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マドンナは男子高校生  作者: ササ・マイトウ
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第四幕 第二の波乱(1)

生徒会長「最近、ちょっとマドンナ近辺が騒がしかったようだけど」

副会長「みたいですね」

文化部長「取りあえず収まったようです」

会長「そう。それなら良かった」

文化部長「結局、1年のAが生徒人気ランキングにけちを付けて、それを演劇部、特に女役が問題にしたみたいで」

会長「まあ、マドンナと女役は我が校の伝統だからね」

副会長「あれは異常だという声も一部にあるようですが」

会長「しかし、風紀維持のためだからね」

風紀部長「そうです。われわれ生徒会がちゃんと彼らを守らないといけません」

副会長「まあね」

会長「僕はマドンナと同じクラスだし、一度話を聞いてみよう」

副会長「そうですか、別に文化部長に任せておけばいいのでは」

会長「いやいや、別に手間じゃないから」

副会長「(ボソッ)そういう意味ではないんだけど……」

会長「どうした?」

副会長「いえ、何でもありません」


会長「マドンナ」

マドンナ「ああ、会長。ごきげんよう」

会長「何だか大変だったみたいだね」

マドンナ「いいえ、別に。もう全て解決致しましたわ」

会長「そう、それならいいんだけど。ただ、A君と噂のある合唱部長とやり合ったとか聞いたから」

マドンナ「(あの子と噂?)……別に、古い知り合いですから」

会長「(古くから知り合いだって?)……そ、そうなんだ」

マドンナ「ええ、ですから、多少の事は何の問題もありませんのよ。どうぞお気になさらず。あと、余り生徒会長が噂を相手にするのはどうかしら?」

会長「はは、ちょっと口が軽かったね、失礼失礼」

マドンナ「兎に角もう問題は解決致しましたので、それではごきげんよう」

会長「ああ、失礼したね」


会長「(どういう事だ?どういう事だ?マドンナとあいつが旧知なんて僕は聞いたことないぞ?)」

副会長「会長、会長!」

会長「(ちくしょう、どういう事だ。マドンナがどうしてあんな親しげにあいつの事を)」

副会長「会長!!」

会長「なんだよ!うるさいな!!」

副会長「あっ、す、すみません、気付いて下さらないので……」

会長「ご、ごめん……。ちょっと考え事をしてたんだ、ほんとごめん」

副会長「い、いえ。あの、一応、合唱部長を呼び出しましたが……」

会長「え、あ、そう。別に良かったのに……」

副会長「それでは、もう帰しますか?」

会長「い、いや、折角だし、ちょっと話を聞いておこうかな」

副会長「それでは、会長室で待たせておりますので」

会長「判った、ありがとう」

副会長「我々は生徒会室におります」

会長「うん」


会長「お待たせして悪かったね」

部長「いえ」

会長「いやね、別にあれなんだけど、まあ、ちょっとこの前のお話を聞いておきたいと思ってね」

部長「はあ、ご心配おかけして申し訳ありません」

会長「いやいや、全然全然、こっちは何も知らなかったから、良いんだけど」

部長「はあ」

会長「ところで、君とマドンナが旧知の仲ってほんとなのかい?」

部長「へ?」

会長「だから、君達知り合いなのって」

部長「はあ、まあ、幼稚園と小学校が一緒でしたけど」

会長「へ、へえ。で、でも、全然そんな素振りなかったよね」

部長「まあ、向こうは入学してすぐ人気者でしたからなあ」

会長「そ、そうか」

部長「でも、何か問題でもありますかな」

会長「いや、別に。でも、あ、あの、最近はどうなの?」

部長「はあ、この前の一件で久しぶりに会話した感じでしょうか」

会長「そうか……。ま、既に当事者間で済んだ話なら問題ないだろう。こちらも大事にはしたくないからね。わざわざご足労ありがとうございました」

部長「はあ、こちらこそどうも御世話様でございました」

会長「部長君がお帰りだ」

部長「それじゃどうも」

会長「はい、こちらこそ」

会長「(何だ、大した事無いじゃないか……。おどかしやがって)」

副会長「会長、会長!」

会長「ん、んあ。ああ、何?」

副会長「よろしかったんですか、もう帰して」

会長「ああ、もう良いよ。新聞部はよく嚇しておいてくれ」

副会長「はい、承知しました」

会長「下品な紙面は我校の伝統に反するから」

副会長「はい」

会長「でも……、何かひっかかるな」

副会長「何がですか?」

会長「えっ?聞こえてた?」

副会長「はい」

会長「何でもないから、うん、何でもない」

副会長「はあ……、あの、会長」

会長「何?」

副会長「先ほどから様子が変ですが、何かありましたか?」

会長「何でもないよ」

副会長「そうですか?何かあったらすぐに仰って下さいね」

会長「ああ、ありがとう」

副会長「それでは、失礼します」

会長「はい、ご苦労様」


マドンナ「ねえ、Cちゃん?」

C「はい、何でしょう、お姉さま」

マドンナ「あのね、こんな事聞くのってどうかと思うのだけれど」

C「何でも仰ってください」

マドンナ「あの、そのね、ええと……」

C「どうなさいました、お姉さま」

マドンナ「A君って合唱部長と噂があるの?」

C「は?何を仰ってるのか、ちょっと……」

マドンナ「だから、A君と合唱部長が付き合ってるっていう噂があるけど、どうなのかしらって……」

C「はあ、私は申し訳ありませんがその噂は存じ上げませんけれど、あの二人は何かと言うと一緒に居ますから、そういう噂が立ってもおかしくはないとは思いますわ」

マドンナ「そうなの……、火の無い所に煙は立たないとも言うわね……」

C「でも、男同士ですよ?」

マドンナ「そういうのって関係あるかしら。私、好きって感情に性別なんて関係ないと思うの。」

C「お姉さま……」

演劇部長「そうだ、男同士でも美しければいいじゃないか!」

マドンナ「あなたはひっこんでらして!」

演劇部長「はいはい」

マドンナ「と、兎に角、Cちゃん、あなたもあの二人が一緒なのをよく見かけるのね」

C「多分、授業中以外は殆んど一緒に居る筈です、特に、この前の一件から」

マドンナ「そう……」

C「でも、どうしてそんなにお気になさるのですか?やっぱりA君が」

マドンナ「あいつはどうでもいいの」

C「えっ?」

マドンナ「い、いやだわ。今のは聞かなかった事にしてね」

C「は、はい……(やっぱり、まだあの一件を怒ってらっしゃるのかしら?)」

マドンナ「ちょっと小耳に挟んだものだから、気になっただけなの、本当に、それだけだから。いやね、私ともあろう者が、そんな下らない噂に興味持ったりして、ほんと、厭だわ」

C「お姉さま」

マドンナ「何でもないのよ。さあ、お稽古に戻りましょ」

C「はい、お姉さま」


C「あっ、あのっ、A君」

A「はい?なんだ、君か。もう話さないと言ったじゃない」

C「あのね、この前はゴメンなさい」

A「もういいよ、別に。あれで部長とも仲良くなれたし」

C「そう……、その部長さんのことなんだけれど」

A「何?君も部長に興味あるの?」

C「(真顔で)全然ないわ。全然」

A「ふん、やけにはっきりとだね」

C「あのね、あなたと部長に噂があるのご存知?」

A「知ってるよ。この前、新聞部にも聞かれたもん」

C「そうなの、で、どうなの、実際」

A「あのさあ、僕がいうのも何だけど、仮にもマドンナの妹である君が、そういう下世話な事に興味を持って、出歯亀みたいなことするのはどうかと思うよ」

C「違うの。私はどうでもいいの」

A「じゃあ、何で聞くんだよ」

C「あのね、お姉さまがねちょっと気にしてらして」

A「ふうん、マドンナさんがね……」

C「でね、あなたの事をボソッとあいつ呼ばわりされてたから、ちょっと心配になっちゃって」

A「そう。マドンナさんは僕のことが痛く目障りなようだからね」

C「やっぱり……。それってあの件の所為かしら」

A「ううん、違うと思うよ」

C「どうして?お姉さまと親しくも無いあなたがどうしてそう言い切れるの?」

A「だって、マドンナさんは僕と同じだからさ」

C「どういう事?」

A「それは、本人に聞いてみなよ。多分、怒りと恥かしさで顔を真っ赤になさるだろうから」

C「やめて、お姉さまの事をそんな風に言わないで」

A「ごめんごめん。まあ、あの一件の前から、マドンナさんは僕を嫌っていた。目が違ったもの。だから、演劇部長さんがどんなに僕を勧誘しても、あの方は一回も僕に声をお掛けになってないよ」

C「そうなの……。でも、どうしてかしら?あなたみたいな綺麗な子に声をかけられない筈ないのだけれど」

A「一つは、僕がマドンナに興味がなかったから、それ目当てに入学したのではない事を、マドンナさんは直ぐに見て取ったんじゃないかな」

C「ああ、それはお姉さまもそういう事を仰ってたわ」

A「やっぱり」

C「ええ、お姉さまも多分別の理由でこの学校にお越しになったのは間違いないと思うの」

A「ふうん、やっぱりね。大体見当はついてたけど」

C「どういう事?」

A「まあまあ、もう一つはね、僕が合唱部に入ったから、声を掛けなかった」

C「?」

A「事の真相は、ご本人から直接伺うべきだと思うね。ただ、僕の方は君のおかげで疑いが確信に変ったよ。ありがとう」

C「訳が判らないわ」

A「さあ、もう授業が始まるよ、明日のマドンナが仮令僕みたいなのでも一般男子と長々と会話するのはよくないんじゃないかな?」

C「そ、そうね。ごきげんよう」

A「どうも(フフッ、やっぱりあの年増は部長が……)」


C「あ、あの、お姉さま?」

マドンナ「どうしたの、Cちゃん」

C「あの……、今日、私、A君とちょっとお話したんですけど」

マドンナ「もう!Cちゃん、あれほどもうあの子に関わってはダメって言ったじゃない!どうして姉の意見が聞けないの!」

C「申し訳ありません、お姉さま。で、でも、あの、喧嘩をしたとかそういうのではなくて」

マドンナ「じゃあ、何をお話したと言うの、ちゃんと仰いなさい」

C「はい、A君と合唱部長の噂についてなんですが……」

マドンナ「っ……!ふ、ふうん、……そう。それで?」

C「えっ?それだけですが……」

マドンナ「んもう、違うわよ。話の中身よ、中身」

C「は、はい。本人もその噂を知ってはいるとの事でした」

マドンナ「そんなのはどうでもいいの。事の真偽よ、問題なのは」

C「それについては何も」

マドンナ「何も?……もう、何よ」

C「あの、お姉さま、それで」

マドンナ「それで?」

C「A君が言うには、お姉さまがA君を目障りだと思っている、と。そして、その理由はお姉さまとA君が同じだからだ、と」

マドンナ「ふうん、そう言ってたの」

C「はい、お姉さま」

マドンナ「よく判ってるじゃない。いい度胸ね」

C「お姉さま?」

マドンナ「まあいいわ。私のほうが付き合いは長いし、家族同士も知り合いなんだから。あんなのに負ける筈ないもの」

C「何を仰っているんです?お姉さま」

マドンナ「何でもないわ」

C「それでしたらよろしいのですが……」

マドンナ「もし、A君とまた話す機会があるのなら、私が相手にしていない事を伝えておいて頂戴。別にその為にあなたが赴く必要はないけれど」

C「はい、畏まりました、お姉さま」

マドンナ「さ、お稽古、お稽古」


A「部長」

部長「何ね」

A「部長とマドンナって仲良いんですか?」

部長「何を急に」

A「どうなんですか?」

部長「まあ、友達よ」

A「やっぱり、あの後仲直りしたんですね」

部長「まあ、家まで来られたけえねえ、無下にも出来んがな」

A「えっ!?先輩のお宅へ?」

部長「あっ!しもうた!!お、おい、誰にも言うたらいけんぞ」

A「はあ、それは部長の出方次第です」

部長「何じゃそりゃ」

A「先ずは続きをお聞かせ願いたいですね」

部長「あれが僕の家を知っとるのはまあ当然じゃわな」

A「はい」

部長「まあ、君と別れた後帰ったら、もう家に来とったの」

A「……図々しい」

部長「いやいや、家族とも顔見知りじゃから。うちの母さんも久しぶりでの喜んで上げたらしいが」

A「へえ、そうですか」

部長「まあ、最初は帰れ言うとったが、泣いて詫びるもんじゃから、そんで、今までの気持ちみたいなんも聞いての、やっぱり幼馴染じゃもの、ほだされるわな」

A「ふん、案外ずるいんですね。あの人」

部長「そう言うなや。まあ、焼き餅じゃったそうな」

A「やっぱり」

部長「ほうか、やっぱり君はわかっとったんか」

A「薄々ですけど、でも、やっぱりって?」

部長「いや、あれがそう言うとったで」

A「つくづく同類だなあ」

部長「ほうか?まあ、それで今まではマドンナ言う事で頭が一杯でどうかしとったと、これからは昔のように仲間付き合いをしようと」

A「はあ」

部長「まあ、そういう訳じゃ」

A「それで、この前あんな余裕があったんだ……」

部長「それが関係あるかは僕は知らんが」

A「それで、僕と部長の噂を心配していたんだ」

部長「何じゃそれ」

A「ご存知無いんですか?」

部長「何を」

A「僕と部長がお付き合いしているっていう噂ですよ」

部長「馬鹿馬鹿しい、実に下らん噂を……、誰じゃそんなん流す奴は……。アホじゃ」

A「別に僕は構わないんですけど」

部長「いけん、そんな事冗談でも言うてはいけん、面倒の元や」

A「はい、気を付けます」

部長「そんなんをあれが気にしとるんか」

A「はい、Cが言ってました」

部長「ほうか、しかし、皆暇やの」

A「はは」

部長「兎に角、そんな噂を相手にしてはならんで。マドンナも相手にするな。面倒が増える。あと、あれが家に来た事は決して口外無用じゃけんの」

A「はい、その代わり、僕も今度呼んで下さい」

部長「判った判った」

A「やった」

部長「まあ、それじゃここで、また明日」

A「あ、はい、失礼します」


ピンポーン

部長母「はあーい」

A「あ、あの、お初にお目に掛かります。あ、私、」

部長母「あなた、A君でしょう」

A「は、はい、Aでございます。部長にはお世話になっておりまして」

部長母「はいはい、堅苦しい挨拶はええけん、上で待っとるよ、早う上がりんさい」

A「はい、失礼致します」

部長母「A君が来なさったよ」

部長「はいはい、今行くで」

部長母「どうぞ、こっちです」

A「あ、ありがとうございます」

部長「おお、よう来たのう」

A「あ、部長、おはようございます」

部長「ま、ええから、部屋に来んさい」

A「はい、お邪魔します」

部長「まあ、何も無いけど」

A「い、いえ。あの……、本がいっぱいなんですね」

部長「そうなの、本があり過ぎで、よう母親に怒られるのよ」

A「そうなんですか」

部長「漫画とか無いで、すまんの」

A「いえ、そんな」

部長母「入るで」

部長「はいはい」

部長母「麦茶じゃけどええかねえ」

A「あ、大好きです」

部長「慎ましくてすまんのう」

部長母「うるさい!」

A「はは、冷たくておいしいです」

部長母「ありがとう。もうちょっとしたら、お素麺が茹で上がるけん、よかったらどうぞ」

A「すみません、ありがとうございます」

部長母「それじゃ、ごゆっくり」

A「ありがとうございます」

部長「折角の客じゃいうのに、素麺かや」

A「はは、素麺いいじゃないですか」

部長「何か恥かしいわ」

A「いえいえ、そんな」

部長「でも、家に来ても何も楽しうないじゃろうに」

A「少しでも対等になりたくて」

部長「ほうか、よう判らんけど」

A「小学校の卒業アルバムはどちらに?」

部長「何じゃ急に」

A「部長とあの人の写真を見てやろうと思いまして」

部長「余り見せたくないが、ええと、これじゃ」

A「ありがとうございます」

部長「ほれ、そのクラスに僕とあれが居るで」

A「え、どこですか?」

部長「これとこれじゃ」

A「あ、ああ、部長は……変らないですね」

部長「まあの、何か腑に落ちん気もするが」

A「あ、これかあ……、まるで女の子ですね」

部長「おお、そうよ。あれは女子以上じゃったわね」

A「はあ、これは予想以上でした」

部長「な、これは名前聞かんと気付かんじゃろ」

A「本当ですね、はあ、これは……」

部長「集合写真はこれね」

A「あ、仲良さそう」

部長「まあまあ、そうね、こんな仲良かったかのう」

A「何か白々しいなあ」

部長「何を馬鹿な。ほれ、こっちは修学旅行よ、余り写っとらんが」

A「え、どこですか」

マドンナ「ほら、ここよ」

A「ああ、ここか……。って、えっ!?」

部長「えっ!」

マドンナ「どうも、お邪魔様」

A「何でここに」

マドンナ「いつでも遊びに来ていいって言われたからよ」

部長「言ったかも判らんが、まったく」

A「折角だったのに……」

マドンナ「何か厭な予感がしたのよね」

部長「はあ、ほうか」

部長母「ごめんねえ、黙ってくれ言われたけえ」

部長「人が悪いわ」

マドンナ「ふふふ、男の子の靴があったから、多分来てるんだろうなって」

A「ふん……」

部長「いつから居ったん」

マドンナ「さっき着いたばっかり」

A「本当かなあ」

マドンナ「本当よ、ねえ、おばさま」

部長母「ほんまよ」

部長「ほうか、まあ、来たもんはしゃあないが」

A「ちぇっ」

マドンナ「あなた、何かご不満?」

A「別に何もありません」

マドンナ「よろしい」

部長「まあまあ、人の家で喧嘩はやめてや」

A「はい」

マドンナ「ふん、まあいいわ。所で、懐かしいわね、卒業アルバムなんて」

部長「そうじゃろう。僕も久しぶりじゃ」

マドンナ「私って、この頃が一番魅力的だったんじゃないかしら」

部長「ほうかのう」

A「ずるい、勝手に思い出話するのはずるいです」

マドンナ「あら、ごめんあそばせ」

A「もう、部長も部長です」

部長「ああ、ついつい。すまんの。ほれ、これが秋合宿の写真よ」

A「あれ?手を繋いでませんか?」

部長「おお、ほうじゃのう」

マドンナ「別にいいじゃない、今でも繋げるわよ、ほら」

部長「ちょっ、やめえ」

A「ちょっと本気でやめて下さい。ほら早く手を離して。もう……、でも、本当に仲良かったんですね。まるで恋人同士みたい」

部長「何を馬鹿な事を……。小学生じゃないか、別に何と言う事もないわね。あの頃は、ほんまによう引っ付いて来たの」

マドンナ「今は我慢してるだけよ」

A「いよいよ本音が出てきましたね」

マドンナ「別に隠してたつもりはないわ」

部長「まあまあ、そうむきにならんと。しかし、そう考えると、よう泊まりにも来とったし、仲良かったの」

マドンナ「そうよ。まるで恋人同士のように仲良かったわ」

部長「何を言うとるの」

A「それだけ仲がお宜しかったのに、高校じゃ疎遠になったんですか?」

マドンナ「聞きにくいことを平気で聞くわね」

A「いや、どうしてかなって」

マドンナ「ま、いいわ。今年は新入生歓迎式まで部の勧誘をしなかったから知らないだろうけど、去年は入学式の時に既に勧誘があって、私はそのままお姉さまの妹になったの。それからは、他学年と他クラスの一般生徒との会話は原則的に禁じられていたから。彼が同じ学校なのは、入学する前から知ってたのよ」

A「へえ、まるで部長を追っかけてこの学校に来たみたいに」

マドンナ「そうよ。部長に会いたい一心でこの学校を選んだの」

A「へ、へえ……。そうなんですか……」

マドンナ「まあ、結局最近まであいさつすら満足に出来なかったけど」

A「という事は、僕のお蔭ですね」

マドンナ「ふん、癪だけど、そうね。あなたが合唱部に入ってくれたお蔭よ。そうでなければ、今でも部長とは口を聞けなかったでしょうね」

部長「ほんまにそうじゃ。僕も口を聞こうなんて気も無かったけえ」

A「どうしてですか」

部長「ほら、マドンナとして一生懸命やっとるしの、こっちも波風たてたあないし、まあ、ほんまの事を言うと、下手に声を掛けたら迷惑じゃろうと」

マドンナ「そんな……迷惑だなんて」

部長「変な事言われても適わんだろうし、無理しちゃ居らんか心配ではあったが、遠慮しとったのよ」

マドンナ「そうだったんだ……」

A「何か、やな雰囲気」

部長「まあまあ、A君よ、そういう事なのよ」

A「はあ」

マドンナ「でも、今じゃ、こうしてまたお家に遊びに行けるようになったし、A君、本当にあなたの御蔭ね」

A「何か悔しい、納得いかないなあ」

マドンナ「いいじゃないの、あなたは授業中以外いつも一緒なんでしょ」

A「はあ、まあ、それはそうです」

マドンナ「私は学校では滅多に声も掛けられないんだから」

A「ううん、まあそうですね」

部長「何か気色悪い話をしとるの、もうやめんさい」

マドンナ「まあ、言うに事欠いて気色悪いですって」

A「部長、撤回して下さい」

部長「何じゃそりゃ、急に手組んで……、はいはい、すんませんでした」

マドンナ「誠意がないわね」

A「全くです」

部長「知るか」

部長母「お素麺出来たで、下りてきんさいよ」

部長「お、丁度良かった、さ、早う行こうや」

マドンナ「ずるいのは昔からだね」

A「へえ」

部長「さあさあ、延びるけえ」

マドンナ「はいはい」

A「はあい」


部長母「でも、DちゃんもAちゃんも女の子みたいじゃねえ」

マドンナ「いやだわ、おばさま」

A「恐れ入ります」

部長「いや、誉め言葉じゃないで、それ」

部長母「何言うとんの、誉めとんのよ、ねえ」

マドンナ「ありがとうございます」

A「ありがとうございます」

部長母「両手に花じゃね」

部長「意味わからんわ」


部長「さあ、そろそろ暗くなって来たけえ、二人とも帰りんさい」

マドンナ「あ、今日お泊りするって言ってきたから」

A「えっ!?」

部長「いやいや、何を言うとんの」

マドンナ「おばさまにもお許し頂いてるし」

部長「いつ言うたのよ」

マドンナ「来た時に」

A「じゃあ、最初からその積りで」

マドンナ「そうよ」

A「ずるい、ずるいです。先輩」

マドンナ「まあここは、幼馴染の特権ね」

A「部長~」

部長「しかしの、母さんも、そっちの親御さんもええと言うのなら、断れんが」

A「そんなあ」

マドンナ「まあ、そういう訳だから、あなたは早くとっととお帰りなさいな」

A「……」

マドンナ「どうしたの?何かお言いなさいな」

A「……バラす。全部新聞部にバラしてやる」

部長「お、おい」

マドンナ「A君?何言ってるの?」

A「部長とマドンナさんがお泊りデートしてるって、今ここでバラします。ついでに、生徒会長にも」

部長「まあ、待て。話せばわかる」

マドンナ「そ、そうよ。落ち着きましょ?」

A「無理。マジで無理。僕だけ除け者にされるなんて、厭だもん」

部長「何を聞き分けの無いことを……」

マドンナ「じゃあ、こうしましょ?あなたも親御さんに連絡してお泊りすればいいじゃない、ね?そうしましょ?」

部長「ちょっ、勝手に」

A「それなら、手を打ってあげてもいいです」

部長「しかし……」

マドンナ「何言ってるの、部長。バラされたら、私達一巻の終りよ。特にあなたが」

部長「ううむ、ほうじゃ。全く否定できん」

A「何をつべこべ言ってるんですか?泊めてくれますか、バラされますか?」

マドンナ「部長」

部長「判った判った、好きにせえや。もう」

マドンナ「だそうよ、ね、だから、あなたも落着きましょ?」

A「はい、すみません……。ちょっと興奮してしまいました」

部長「まあ、ええわ。母さんに言うてくるで。一人ぐらい増えてもええじゃろ。ただし、A君よ、もう二度とその脅しは通じんぞ」

A「はい」

部長「マドンナも次来る時はその覚悟で来いや」

マドンナ「判ったわよ、もう」

部長「ちょっと待っとれ」

マドンナ「部長、怒ってるわよ」

A「すみません、でも、悔しくて」

マドンナ「折角二人きりで思い出話から……って予定だったのに」

A「絶対させません」

マドンナ「でも……、本当に私とあなたって同類ね」

A「はい、間違いないです」

マドンナ「報われないのは判ってるけど……、一年以上生殺しだったから、もう自分では歯止めが効かなくて」

A「僕だって……、演劇部に行った時に、僕の気持ちは決まっちゃいました」

マドンナ「逆効果だったのね」

A「そういう事です」

マドンナ「でも、あなた本当にバラす積りだったの?」

A「僕、新聞部嫌いです」

マドンナ「やっぱりね。悪い子」

A「同類でしょ?」

マドンナ「本当ね」

部長「何じゃ、えらい楽しそうにしとるの」

マドンナ「そんな事ないわよ、ね?」

A「はい」

部長「ふん、まあええわい。そろそろ夕飯じゃから、下に降りるで」

二人「は~い」

部長「で、A君よ、君は取りあえず今日は僕のパジャマと下着で我慢せえ」

A「はいっ!」

マドンナ「(肘打ちしながら)この裏切り者っ!」

部長「ほら行くで」


C「ごきげんよう、お姉さま」

マドンナ「ごきげんよう、Cちゃん」

C「何だか凄くご機嫌が宜しいようで何よりですわ」

マドンナ「そう?そんなにご機嫌に見える?」

C「ええ、とっても、私まで嬉しくなるような笑顔です」

マドンナ「そんなに誉めても何も出ないわよ」

C「ふふふ」

マドンナ「ごきげんよう、皆さん」

女役達「ごきげんよう、お姉さま」

マドンナ「さ、今日も元気にお稽古致しましょう」

女役達「はい、お姉さま」

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