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マドンナは男子高校生  作者: ササ・マイトウ
2/23

第二幕 第一の波乱

B「またこの季節がやってきましたな」

部長「何が人気生徒ランキングじゃ。僕は好かん」

B「まあまあ、今年はもしかすると、もしかしなくても、マドンナの妹が一位を取れないかも知れないんだぜ。面白いじゃないか」

部長「そういうのを悪趣味というのよ。ほらもう行くで。A君が待っとるわ」

B「はいはい。お固いことでございまさーね」

部長「ほっとけ」


C「な、何これ……」

校内新聞見出し『1年人気生徒ランキング、我が校有史初の女役外1位誕生!!』

マドンナ「Cちゃん……」

C「お姉さま!?申し訳ございません。私、お姉さまの顔に泥を塗ってしまいました……」

マドンナ「何を言ってるの。そんな事は気にしなくていいのよ」

C「でも……でもっ……!」

マドンナ「(Cを抱き寄せて)いいの、あなたは堂々としてらっしゃい」

C「お姉さま……。うっ、うう……」

マドンナ「……」


部長「何じゃ何じゃ。えらい人だかりやな」

A「はい」

新聞部「おっ!A君じゃありませんか!一言お願いします!」

A「は?」

新聞部「いやいや、またまた、1年人気一位を取ったコメントですよ」

A「え、ええ。何なんですか?いまいち意味が判りません」

部長「あ、あれか。」

A「何なんですか?」

部長「今時分になると、全校生徒による1年生徒人気ランキングがあるの。いつもは、マドンナの妹が1位なんじゃけれども……」

A「そんなイベントが」

新聞部「それで何かコメントは?特に、今回はマドンナの妹Cちゃんを破っての1位ですが」

A「気持ち悪いです」

新聞部「は?」

A「こういうのは、正直気持ち悪いです」

新聞部「はあ、なるほど……。正直気持ち悪い、と」

A「はい」

部長「おいおい、A君よ。あんたの気持ちは判るが、余りストレートなのは、どうかね」

A「いえ、こういうのははっきり言わないと」

新聞部「わっかりました。なかなか刺激的なコメント、ありがとうございます」

A「本当のことです」

部長「ちょっとは加減して書いてやってよ」

新聞部「まあ、そこはうちの部長に言ってください、取り合えず、コメントありがとうございました」

(ザワザワ)

C「A君!」

A「C君……」

C「私、負けないから」

A「はあ」

C「それじゃ!」

A「はあ……」

部長「君も大変や」

A「人事ですね」

部長「うんまあ、人事よね」

A「冷たいなあ」

部長「まあ、気にせん事よ」

A「はい」


部長「おーい」

新聞部長「はいはい」

部長「ちょっと頼みがあるんじゃけど」

新聞部長「合唱部長が僕に頼み事とは珍しいね」

部長「もうあんたも部員から聞いとるじゃろ」

新聞部長「何をだい?」

部長「とぼけなさんな、うちの部のA君の事よ」

新聞部長「ああ、彼、随分と思い切りの良い事を言うね。期待通り、いや、期待以上だよ。」

部長「何じゃそりゃ。まあ、ええ。それでよ」

新聞部長「何だい」

部長「A君のコメント、ちいとばかしぼやかしてはくれんかの」

新聞部長「それは出来ない相談だな」

部長「そう言わんと。こらえてくれや、頼むで」

新聞部長「新聞部としては事実は曲げられないね。」

部長「そうかも知れんが。ありゃそのまま出たら、女役連中が騒ぐに決まっとるじゃないか」

新聞部長「そしたら、それを記事にするまでさ。それに彼は間違ったことは言っていないと僕は思うけどね。」

部長「そうだとしても、右も左もわからん一年生の話じゃない、何とかこらえてくれんかのう」

新聞部長「それにしたって、もっと慎重な物言いの仕様もあった筈だよ」

部長「ううむ、話にならんな」

新聞部長「そういう事。悪しからず」

部長「兎に角頼んだで」

新聞部長「一応考慮するが、記者の意向を優先するからね、怨むなよ」

部長「それは約束できん」


マドンナ「部長さん、お久しぶりね」

部長「あ、どうも」

マドンナ「……。あなた、この間A君が新聞部にコメントした時一緒にいらしたでしょ」

部長「はあ」

マドンナ「あのコメントはちょっとどうかしら」

部長「まあ、でしょうな」

マドンナ「うちの娘たちが傷ついてるの」

部長「ああ、そうですか。しかし、ありゃ人気ランキングに言うたもので」

マドンナ「判ってるのよ。それでも、私たちにとっては、大事なものなの」

部長「まあ、彼にはちょっと、いや、キチンと言うておきます」

マドンナ「それでは困るの」

部長「は?」

マドンナ「私たちみんなの前で謝ってもらいたいのよ」

部長「……!そりゃおかしい。それは全く承服しかねる」

マドンナ「道理ではそうなんだけど。もう前からの事もあって、私でも抑えられないの」

部長「しかし、そりゃA君が可哀想だ。一人によってたかって、そんな惨い事」

マドンナ「でも、伝統ある私たち女役に対して、それを凌駕する人気を得た人が否定する事の重みを知って欲しいの」

部長「いや、だから」

マドンナ「理屈じゃなくて、私たちは傷つけられたのよ。謝って貰わなきゃ収まりがつかないわ。」

部長「残念や。君は物の道理がもう少し判る人と思うておったが……」

マドンナ「私も女役の一人なんです」

部長「僕から彼に謝りを入れて来いなんてよう言わんぞ。第一、彼は勝手に巻き込まれとるだけじゃないか」

マドンナ「生徒会長から、この学校を選んだ以上、伝統に対して最低限の敬意を払うべき、と息巻く連中が居るとも聞いたわ」

部長「無茶苦茶やな。兎に角、僕は彼に謝れとは言いません」

マドンナ「判りました。では、直接本人に申し入れます」

部長「横暴じゃないか」

マドンナ「横暴で結構よ。わたくしの妹は彼に二度泣かされたの。ケジメをつけて貰わないと」

部長「好きにせえ、僕は彼の味方や」

マドンナ「ふん、言われなくても好きにするわ、どうもお邪魔様」

部長「君も変ったの」

マドンナ「っ……。ごきげんよう」

部長「はあ……」

B「おい!部長。マドンナ敵に回してどうすんだよ。全校生徒を敵に回すようなもんだぞ」

部長「知るか。ありゃ無茶苦茶じゃ」

B「A君どうする?」

部長「守らにゃなるまい」

B「だよな……」

部長「無理にとは言わんよ」

B「いやいや、ここまで来たらな。どうせこんな制度俺等には関係ないんだから」

部長「そう、所詮僕ら日陰者には関係ないの」

B「行くか」

部長「はいはい」


女役「あなたがA君ね」

A「はい。そうですが」

女役「ちょっと演劇部まで来てくれない?」

A「何の用ですか」

女役「いいから」

A「いや、だから、何の用ですか」

女役「いいから来なさいよ、先輩命令よ」

A「別に上司や先生じゃないんで、命令と言われても」

女役「来ないんなら、無理から連れて行くだけよ」

A「痛っ!ちょっと乱暴はやめて下さい」

女役「大人しくすれば乱暴しないわ」

部長「ちょ、ちょっと、あんたら、何しとんの」

A「部長!」

女役「あなたには関係ないでしょ、引っ込んでてちょうだい」

部長「いや、うちの部員や。関係ある」

B「ほら、痛がってんだから、離してやれよ。」

女役「ちょ、ちょっと」

部長「兎に角、Aに用があるんなら、僕らを通して貰えるか?そうマドンナさんにも伝えて頂戴」

女役「判ったわよ」


A「部長……!有難うございました」

B「俺も居るよ」

部長「……あのねえ、A君よ。よう判ったでしょう。道理が通じないの、この学校は。」

A「はい」

部長「君は嫉まれとるんじゃから。そこんところをしっかり理解して貰わんと。僕らでもよう庇いきれんで。君に愛想をつかすとかそういう意味じゃないや、目が届かん所でやられるかも知れんいう事よ」

A「はい……、すみません」

部長「なあ、今回は悔しいけども、演劇部に行こう」

A「でも……」

部長「判っとる、そんなのは道理が通らんおかしい事じゃ言う事くらい言われんでも判っとる。けども、今日は頭を下げにゃなるまい」

B「一人じゃ行かせないからさ」

部長「そう。糾弾会はさせん。無茶な要求も飲まん。兎に角今回の件についてだけ詫びよう」

A「はい……」

部長「もうそれしかないの。次は集団で来るよ」

A「はい、でも……、悔しいです」

B「うん……」

部長「悔しいのは皆そうや。僕も悔しい、悔しいが、A君、君の身が危ういの。君に対して良からんことを考えとるんが女役だけじゃないらしいから余計や」

A「はい……」

部長「分かってくれたかな。そいたら行くで」

A「はい」

B「よし行こう」


部長「こんにちは」

演劇部員「ああ、どうも。うちの女役どもが今からそっちに乗り込もうとしてましたよ。うちの部長とマドンナが何とか食い止めていましたけど」

部長「はあ、そりゃ危機一髪でしたな」

演劇部員「もう、勘弁して下さいよ」

部長「すいませんね。取り合えず通して貰えますかいの」

演劇部員「どうぞ。奥でマドンナたちが待ってますよ」


マドンナ「結局、おいでになったのね」

部長「おいでになったのねじゃあないよ」

B「そうだ!暴力で解決しようとして」

マドンナ「伝統の威厳に関わることですもの、多少荒っぽくもなるわ」

部長「まあええわ、兎に角詫びさせに来ました」

マドンナ「それはどうも、じゃあこの子だけ置いてお引取り頂ける?」

B「そんな事出来る訳無いだろ」

部長「いかなマドンナ様のお申し付けでもそれだけはお受け致しかねます」

マドンナ「それじゃ、謝罪にはならないわね」

部長「あんたらが何を企んどるかは知らんが、右も左もわからん1年生を一人では置いていかれません」

演劇部長「いい加減にしろよ。じゃあ、何しに来たんだよ」

B「はあ!?」

マドンナ「演劇部長は黙ってて頂戴。今は私たちが話しているの」

演劇部長「でも」

マドンナ「いいから。私たちは別に喧嘩をしたいんじゃないのよ」

演劇部長「判ったよ」

マドンナ「ごめんなさいね、余計な邪魔が入って」

部長「はあ、まあ別にそれはええんです」

マドンナ「じゃあ、判ったわ。取りあえず、詫びてもらいましょ。受け入れるかどうかはこちらで判断しますから」

部長「お心遣い感謝します」

A「僕はどうすれば……」

マドンナ「余り先輩に迷惑を掛けるものじゃないわ。私たちが問題にしているのは、あなたが人気ランキングを否定した事。もっと言えば、Cを二度泣かせた事よ。そして、あなたはそうする事で女役を否定したの。私たち全員を否定したの。」

A「そんな積りは……」

マドンナ「あなたの意図なんてどうでもいいの。結果が問題なのよ。」

A「はい」

マドンナ「気持ち悪いって言った事を謝って頂戴。それだけでいいわ。」

A「……………………」

マドンナ「はあ……。今日はもうお帰りなさいな。謝れないのなら用は無いわ」

A「……」

部長「A君よ、ここでマドンナの顔に泥を塗ってはいけん。こらえてくれ」

A「……ませんでした。」

マドンナ「え?」

A「気持ち悪いいと言ってすみませんでした。皆さんのお気持ちを傷つけて申し訳ありませんでした。」

マドンナ「ふうん、皆これで良い?Cちゃん、あなたはどう?」

C「もう、こんなことおよしになってくださいまし、お姉さま」

マドンナ「だそうよ。」

部長「A君、ほら帰るぞ。」

A「……」

部長「ほんならお邪魔様でしたの」

B「さあ帰ろう、こんな所に長居は無用だ」

A「……はい」


A「……すみませんでした。ご迷惑をお掛けして……」

部長「いいの、いいのよ。今回はどうしようもない。僕らこそ結局何もしてやれなんで、済まんかったと思うとるの」

B「そうだよ」

A「でも……、でも……」

部長「ああでもせんと、女役どもは納得せんのよ。あれらは女役になりたあて来るんじゃけえのう。」

A「はい……」

部長「今日のことは早うさっぱり忘れないけんよ」

A「はい」

部長「もういよいよ関わらんようにせんといけんな」

B「そうだな」

部長「A君、あんたももう相手にしたらいけん。C君が来ても相手にしなさんな」

A「はい。」

部長「ふう……、もうこりごりや」

B「同感」

部長「さ、帰ろ帰ろ」


C「あなたにはがっかりだわ。」

A「……」

C「どうして謝りに来たの?」

A「……」

C「ねえ」

A「……」

C「無視するんだ」

A「……」

C「そうやって、僕から逃げるんだね」

A「違う」

C「どう違うんだよ」

A「君が何を考えているのか判らないけれども、僕はもう君を相手にしない」

C「ふうん」

A「勝手にやってれば良い。演劇部にはもうこりごりなんだ」

C「そう」

A「伝統を貶すような事はもうしないよ。その点では、僕も軽率だった。でも、決して関わらない。そういう事だから、もう二度と話し掛けないでくれるかな。あと、僕と勝手に比較するのも迷惑だからやめて欲しい」

C「分ったわ。……馬鹿みたい。結局、僕が勝手に君を追いかけ、脅えてるだけじゃない」

A「そうだよ、僕は勝手に誘われ、勝手に選ばれ、勝手に憎まれてるだけで、僕は何にもしていない。泣きたいのはこっちだよ」

C「そうね、ゴメンなさい、……それじゃ」

A「上の人等にももう二度と関わらないで欲しいと伝えてくれると嬉しい」

C「伝えておくわ」

A「ありがとう」

C「さよなら」


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