悪の最期
この小説は、わたしの中でのオリジナルキャラクターを主体として書いたものとなります。
世界観やキャラクター性を知る必要もなく、流れで理解するような形となっているので、目を通していただけるのなら幸いです。
走り書きのようなものなので、余り期待せずに観てください。
私の人生は、ひどく形容しがたい人生だった。
何かを守ろうと、今この瞬間まで必死に闘ってきた。
屍の海に浸ろうと、この悪を貫き通した先に、彼らの本当の幸せがあるのだと信じ続けてきた。彼らの障害となるものを殺し尽くし、彼らには認識されずに生きてきた。
そして、彼らを守った人間が悪の権化であるとは知られないために、自分を偽り悪になり続けてきた。
それこそが、少年の貫いたものだった。
少年は、悪になり続けた。
でも。だけど。
本当に守りたかったものは、守れなかった。
一番に救いたいと思った人を、己の無力で取り零した。
一番に愛したかった人を、守ることができなかった。
「―――」
私は、あの言葉を信じて戦ってきた。
あの言葉だけが、私の生きる糧だった。
それ以外、何もなかった。
生きるべき善人たちを生かし、消えるべき悪を排除し続けてきた。
彼らの魂はどこかで救われると信じて、私は悪となりその屍の山だけを作り上げてきた。
感謝される謂れなどない。
私がしてきたことは、ただの人殺しでしかなかったのだから。屍の上に立つ鬼でしかいられなかったのだから。
愛などいらない。
感謝などいらない。
哀れみなんて必要ない。
機械的な私だからこそ、悪という悪を排除し続け、この世で最もの悪になり続けてきた。そうすることで、私以外の悪は消えると思って生きてきた。そうすることで、何かを守れると信じていた。世界に何かしらの憎悪がある限り、その火種はじわじわと病気のように感染し喰いばみ広がっていく。私はその火種を奪ってきた。そこに正当な意味はなく、そこに明確な正義などなかった。
あったのは、ひどく美しい人間の、たった一つの言葉だけ。
その幻想だけを胸に、生きてきた。
きっと、私の人生の意味は死に様で決まる。
それだけを胸に生きてきた。
一度、言われたことがある。
「そんなことをして、意味があるんですか?」
結論はあった。
「意味なんてない」
そうだ。
私自身の意味などいらない。
私はあの人のために戦ってきたのだから、あの人の意志と、あの人の意味だけを胸に戦い続けるのだから。
だから、だから……。
「ねえ。君は、これからどんな未来が待っていると思う?」
あの時は、「わからない」だけしか喉元になかった。
でも、今ならわかる。
きっと、ひどく残酷なものだろう。
誰かが手を汚さぬように、自分が汚れ続けてきた結末など、とうに決まっている。
……そして、これが結末だった。
「……、」
何者にも看取られず、何者にも心配はされず、何者にも認識されない。
それが、私の最期だった。
ただ、それでも。
一人の少女との約束を果たしたかった。
最初で最後のあの恋を、終わらせたくはなかった。
だけど。
それでも。
少年は思う。
最期まで悪を貫き通してきた少年だからこそ、思う。
「―――ああ、」
言葉が出ない。
言葉にするのが怖い。
自分にも全てにも偽り続けてきた少年だった。自分の本音を言えるのは、たった一人の少女だったから、少女の居ないこの場所で言うことが最も怖かった。
だが、物語の出来は最後の一文で決まる。
ここで挫けてしまっては、してきた所業に意味がなくなる。やってきた行いの意味が、全て白紙になってしまう。貫き通すべき意地を、守り抜いてきた魂を、ここで手放すなど、絶対にできない。
生きてきたんだ。
悪であったとしても、確かに私はここで生きてきたのだ。
だからこそ、最期のその瞬間まで、私は私でなければならない。
せめて、死に様に何かを残すのなら、きっと彼はこう言うだろう。
ひどく儚い、かすれた笑顔で……。
「とても、幸せだったよ」
どうも、作者です。
たった一人の少年の最期、それはとても悲痛なものであった。
この言葉をメインにして作ったものでした。夜分になんとなく思い上がり、ついついとした衝動で書いてしまいました。