#04の裏側
表向き、一般的な進学ではあるものの、除霊を初めとした能力者の養成学校である学院では、時々特殊な授業が行われている。その日、その時間の一年一組の授業もその一環で、使鬼…式神とか使い魔とか御遣いとか色々な呼び方はあるが、学院では使鬼で統一されている…を使ってみようというものだった。生徒たちの実家の流派によって差異があるのと、使いこなせると盗聴だの盗み見だのが容易になるというある意味危険な代物なので、基礎中の基礎しか学ばないが、それでも初心者にとっては難易度が高いものだった。学院内では珍しい、治癒能力を持った生徒である、須賀光生こと美月は、鐘が鳴り、教師が授業の終了を告げ、生徒たちが思い思いに動き出す中、手の中の白い紙片を凝視し、一心不乱に指でなぞり続けていた。
「須賀ぁ、まだやる気ぃ?」
美月の友人である八重樫 郁美が声を掛けて来たが、美月は無視して手の中の紙を弄り続けた。
「そんなにひねくりまわしても、駄目なものは、だぁめっ!」
正面に回り込まれ、顔を下から覗き込まれつつ戯けた調子で言われ、さすがに美月は反応した。冷ややかな視線を向けられた八重樫だが、堪えた様子は皆無で、にやにやと笑うだけだった。
「やったことないひとが、簡単に出来ちゃったら、むしろ困るし」
慰められているのか、からかわれているのか分からないが、美月は諦めて白い紙片をノートに挟むと席を立った。この授業が今日の最終である。八重樫の他、まだ教室内でぐだぐだしていた何人かの級友たちも混じって、何とは無しにひとかたまりになって、寮に向かう。校舎から寮へは、食堂棟を経由して渡り廊下を通る経路を使わなければ、一旦屋外に出ることになる。外に出る用事も無い美月たちは、普通に食堂棟を通り抜けようとした。この時間の食堂棟は、廊下であっても、夕食の仕込みの良い香りが充満していることが普通である。今日も当然、食欲を刺激する香りに満たされていたが、普段と異なり、食堂の出入り口の付近に人だかりが出来、騒然となっていた。美月たちも互いに顔を見合わせた後、人だかりに加わった。出入り口の前に、食堂の開放時間になると、そのときの献立が書かれているか、紙が張ってある移動式の黒板が、準備中だというのに設置されていた。黒と赤の文字が印刷された紙が一枚、素っ気なく貼られている。
…献立変更のお知らせ。明日の夕食は『各種カレー』から『野菜の煮物』『回鍋肉』『豚汁』へと変更になりました。
『なあにいい!?』
八重樫を含む級友たちが大きな声を上げた。だが、これだけひとがいるにも関わらず、誰も注目して来なかった。これまでも、何人もの、幾つもの集団が同じ様に声を上げていたからだ。
「どういうことだっ!?」
「何があったんだ?」
「マジですかあ。ボイコットして抗議の意思を示す…ことは出来ないか」
「…こっちに色々書いてある。これのせいじゃない?」
特にカレーに思い入れがなく、黒板の文章を確認した後、いち早く集団から離れていた美月は、出入り口の横の壁の掲示板に張られた何枚かの新しいお知らせを、目敏く見つけていた。
「本日午後、車両出入り口付近で発生した騒音は、食料品の搬入トラックのトラブルに関するものです…ってあのガラスの割れる音がしたとかいうやつか?」
「食材の輸送にて不手際があり、献立の変更を行います…つまりそのトラブルのせいだよなっ!?」
「落ち着け!トラックがどこかで事故ったとか…」
「事務長がいい加減ボケて発注し忘れたとかかも」
事務長が聞いたら青筋を立てそうな意見もあったが、おおむね予想した通りに、献立の変更は生徒の口から口に伝わり、学院全体が不穏な空気に包まれた。




