しいと思うよ」
C「よく言うよ、全校の誰もが君の方が相応しいと思ってるじゃないか」
A「そうかもね」
C「……!」
A「確かにそうかも知れない。でもさ、マドンナは君が良いって言ってるじゃないか」
C「……」
A「全校生徒が僕が相応しいと言っても、マドンナは君を推してくれてる。それじゃ不満?」
C「……、不満じゃない」
A「だろ。じゃあ」
C「で、でも、自信が無いんだ!お姉さまさえ誉めてくださるならそれで良いけど……。誰も認めてくれない状態では……、無理だよ……」
A「誰もじゃないよ。マドンナは認めてくれてるよ」
C「……」
A「君が本当にマドンナを好きならば、それで満足しなきゃ嘘だ」
C「……うん」
A「そして、妹だったらお姉さんを応援して上げなきゃ」
C「……」
A「返事は?」
C「……うん」
A「宜しい。さ、戻ろ?マドンナも先代さんもきっと凄く心配してるよ。妹が姉に心配かけていい筈ないんじゃない?」
C「そうだね、うん、戻ろう」
A「ま、その上で、僕はマドンナを応援しないけどね」
C「卑怯者!」
A「マドンナの方がよっぽど卑怯さ」
C「それ以上お姉さまの悪口を言うと許さないぞ!」
A「おお、怖い怖い」
C「この……ふふふ」
A「ははははは」
C「ふふふふふ、……さあ、早く戻らないと」
A「うん」
マドンナ「私の我が儘で……、Cちゃんを傷つけてしまった、きっと許してくれないわ……」
先代「何言ってるの。妹を信用なさい、もう……、自分で決めた事じゃないの。堂々となさいな」
マドンナ「でも、お姉さま……」
演劇部長「きっと、A君が何か話してくれているさ」
部長「ほうじゃとええがの……」
C「(ガチャ)申し訳御座いません、お姉さま!」
マドンナ「Cちゃん……!戻ってきてくれたのね」
C「お姉さま、我が儘言って困らせてしまって申し訳ございません、先代様も、どうかお許しください」
先代「あたくしは何も……ねえ、Dちゃん、あなたは?」
マドンナ「私こそ許して頂戴。本当に姉失格でゴメンなさい、どうか許して……」
C「お姉さま……、顔を上げてください。私が……、私が好きなお姉さまはいつも堂々としてお出でなくては嫌ですもの」
マドンナ「有難う、Cちゃん。本当に有難う……」
C「お姉さま……!」
部長「A君、ようやったのう、大殊勲じゃ」
A「別に僕は何も、でも、部長、一つ貸しですよ」
部長「君なあ……」
演劇部長「僕もかい?何でもお礼するけど」
A「あ、別に良いです」
演劇部長「いけず……、でも、それがいい///」
部長「アホじゃ……」
先代「A君?」
A「はい」
先代「本当に有難う。心からお礼を言うわ」
A「いえ、別に本当に何も」
先代「ふふふ、ますます惜しいわ。でも、仕方ないわね。じゃあ、私はこれで、またね、A君」
A「ええっ!?」
マドンナ「お姉さま!」
先代「また何かあったらいつでも呼んで頂戴。すぐに駆けつけるから。それじゃ、ごきげんよう」
マドンナ「本当に不甲斐ない妹で申し訳ありません!」
先代「いいのよ、姉はいつまでも妹の世話を焼くのが楽しみなんだから、それじゃまたね」
マドンナ「お姉さま……」
先代「あっ、それと、部長さん。Dちゃんの事宜しくね」
部長「はあ……」
先代「何かあったら只じゃ置かないわよ。……なんてね、ごきげんよう」
部長「お、お疲れ様でした……」
演劇部長「お疲れ様でした!」
部長「お、おい」
演劇部長「何?」
部長「今、あの人目が笑っとらんかったぞ」
演劇部長「だろうね。怖いお人さ、お気の毒に」
部長「そ、そんな……」
マドンナ「……。Cちゃん、それじゃ、あなたが引き継いでくれるわね?」
C「はい、お姉さま」
演劇部長「それでは、多分明日には退座の公報が掲示されるに違いないから、C君をマドンナに奉戴するよう、生徒会に報告するよ」
マドンナ「演劇部長にも迷惑ばかり掛けてしまったわね、ゴメンなさい」
演劇部長「何言ってんだよ。友達じゃないか」
マドンナ「……!?……うん、ありがと……」
部長「じゃあ、僕らはこれでお暇しよか」
A「はい」
マドンナ「部長、ごめんね、色々迷惑掛けちゃって……」
部長「いや、僕は大丈夫やから。また、遊びに来いや」
マドンナ「うん。A君もごめんね」
A「いえ。一つ貸しです。後、部長を譲った訳じゃないので、お礼には及びませんよ」
マドンナ「……!」
部長「何を馬鹿な。さあ、行くで。それじゃあまあ、また」
A「失礼します」
マドンナ「……会長はどうするかしら……。それだけが気懸かりね……」
C「私はもうどんな結果になっても、お姉さまをお支え致します」
マドンナ「Cちゃん……、ありがとう」
演劇部長「まあ、成る様に成るさ。取り合えず、もう今日は上がろう、明日は明日の風が吹くってね」
マドンナ「部長、そうね。そうしましょう」
C「はいっ」