盛者必衰プロ野球
この世でもっとも惨めなスポーツを知っているだろうか。
それはプロ野球だ。
賑やかな球場、割れるような声援は、時に一線から退いた者をあざ笑う、悪魔の声となって襲ってくる。
少なくともこの男、川上修次郎はそう感じていたに違いない。
彼が昼食を買いに外を歩いていると、彼がコーチをしている少年野球クラブの部員達がわいわい話しているのを見かけた。
「川上コーチムカつくよなー、えらそーで」
話題の人間が傍に居ることに気付かぬ部員の陰口を横で聞きながら、修次郎はトボトボと家路についた。
コンビニで買ったグラタンをレンジで温める。頃合いを見計らって取り出すが、温める時間が足りず、それはまだ冷たかった。
クチャクチャという悲しい音だけが静まり返ったダイニングに響いていた……
夕方頃、修次郎は行きつけの理髪店に入っていった。
店主と思われる太った男が慣れたように相手をする。
今日まだ誰とも話していない修次郎は、いつものように店主に鬱憤をぶちまけた。
「オヤジぃ、俺はよぉ」
「はいはい、元プロ野球選手なんでしょ」
小慣れたように返す理容師。
「なんで知ってんだよぉ」
「いつも言ってるでしょ」
「そうだった?まぁいいや、俺はよぉ、一試合で…」
「2本ホームラン打ったんでしょ」
「なんで知ってるんだよぉ」
「いつも同じ事言ってるんだから」
「俺はよぉ」
「はいはい、いつもみんなから慕われているんでしょ」
「違うよ」
「えっ」
「何でみんないなくなっちゃったのかなぁ」
修次郎は泣き崩れた。
「どうしました川上さん」
「孤独で寂しくて辛いんだぁ。昔はいっぱい友達いたのに、どうしてみんな俺から離れていっちゃったんだろう」
「それは同じ事ばかり言うからだよ」
「年取ったら誰だってそうだろうがよぉ!」
「でも川上さん、あんた…」
「何だよ!」
「泣き崩れるのもいつもと一緒なんだよ」
理容師は呆れた顔で言った。
「俺、俺は…」
「あんた認知症だよ。介護施設に入った方がいい。近所の人が言うには野球のコーチだけはかろうじてできているみたいだけどね」
「嘘だ、認知症なんて嘘だらぁ!」
「嘘じゃないよ」
「もういい!こんな店二度と来るかぁ!」
修次郎はものすごい勢いで出て行った。
理容師が外にでると、後から理容師の奥さんも店から出てきた。
「あんた、毎日同じやり取りしてて飽きないのかい」
「何だか哀れでね。少しでも力になってやりたいんだよ」
二人は修次郎の寂しそうな背中を憐れむような目で見ていた。




