4 カボチャ気どりの王子
キュルビス視点です。
顔も見たことがない婚約者。
王侯貴族の結婚では当たり前のことだ。よくわからない相手と結婚し、夫婦になることが決められる。別にキュルビスに限った話ではない。
しかし、納得いかないものであった。
相手は良い噂を聞かないパンプキンス公爵家の令嬢。証拠が掴めないだけで、裏でなにをしているかわからない。
そんな相手と婚約することになったのは、領土や資金の問題だけではない。
王国を裏切っている可能性があるパンプキンス公爵の悪事を暴く目的もあるのだと、大臣が話していた。
本来は婚約者に贈るはずの「聖蒼の口づけ」が行われないのは、そのためだ。
キュルビスは政治の道具である。
そして、自分は第一王子だ。いずれ、国王になったら、自分の臣下や子供たちを、同じように扱うようになるのだろうか。そういうものだと言われると理解出来るが、どうも割り切れないところがある。
だから、小間使いのちょっとした戯言をきっかけに行動を起こしてしまった。
――パンプキンス公爵領では、もうすぐ豊穣の祭りがあるそうですよ。そこに、ご令嬢も毎年参加しています。
今を思えば、あの戯言も仕組まれていたものなのだろう。キュルビスがまんまと罠にかかって、パンプキンス領へ赴くように仕向けていたに違いない。
策に嵌まった上に、自分が魔法を間違えたせいでシトルイユが呪いを受けた。
しかも、彼女は決断を下すことが出来なかったキュルビスのために、自らの父と共に罪を被ることを選んでしまった。
自分はどこまで愚かなのだろう。
まだ十七歳と周囲は言うが、もう十七だ。
シトルイユの人生を狂わせてしまった。そのことがキュルビスの胸に大きな影を落とす。
本当にこれでよかったのだろうか……。
パンプキンス公爵の悪事は、いつか王族が暴こうとしていた。追い落とされるのも、時間の問題だったかもしれない。
それでも、キュルビスは望みを賭けていた。
自分と婚約している以上、キュルビスはシトルイユを守り通すつもりだった。それが彼女に対する罪滅ぼしであり、自分の役目だと思っていた。
だが、シトルイユは自らの刻印を公衆の面前で晒し、更には、キュルビスを襲ったのは自分だと宣言したのだ。
これでは、婚約者という名目で守ることは難しくなってしまう。
正式な婚約解消は未だされていない。だが、もう手遅れだ。そんなものは、なんの切り札にもならない。
「兄上」
次男のククミスがキュルビスを見上げた。
シトルイユの思惑通りにパンプキンス家を断罪した弟は、強い視線をキュルビスに向けている。
キュルビスは、その視線に応えなければならない気がして、拳を握りしめた。




