第一幕 美貌の来訪者
A「(ガチャ)すみません、失礼します」
B「どうぞーって、えっ!?」
A「?」
B「おっ、おーい、部長!!」
部長「なに、何よ」
B「Aくんが来たぜ」
部長「誰?」
B「何で知らんのよ。あの噂のA君だよ。超有名人だろーがよ。」
部長「知らん者は知らん。誰よ」
A「……。あ、始めまして、部長さんですよね?」
部長「はいはい、そうです。私が合唱部の部長です」
A「あの、1年2組のAと申します。見学させて貰えますか?」
部長「勿論、ええですよ。大歓迎です。ところで、あなた有名なの?」
A「え?僕に言われましても……」
B「何いってんの。有名ですよ。1年期待の星A君ですよ」
A「期待の星って、そんな」
B「っていうか、君、演劇部に行かないの?」
A「演劇とかあんまり興味なくて」
部長「ああ、なるほど。マドンナ候補なのね」
B「そうだよ。1年7組のC君と並ぶ、俺はA君派だけど」
部長「あっそう。でも、ええと」
A「Aです」
部長「失礼、A君は演劇部には興味ないのね」
A「はい」
部長「まあ、そんならば、どうぞこちらは歓迎しますよ」
A「ありがとうございます」
部長「僕はね、マドンナとかね、他所様に説明できかねるような制度は厭です」
A「僕もそう思います」
B「何だよ……。俺だけ除け者かよ」
部長「悪い事は言わんで。お前さんも早う目を覚ましんさい」
B「この男子校という殺伐とした世界に潤いを見出したい気持ちをお前は判らんのか」
部長「はいはい」
A「あの……、外に部員の方は」
部長「おらんよ」
A「えっ!?」
B「驚くのも無理は無いな」
部長「この学校の部活動は、基本スポーツ系がメインや、文化部は演劇以外は部員なんておらんのよ」
B「みんな演劇に取られちゃうのさ」
A「そうなんですか」
(ドンドン!)
「すいませーん」
部長「はーい」
「A君来てませんか!?」
部長「居りますけど、何ぞ用ですか」
「自分たち演劇部なんですが、是非スカウトしたいんで、入っていいですか?」
部長「ちょっと待ったんさい」
「はい」
部長「どうね」
A「迷惑です」
部長「そうかね」
A「はい」
部長「A君は困ると言うとるで、今日は堪忍してもらえんかねえ」
「ちょっ、A君に一遍話しさせて貰えませんか」
部長「どうする?」
A「すみませんけど……」
部長「はいはい、……あのねえ、A君は厭じゃ言うとるよ」
「それでは、僕ら部室に帰れません」
部長「こっちもそんな事言われても困るわ。A君はうちに入部を希望しとるし、(小声でAに向かって)とりあえずそういう事にしとくで」
A「はい、僕もそのつもりなんで」
部長「ほうか」
「合唱部に入部を希望しているんですか?」
部長「ええ、本人がそう言うとるで」
「わっかりました……。また、うちの部長あたりが来ると思いますけど、その時はすみませんが」
部長「はいはい、その時はまた」
「すみません、失礼しました」
部長「はいはい、どうぞどうぞ」
(タッタッタ)
A「すみません、ご迷惑お掛けして」
部長「まあ、いいわね。他所も見に行くの?」
A「いえ、是非こちらにご厄介になれたら」
B「やった!!」
部長「まあ、当分は騒がしくなるだろうが、たまにはええんじゃないの」
A「すみません、宜しくお願いします」
部長「美少年も大変ね。ブ男で良かったわ」
B「負け惜しみじゃねえか」
部長「うるさい」
A「フフフフフ」
部長「あんたも笑うんじゃないの」
A「すみません、フフフ」
部員「という訳でして、すみません、部長」
演劇部長「何でそのまま帰って来るんだよ、もう」
部員「すみません……」
演劇部長「あんな逸材そうそういないぞ!?」
部員「はい……」
演劇部長「はいじゃないよ、はいじゃ」
マドンナ「もうやめてあげてちょうだい、可哀想じゃない」
演劇部長「マドンナ」
マドンナ「そんなにA君が欲しいなら、自分で行けばいいでしょう。」
演劇部長「そりゃそうだけど……」
マドンナ「それに、自分から来てくれたCちゃんにも悪いわよ」
演劇部長「そうだな」
マドンナ「Cちゃんに何の不足があるの?あの子だったら十分次のマドンナになれるわ」
演劇部長「でも……、AとCが競い合えば、もっと……」
マドンナ「それは部長の勝手な考えでしかないでしょう」
演劇部長「しかしだな、これからのことを考えると、」
マドンナ「兎に角、私はCちゃんを責任をもって鍛えます。それでも、部長がA君を諦められないのなら、自分でスカウトする事、いいわね」
演劇部長「ああ、判ったよ」
マドンナ「部員君、ごめんね、もう稽古に戻ってちょうだい」
部員「すいませんでした、失礼します」
マドンナ「さあ、私たちも稽古に戻りましょう」
演劇部長「うん、そうしよう」
部長「君びっくりしたでしょ、マドンナ制度」
A「はい、聞いてはいましたけど、やっぱりよく判らないです」
部長「そりゃそうよ。演劇部の女役が女の代わりにチヤホヤされるとか、狂気の沙汰よね」
A「はい、そもそも顔立ちが女性的とか、そんなの生まれつきじゃないですか」
部長「そう」
A「僕がもし急に背が20cmくらい伸びて、がっちりしたらどうなるんでしょう」
部長「男役に転向だろうね」
A「そんなの演劇と関係ないじゃないですか」
部長「まあ、それは何とも言えんけどもね、まあ、無茶苦茶よ」
A「はい」
B「なあ、俺も混ぜてくれよ」
部長「お前は信用ならん、いつ演劇部に売り飛ばすか判らんで」
B「そんな事しないって、A君は信じてくれるよね?」
A「はあ……、どうでしょうか」
B「君、結構言うのね」
A「すいません」
部長「ま、今日は取り合えず上がろか、君、バス?」
A「あ、いえ、自転車です」
部長「どっち方面」
A「西南です」
部長「そう、僕は西よ」
A「お隣りですね」
部長「途中まで送るわ、また面倒になったら敵わんし」
A「ありがとうございます」
B「何だよ、部長。お前、結局なんだかんだ言って、A君独占する積りだろう」
部長「A君、あれが男子校脳と言うの。よう覚えときんさい」
A「はい、気をつけます」
B「ふん、随分仲のよい事でね」
「おーい!ちょっと待ってくれーっ!」
部長「はい?」
「君、合唱部長君だよね?」
部長「そうですけど」
「始めましてかな?僕、演劇部長です。さっきは部員が失礼しました」
部長「あー、いえいえ」
演劇部長「A君は帰りましたか?」
部長「あ、彼ならば今教室に忘れ物取りに戻っとりますけど」
演劇部長「そうですか、あの……」
部長「はい」
演劇部長「単刀直入に言いますけど、A君譲って貰えませんか?」
部長「いや、譲るも何も、物じゃあるまいし。そもそも彼自身の問題でしょう」
演劇部長「それはそうなんだけれども、部長君が入部を断ってくれれば」
部長「それはちょっと出来かねます、彼に悪い」
演劇部長「そうなんだけど、そこを何とか」
部長「いやいや、それはなんぼ頼まれても困ります」
A「すみません、お待たせしました」
演劇部長「A君!!」
A「えっ!?あ、あのどちら様ですか?」
演劇部長「演劇部長です」
A「あっ、ああ、ど、どうも、Aです」
演劇部長「君、演劇部に入らないか?いや、入ってください」
A「すいません、もう合唱部に決めたんで」
演劇部長「君なら、素晴らしいマドンナになれるんだ、頼む」
A「いえ、すみません。女装とかちょっと……」
演劇部長「じゃあ、芝居以外での女装義務を止めたら来てくれるかい?」
A「そういう問題では……」
演劇部長「それじゃ、どんな問題なのかな?」
部長「ちょっと、いい加減にしてあげんさいよ。相手は一年生ですよ」
マドンナ「そうよ、演劇部長。」
演劇部長「マドンナ!?」
マドンナ「ごめんなさいね、うちの部長が困らせちゃって(ジロッ)」
A「(ビクッ)い、いいえ」
マドンナ「部長さんもごめんなさいね」
部長「はあ、まあ」
マドンナ「あなたも謝りなさい」
演劇部長「ごめん、でも……、それだけ熱意があるんだと」
マドンナ「あなた、良い加減にしなさいよ」
演劇部長「は、はい」
部長「おお……」
マドンナ「A君、本当にゴメンなさいね。彼にはきつく言っておくから。また、何かあったらすぐ言ってちょうだいね、ほら、行くわよ」
演劇部長「はい、すいません。で、でも、A君……」
マドンナ「(肘鉄を打つ)」
演劇部長「うっ」
マドンナ「それでは、ごきげんよう(ジロッ)」
A「は、はあ」
部長「どうも」
A「何だかすごいですね」
部長「そうね、まあでも、マドンナの方は話が判りそうじゃろ」
A「でも、何かあの人苦手です」
部長「ほうか、何でじゃ」
A「僕を凄い目で見ていきました」
部長「気のせいじゃないか」
A「そうでしょうか……」
部長「まあ、判らんけども」
A「それじゃ、帰りましょうか」
部長「そうじゃのう」
「あの、A君はこちらのクラスかしら?」
生徒「は、はいっ」
「呼んで頂けます?」
生徒「ちょっと待ってて下さい」
生徒「A!A!」
A「何だよ」
生徒「Cさんが呼んでるぞ」
A「Cさん?」
生徒「何とぼけてるんだよ、7組のCさんだよ」
A「ああ、それで何の用って?」
生徒「知らねえよ、兎に角今入口に居るから」
A「なんで僕が出向かなきゃいけないんだ、そっちから来ればいいじゃないか。僕は行かないよ」
生徒「面倒な奴だなあ」
生徒「(タッタッタ)……と、言ってます」
C「そう。A君は今どこにお出でですか?」
生徒「あそこです」
C「ありがとう」
C「あの、あなたがA君?」
A「そうだけど」
C「さすがね、部長が僕を相手にしないのが判るよ」
A「ふん。それで何か用?」
C「あなた演劇部に入るの入らないの?」
A「まったく……。僕は一度も入りたいなんて言ってない。以上」
C「そう……。それを聞いて安心したわ。ゴメンなさいね」
A「はあ、まあ大した自信ですね」
C「そうかしら、僕はこの高校で演劇部に入り、マドンナに成りたくて来たから」
A「そう。」
C「邪魔したわね」
A「どうも」
マドンナ「Cちゃん、あなた今日A君のクラスに行ったでしょ」
C「は、はい。申し訳ありません、お姉さま」
マドンナ「A君は女役に興味は無いと言ってたでしょ」
C「はい」
マドンナ「あなたがわざわざ会いに行ったら、あらぬ噂が立つかもしれないのよ。そしたら、あの子や合唱部長に迷惑をかけちゃうじゃない」
C「申し訳ございません、お姉さま」
マドンナ「もっと自信をお持ちなさい、私はあなたを妹に出来て満足しているのだから」
C「有難うございます、お姉さま」
マドンナ「いい事?次のマドンナはあなたよ。だから堂々としてらっしゃい」
C「はい、お姉さま」
マドンナ「所で、Cちゃんはあの子を見てどう思った?」
C「勝てない……、勝てないと思いました……。悔しいですけれど……」
マドンナ「確かに、そうかも知れないわね。あの子の魅力は素晴らしいわ。部長が惚れこむのもわかります。でもね、あの子はもう伸びないの。Cちゃんはこれからどんどん伸びるのでしょう?」
C「お姉さま、私頑張ります」
マドンナ「そうよ、その意気。もうあの子の事は忘れて、お稽古に打ち込みなさい、よろしい?」
C「はい!お姉さま」
マドンナ「そうそう、それでいいの」