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春、想いかさなる道

春、想いかさなる道


春になり新学期。

春は出会いと別れの季節だとよく言うが、俺には出会いも別れも無い状況で、新たな生活の幕開けとなる。

変化は求めていない。何せ内気で人見知りの俺だから、無難にこの一年を消化していくのだと思っていた。

ああ、思っていたよ・・・・新年度のクラス分けが発表されたあの日までは。


桜の花もそろそろ散って葉の量が増えてきたある日の事です。

過ぎていく毎日をただ消化している俺の毎日。

クラスメートともまあボチボチ話したり帰ったりするんだが・・・・唯一、一人だけほとんど話していない女子がいる。

それは、入学してから少し経った頃から、想いを寄せているクラスメート。

まあ、ヘタレチキン野郎な俺だからこっちからアプローチしたりとか、なんか話しに行くとかできないわけなんだ。と、言う事はまったく何も進展のないままで俺の灰色な学生生活が終わっていくのだと、思っていた。

そんな事を頭の片隅で考えながら、俺は今日も一日のお勤めを終えて暇な放課後を、ただ惰性のみで過ごそうと思っていた。

「はぁ~」

昇降口に着くと同時にため息がこぼれる。

『また、話せなかったな・・・・。』

そんな若干の後悔をため息と同時に心の中で言ってみた。まあ、ポジティブに考えれば今学期も始まったばかり。まだ何とでも・・・・・

「なりそうにないなぁ~」

ついつい俺は心の内を口に出してしまった。

「なりそうに無いって、何が?」

突然、俺の言葉にそんな返答が帰って来た。実際、ひとり言なんだがまさか誰かが俺のひとり言を聞いていたとは、不覚だ。

俺はその、ひとり言に対しての返事に返事を返す。

「別にたいした事じゃ・・・・!」

顔を上げながらそんな事を言っていたら、眼の前にそのえっと、当事者と言うべきか?

まあ、俺が想いを勝手に寄せているクラスメートが一名。

流石の俺も言葉が出ません。

「事じゃ?」

彼女は俺の顔を不思議そうに眺めている。しかし、俺はなにも言えないまま立ち尽くしている。なんとも情けない光景だろう。

その後数秒の沈黙があたりを支配した。

「今から帰るの?」

その短い沈黙を壊したのは俺ではない。向こうからだった。

「あ、え・・・・あぁ、今から帰る。」

たぶん動揺している、それも相当。テンパっていて何をして何を言っているのか俺は今まったくわからない状況だ。傍観者がいたら、『危ない学生A』として明日から晒されるな。

「それじゃあ、一緒に帰らない?」

突然、そう彼女は笑顔で切り出した。もう、限界すれすれだよ、俺の精神。

「やぁ、えっと・・・・・。」

「だめ・・・・かなぁ?」

常に笑顔の彼女の顔が少し曇る。

「い、いや・・・・全然!」

何を隠そう、俺は彼女の笑顔が好きだったりする。流石に口には出せないけど、彼女の顔が曇るところなんて見たくない。

ましてや、俺自身がその元凶になりたくない!

「ほんと・・・・へへへ、うれしいな。」

いやいや、俺のほうがうれしい・・・・うれしさのあまり発狂して踊りだしそうなくらい。

「かえろ」

と、俺の前に立って、それは眩しいくらいの笑顔を俺に見せてから、クルっと綺麗にステップをしてから昇降口を後にした。

そこからは一緒に下校する。確か、家のある方向は大体同じ方向だ。

別にストーキングして調べたわけではない。何度か、彼女が下校する姿を目撃したんだ、たまたまだとここは言い張ろう。

「クラスに慣れたぁ?」

無言のまま歩いていた俺に、突然そんな言葉を彼女は投げかけた。

「あ、ああ・・・・ある程度。」

俺は当たり障り無く、無難の二文字でこの場を切り抜ける。

「そっか・・・・あのね、君とはまだ殆ど会話してなかったら、ちょっと話したいなぁ~と思って今日誘ったんだぁ。」

そんな言葉をぶつけられて俺は流石に動揺する。

まだ話してなかったから誘ってくれた・・・・・それだけで、俺は成仏できるけど。

「お、俺も・・・・話してみたいなって・・・・思ってた。」

「ほんとに、うれしいな。」

と、凄い笑顔で俺の顔を見上げながら言った。と、言うかその笑顔、やばい破壊力、ほんと眩しい。まあ、そんな事は言えませんけど、きっとこの時俺の頬は似合わないピンク色辺りに染まっていたと思うよ。

「あのね、君はいつも不機嫌な顔で、つまらなそうに外ばかり見てたから・・・・・ちょっと、話しかけ難かったんだ。」

確かに俺は外ばかり見ているが、不機嫌な顔をしていた記憶は無い。強いているなら、不機嫌面は仕様だ。と、言うかそんなに俺の事見ていたのかと、かなり驚いている最中だ。

「だけど・・・・・。」

俺が軽く回想をしていると、彼女は言葉をつなげた。

「だけど、話してみたら、良い人だなぁ~って思ったよ。」

「俺の評価、相当低かったんだな・・・・。」

流石にもう少し、社交的な性格に改造したほうが良いのかと、本気で考え始めた。

「でも、話してみたらね、やっぱり凄くやさしい人だったわかったよ。」

まあ、俺の性格をわかってくれたなら、これから少しだけ話しやすくなったと思う俺がいる。だが、何せチキン、今後本当に仲良くできて距離が縮まるのかと不安になるが・・・・。

「私ね前からね、君の事は知っていたよ・・・・・。」

いろいろと最悪な事を考えていたが、その言葉を聴いて俺ははっとした。

「え・・・・。」

まあ、間抜けにもそんな言葉しか出てこない俺の頭。

そんな事考えている隣で、彼女は少し空を見上げて考えるようなそぶりを見せながら、言葉を出した。

「いつだったかなぁ~放課後に一人で理科準備室を掃除してたよね・・・・みんな帰っちゃたのに、愚痴も言わずに一人で。あの時ね、凄いなって思ったんだ。」

少しだけ、茜色に染まり始めた空を遠い眼で眺めながら彼女はそんな昔話をし始めた。

「それに、花壇にゴミがあるの見つけて、掃除始めたと思ったら花壇の手入れまでしたりとか・・・・。」

彼女は小さくクスクスっと笑いながら続けていた。

「よく見てるな・・・・・。」

俺は彼女の隣でそう、そんな言葉を小さくこぼした。

「そーだね・・・・何て言うか、眼に入っちゃうんだ、君の事。」

少し斜め下、そこに彼女の顔があった。

今まで、空を眺めていた顔が。その顔の眼が、俺の眼を捉えて離さない。真剣で、いつも遠くで見ている眼とは違う色の眼が、俺の目の前にある。

深く、やさしさの中に少しの鋭さがある目。嫌いではない・・・・だた、俺の心の中まで見透かされてしまいそうな眼で、彼女の心が見えそうな眼。

俺は固い唾を飲み込む。

「なんでだろーね・・・・・。」

彼女は変わらない眼で小さく口元に笑みを作って言った後に足を止めた。それにつられて俺も足を止めた。

「・・・・・・・。」

俺は無言。

ただ同じ場所に同じ眼が俺を捕らえて離さない。

「そっか・・・・・以外に簡単な事だったんだ。」

彼女は不意にそんな事を言うと、いつもと同じやさしい眼に戻すと、万遍の笑みを浮かべて言った。

「そっか私は君の事が・・・・・・・。」

まだ春は終わらないようですね・・・・そして、かさなる想いもあるようです。




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